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11話

 ということでご飯です。

 ミネストローネ風のスープと牡丹肉の焼き物と、久々の芋です。

 麦を間に挟んだら芋もまた美味しく感じるようになった。飽きって怖いね!


「予定通り明日は準備日にする。舞戸は必要なものとかあるか?」

 できれば私は私に必要なものじゃなくて皆さんに必要なものを準備してほしいんですがねえ……。

「大量のセルロースと大量のハーブ類、あと食料がもう少し」

 言うだけ無駄だと思うので、注文を付けさせていただく。

 そこら辺なら割とすぐに準備できちゃうらしいので、午前中で何とかしてもらう事にした。

 午後は午後で重要な予定があるのです。




 夜に昨日できなかった毛皮の処理をする。いつも通りなので割愛。

 それから、肉の乾燥具合を見て適当に位置をずらしたりなんだりしておく。

 それからジャガイモからでんぷんを取るべく摩り下ろしておく。

 くそう、ちゃんとしたおろし金が欲しいぜ……。




 ジャガイモをおろし尽くして絞り作業に入った辺りで、ドアがノックされた。

 あ、因みに、化学講義室が手に入ってから、つまり加鳥と針生が見つかってからは、私以外の人は化学講義室で寝ている。

 ので、別にノックされてもおかしくない状況なのであしからず。決してお化けとかの仕業ではありません。

「おお迷える子羊よ、こんな夜更けに我が実験室にどのような御用かな?」

「ああちょっと冒険の書に記録を……じゃなくて、まだ寝ないのか?」

 来訪者は鈴本でした。それにしてもノリのいいことです。

「ジャガイモ絞ったら寝るよ。そちらこそどしたの」

「いや、トイレ行って帰ってきたら物音が聞こえたから、様子を見に」

 そりゃ、マメなこって。

「ええと、何、その、お前寝る前仕事してるのか」

「いっつもではないけどね、ちょっと時間が勿体ないので」

 放置しておかないといけない時間が長い奴は寝る前にやっておくに限るよね。

「手伝うか?」

「いや、いいや。これは私の仕事だから。鈴本は肉体労働なんだからはよ寝なさい」

 追い払うように手を振ってみるけれど、一向に帰る気配が無い。

「はよ寝なさい、はよ」

「眠気飛んだ。寝れない」

 そんなガキみたいな事言ってないで寝なさい、いい子だから!

 私はさっさと芋絞ってでんぷん取る準備をしたいんだよっ!

「眠くなったら帰る」

 そう言って手近な椅子に座り込みやがった。

 ……気にせずどうぞ、っていう事だろう。なんとなく落ち着かないけど、しょうがない、芋を絞る作業を開始。

 布巾に包んで雑巾絞りの要領で絞っていく。

 搾り汁はボウルに入れる。

 一度に絞れる量は決まってるから、分割作業で延々と以下繰り返し。く、くそう、眠い。


「お前、凄いよな」

 え、今何か言いました?藪から棒になんです?

「俺だったら気が狂うな、と思って」

 でんぷんを取るだけの簡単な作業が?

 いやいや、流石にそれは……延々とやってたら、確かに気が狂うかもしれない。

 ほら、良くある話じゃないか、水を容器Aから容器Bに延々と移して戻すだけの作業をやり続けてると気が狂う、みたいな。

「一人だけずっと室内に閉じ込められてるようなもんだろ、お前」

 え、何そっち?

「もともと引きこもり気質だからそれは全然苦になりませぬが」

 むしろお家大好き。更に言えばお布団大好き。一日中室内?むしろご褒美ですがなにか?

「そっちもだけど、そうじゃなくて。戦闘力が無いだろ、っていう意味。辛く無いか?」

 ああそっち?

 それはとっくに諦めがついたけど……ついたけど、うん、まあ、悔しくはあるよね。

 けど、気が狂うほどではないなあ。

 というか、私の気が狂ってたら外に出て、それこそ気が狂いそうになるような戦闘三昧の皆さんに申し訳がなさすぎる。

「外に出てる皆さんには申し訳ないけど、何の因果かこうなっちゃったんだからしょうがないな、って思ってるよ。私は私にできることをするしかないよな、とも」

「そうか、やっぱりお前、凄いよ。というか、申し訳なく思う必要なんてないだろ。お前は『メイド』の仕事してるわけだし、俺達は俺達でそれぞれの職業を全うしてるだけなんだから」

 そう言って頂けると大変救われますな。けど、やっぱり一人だけのうのうと暮らしてる感とか、足引っ張ってる感とかが否めないんだよなあ。


「昨日の話し合いの時、補正がかかってるっていう話、しただろ」

 ああうん、疲れにくい、怪我しにくい、力強い、ってやつですな。

「他にもいくつかあって、痛みを感じにくい、とかいうのもある」

 へえ。まあそうだよね、そうじゃなきゃモンスターなんかとまともに戦えるわけが無い。

「だから、俺達の怪我って、お前が想像してるよりはずっと軽いんだよ。脇腹抉られてたって、自力で歩いて帰ってきて、虚勢張れば何もない振りできるんだから」

 ああ、そうか、そういえばそうだ。普通だったら脇腹抉れてたら自力じゃ歩けないし、虚勢張るどころじゃないね。

「けど、お前はそういうの無いだろ」

「無いね!」

「だから、いつかなんかふとした拍子に、自分たちにかかってる補正の事を忘れてお前を危険な目に遭わせそうで怖い」

 ……そ、そりゃ、なんか、ごめん。

 しかし、これは何とも……私が頑張って皆さんの補正に代わるスキルを得られればいいんですが、メイドとしては厳しいかもしれないなあ。


「だから、今回はお前ひとり置いてけぼりにすることになったけど、悪いなと思ってる。できるだけ早く帰ってこられるようにするから。すまんな」

「それこそそんなこと思う必要ないでしょうが。君たちは君たちの仕事を全うする。私は『メイド』として職業を全うする。それだけのことでしょう?」

 君が自分で言った事でしょうが、と笑ってやると、それもそうだな、と鈴本は苦笑した。


 そうこうしている内に作業が終了した。あとはほっといて上澄みを何度か交換すればでんぷんがとれる。

「ね、そろそろ君、眠くならない?」

「ああ、そうだな、眠くなってきた」

 時計は丁度日付が変わった頃を指している。こいつ、明日大丈夫だろうか?

「邪魔したな」

「んにゃ。なんか、ありがとね」

 お礼を言ったら、何のことやら、とか言われてしまったけど、やっぱり目的はそういう事だったんだろうなあ。

 よっぽど私は傍から見ていて元気が無かったのか。それとも、単に鈴本が心配性なのか。

 何にしても、あんまり気にするなよ、って事なんだろうな。うん、ありがたいね。

 つくづく、私は良い友達に恵まれたと思うよ。

 ……明日からも頑張りましょう。それではおやすみなさい。




 はい、起床。

 今日はお弁当じゃなくてここでお昼ご飯の予定なので、のんびり起床。

 さて、のんびり朝ごはん作るよ!




 という事でまあ、いつも通り朝ごはん食べ終わったら、私以外の皆さんは、食料と木材とハーブ類の採集に出かけた。

 私はというと、昨日からカーテンになっているこの肉どもを燻製にしてやる作業です。

 そういえば、昨日の夕食後、針生に木材ででかい燻煙器を作ってもらったので、効率が上がった。

 というか、この量を一斗缶でやってたら日が暮れても終わらんよ……。

 なんとか全部肉をセットして、燻煙をかけ始めたら、でんぷんの作業と並行しつつ、残っていた木材を全て繊維に代えた。

 全部紡いで糸にして、織機でガタガタやり始めた辺りで皆さんが帰ってきたのでお昼ご飯。

 お昼ご飯を作っておかなかったのにはわけがあります。

 そうです。この生活力の希薄な皆さんに、ある程度お料理を教えておかないといかんと思ったからです。




「燻製にしてある肉は塩味薄い奴は兎も角、濃い奴はそのまま食べられるもんじゃないので、こうやって刻んで煮てくださいね。あとは野菜とか適当に入れて煮ておけばとりあえず食えるから!」

 とりあえず説明が必要であろうと思われる燻製肉の調理について説明。

 後はひたすら野菜の剥き方とか、このぐらいに切らないと火が通りにくいぞ、とか、そういうのを延々と説明。

 真面目に聞いてたのはまあ、半分ぐらいでありました。

 具体的には社長と針生と加鳥は割と真面目に聞いてるんだけど、残りについては多分、話の半分位しか頭に残ってないと思う。

 どうせ料理やるのも真面目な人の担当になるだろうから、うん、問題ない。




 お昼ご飯の後は、おズボンの裾上げです。

 こればっかりは実際に着用してもらわないとできないので、後回しになっちゃってたんだよね。

「え、いつの間に縫ったの、こんなの」

「昨日」

 ほえー、と、針生がおズボン見ながら目を円くしている。

 なんとなく嬉しいね。うん。

「スキル?」

「スキル!」

 というか、スキルでも無かったら流石にこれは無理だよ。


 とりあえず全員分裾上げの位地が決まったのであとは夜なべでもいいや。

 皆さんはまた外に出て、食料を採集するそうです。

 私はその間にまた布をガタガタ織りまくる。

 あ、そうそう、実験がてら、昨日のワンピースに着替えて織ったら、速度が増した。

 やっぱりこれ、MPが増えるか、MPの消費が抑えられるか、MPの回復量が上がってるか、みたいな印象だなあ。

 とりあえずこれを着ていればスキルの発動が楽になると分かったので、今後はこれで作業しましょうかね。


 さて、ガタガタ織りまくったら、それをでっかい袋状に縫う。

 ほぼ直線なのですごく速い。スキル様様。

 縫えたら、午前中に採集してきてもらった木材をひたすら繊維に変える。

 ワンピース効果か、昨日よりもMP切れが遅い。

 MPが切れたらミントをもっさもっさ食べながらまた繊維を作る。

 ひたすら作る。とにかく作る。

 アホみたいに繊維ができたら、それをさっきの袋に詰める。

 ふかふかになったら袋の口を閉じて、とりあえず完成。はい、お布団です。

 なんとか全員分作れたのでよかった。

 もし今後、羽毛とか手に入ったら是非に羽毛布団にしたい。




 あとは燻煙かけてた肉を取り込んで、夕食の支度をしていたら皆さんが帰還。

 夕食と相成りました。

 夕食はいつもと変わり映えしないので省略。

 食後、皆さんにお布団を発表。

「こ、これはっ!」

「伝説のっ!」

「剣!」

「……剣?」

「エクスカリバー!……ってのはいいけど、どうしたのこれ、布団?」

「うん、お布団」

 残念、伝説では無い。剣でも無い。エクスカリバーでは尚更無い。

 皆さんノリがいいからね。うっかりすると布団がエクスカリバーにされてしまう。

 わーい、とばかりに針生が布団ダイビングして、ふかふかお布団に包まってごろごろし出した。

「ただしこれ、羽毛じゃないからさ。余裕があったらお日様に当てて干してあげてね。少なくとも、万年床にはしないでね」

「分かった。できるだけ早く羽毛を入手する」

 そんなにお前は布団を干すのが面倒なのか。


 ……しかし、今まで作ったものの中で一番反応が良かったね。

 そうかそうか、そんなに君たち布団が好きかね。私も好きだよ。




 その後、暫く掃除できなくなるので、化学講義室を『お掃除』した後、皆さんは就寝。私は裾上げ。

 とは言っても所詮裾上げだけなので、そんなに時間はかからない。

 日付が変わるまでまだ十分あるし、何とも落ち着かないので、予備の服を作っておくことにした。

 化学部にはあと2人、仲間が居るのだ。

 探索先でその2人を見つけたら、きっと着替えが欲しいに違いない。

 ……いや、その2人が私よりよっぽどメイドしてたりしたらもっと良い物手に入れてるかもしれないけどさ、分からないからさ。うん。

 落ち着かない時に縫物って、割といいね。没頭できるから余計なことを考えずに済むし。




 という事で、サイズ大き目に2着、簡単な服を作り終わって午前1時。明日起きられないという可能性を考慮して、明日のお弁当と朝ごはんの仕込みだけやっておいて、就寝。




 そして朝です。

 あんまり眠れなかったので、結局割と早く起きてしまった。

 起きちゃったものはしょうがないので、朝ごはんとお弁当を作って待つことに。

 あと、荷造りもしておくことにした。

 食料とか、ある程度は化学講義室にもう入れてあるんだけど……

 ああ、その前に。教室を宝石に変えて運ぶとき、その時教室の中にあった物は全て、その時の状態で保管されるのだ。

 ただし、人間だけは収納できずに強制排出される。ここらも実験済み。

 というか、人間も収納できるんだったら私はその方法で付いていきますがな。

 なので、お布団も食料も着替えも大体講義室に収納済み。

 いやー、流石異世界クオリティ、便利ですなあ。

 けど、確かまだ肉と調味料を収納していなかった気がするので、燻製肉を布袋に詰めたり、調味料の類、調理器具の類を用意しておいたり、といった作業を行った。

 何か動いてないと落ち着かない。


 皆さんが起きてきたのでハタキではたいて、朝ごはん。

 ……下手すると、これが皆で食べる最後のごはんになるのか。

 いや、そんなことにはならないと強く信じているけど。

 ということで、なんとなく、しんみりした、緊張感あふれる朝ごはんになりました。




 ご飯が終わって、荷造りも終わってしまい、皆さんの旅立ちの時が来てしまった。

「多分3日ぐらいで帰ってこれると思う」

「うん。気を付けてね」

「外、出ないでよね」

「うん」

「ちゃんと飯、食って下さいね」

「うん。君らもね」

「……ドアに鍵、掛け忘れないで」

「うん」

「ちゃんと睡眠とってね?」

「うん……あのさ」

「寝る前にはちゃんとトイレに行」

「あの、いつまでやるの?これ」

 という茶番も済ませて、元気いっぱいお見送り致しました。




 こうして、私の長いお留守番が始まった。


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[一言] みんないい人すぎるよォ(´;ω;`) ほっこりしますね✨
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