137話
色々と端折られてる穂村君の話を聞きだそうとしたところで、買い物が終わったらしい鳥海と鈴本と針生が合流した。……社長と加鳥と刈谷は……まあ、うん。ファンタジックお買いものだから時間かかるわな。うん。
とりあえず今来た人たちに今までのあらすじというものをざっと話す。
「……部員、と言うのは、家庭科部の、か」
話すと、鈴本を筆頭になんとなく皆さん渋面である。
「え、よく分かったね。すげーわー」
鈴本じゃなくても分かるわ!1F北東にあったのは家庭科関係の教室だった。だから、この町スタートの生徒っていうのはまず間違いなくそれ関係だろうと思ったよ。うん。
「家庭科部の子たちの中でもさー、なんか派閥?とかあったみたいじゃん」
……あの部は、かなり特殊な部だったからなあ……。
あの部、元々そういうのが好きで入った子と、他の部に居たけど辞めて、でも『帰宅部』の肩書が嫌で入った子がいたんだ。
家庭科部は活動日もそんなに多くなかったし、女子力とかいう謎パワーの上昇が見込めると思うらしく、他の部を辞めた女子の流れ着く場所としては結構いい場所だったらしい。
しかし……こう……ほら、その2種類ってさ、相成れないじゃない。
で、相成れないなら相成れないなりにやっていく方法って割とあると思うんだけど、それをせず、真っ向から外来種組が在来種組の価値観を潰しにかかったというか……もういいや、やめよう。不毛だ。不毛すぎる。
つまりあの部は、大人しくて真面目な女の子たちがそうでもない女の子たちに虐げられる部だった……と言うとこれはまた語弊がある気がするけど、大体そんなかんじだったはずである。
在来種はほら、大人しいから、一方的にやられっぱなしてしまいがちなんだよ。多分。
……つまり、今回の件に関しては、おそらく外来種女子が、自分たちが生きていく資金として、大人しい在来種を奴隷として売ったのだろう、と、推測できたわけだったんだけども。
……違った。
全く以って、違った!
「大人しくて目立たなかったような女の子がさー、割と目立つってゆーかそーいう女子をさー、売っちゃったらしいんだよね。マジ女子って怖えなーって思うわ」
……まさかの、逆!窮鼠猫を噛み殺すっ!
……穂村君の話を、ざっとまとめるとこんなかんじである。
ここからスタートだった家庭科部の女子達は、流石にこの状況で派閥やってる訳にもいかず、休戦して町の探索なんぞやってみたりしていた模様。
しかし、在来種の女子の1人が早速、この町というかこの世界に奴隷制度があることに気付き、このままでは自分たちが売られる、と危惧したらしい。
まあ、外来種には前科があったから、これはしょうがないと思う。
しかしまあ、この後が思い切ったなあ、と思うんだけど……彼女たちは、やられる前にやれ、の精神で、外来種女子達を……奴隷として採掘業者に売ったらしい。
……と、言う話を穂村語で語ってくれた。
穂村君はこの話をその在来種女子達と採掘業者から聞いて状況とか見て埋めていったんだとか。
割と凄い。
「俺としてはさ?人身売買とか許せないじゃん?だから実力行使で助けちゃおうかとか思ったんだけどさー、一応、この世界って人身売買がちゃんと仕組みになっててさー、業者の人も金出して人買った訳だしさー、それ実力行使で連れ出したら俺窃盗犯じゃん。で諦めてバイトしてた」
穂村君は何も考えていないようで色々考えてる所が凄いと思うよ。そういうところは素直に尊敬できる。
「とりあえずそれは金で解決できそうだな。舞戸、今いくら持ってる」
「実験室展開すれば白金貨200枚位はあるかな」
なので人7人は買い戻せるよ。
「……俺さー、バイトしてて?んでー、日給銅貨35枚なんだけど」
それはお疲れ様でした。
……「だって金の事で相談するとかかっこわりいじゃん?」とかいう理由で連絡しねえ奴が悪い!
とりあえずそこの喫茶店でのんびりと、他の人の集合を待つ。
因みに、穂村君達の仲間はまだバイト中なんだそうだ。
割と女子2人が良い稼ぎなんだそうで、そこがまた穂村君的には悔しい所らしい。
「お待たせしました」
……。そして、喫茶店の表が騒がしいなあと思って窓の外見てみたら、なんか、あった。
「……それ、何?」
「うんとね、結構面白いパーツになりそうな鉱石が安く沢山売ってて。買い込んだんだけど今度は運べなくなっちゃって、お店の人に庭借りて急ごしらえで作ったんだ」
「ほー。……車を?」
そこにあったのは車……というにはちょっとちゃちな造りだけど、さっきの挙動を見る限りでは普通に動くらしい。
馬車とか船しかないこの世界で車……というか、自力で動くでかい台車みたいなのが町走ってたら、そりゃ目立つわ!
「俺はそれを見つけて相乗りしてきました」
「俺は社長に捕まって乗せられちゃったんですよ……」
まあ、これだけ目立てば見つけるのも楽でしょうよ。
「……普通に、私か鳥海を呼ぼうとは考えなかったのかね、加鳥君」
そしたら『転移』で一発だったのよ?
「ええと、ごめん、だって浪漫じゃないかあ」
……分からんでもないけど!分からんでもないけど!
そんな悲しげな顔でこっちを見るな!やめろ!罪悪感が生じてくるだろ!やめろ!悪かったから!私が悪かったから!
そろそろ日が沈むので、家庭科部の人達を買いに行くのは明日になった。
ということで、穂村君は穂村君達の住んでる場所へ、私たちは実験室に戻ることになりました。
……とてもじゃないが車もどきがいきなり消えたらアレなので、私達の『転移』は一旦郊外の方まで出てから、である。
2F北東に移動して、ついでに角三君もタクシーして連れてきたら晩御飯食べよう。
蕪だ蕪だ。今日は蕪だ。
私は蕪を煮込んでとろとろになった時の食感と甘みが大好きなのである。
勿論浅漬けとかにしても好き。ベーコンとかと一緒に焼いても美味しい。でもやっぱり煮込んだ時の美味しさは格別なのである。
ちなみに、茄子と葱と蕪が私的3大とろうま野菜である。異論は認める。
……ということで、本日はじっくりことこと煮込んだ蕪と鶏肉のポトフと茄子のグラタンとサラダであります。……パンにしようか迷ったけどご飯で。ほら、お腹に溜まるじゃない、ご飯……。
ご飯食べつつ、全員のお買いものの成果を聞いてみた。
「僕はパーツになりそうな」
「あ、加鳥はいいや」
こいつはえらい量を買い込んだのを既に見てるし、それが何のパーツになるのかを聞いても理解できないことは間違いないので別にいいです。
「俺は薬品関係で鉱石を少しと、杖ですね」
そう言って社長が見せてくれた杖は、ふむ……あれだ。アメトリン。
黄水晶と紫水晶が混ざったような、琥珀色に近いような黄色と妖しい紫色が混在した石が付いた黒い短めの杖だ。
……遂にこいつは土魔法だけでなく毒魔法も自分の属性だと認めたらしい。うん、そんな気はした。
「俺はメイス買おうと思ったんですけど、職業変わっちゃって」
「は!?」
刈谷のお買いものについて聞こうとしたら突然爆弾落としてきた。
「『聖騎士』です」
うわあ……なんか上級職っぽいのになりやがって……。遂にこいつは回復専門じゃなくなっちゃったのか。何か思う所でもあったのか。……いや、例え『聖騎士』になったとしても他の面子の都合上回復役にされるんだろうけど。
「なので、ええと、剣を買いました。これです」
細身の十字を模した剣だ。その装飾とかから考えると、これが杖の代わりにもなるんだろうなあ。
「鎧は今までので大丈夫だと思うんで、必要になったらまた、ということで。すみません、なんか」
……こいつもお金を使う事に罪悪感を感じるタイプだったなあ、そういえば。
「俺は飛び道具いっぱい買っちゃったから刈谷もあんまり気にしなくていいんじゃない?」
対照的に針生はそこら辺にあんまり頓着無いね。うん、良いと思うよ。
買ったという飛び道具とか、一応メインウエポンにあたるのであろう短刀とか、そういうものをばらばらと見せてくれた。材質も造りもバラバラだけど、それぞれに中々に業物っぽいね。
「俺は刀見たんだが、良いのが無かった。防具も試着したら重くてな。という事で今回は見送った」
そして鈴本はまさかのお買いもの無し。
「俺は一式買っちゃったわー。軽くて丈夫でいいかんじ」
逆に鳥海は装備総とっかえ。とっかえたんだけど……相変わらずのフルプレート一式に大ぶりのハルバードである。
ただ、色合いは結構変わった。魔王軍装備は真っ黒だったし、その前は普通に銀色だったんだけど、今回は赤みがかった不思議な金属でできた鎧だね。
なんかきっとファンタジー金属なんだろうなあ。うん。
軽くて、って事だし、試しに私も持ちあげさせてもら……。
……え?軽いの?これ、軽いの?
「あはは、舞戸さんに持ち上がるわけないじゃん」
針生がけらけら笑いやがったんで針生にやらせてみると……。
「うおわっ!……え?なにこれ?え?」
……持ち上がらなかった。
とりあえず全員で交代しながら持ち上げようとしたところ、辛うじて鈴本が持ちあげられて、辛うじて角三君が振れた。
「……鳥海は化け物か」
「んー?いや、『ガーディアン』」
職業変わってないのにこれかー、怖いなー、怖いなー。
「僕は杖買った。以上」
羽ヶ崎君何にもそれ以上特に言わなかったので、私から「触ると手の皮膚はがれるぜ」という事を伝えておいた。うん、事故が起きるといかんからさ。
ということで全員分のお買いもの結果について聞いた所で、角三君が羨ましがったので角三君は明日の朝行ってお買いものという事になった。
尚、奈落探索は順調に何もないそうな。なんかごめん。
さて、明日は家庭科部の人達を買いに行く作業ですね……あー……なんとなく気が重い。絶対まためんどくさいぞ、これ。