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146話

 その頃にはお昼時になっていたので、一旦皆さんを全員タクシーで運んできてからお昼ご飯ですよ。

 何故かシュレイラさんも一緒に食べることになってた。

 いや、皆で食べると美味しいからそこに不満は無いんだけども。

 今日のお昼はチャーハンにしました。

 ……しかし、人数が人数だから全員分一気に作るとかいう事は出来ない。

 嘘だと思うなら数kgのご飯と具入れた中華鍋振ってみろってんだ!

 ……あ、いや、その前にその容量の中華鍋が無いね。

 ので、こういう時の打開策、回数を分けて作る!そうすると一回当たりの鍋重量が軽くなるから鍋振れるんだな。

 今日のチャーハンは牛……っていうかバッファローの挽肉とお茄子の甘味噌味チャーハンです。

 挽肉は甘味噌で炒めて、茄子は油で揚げておいて、卵とご飯を炒めた所に投入してさっと合わせてみじん切りのネギ加えて味整えたら完成。

 具にあらかじめ火を入れておくとご飯がべたつかなくて作りやすうございます。

 シュレイラさんはチャーハン食べるの初めてだったようで、なんかしげしげ眺めながらもくもくたべてらっしゃった。うん。でもお気に召したらしいので何よりです。




 ご飯が終わったらそれぞれの報告と会議である。

 私の方からはシュレイラさんの協力を取り付けたよ!っていう話をした。

「じゃあこれで合唱部の人達の方は目処が付いてきた、ってことか」

 皆さんの方はというと、まず、装備が一部変わってた。

 大体は武器だね。鈴本は前のククルツでのお買い物でも刀のいいのが見つからないでいたから、それを交換できたのは良かったかもね。

 針生とか刈谷とかは、軽い鎧にあのよくわからん金属が使われてるらしい。

 羽ヶ崎君と社長と加鳥は、それぞれよくわからん金属の装飾品を貰ったらしい。

「これ、舞戸さんの分だって」

 そして、私の分も作ってもらえたらしいので、ありがたく頂戴いたします。

 よくわからん金属によくわからん魔石が使われてるスカーフ留め、だね。

 効果は『愛護』。守備力の上昇と回復力の上昇っぽいね。

 今付けてる奴は守備力ちょっと上げる奴だから、交換しとこう。


 それから、素材集めの方も中々に捗ったみたいで、午前中だけでキャリッサちゃんに頼まれた材料の7割が揃ってしまったらしい。

 ……まあ、普通に市場に売ってるような物もあったみたいだし。というか、食材として講義室に入ってたのが幾つかあったし。……食べずにとってあって良かった!

 残りの材料もあっちこっち飛び回れば今日中になんとかなっちゃうとの事。早い!

「……あとは、『奈落の灰』かー……」

 角三君はひたすら目を凝らして奈落を飛び回って『奈落の灰』を探したみたいだけど、残念ながら見つかっていないとの事。

 奈落は広いから、まだ探してない部分もある。

 けれど、もしかしたら……いや、やめておこう。ベストを尽くそう。それしかない。

「ちなみに今『奈落の灰』の在庫ってどんなもんなの」

「合唱部の人達の分の霊薬を作ったら切れますね」

 あちゃー、それじゃあ駄目だね。

 命が無ければ肉体も意味が無いけど、その逆もまた然りだもんね。

「シュレイラさん、『奈落の灰』って人造できないんですか?」

「霊薬があれば作れないことも無いな」

 あ、駄目だそりゃ。シュレイラさんも分かっていて言ってるらしいね、そこんとこは。

「というか、『奈落の灰』ってそんなにメジャーな材料なんですか?」

「少し前なら神殿に行けば買えたぞ。高価ではあったが」

 あー……うん、元大司祭の馬鹿さ加減が以下略。

「まあ、それも妹が命の人造に成功してしまって以来、「人が人としての道を誤らない為に」という事で神殿は『奈落の灰』の販売を中止してしまったからな」

 あ、そうか、一般的にはそういう事にでもしておかないと不味いよね、そりゃ。

 勇者が不死身、っていうか、死んでも復活できる、って世間に知れた日には、不死身にしてくれ、っていう人がわんさか湧きそうだし。


「そもそも、『奈落の灰』って何なんですか?」

 折角なので聞いてみた。

 あの変な粉末は一体どういう効果を持ったものなんだろうか。

 ……いや、さ。一応、『鑑定』はしたんだよ。私だけじゃなく、社長と刈谷もさ。

 ……駄目でした!名前が出るだけで、効果も性質も何にも出てきやしない!

 これはもうこういうもんだと思って諦めたけどさあ、さあ……。

「ああ、『奈落の灰』は存在する物質の中で最も優れた魔力定着剤だ」

 ……あっさりシュレイラさんに回答された!

「魔力定着剤?」

「ああ。肉体を蘇らせる霊薬では、蘇らせた肉体が馴染むまで維持する為に『奈落の灰』が必要で、命の場合にはおそらくだが、命に魔力を定着させて動かすために使っているのではないだろうか。妹ならもっと詳しいだろうが」

 ……よ、よく分からん。

 けど……あれか。

 魔力、っていうのを発電機、っていう風に表現したとしたら、その発電機を命とか肉体とかにくっつけて実際に動かすための何か、って考えればいいのか。

「じゃあ、それを代用するものは無い?」

「無いな。あれは正直、他に類を見ない魔力定着剤だ。あそこまで魔力を吸いつけるのは一体どういう仕組みなのか未だに分かっていないんだ。一時期アーギス中の錬金術師が研究したらしいが、全て徒労に終わっている」

 さ、さいでか……。

 あの粉末、相当な謎素材なんだね。

 まあ、そりゃそうか、第N代大司祭が奈落から持ってきた、っていう以外出自が分かってないレベルだし。

 私たちも奈落からとってきた、っていう以外に何も知らないし。

「いっそ月森さんかジョージさんに増やしてもらうってのはどう?駄目?一応まだ残ってはいるんでしょ?」

 針生がごそごそ棚を漁って、中から試験管に入った『奈落の灰』を取ってきた。

 相変わらずよく分からん色の光を纏った謎粉末である。うん。置いとくと綺麗っちゃ綺麗である。

「性能が1%ずつ落ちていくらしいからコピー品は使えないよ。怖くて」

 たかが1%。されど1%。とてもじゃないが、人を生き返らせるぞ、ってときにそういう事はしたくないぞ。

 ……しかし、これだと……ホントに、角三君が『奈落の灰』を見つけるの待ち、ってことになるなあ……。




 そしてお昼ご飯も終わり、シュレイラさんは荷造りの為自宅へ戻り、角三君を奈落へタクシーして、私たちはまた実験室に戻ってきた。

 あと必要な材料は夜にしか取れない、とか、夜にしか出てこない、とか、明け方にしか湧いてこない、とか、そういうものばっかりなので、陽が落ちるまでは暇人である。

 ということで、私はお茶菓子のストック生産に勤しみ、他の人は社長をディーラーに据えてブラックジャックなんぞやっていた。

「舞戸さん、『奈落の灰』について女神本さんに聞いてみたらいいんじゃないでしょうか。あ、針生はバストですね」

 ……そうね。

「12だったのに!10出るとか!」

「他の人のカードも見た方がいいよー。ほら、7とか6とかは出尽くしてるのに10、J、Q、Kは2枚しか場に出てないんだから」

「ま、ドンマイっ」

 ……うん。じゃあちょっと、皆さんが遊んでる隙に行ってくるかね。うん。




「たのもー」

『遅かったではないか、もう来ないのかと』

「うん、いろいろごたごたあってね」

 とりあえずは女神本に雑談を兼ねて近況報告なんぞしてみた。

 してみたら、奈落のくだりでちょっと反応した。

『奈落へ行ったのか』

「うん。あ、奈落ご存知?」

『全知全能の女神を舐めるな』

 あ、さいでか。

『あそこはあれの領地でもある』

 ……あ、あれ、って、魔王の事か。

 それ以上は特に話してくれそうになかったので、早速こっちから聞くこと聞いていこうと思うよ。

「『共有』って、何」


『『共有』、か』

「ここに来てるのもそれなんだけどさ」

 思えば、とことん訳分からんスキルである。

 恐らく、効果としてはパスとかいうものを繋ぐ、みたいな効果があるんだと思うんだけど、それは『メイド』の仕事では無いし、『メイド長』の仕事としてみてもなんとなく効果がおかしい。

『この世界は望めば望んだものを手に入れる事ができる世界だ。それは知っておろうな?』

「つまり、欲しいスキルの行動を繰り返せばそのスキルが手に入る、っていう事?」

『待て。……なぜなら、そう創ったからだ。世界とはそうあるべきだと。望むものがあれば、それに応えるべきだと。……しかし、人の望みは無限でな。全知全能の女神としても、その全てを叶えることは能わぬ』

 それ、全知全能をモロに否定してないかな?

 ……疑問に思ったら、それを感じたのか、女神本は続きをつらつら進めていった。

『逆に言ってしまえば、人間というものは、どうにも全知全能を超えていってしまうのだ。大人しくしていれば良いものを、と思わんでも無い。与えられたものの中で生きていれば幸福に生きていられる事などいくらでもある。しかし、人間というものは不幸を知らぬ事を幸福だと思うようにはできておらなんだな。中々どうして、果て無き望みの果てに破滅していく事すら厭わないのだ。……だから、堪らなく愛おしい』

 ……やはり、こいつはちょっと人間からは感覚がずれてるのかもしれんなあ。

『話が逸れたな。つまり、この世界には確かに軛があるが、人間はそれを幾らでも超えられる、という事だ。世界に収まっている必要がある以上、確かに分類はされるであろう。しかしそれはあくまでその名を付けることで自身を世界の範疇に収める為なのであり、あくまでその中身はどこまでも自由なのだ』

「もうちょっとわかりやすく……」

『つまり、スキルは名こそ付こうが、それにさしたる意味など無いという事だ。同じスキルなど、1つとしてありはしない。汝がスキルは偶々『共有』という名がふさわしいと判断されたのであろうが、その実はその名の範疇で幾らでも変容し得る』

 つまり、うん、わかった。

 とりあえず、分かった。

『共有』っていうのはとりあえずそういう名前付けとけ、っていうだけで、特に名前に意味はない、って事は分かった。

 けど、大事な部分が無いぞ!

「それ、『メイド』の仕事かね?」

『愚問だな。汝の仕事が全て『めいど』の仕事でなければならぬという事にはなるまいよ』

「スキルは職業の物じゃなくて、人のもの?」

『『職業』など、人が決めるものであろうに。人は『職業』によって決まるものにあらず。『職業』を人が決めるのだ』

 ……ご尤もです。

 じゃあ、私の『共有』がなんか変なのは私が望んだからか?望んだらこうなるのか?ん?

 ……女神本がこの話は終わり、みたいなかんじに頁をめくった。

 うん、もうちょっと自分の中で整理しよう。




 さて。ここで本題です。

「『奈落の灰』が欲しいんだけどどうやったら手に入るかな」

 これを聞きたいのだ、私は!さっきのはおまけに過ぎない!これだ!これ!結局はこれが分からないと詰みなんだよっ!

『『奈落の灰』?』

「うん」

 ……しばーらく、そのまま女神本からは返答が無く、頁をつついて催促してみたら、やっと

『……知らぬ』

 と返ってきた。

 ……まさかの!




『それを使って何を成す』

「命の製造」

 ……言ってから気づいた。

 これ、女神にいったらまずくね?

 ……と思ったのも、杞憂でした。

『遂に人間は命を創るようになったか!』

 なんか文字が躍ってる!

『やはり人間はどこまでも進んでいくものだな!』

 あ、嬉しいんだ。嬉しいんだこれ!

「で、知らない?」

『確かな事は言えぬよ』

 ……嗚呼、無情。


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