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143話

「ん?……ああ、もしかして新入りか?」

「あっはいそうです」

 凛々しいお姉さんに言われてとりあえずそう答えておいた。

 ……とりあえず多分そういう扱いになるんじゃないだろうか。うん。

 さて、じゃあ早速渡さねばな。

「あの、これレオリックさんから預かってきました」

 とりあえず黒髪黒目の異世界人男子にレオリックさんの辞表を渡すと、そいつはそれを一読して投げ捨てた。

「別にあんな奴が1人いなくなったところでどうってことはない」

 ……あ、そう言いつつ、微妙に気にしてるんだな。

 周りのお姉さんたちの同意を得て、自信を取り戻している模様。

「……なんならこれから衛兵も全員女にするかな。その方が皆とも仲良くできるだろうし。なあ、サリーダ、どう思う?」

 後ろに居た凛々しいお姉さんに話を振ると、そのお姉さんの顔がぱっと輝いた。

「もしそうなら是非私を衛兵隊長にしてくれ!その時には王国騎士を辞めて立派に勤め上げて見せる!」

 おお、このお姉さんは女騎士さんなのか。

「いや、サリーダは王国騎士のままでいてくれよ。城だって優秀な騎士がいなくなったら困るだろう?あんまり王様を困らせるのも悪いからな」

「そ、そうだろうか……」

 騎士のお姉さんはもじもじしだした。凛々しさとのギャップが可愛いんだけど、それを目の前で延々とやられてもこっちとしても困る。

「それにぃ、あたしたちが稼いで来ないとユートは食べてけないもんねえ!きゃはは!」

「おい、キャリッサ、それは言わない約束だろう」

 ピンク色のツインテールを揺らした女の子がくすくす笑いながら横から出てくる。

「いいのいいの!だってユートはあたしが養ってあげるからっ!ああもうかわいいっ!」

 そして勢いよく男子……ユート君?に抱き付いた。

「あっ!ずるいよキャリッサ!私もー!」

「ちょっと!ピューリア!あなたは昨日ずっとユートにくっついてたじゃない!」

「毎日くっついてたいのー!」

「わ、わたしも……」

「コラ!あんた達!ユートが困ってるじゃないか!」

 ……以下、きゃわきゃわと女の子たちの押し合いへし合い言い合いが続いた。

 ……ねえ、もういい?次の渡していい?


 暫くぼやーっ、と眺めてたら、ユート君なる人物がやっと私の方見た。

「ああ、ごめんごめん。それで、君は」

「それから、次のお手紙です」

 いい加減待たされたので悪いけどこっちを先にしてもらうよ。

 ということで手紙をもう一通渡す。

 ……これは、社長からのお手紙である。

 文面は私も知らん。

 社長曰く、「多分効果的だと思いますよ」とのことである。

 ……手紙を渡すと、まず真っ先に顔色が変わった。

 ……あ、もしかして日本語で書いてあったか?

 そして読み進めていくごとに、少しずつ笑みが深くなっていって、そして最終的に手紙を握りつぶした。

「誰があのクソみたいな世界に帰るか!」

 あ、さいでか。

 ……うーん、まあ、一応もうちょっと時間をかけて悩んでほしい所ではあるんだけど、そういう決断なら私は何も言わないよ。

 さて、帰るか、と思った所で、呼び止められてしまった。

「……ねえ、君、この手紙は誰から受け取ったの?」

「このお屋敷の近くまでレオリックさんに連れてこられたときに、途中にいらっしゃった方から頼まれました」

「どんな奴だった?」

 ええとねえ、黒髪黒目で時折狂気を感じる笑顔を浮かべる『狂科学者』っす、とは言えないので、適当にごまかす。

「さあ、フードの付いた服を着てらっしゃったので……」

 困ったように首を傾げて見せれば、それ以上追及されなかった。適当に自分の中で理由付けたらしく、納得してくれたらしい。ありがたいね。


「そっか。うん、ありがとう。……ねえ、君の名前、教えて?」

 ……ぬ、目を合わせられたときに何か発動されたっぽい気がした。……ええと……いや、特に異常は無いか。うん。

「ローズマリーです」

「そうか。僕はユウト・ニシキノ」

 あ、またなんか発動された。うーん、なんか一瞬頭がぼんやりしたけど、多分大丈夫だと思う。

「今から僕たち晩御飯なんだけれど、一緒にどう?」

「いえ、私はもうご飯を済ませてきてしまったので」

 結構いっぱい食べちゃったしなあ。もう入りません。

「えっ?」

 しかし、この不審げな顔である。いや、別におかしくなかろ?

「……えっ?」

 ……あ、またなんか発動された。けどもう慣れたから大丈夫である。

「じゃあ、お茶でも飲んでいかない?」

「いえ、結構です」

 ……じりじりと距離を詰めてくるので、私もじりじりと後退する。

「……え、嫌?」

「嫌っていうか、あの、帰っていいですか?」

 こっちみんな!お前がこっち見ると頭がぼんやりするんだよ!

「……じゃあ、本気出すか……」

 そして終いにはなんか不穏な事を言いだした!

 ぎちぎち、とか音がしそうな位強く目を見つめられて、何故か視線を外したり目を閉じたりすることができない。これもスキルの効果なんだろうか?

 段々頭がぼんやりしてくる。けども何とか頭動かして打開策を考えていたら、今度は気持ち悪くなってきた。吐きそう!

「くそ、どれだけ硬いんだよ……!」

 なんか言ってるけどよく分からん。くそー、頭働け、頭働け!……これは、自力でどうしようも、無いな?

 どうしようも無いなら、しょうがないな?


 メイドさん人形に合図をすると、スカートの裾からわさっ、と出てきて、天井近くまで高度を上げた。

「な、なんだあれは!」

 そしてメイドさん人形達に驚くお姉さんズと、錦野君。

「さあメイドさん人形達!景気よく頼むよ!」

 そして良く回らない頭のせいか、こう、かっこよく頭上で指を鳴らすとかいうちょっと恥ずかしい事をやってみたりして合図すると、メイドさん人形達は私に向かって瓶の中身をぶちまけてくれた。

 ざばあ。

 ……ええと、薬掛かったら頭はっきりしてきた。

 はっきりした頭で考え直したら、別に景気よくやる必要は特に無かったし、瓶一本分で良かったんだよなあ、これ。

 ……ええと、かなり薬を無駄遣いしてしまった。

「きゃあ!」

「うわっ!」

「な、なにー!?」

 そしてメイドさん人形数体はノーコンだったらしく、私通り越してお姉さんズにまで薬が及んだ。

 ……あ。




「うん……?私は一体何を……?」

「ふぇー……?」

 何やら薬がぶっかかってしまった人の中には、スキルの効果が切れたらしい人がいた模様。

「私は……何故こんなことをしていたんだ……?」

「あ、あれ?な、なんであたし、こんな奴のいう事きいてたんだっけ!?」

「はあ!?あんた、こんな奴、ですってえ!?ユートになんてこと言うのよっ!」

「目を覚ませ!私達はなにかおかしな術でも掛けられていたんだ!」

 ……こんな調子で、お姉さんズは取っ組み合いの押し合いへし合いになり始めた。

 その内、正気に戻っちゃったらしい中の1人が、床に溜まった薬を掬って掛けたり、薬を吸った絨毯で女の子たちをぺしぺしやったりし始めた為、結局お姉さんたちは全員正気に戻ってしまった。

 ……ごめん。




「おい、これは一体どういう事だ。私達に何をしたんだ!」

 騎士のお姉さん(抜刀)に詰め寄られて成す術も無いらしい錦野君。

 ……スキル発動してはいるんだろうけど、薬ぶっかかったままの人にやっても効果が薄いかもしれない。

「やだ!なんであたしこんな奴に夢中になってたのよー!ちょっと!どうしてくれんのよ!」

「ふえええええん、私恋人と別れてここに来ちゃったんですよ!?なんとかしてください!」

 そしてお姉さんズは錦野君に詰め寄る訳である。

「ちょ、ちょっと待って、落ちついて」

「落ち着いてられる訳無いでしょー!」

 ああ、どうしよう、これは……錦野君に加勢した方がいいんだろうか。

「もーいいじゃん!こんな奴ほっといて皆帰ろーよ!時間の無駄無駄!」

 しかしそれも少しの事で、誰かがこんなことを言いだせば、殺気立っていたお姉さんズはそれもそうか、と思い直したらしく、錦野君をどうこうしたりせずに帰って行った。




 こうしてすっかりお屋敷は静かになってしまった訳だけど、これ、このまま帰っていいんだろうか。それもなんとなく気が退けるんだけど……。

「くそ、お前……お前はっ!?」

 気が退けていた所、呆然としていた錦野君がやっと我に返ったらしい。

 私に食って掛かろうとしたのか、こっち向いて、そして凄い勢いで青ざめた。

 ……ん?

 何か私の顔についてるっけ?

「あ、あの、もしかして、高校同じ……?」

 ……あれ、もしかして、と思って確認してみると、髪の色が戻っていた。

 社長謹製状態異常回復薬は、『変装』も異常と見なしたらしい。ふむ、まあ手っ取り早くて良かったかもしれない。

「ええと、錦野君?だよね?」

 このまま帰るのもなんとなく気が退けるので声を掛ける。

「な、なんだよ!なんか文句あるのか!」

 も、会話にならず!

「ねえよ」

 ねえからそのナイフみたいなのしまってくれ。物騒な奴め。おちおち話もできないじゃないの。

「ええと、君のハーレムを瓦解させようという気は全くなかった。ごめん。で、ええと、元の世界に戻る云々の話なんだけど、もう一度ちゃんと考え直してみてね。大事な話だからさ」

「え、あ、うん……」

 こちらに君を害するつもりは無いよ、というアピールをしつつ言ってみると、拍子抜けしてしまったらしい錦野君は気の抜けた返事をしてくれた。

 うん、まあ、これで一件落着、なのかな……?




「……人の夢壊す能力でも貰ったの?」

「は?」

 一応ぶちまけた薬は片づけてからいこう、ということで、ハタキで床だの壁だの絨毯だのをぽふぽふやっていた所、なんか変な事言われた。

「え、なにそれ怖い」

「じゃあ何の能力貰ったの?見たかんじ、物を消す能力?」

 なにこれ怖い。話が分からん。なんだ、能力を貰う、って。

「……もしかして、この世界に来たときの事、覚えてたりするの?」

「揺れて光って、変な空間でよくわかんない声みたいなのと会話した事?」

 ……そ、それだーッ!

「そ、それ、どんな会話した!?」

 これは、これは大事なことですよ!今まで誰も知らなかったことをこいつだけ知っている!うおおおおおお!

「ちょ、落ち着いて!」

 若干興奮気味になってたら錦野君に宥められた。不覚。

「……会話、っていっても、その光の球みたいな奴に、何を望むのか、って言われて答えただけだから……言わないと駄目?」

 う、ここで渋るか。まあ、言いにくい事なのは見当が付くけど、今更じゃないかな?

「言わないと君がハーレム築いてたことを皆に言いふらすぞ」

「ぐっ、卑怯な……!」

 うるせえ。さ、とっとと吐いちまいな!

「……チートでハーレム、って」

 ……OH。

「それで、この世界に来たら、この屋敷にいて、それで、俺は目を合わせた対象を魅了できるようになってる、って分かって……」

 それでレッツハーレム、とな。

「じゃあハーレム要素は達成できたわけだ。じゃあ、チート成分は?」

「目を合わせれば相手を魅了できるんだから、強い仲間を集めれば最強だろ?」

 まあ、その結果がこれだよ!っていうのが何とも言えない所であるが。

「で、お前は?」

「え、知らん」

「……は?」

 だって知らんもんは知らんのだもの。しょうがないじゃない知らないんだもの。

「というか、今の所、私がこの世界に来て出会った人の中で、この世界に来るときのことをはっきり覚えてる人は君が初めてだよ。だから聞いておきたくてさ」

 ……確か、女神本は言っていた。補正は、何か目的がある人に与えられるものだ、って。

 という事は、スキルとかも、その目的とやらに左右されるものだとしてもおかしくない。むしろ、そうなら結構納得がいくんだよね。

 ……手段として与えられるのだ。目的がそのまま与えられる訳じゃ無く。

 それはこの錦野君の例で行けば、『チートでハーレム』を達成するための手段である『魅了』みたいなスキルは与えられたけど、初めからハーレムとチート成分が与えられていた訳では無かった、と。

 ……逆に言えば、『一人で一国落としたい』とかいう目的を持てば、その為のチート級の戦闘力が与えられたのかもしれない。あくまで、強くなることが目的でないのならば、という事になるけど。

「……じゃあ、俺は選ばれた存在……?」

 或いは人一倍欲望が強かったとか……かな?


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