表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/180

139話

 とりあえず最初にやる事は情報収集である。

 そしてこれに関しては非常に簡単だ。

 何、この家庭科部の生気抜けてる女子達の記憶をちょっと見せてもらえばいいのだ。

 それだけでもう『お化け』の情報全部貰える気がする。

 という事で、片っ端から『共有』させてもらって、7人分の記憶を覗くよ。


 その結果分かったことは、とりあえずこの人たち、つい最近こうなっちゃったという事である。

 日数にしてなんと3日前。成程、穂村君が何故、7人の生気が抜けてる状態であることを説明してくれてなかったかはこれで分かるね。穂村君も知らなかったんだろう。多分。

 しかし、肝心の原因については、微妙。

 この鉱山の坑道を脇道に逸れまくっていった所で、そこにあった鉱石を採掘しようとした、っていう所までは分かるんだけど、その後がまるで分からん。

 全員記憶がぶっつり切れてて、それ以降はよく分からない。

 その後の記憶は、抜け殻状態の7人の対応に困った鉱山の管理者さんの姿になってしまう。

 ……うーん、まあ、場所が分かっただけでも上々でしょう。

 という事で、7人分の記憶を集めて地図を作成して、それを元に鉱山の中を探索することになりました。

 ……うん。私は留守番である。

 そりゃそうだ、移動スピードが違いすぎる。そして体力も!筋力も!

 なので、例の如く私は非常に足手まといなのである。例えモンスターが出なくても落盤とか、幾らでもこの手のトラブルは考えつくしね。




 暇である。

 坑道の入口付近で私は7人と待機。

 ……こいつら、話し相手にもならんから、非常につまらんのです。

「天気良いねー」

「……」

「お腹空かない?」

「……」

 この通りである。やっぱり命令形じゃないと駄目なのかね。

「……お腹が空いたものは挙手せよ!」

 あ、挙手した。

 ……あー、こうやると意思の疎通ができなくもないのか。

 お腹空いてる、との事なので、一旦講義室を展開して、作りだめてあったプリンを出してきた。

「はい」

 7人にスプーンと一緒に手渡すも、手に持ったままじっとして動かない。

「食べたかったら食べていいよ」

 そう言うとやっと、7人ともスプーンでプリンをつついて食べ始めた。

「……美味しかったらこっち向いて」

 言うと7人ともじーっと私を見つめてきた。

 ……美味しいらしい。

 あ、なんか可愛いな、この人たち。生気0だけど毒気も0だからね。




 プリン食べ終わったら満足したらしい。全く顔に出ないんでまた聞いてみたんだけども。

 その後適当に観察しながら皆さんの帰りを待つこと数時間。

 お昼ご飯の支度が終わってまた手持無沙汰になってしまった。

 ……遅いなあ。

 心配なのでメイドさん人形で視界から確認である。

 ……ええと、なんか薄く光る鉱石みたいなのを囲んでなんかやってるっぽい。

 特に異常は無さそうだし、困っても無さそうなので大丈夫だろう。

 さて、じゃあ私はまた織物でもして待ってるかな、と思った所、きゅう、と、音が聞こえた。

 ……本人たち、微動だにしてないが、多分、お腹減ったんだろう。

 ……。

「ええと、ご飯食べたい人は挙手」

 ……。うん。7人分位は余分にできてるよ。大丈夫だよ。


 今日のお昼ご飯は鳥肉の照り焼き丼です。皮目はぱりっと。中身はジューシー。そして甘辛く照り焼きソースが絡んだご飯が進むメニューです。

 サイドメニューの味噌汁と漬物も一緒に7人分作って出す。

「食べたかったら食べていいよ」

 と言うと、7人とも黙々と食べ始めた。……食べたいらしい。うん。それは良かった。


 それから少しして、やっと皆さん帰ってきました。

 皆さんどことなく疲れ気味な事以外は異常も無さそうである。

 ……ただ、角三君とか鳥海とかのマント外して、それに何か包んで持ってきたっぽいのが気になるね。

「おかえりなさいませーご飯にする?」

「する。ただいま。準備に時間かかるだろ?その間に俺達でこの7人戻しておくがいいか?」

「構わんよ。けど、この人たちがご飯食べ終わってからにしてね」

 じゃないと喉に詰まらせたりしそうだし。

「ああ。こっちももう一度『鑑定』してみるが……総当たりになるかもしれないんでな、ちょっと時間がかかりそうだ」

 ……ほう?




 なんでも、聞いてみると……この家庭科部の人達が魂抜け人間と化している原因が、マントに包んで持って帰ってきた石なんだそうだ。

 このやったら透明な石、強い衝撃を加えると、その時その周りにあった何かを石の中に取り込んで閉じ込めちゃうんだそうだ。

 この7人はそれで感情とか意思とかを閉じ込められちゃったらしいね。

 もっとも、これ、戻すのは簡単。

 それを閉じ込めてる石を搗ち割ってやればいいのである。

 ……ただし、この石……『なんか入ってる』と透明からちょっと灰色っぽくなるから、『何も入ってない』のとの区別はつくんだけど、『なんか入ってる』奴、何が入ってるのかはよく分からないんだそうだ。

 なので、とりあえずこの7人の家庭科部女子達がなんかやったであろう場所にあった石の中で『なんか入ってる』奴を片っ端からかち割りましょう、ということらしい。

 がんばってください。


 7人のご飯が終わったので、7人を外に連れ出してから戻し始めた模様。

 理由は、室内で暴れられると困るので、の一言に尽きる。大変申し訳ないが私達はこの人たち信用してないんだな、これが。

 鳥肉焼いてたら物音が聞こえた、が、放置!

 皆さんにどうしようも無かったら私にもどうしようもないし、まず皆さんならそうならないだろう。

 それから何やら話し声というか叫び声というかが聞こえ、なんかごたごたやってる様子の物音が続き、そして皆さん、室内に戻ってきた。

「ただいま」

 ……。何やら皆さん、顔だの腕だのに生傷が。

「どうしたの、それ」

「取り押さえようとしてたら引っかかれたー」

 ……よし、そうか。

「7人は今どういう状態?」

「とりあえず俺達腹減ったから縄で縛って放置してきた!ごはんまだ?」

「ごはんできたよ。食べててね。私はすぐに戻るよ」

 念の為、ローズマリーさん状態のまま行こうね。

 外に出ると、打ちひしがれたような顔で転がっていた7名が私を見てじたばたし始めた。

「解いてよ!どうしてこんなことするの!」

 お前らが暴れるからだよ。

「このままじゃ私達あのキモい連中にどうにかされちゃうよ!助けて!」

 しねえよ。大丈夫だよ。心配しなくてもあいつらそもそも立体物に興味ねえよ多分。

 ……さて。ここで思い出さなければならない。

 この人たちは奴隷であり、私は現在、その所有者である。

 そして、この町は魔法の道具に事欠かない町である。

「所有者として命ずる。黙れ」

 予め鉱山の人に教わっていた通りに命令を下すと、何やら7人とも黙ってしまった。

 ……これは、この7人につけてある首輪の効力である。

 なんだろう、多分、『魔声』がもっとストレートに効くようになったかんじなのかな。

 つまり、命令をかなりの重圧、プレッシャーをもってして押し付けることができるのだ。

 勿論、それは絶対では無い。

 ある程度以上の効力は無いし、あくまで術者の能力に左右される代物だ。

 だから、かなり無理のある……例えば、「死ね」とかは命令を聞かせるの、多分難しいんじゃないかと思われる。

 ちなみに、あの契約書はこれの機能の都合で書かなきゃいけないものだったらしい。つまり、あの契約書もマジック・アイテムの1つだったって訳だ。

「所有者として命ずる。さっきのご飯の感想を正直に述べよ。一人ずつ順番に」

「美味しかった」

「まずまずだったけど?」

「割と美味しかった」

「美味しかったです」

「別になんとも」

「アンタ何様なの?」

「もっと食べたいー、足りないー」

 ……。

 よし、なんか最後にちょっとふとましい女の子から悲痛な声を聞いてしまったけれどそれはちょっとスルーさせてもらうとして……これで、この術のかかりにくさ、命令の効きにくさが分かったって事だ。

 やっぱりまちまちだね、この効力って。

「よし。分かった。では所有者として命ずる。そのまままた私が出てくるまで、さっき暴れたことを深く反省しながら黙って待機!脱走するな!というか微動だにするな!呼吸は許す!」

 ということでまた黙らせたら室内へ。

 ……ふむ。どうしようかな、これは一体。




 お昼ご飯食べたら会議である。

「あれどうすんの」

「体育館組に連れてくのが一番いいと思いますよ」

 まあ、あそこなら住居としても今の所一番すぐれてる上に、人がとにかく多いから、お互い気の合う人も見つかるだろう。

「しかし、そうすると他の家庭科部員はどうする?情報室組?」

 人数的には情報室組はかなりいいと思う。どうせあそこももうじき作業終了するだろうし。

 ただ、一応あそこは探索集団である。戦闘経験がおそらく皆無であろう家庭科部の人達を連れて行くにはちょっと可哀想かもしれない。

 しかしそうなると後は吹奏楽部のお家か、ジョージさんのお家か、って事になってしまう。

 前者は多分厳しいだろうし、後者になるかな。多分これが最適解だろう。

 ……或いは、今まで自活できてたんだったら、連絡だけできるようにしておいてもらって、このままこの町に住んでもらう、ってのも手かもしれないね。

「じゃあ食い終わったら運搬しますわー」

 鳥海もそう言ってくれてるんで任せよう。

「あ、その前にいいかな。所有者権限もうちょっと行使してくる」

 折角の機会だしさ。

「それは構わないが……お前は何をやってるんだ。まだ食うのか」

「いや、足りないっていう子がいたから……」

「……そうか」

 もう一杯用意しようかと……。


 ということで小丼1つ持って外に出たら、その瞬間から騒がしくなった。

 うん。命令が見事に効いてたらしい。

「所有者として命ずる。ご飯終了まで黙れ。脱走は許さない。そしてはい、ご飯おかわりね」

 足りない、と言ってきた太ましい子の拘束を解いて小丼渡すと、無言でお礼言ってきた。『黙れ』は続行らしい。なんかごめん。

 そして暫く、凄いスピードで消えていく丼の中身を見ながら待機。

 中の3人程度は凄く睨んでくるけど、他はそうでもない。特に太ましい子は多分私の事をむしろよく思ってくれてるんじゃないだろうか。うん、餌付け的な意味で……。

 暫く待つと食べ終わったみたいなので食器片づけた。

「さて。……一応言っておくと、君達は私達に助けられたっていう事になる」

「頼んでないから」

「そうだね。見捨てても良かった。正直君達なんてどうでもいいんだ、私たちは」

 勿論、『世界の欠片』が生徒も含むかどうかはまだはっきりしてないから、その意味ではどうでもよくない。

 全員集めないといけないんだから、当然のように助けないといけなかった訳なんだけど、そこは伏せておいてもいいだろう。

「でも、そこは単純な善意で君達を助けた。これは分かる?」

「うん。ありがとう!」

 あ、太ましい子がにぱー、っと笑ってお礼を言ってくれた。

 な、なんか毒気抜かれるね……。

「アンタは黙ってなよ!」

 そして数名に睨まれて隣の子に小突かれた。なんか可哀相。

「あのさ、だから何?恩着せてなんかさせるの?」

「それもいいね。幾らでもあるよ。なんなら臓器引っ張り出して人々の役に立てる?」

 試しにそう言ってみると、明らかに青ざめたり身構えたりした。

「でもそうするつもりは無い」

 臓器が世界の欠片に含まれるかも知れないとかそこら辺は以下略。

 そもそもこの世界に臓器移植とかの技術があるかも分からないね。

「これから安全な場所へ連れて行ってあげる。あなた達の友達が居るかもしれないし、そうでなくても気の合う人は居るでしょう。そこで暮らしていけるだけの生活用品とかも用意してあげるね」

「……は?」

「武器や防具が欲しいならそれも用意してもいいよ。ちょっと危険だけど、ドレス着て社交界に出たいなら貴族位を買ってもいいよ。家庭科部用に一軒新しくお家建ててもいいよ」

 ……ここら辺まで言ってもなんとなくお分かりいただけなかったらしいのでしょうがない。

「今言った事、私達は片手間でできるんだよね。正直、恩に着せても、私達にとって利になることをあなた達ができるとは思えない。だから恩は返さなくていいよ。健康で死なないでいてくれればそれでもういいからさ」

 ……さて。じゃあこの人たち、さっさと運搬しちゃおうかね。

 生活用品は作り置きがあるから、それでいいとして……とか、ちょっと考えた所で。

 ……なんか、空の彼方からばさばさ、と大きな羽音と……キェエエエエエ!みたいな鳴き声が、聞こえてきたのであった。

「な、なにあれぇっ!?」

「うん、モンスターだね!」

 ふりさけ見れば、春日なる、三笠の山……じゃなくて、鉱山にいでしでかい鳥3羽っ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 中ほどに「念の為、ローズマリーさん状態のまま行こうね。」とありますが、いつローズマリーさんに変装したのか描かれてないような気がします
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ