138話
寝て起きました。おはようございます。
今日は家庭科部の人達買いに行かないとなあ……。
しかし、買っちゃったら今度はまた大人しい子たちと外来種女子との抗争が悪化しそうである。
この2種は別々にした方がいいかもしれない。体育館組と情報室組に分けるとかして。
さて、朝ごはんはご飯に味噌汁漬物に焼き魚な定番メニューです。
漬物は蕪の浅漬け。昨日の蕪の一部だね。
焼き魚は切り身を塩で焼きますよ。
個人的には味醂漬けとか粕漬けも好きなんだけども、味醂付けとかってどうしてもちょっと脂が良く乗った鯖とか鰈とかみたいなお魚の方が美味しいもんで、朝っぱらからそれもどうなの?ということで、淡白で脂っ気少なめな鮭みたいなかんじの白身魚の塩焼きであります。
……焼いてると匂いに釣られて皆さん起きてくるのが焼き物のいい所だね。うん。
朝ごはん終わったらお金をちょっと余分に持って、全員でククルツの町に移動する。
そして、穂村君と待ち合わせた場所で待機。
そこで待たされる事15分程度。
遅れてやってきた穂村君ご一行。
……相変わらずのテンションです。朝っぱらからお元気そうで何より。そして我々置いてけぼりである。
「はよーっす!早速鉱山行っちゃう?」
「いや、我々はいかない。はいお金」
穂村君にお金が入った袋を渡すと、当然困惑された。
「はあ!?え、なんで!?なんで!?え、いかないの!?」
……忘れちゃいけない。家庭科部には過去に化学部に居たものの辞めていった女子達が居るのである。
間違いなくその子たちは外来種なので、つまり現在進行形で鉱山に居るわけである。
我々がうっかりその子たち買いに行ってみ?「奴隷として私達を買うなんてどういうつもり!?私達に乱暴するつもりでしょう!」とか、無駄に色々ささくれ立たされるのが目に見えるようだぜ。別にエロ同人みたいなことしないんだけど、それを分かってもらうために図るコミニュケーションが、なんか遠い。
というか、私達じゃなくても疑心暗鬼状態になってる人には何やっても無駄だろうし、この際毒を以て毒を、のノリで穂村君に任せちゃった方がいいと判断した。
穂村君なら多分疑心暗鬼状態の人の毒気を抜くレベルの毒素持ってるんじゃないかな。あ、いや、毒っていうか、なんていうか、墨の上にペンキで上塗り、みたいな。そういう。
「私達行っても話こじれるだけだから」
「えー!?でもよー、結局タクシーは舞戸さんっしょ?」
ああ、うん。そうね。
体育館組の所が今の所一番安全だと思うんだけど、となればそこに『転移』できる私たちがどうせ関わらなきゃいけないんだよね。うん。
「いや、全身甲冑の鳥海がやってくれるはずだからそれで」
「えー……」
あ、すっごく嫌そうな顔された!お前だって兜被ればだれか分かんないじゃん!何ならNPCのふりでもすればいいじゃん!
「……え、何、なんか家庭科部の子たち嫌いだったりするん?」
「嫌いっていうか……関わらないほうがお互い幸せっていうか……」
人間、馬の合わない人がいたら最も賢い選択肢は関わらないという事です。
私は学習した。
「えー……じゃー、俺達で行ってきちゃうけど、いい?」
「是非お願いします」
と、いうことで、家庭科部の人達を買うのは穂村君に任せました。めでたしめでたし。
……とも、いかなかった。
角三君の装備を探しにみんなでお店を冷かしていた所、穂村君から『交信』があった。
『ごめーん!もしかしてそっちの人ってこの世界の文字書けたりするーっ!?』
……うん。
「書けるよ。どうしたの?」
『契約書書かなきゃいけないんだけどこっちだれもこの世界の文字読めないし書けないんだわー』
……OH。
というか、それで今までよく生活できてたなおい!その分それを補うコミニュケーション能力があったんだろうけど!
『だから誰か代わりに書いて……?マジお願い』
マジお願いされちまったよ、どうするよ。
「じゃあ誰か派遣するから、ちょっと待ってて」
一旦『交信』を切って、こっちで緊急会議である。
「穂村君達は文字が書けないのに契約書を書かないといけないらしい」
「この町では奴隷のやり取りに契約書があるんですか。良心的ですね」
社長よ、違う。反応すべきはそこじゃない。
「ということで誰かが行かないといけないんだけど」
……勿論、候補は私と鳥海である。
顔が隠せるというだけでこの2人になるのは非常に納得がいかないんだけど……しょうがあるまい。
「いっそ2人で行ってくる?俺がいれば武力は十分だけど、舞戸さんいた方が『眠り繭』とかできて便利じゃない?」
うん、そうね……。
私は個人的には、『人が8人なのに椅子が5個しか無い時には全員立ってましょう』理論は好きじゃないというか、つまり不幸は皆に等しく在るべきじゃなく、最少に留めるべきだと思うんだけど、この場合は2人になることで状況の改善が見込めるのでノーカンだということにしよう。
「じゃあ文字書いて帰ってくる……」
「行ってくる……」
君達は角三君の剣を探すといいさ。うん……あ、ついでにル○バももし見つけたら買っておいて欲しい……。
ということでやって参りました鉱山前。
そこにあったのは不思議な光景でした。
うん、良くも悪くも予想外。
頭抱える穂村君達。お金貰っちゃったはいいけどお客さんが文字書けなくて困ってる鉱山の人。そして何やら全く以前の生気が無い女子7人。
……とりあえず、文字書いてこよう。
「すみません。ホムラさん。代筆に参りました」
穂村君をつつきつつ、別人ですよ、とアピールすると、そこは了承してくれたらしい。
うん。君の機転が割と利いてよかったよ。
文字書ける代筆人が来た、ということで鉱山の人がほっとしたのが分かった。すみませんねえ、こちとら異世界人なもんで。
「代筆するので口頭でお願いします」
穂村君に文章を読んで聞かせて、書く内容を言ってもらって私が書く。
うん。そうやっている内に何とか書類を埋め終わった。
よし。
「では私達はこれで」
「いやいやいやいやいやいや、ちょっと待ってよー」
書くもん書いたんで帰ろうと思ったら穂村君に捕まった。
「あのさ、あの子たちちょっと変じゃない?」
「変ですねえ」
もうちょっと生気にあふれるというか、ギラギラしてた気がする。
「……なんかさ、鉱山にさ、お化け?が出たらしいんだよ」
……ねえ、その話、長くなる?
「……という事で、鉱山のお化けっていうのは人の心を盗っていっちゃうんだってさ」
最後のこの一文だけでよかっただろ!というかんじの穂村君の有難い長い長いお話を聞いた。
つまり、この家庭科部外来種の7人は、鉱山にでた『お化け』とやらに心を盗られた、んだそうだ。
何それ、恋でもしたの?と思ったら、マジでこう……意識の凹凸というか、感情というか、そういうものがすっぽり抜け落ちちゃってるんだそうだ。
……これは、これは……人間として、まずくないか?
「だからさ、俺としてはこの子たちの心を盗り返してあげたいわけよ」
うん、まあ、そうなるわな。それは私としても同感だ。例えそのせいでこの子たちが非常にうっとおしい事になったとしても。
「だからお願い!そっちでこの子たち頼めない!?」
……解せぬ!
穂村君は、そもそもこの町に、この子たちを助けに来たわけじゃない。
穂村君の目的は今も昔も「自分の友達を助けて元の世界に帰りたい」なのである。あくまで、通りがかっちゃったら見捨てておけない、っていうだけで。
そして、穂村君の友達、というのは、現在植物人間状態みたいなもんらしい。
だから、穂村君はそれを治すために錬金術が発達した町・王都アーギスに行って、さっさとその手段を見つけたいんだそうだ。
その気持ちは非常に分かる。
そして、この子たちの問題の解決を私たちがやる事に、特に問題は無い。
つまり、暇なのだ。私達は。
……いや、できれば私達もアーギスに行って命を錬金する方法でもあるならそれを探して合唱部の人達を戻してあげたい。
けど、合唱部の人達と家庭科部の人達って、結局は私達にとってみれば優先順位は同じ位であり。
その片方、命云々の方を穂村君が担当してくれるなら、目下の所の問題である家庭科部の人達の心?の救出とやらに私たちが駆り出されることも非常に合理的っちゃ合理的なのだ。
……うん、まあ、つまり。
私たちは、鉱山に潜ることになりました。
鉱山のお化け、というのは、古くからこの町にある伝説みたいなものの1つらしい。
つまり、この鉱山のどこかにはお化けの巣があって、普段お化けはそこから出ないが、こちらがそのお化けの巣に入ってしまうと、心を盗られてしまうのだ、みたいな。
結局はこれ、「あんまり欲かいて深く潜りすぎるなよ」っていう教訓みたいなものらしいんだけど、実際にお化けの仕業じゃないか、みたいな現象が過去に数度起きてるらしい。
……この世界はファンタジックだから、マジでお化けがいても私は驚かないけどさ。
多分、お化け、っていうのの正体は、お化けじゃない気がするんだよなあ……。
こうなっちゃったらしょうがないんで、さっき書いたばかりの書類を書き換えて、7人の女子達の所有権を私に移した。
穂村君達は今日付けでアーギスに旅立つそうだ。
となると、この子たちの面倒見るのは私達という事になり、その場合所有権が穂村君にあるのは非常に面倒だったのだ。
……こういうのは書類書く前に言って頂きたいもんである。
「大丈夫ですか」
7人の内の1人に声を掛けるけど、虚ろな目でこちらを見るばかりである。
「ちょっと全員立ってください」
言うと、7人全員、すっ、と立ち上がった。
「はい、行進」
合図すると、示した方向に向かって歩く。
「ぜんたーい、止まれ」
また合図すると止まる
……こりゃ、本格的にやばいね。廃人じゃないですか。何も考えて無いじゃないですか。
……いや、さ。実は、この人たちの心とやらが盗まれた状態のまま元の世界に帰すことも考えたんだよ。ほんの少しばかり。
私たちは現状、それができる立場にあって、それができる能力があるわけだから。
でも良くないね。やっぱり。その方向性がどういうものであれ、元に戻ることは全く思考できないぼんやり廃人よりはマシなはずである。
人間って感じて思考してなんぼだと思うんだ。
それが怒りとか憎しみとか、やたらとマイナスな感情だったとしても、何も感じない……というか、この場合は感じてないんだか、感じたことが表に出てこないんだか分からないんだけど、伝わらないものは外部の多数にとって無いも同然なんだから同一視させてもらうとして、まあ、何も感じないよりは、良いと思うんだよね。うん。
……いや、もしかしたら、この人たちが「何も考えたり感じたりしたくないでござる!」って思ってるかもしれないけど。
さっきの言い方すると、私達はこの人たちを元に戻す事ができる立場にあるし、その能力もあるのだから。
嫌でも戻す。異論は認めない。
「……という事を引き受けてきてしまいました」
百聞は一見に如かずなので、皆さんの所に戻る時に7人連れて行ったら一発で分かってくれた。
うん。一目で分かるこの異常性。
分かりやすくてよろしゅうおます。
「……引き受けてしまったなら仕方ないな。こっちも買い物は終わった。その鉱山とやらに行ってみるか」
厄介ごと持ち込んですまんね。また迷惑をかけます。ごめん。
……想像とは厄介ごとの方向性が違ったけどさ。




