141話
それから、ククルツの町の人たちを神殿にお迎えに行った。
「鳥はこの通り、無事倒すことができました」
町長さんらしい人に社長がお話して、町の人を安心させる事にした。
……ほら、一応さ、封印解いちゃったのは私達だからさ……。
後でなんか言われるかもしれないこと考えたら、ここで責任とった、って事をアピールしておいた方がいいよね、っていう。
……ただ、証拠として見せるのがさ、金属塊だからさ、不安だったんだけれど……信じて貰えた模様。
なんでも、金でも銀でも銅でもない金属が、伝説の金属とやらなんだそうだ。
そんなものがゴロゴロあるって事で、信じざるを得ないんだとか。
「な、なんということだ!まさか、金銀銅の怪鳥を倒すとは!」
「古の勇者にも成しえなかった快挙だ!」
「今宵は宴だーっ!」
……アピールした方がいいよね、とは思ったけれど、まさか、こうまで喜ばれるとは思わなかったなぁ。
折角なので、ククルツで臨時開催されたお祭りに参加することになった。
美味しいご飯と綺麗なおねーちゃん達に囲まれつつ、楽しく夜は更けていく。
ククルツとアーギスでは酪農も盛んらしいね。乳製品が多くて嬉しいね。
こっくりまろやかなクリームスープとか、炙ってとろけさせたチーズとか。クリーム菓子の類もあるし、バターケーキとかも美味しい。
デイチェモールとかで売ってた乳製品はここからの輸入品だったんだね、きっと。
鮮度が違うからか、やっぱり凄く美味しく感じる。
乳製品、ここでいっぱい買ってストックしておこう。そうしよう。
皆さんもお祭りに溶け込んで、針生あたりは投げナイフとかで曲芸じみた事をやって町の人達を楽しませてるし、角三君と鳥海は模擬戦やって、やはり観客を熱狂させている。
刈谷は小さい子たち相手に光魔法を見せている模様。
社長は……平常運転だ。頼むから死者は出さないでね!
他の面子はこの町の職人さん達と道具とか武器とかの談義に花を咲かせている模様。
あの鳥から出てきたよくわからん金属。あれ、凄い金属なんだそうで……お礼を兼ねて、あれで皆さんの装備を作ってくれるらしいんだ。
その相談とかもしてるのかな。楽しそうだね。お邪魔しちゃ悪いよね。
……なので、こっそり、今の内に抜け出して行ってこようと思います。
ほら、後で生活用品届ける、って言ってさ、届けてないからさ……。
ということで必要な物持って、体育館組の居住区に『転移』。
近くにいた人に聞けば、家庭科部の人達の場所はすぐに分かったので、そっちに向かう。
「おーい」
生活用品と一緒に家庭科部の人達の居住スペースに『転移』したところ、滅茶苦茶驚かれた後、滅茶苦茶怒られて詰め寄られた。
「ねえ、これさっさと外してよ!趣味悪すぎ!」
ぐええ、襟を引っ張るな、襟を!分かったから!
これ、というのは、魔法具でもある首輪である。
……この首輪、当然のように封印手錠のような、魔法封じの効力もある代物だったのだ。
そして、この人たち、大体魔法使い系の職業で。
モンスターが襲ってこないとも限らない物騒な世界だから、今後この人たちがここで生活していく上で魔法使えないのはちょっと厳しい。
という事で、全員分の首輪をさくさく外していく。
というか、魔法封じ云々が無くても元々外すつもりだった。さもなきゃ着替えもままならんからね。
「はい、じゃあこれ着替えとかね」
最後の人の分も外した所で、1人ずつ着替えとかを渡していく。
着替えはそれぞれ3着ずつしかないけど我慢して下さい。
「は?何これ?」
「いや、だから着替えとか日用品とか」
なんとなくそれは見て分からん?というか、さっき言った時点でなんとなく分からん?
「……こんなの付けさせる気?」
……あ、そっち?
うん、まあ……そうね。
その気持ちは分からんでもないよ。年頃の女子としてはそこら辺は嫌なんでしょうなあ。
しかしまあ……しょうがないんだよ。
「ゴムとかが無いからさ、どうしても紐パンになるんだよ」
「そんなの知らないから。別のにしてよ」
そ、そう言われてもなぁ……。
「嫌なら別に使わなくてもいいよ。けどパンツ1枚で生活になるよ」
今パンツ履いてるなら、の話である。今ノーパンだったらパンツ0枚生活だぞ。
「嫌に決まってんじゃん何言ってんの?」
……じゃあ、どうしろと!?町のお店で今からパンツ買って来いと!?あ、パンツ買って来いってなんかパシリっぽいね。「おう、焼きそばパンツ買って来いよ」みたいな。……あ、いや、何でもない。
その後もなんかうだうだ言われたのでさっさと帰ることにした。
……悪いけど、彼女たちにはパンツ1枚生活か紐パン履くかの2択しか残されていないので多分その内諦めて履くと思う。
案外慣れれば紐パンも悪く無いものです。
褌も慣れれば悪くないって男性諸君も言ってたし、慣れって大事だよ。
ククルツのお祭り会場に戻ったら、皆さんが私を探していた模様。
居ないことに気付いて慌てたらしい。ごめん。
家庭科部の人達の所に行ってた、という事を報告すると、事前に報告するように、としこたま怒られた。申し訳ない。
さて。そうして宴はお開きになったけれど、私にはやることがある。
そう!……羽毛布団の制作だっ!
さくさくと肌触りのいいリヨセルを縫っていって、大きな袋にして、そして!そこに!たっぷりと羽毛を詰めるっ!
尚、この羽毛……に限らず、鳥が金属になる前に採った素材には、案の定というか『癒し』という効果が付いていた。
……しかし、この羽毛……染色の材料に、ならないっ!
く、くそ、血とか羽根とか、もっと取ってから金属塊になってもらえばよかったっ!
羽毛を紡いで糸にするのも効率悪い、という事で、羽毛は布団にするということで満場一致。
このお布団への情熱が我らの特色です。はい。
そして出来上がったお布団は、寝っ転がるとほやん、と癒される……そんな、最高級のお布団になったのでした。
寝てるだけで怪我が治る驚異の布団です。
怪我の治療以外にも、精神安定とか、安眠とか、そういう方面にも効果がありそうだし、やっぱりこれは布団にされるべくして布団になったと考えるのが妥当だね!
……ちょっとだけ、羽毛入れたお守り袋みたいなの作ったんで、後で皆さんに装備しておいてもらおう……。
ということで、ケトラミさんじゃない布団で久しぶりにぐっすり眠って翌日。
朝ごはんをささっと済ませたら、残りの家庭科部の人達の回収に向かおう。
一応場所は穂村君に聞いているのでそこは大丈夫だ。
鉱山から離れた位置にある住宅街の一角に向かうと、そこに、でん、と家庭科実習室があった。
溶け込み切れてないこの違和感。木やレンガの家の中に紛れた教室。
ご近所さんになんか言われたりしてないんだろうか。大丈夫なんだろうか。五月蠅い人は町の景観を損ねる、とかって言ってきそうだよなあ……。
ドアの所に取り付けてある呼び鈴を鳴らすと、中でぱたぱた音がしてドアが開いた。
そして中から小柄な女の子が顔を出したかと思うと、私たちの顔を見てすぐに引っ込んでしまった。
中で鍵がかかる音が聞こえる。
……相当警戒されてるらしい。
穂村君は何をどうやってこの子たちから話を聞くまでに至ったんだ。
「どうする?侵入するだけなら俺できるけど」
針生が申し出てきたけどそれやっちゃうとマジで取り返しがつかないレベルの警戒されそうだしなあ。
しょうがないんでここは正攻法である。
「すみませーんこちらはあなた達と敵対するものではありませんので開けてー」
ドアをどんどんやりながらひたすら喋る。これのみ。
「すみませーん」
どんどんどん。
「開けて―」
どんどんどん。
……。うん、こりゃ駄目だ。
「じゃあ、開けなくていいので聞いてください」
ドアの向こうに向かって話しかけると、なんとなくドアの向こうで気配がした。うん、聞いてはくれるらしい。
「今日、鉱山で奴隷になっていた家庭科部の人達の一部を買って避難させました」
おお、ドアの向こう側が慌てだした。
「ここの事は教えてません。避難させた場所もかなり遠い所です。あなた達に危害は加えさせません」
……あ、ちょっと静かになった。
「で、今後の事についてちょっと話したいんですが」
そこまで言ったら、鍵が開く音がして、ちょろっ、とドアが開いた。
「元の世界に帰る方法についてちょっと話したいんです」
小柄な女の子と暫く見つめ合った結果、
「……どうぞ」
入れてもらえることになった。
よっしゃ。
「……という事で、この教室も回収させてもらえるならそうしたいんだが」
何やらお茶とお菓子を出してもらって、お互い持ってる情報を出し合う話し合いになった。
家庭科部らしく、実習室の端々に家事やってる様子が見て取れる。
コンロの上に置いてある赤い石の板は多分火属性の鉱石だろう。多分IHコンロみたいに使えるんじゃないかな。
今出されてるお茶はそれで沸かしたお湯で淹れてもらったものだ。中々この人たち、この世界を満喫、というか、この世界に適応している模様。
「そう。私達はここにいきなり来てしまって……それで、知ってるでしょう?あの人たちを売ったの。悪い事をしたかもしれないけど、反省はしていないわ。ああしなきゃ間違いなく私達がああいう目に遭ってたんだろうから」
家庭科部の部長さん、我妻さんは、淡々とそこら辺から話してくれた。
彼女たちは鉱石の加工とか、調理とかをしてお金を作っているらしい。
この町は鉱石の加工の仕事には事欠かないし、食事を食べる人にも事欠かない。そういう技術並びにスキルがあれば非常に生きていきやすい町だと言える。
「だから、私たちはできればこの町に、帰るぎりぎりまで居たい。教室は帰る時でもいい?」
「ああ。連絡が取れればいい。……しかし、本当に良いのか。金ならこっちに結構あるが」
「ええ。今の所私達は自分たちの力で生きていけてる訳だから」
家庭科部の皆さんは、このままこの町、ククルツで生活することになった。
お金を自力で稼いで、自分たちで生活するっていうのが案外楽しいらしい。うん、分かる。
しっかり職業も得てこの町の一部となって働いている彼女たちなら、そうそう奴隷にされるような事も無いという。
ふむ、防犯に一番いいのはご近所づきあいだっていうのはあながち間違いじゃないと思うけど、それなのだろうなあ。
……と、いう事で、彼女たちには引き続き、ククルツの町で生活してもらう事にした。
勿論、何かあったらすぐに連絡してね、とも言ってあるので、まあ、多分大丈夫だと思う。
ということで、ここにも連絡用にメイドさん人形を置かせてもらう事にして、私たちはククルツを発つことにした。
向かうのは王都アーギス。錬金術が盛んな町らしい。
アーギスへは徒歩で3時間程度らしい。
なので、テラさんに乗った角三君がアーギスへ向かい、その間に私は皆さんが坑道で何をやってきたかを聞いておくことにした。
……いや、だってさあ、なんか……『深淵の石』、持って帰ってこなくていいはずの透明な奴……つまり、未使用の奴まで、持って帰って来てるんだよ。
「これが『深淵の石』ですね。これに強い衝撃を加えると、近くにあるものの一部を吸収してため込む性質があるのはもう分かると思いますけども」
刈谷の説明を聞きつつ、その鉱石を見る。
半透明の水晶みたいな鉱石である。すべすべってよりはごつごつしてる。
「そして、その鉱石を砕くと、中身が出てきて戻るみたいです」
ほー。……じゃあ、この鉱石にどかんと水流でもぶつけると水が入って、それを砕くと水が出てくる、って事なんだろうか?
「中に入るものはランダムみたいですねー。過去に『お化け』被害にあった人は感情が無くなった以外にも、魔法が使えなくなったり目が悪くなったり、と色々あったみたいです」
ランダムなのか。……感情、とかいう非常にぼんやりしたものが選択されることがあるって事は、水流をぶつけても運動エネルギーとかが選択されることもあり得る、んだろうなあ……。それを砕いた時の惨事が想像できるぜ。
「ちなみに実験とかってやった?」
「やったやった。滅茶苦茶面白かったよー。羽ヶ崎君が」
「やめて」
……何か言いかけた針生が羽ヶ崎君に口を凍らされてしまった。
……うん、いや、何も聞かないから早く治してあげてよ。
……しかし、この、何かをランダムででもなんでも、吸収してしまう、という性質は重要な気がする。
ほら、例の死んでしまった合唱部の人達のグラスを満たしているあの水銀みたいな奴。アレを取り除く手段として、今の所一番有力な候補じゃないでしょうかね。
角三君から連絡を貰ったので、全員でそっちに『転移』。
そして何の苦労も無くアーギスに到着!
到着したけど、もうそろそろ日暮れなんでちょっと町を見たら撤収になるね。
アーギスは何度も言うようだけど、錬金術が盛んな町である。というか、魔術の研究が盛んな町である。
あっちこっちにファンタジックなサムシングが点在しているね。鏡でできた噴水(噴鏡?)が見どころだったかな。
お店にもいろんな魔法具みたいなのが売ってる。ククルツよりも高級志向なかんじだし、もっと魔法的なかんじだね。
お高いけど、その分品質が良いらしい。高性能とも言う。
……しかし、装備とかはあんまり見当たらないね。そういうのはククルツの管轄なのかね。
ふむ。……あ、でかいきゅうりみたいなの売ってる。あれはズッキーニなのか、きゅうりなのか、それが問題だ。
きゅうりならタコとかなまり節みたいなのとかと一緒に酢の物にしたり、定番の漬物にしたりできるし、ズッキーニなら挽肉挟んで揚げたり、ベーコン挟んでじっくり焼いたりしてとろんとした味わいを楽しめる!トマトで煮ても良し!
これは是非近くで見て確認しなければ。
「舞戸さん、どうしたの?何かあった?」
「きゅうりかズッキーニかパッと見分かんないやつがあったのでちょっと買ってくる」
「相変わらずだねえ」
半分ぐらい呆れながら加鳥も付いてきてくれるみたいなので、魔法具を見てる皆さんに断りを入れてから野菜売ってる露店に向かう。
……突如、道にいた人々がざわめいて、そして石畳を打ち鳴らす蹄の音が聞こえた。
そっち向いたら、馬に乗った甲冑の人が馬上から身を屈めて、走りながら私の首根っこ引っ掴んだと思ったら、持ち上げて、馬上に乗せた。
……あれっ?




