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132話

 さて、ケトラミライディングのじゃんけんに負けた角三君が行ってしまった所で、忘れないうちに社長に聞いておこう。

「ね、社長、『碧空の種』って、本来何に使う物なの?」

「『碧空の種』、ですか。アレはかなり特殊、というか、変な宝石なんですよ。やってみた方が早いですね」

 社長は展開した実験室にちょっと入ってから、『碧空の種』を1粒とって帰ってきた。

「見ていてください」

 そして、それを地面に埋めると。

「うわ」

 一瞬でそこから青い花が芽吹き、咲いて、そして、一瞬で枯れていった。

 ……その後に残ったのは、7、8粒の『碧空の種』である。

「……増えた……!」

「そうなんです。『碧空の種』は埋めて魔力を与えれば増える宝石なんです。だから一袋をタダで貰ってしまっても宝石店が潰れない程度には安価な宝石なんですよ」

 そりゃそうだね、増えるんだったら、むしろお値段つかなくてもおかしくないね。

「で、他の用途は」

「……神殿はそれを秘匿している、という点や、神殿が『碧空の種』を使っている、という情報、勇者諸君から出た話等から推測するに、『碧空の種』を使うと、元凶が怪物になって、それを倒すと元凶を消せる、のではないでしょうかね」

 ……ほー。

 という事は、神殿が持ってる『元凶を消す方法』は『碧空の種』って事になるのか。

 ……そっかあ。まあ、元凶消す人なんて勇者しかいないし、それ以外の人にとって『碧空の種』は只の増える宝石でしかないことに変わりは無いけども。

「ですから、これを神殿で増やしているというなら、それはそれで納得できますね」

 ふーん、成程。

 つまり、これを何代かの大司祭が持って帰って初めて、元凶が消せるようになった、って事か。

 という事は、その代N代大司祭が奈落へ行ったのは、元凶を消す手段を探すためだった、とも考えられるね。




 しばらくしたら角三君からどことなく嬉しそうな報告があった。

「石油庫っぽいの、見つけた。あと、俺、『動揺病耐性』ついた」

 ……ついにケトラミライディング、スキル化か!

 とりあえず角三君の所に『転移』して合流する。

「もう酔わない」

「……そうか、それは良かったな」

 なんかちょっと自慢げな角三君に対して、多分死ぬほどそのスキルが欲しいであろう鈴本はちょっと複雑そうである。

 ……と、いう訳で、石油庫、この学校で私たちが唯一まともに知る、半分地下、の入口である。

「どうする?もう入るか?」

「その場合私は」

「留守番」

「ですよね!」

 くそー、ケトラミさんと一緒にまたお留守番か!

 ちなみに、グライダとハントルは体育館組の住んでる所に置いてきてある。

 ……ほら、彼ら、戦力というか、戦闘経験に乏しいじゃない。だから、強いモンスターの味方がいるっていうのは、心強いらしく。

 ……尚、ハントルは愛玩枠である。ハントルが満足気なんでいいんじゃないでしょうかね。あの子はこと、可愛がられることに関しては非常に得意分野みたいだから。

「じゃあ、何かあったら連絡しろ」

「アイサー。いってらっしゃいませー」

 という事で、皆さんが石油庫のドアを開けて、その向こう側にある謎空間へ入っていくのを見送ってから、また私は家事でもして待っていることになったのである。




 獲ってくるだけ獲ってきて放置してあった肉だの魚だのを『解体』して整頓したり、トマトソースだのジャムだのコンソメだの、ある程度まとまった時間がある時に量産しておいた方がいいものの量産に励んだりしている内に、お昼になった。

 あれ、連絡無いな、ちょっと様子見るか、とか思ってたら、連絡入りました。ナイスタイミング。

『舞戸さん!ちょっとこっち来れる?』

 とのこと。

 なにやら若干興奮気味の加鳥の声に一抹の不安を抱きつつ、教室を畳んでケトラミさんと一緒に『転移』。

 ……奈落、と言うだけあって、暗い。

 空が無くて、岩石なんだよね。滅茶苦茶天井が高い洞窟みたいなかんじである。天井付近は暗くてよく見えない。

 それでも、一応この世界にも光源はある。

 それは、岩石の一部にある、淡く光る鉱石だったり、地面にはいつくばるように生える植物や茸が小さく灯す明りだったり、奈落を飛び回る蛍のような虫の灯だったり。

 そういうものが集まって、一応目が慣れれば周囲が問題なく見える程度の明るさは保たれていた。

 ……奈落レビューはここら辺にして、皆さんの様子に移ろう。

 そこにあったのは、なんか、こう……この鬱屈とした奈落にはちょっと爽快すぎる光景であった。

「角三君、それ、どしたの」

「手懐けた」

 なにやら非常に嬉しそうな角三君。なんと、翼竜みたいなカッコイイのに乗っている。

「どうしてこうなった!」

 なにこれ!かっこいい!非常にうらやましい!なんだこれ!なんだこれ!

「飛んでる奴を倒してたら職業がやっと変わって」

 角三君は翼竜から降りて、ドッグタグを見せてくれた。

 見てみると……『竜騎士』になってた。

 おおおおおおお、おめでとう!遂に角三君も転職か!

「それで、ドラゴンっぽいのに乗れるようになった」

 そうかあ、それは……羨ましいなあ。まあ、竜騎士だもんね。乗れなきゃおかしいよね。

「……それ、もしかして飛んだりする?」

「する」

 おお、浪漫!

 言うや否や、角三君、翼竜に乗って背中を軽く叩くと、飛んだ。

 ……飛んでる。

 めっちゃ飛んでる!

「飛ぶのは俺と鈴本の専売特許だったのになー」

「まさかこうなるとはな」

 角三君はそこら辺を一周してからまた降りてきた。

「いいなあ、どらごん」

「……俺は舞戸ばっかりモンスター連れててずるいと思ってた」

 そ、そうかね、でも、空飛ぶっていうのは、なんかこう、別格で良くないかね?

「奈落は断崖絶壁だのなんだの多くてな、ケトラミで移動するのは骨が折れるだろうし、丁度よかったんじゃないか」

 鈴本に言われて見てみれば、確かに、ざっと見まわしただけでも、針のように伸びる岩……超巨大な石筍が大量にあったり、崖になってたりした。

 これはケトラミライディングには向かないね。

『俺はこのぐらい余裕だけどな』

 うん、ケトラミさん側の問題じゃなくて、そのケトラミさんに乗る皆さんの問題だね!

「……舞戸、鞍、とかって、作れる?」

 現在角三君、そのまま翼竜に乗ってるんだけど、確かに、乗りにくそうだね。

 ……ふむ。針生あたりとも協力しないといけないだろうけど、できないことは無いだろう。

 やってみますかね。


 という事で、お昼ご飯を食べたら、他の皆さんが外に出て戦闘訓練と騎乗訓練をしている間に、針生と協力して鞍を作る。

 皮とか布とかは私の担当で、木は針生担当だね。うん、私に木材削らせると碌なものできない気がする。

 暫く試行錯誤してたら、見様見真似ながらも一応それっぽいものができたので角三君に届けに行く。

「おーい」

 なんか上空50m付近に居たので呼ぶと、気づいて降りてきた。

 なんか慣れてきたらしく、急旋回とかも普通にやってる。

 ああ、浪漫。

 降りてきてもらったので早速、翼竜さんに鞍を付ける。

 翼竜さんは大人しいもんで、鞍を付けられるのにもじっとしていた。

 これについては、戦って負けた角三君に対して絶対的な忠誠を持っているかららしい、という事が後になって分かったりした。


 とりあえず鞍と手綱を付けたので試運転してもらった。

 ……角三君、全然喋ってくれないので分からないんだけど、多分、飛んでる様子を見る限り、問題は無さそうだね。

 と、まあ、うん、そこまでは良かったんだ。良かったんだけど。

 突如、ストールターン。そしてそのまま緩やかに降下したかと思ったら、殆ど垂直になりながら……ナイフエッジで、緩くターンを描いて上昇。そして直後に背面飛行でループを描く、という始末。

 ……見ているこっちの肝が冷える!

 というか!あれはエンジンが付いているわけでもなんでもない、ただの、揚力とはばたく力で飛んでるはずの生き物だぞ!なんでナイフエッジで上昇してんだ!訳分かんねーっ!


 暫くしてご満悦の様子の角三君が降りてきた。

 なんか翼竜さんの方も主人と認めた角三君がご満悦な様子を見て自慢げな様子。

「……楽しかった」

 そりゃ、君は楽しかっただろうね!

「やめてよ!びびるじゃん!いきなり失速したりさあ、垂直になったりさあ!」

 私の横で青くなりながら見ていた針生が早速噛みついてくれた。よーし、いいぞ、もっとやれ。

「あの速度は出ないが、俺も錐揉み急降下ぐらい生身でできる」

 鈴本が張り合いだした。違う、そうじゃない。

「ナイフエッジで上昇はロマンだよねー」

 加鳥が笑顔で角三君と握手しに行った。違う。そうでもない!

「あれ、どうなってるんですか。明らかに物理法則を無視した飛び方していましたが」

 社長は私と同じところが気になったらしい。

 すると、角三君が何か翼竜さんに話しかけ、

「きゅー」

「……風魔法?だって」

 ……通訳してくれた模様。

 ……どうやら、私とケトラミさんの様に、角三君と翼竜さんは会話できるらしい。


「ところで、その竜に名前とかは付けないんですか?」

「……あ、そうか」

 ね。名前無いと、呼びにくい。

「……ぽち」

「やめなさい」

 それはいくらなんでも可哀相だ。……あ、ちょっと、ケトラミさん!こっちを見ないで!ごめんなさい!

「……」

 そして随分暫く、角三君考えて、ようやく結論が出たらしい。

「テラ」

 ……プテラノドン、で、テラ、かな?

 こうして、翼竜さん改めテラさんを仲間に加えて、私たちの奈落探索は続くわけでした。

 ……いや、私は留守番なんだけどさ。

 あ、いやいや、私どころか、角三君以外、皆留守番なんだけどさ。

 ……テラさん、有能すぎるんだわ。しっかし、いいなあ、『竜騎士』って、憧れの職業の1つじゃないだろうか。まじかっこいい。いいなあ、いいなあ……せめて、私もケトラミさんに乗れれば良かったんだけどなあ……。




 そうして、角三君が奈落を飛べるようになったおかげで、かなりのスピードで探索が進んだ。

 ……とりあえず、発見した事の1つに、なんか、ドア?がある。

 入ったら、1F南、デイチェモールのちょっと東らへんに出たらしい。

 ……つまり、学校でいう所の職員室の前らへんにも、地下に入れるドアがあった、って事になるね。そして、ここから推測するに、地下に繋がるドアとかそれに準ずるものは、全て地下、この奈落で繋がってる、という事。

 奈落、っていうのは結局、今までの1Fと2Fの関係みたいなかんじらしいね。


「それにしてもここ、かなり鬱屈としてるよね」

 ウノをさっさと上がり、暇になったらしい羽ヶ崎君が窓の外を眺めてぼやく。

「まだ光源が0よりはマシなんじゃないですか。そこまで視野も悪くありませんし。これで上がりです」

 社長も窓の外を観察し始めた。

「閉所恐怖症の人は発狂しそうだよねー。ドロツー」

「私は割とここ好きだけどな。光源が綺麗だし、狭いとこ好きだし。ドロツー」

 その光も白じゃなくて、蛍色だったり、薄い紫だったり、ピンクっぽかったり、と、風情があっていいと思うんだけど、人によっては不気味に見えるのかね。

「んー、『暗視』ある人とそうじゃない人の差かもね。ドロツー2枚追加で」

「舞戸さんと社長と針生位じゃないのかなあ。ここが綺麗に見えるのって。ドローフォー重ねるね」

「あああ、すみません、ドロフォー追加です」

「……おい、これで何枚だ?」

「俺と舞戸さんと鳥海でドロツーが4枚、加鳥と刈谷でドロフォー2枚で計16枚。まいどー」

「もう俺上がるの無理だろこれ!」

 はっはっは、この面子でウノなんざやる時は、ドロー系の札はカウンター専用と相場が決まっておるわ!




 晩御飯は何の肉かよく分からないけどとりあえず肉を煮込んだシチューです。

 ……いや、だってさ、頭が山羊で体が牛で足が馬だった場合って、何肉って事になるのさ。牛肉でいいの?

「奈落って、広い」

 ということで、晩御飯食べつつ角三君の報告を聞くことにしたんだけども。

「……多分、1Fと、縮尺違うと思う」

 ちなみに、縮尺、というと変だけど、この世界は学校の教室と配置は同じだ。

 けど、その距離は半端なく違って、隣にあった教室が10km以上先、とか、良くある話である。

 そして、その距離の違いが、おそらく奈落では更にパワーアップしてるんだろう、との事。

 現に、石油庫から職員室前までの距離って、1Fで行けば大体神殿からデイチェモールぐらいの距離な訳なんだけど、明らかにその距離では無かった、との事。

 ふむ、となると、ますますテラさんの参戦が心強いね。

「明日も角三君に頼ることになりそうだが、大丈夫か?」

「うん」

 地上が障害物だらけの奈落において、一番効率的なのはテラさんにのった角三君が探索してくれることなのだ。

 申し訳ないけど、テラさんは角三君以外乗せようとしないし、当分このスタイルになりそうだね。


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