131話
晩御飯も終わって(結局先輩も食べた。先輩は晩御飯二回目である。どういう胃袋してるんだ!)私はアリアーヌさんの所に行くことに。
「……なあ、舞戸。前回、お前、何の話をしたんだ?」
準備してたら、鈴本がなんか聞いてきた。
「ん?アリアーヌさんが正式に大司祭になった事とか、勇者が海中都市革命に参戦する話とか、君がアリアーヌさんと2人で話した時の事とか、それに関連した事とか」
それぐらいだよなあ、と思っていたら、頭抱えられた。
「俺と話した事って……何を言われた」
ええー……君は中々に卑怯だな。
「……君が、私と君の間にあるものは何か、って聞かれて、友情と尊敬だ、って答えた、っていう事」
非常に言いにくかった。何これ!
「それに関連した事、っていうのは」
「私が君についてどう思ってるかって聞かれたから、尊敬と友情だ、って答えた。というか、そう答えたら君も同じような答え方した、っていう話になった」
「そうか。……それで、アリアーヌさんは?」
「え?なんか……「酷い人たち」って言ってから、急に「私達、お友達になれますか」って」
「それで?」
「握手してきた」
少し考えてから、鈴本は結論を出した。
「……ん。俺も行く。ちょっと待ってくれ。準備してくる」
鈴本も行くことにした模様。何を思っての結論かは分からないけど。
アリアーヌさん用にお土産のプリンを包んで、魔王軍装備に着替えた鈴本と一緒に『転移』である。
今日もテラスからこんばんはだね。
窓をノックすると、なかでぱたぱた音がして、アリアーヌさんが出てきた。
「あら、こんばんは」
「こんばんは。邪魔するよ」
プリンの包みを渡しつつ、何やら嬉しそうなアリアーヌさんを観察する。
……なんかちょっと嬉しそうにしてるのが可愛いなあ。アリアーヌさんは間違いなく私達より少し年上だと思うんだけど可愛いもんは可愛いのでしょうがない。
「これはなんですか?」
プリンの包みを開いて中身が気になる模様。
「異国の菓子でな、プリンという」
「プティングに似ていますね。……異国ではこんなにぷるぷるしているんですね」
器を持ってぷるぷる、とやりながらプリンを観察するアリアーヌさん可愛い。
「今お茶入れますね」
「お構いなく」
言いつつアリアーヌさんが淹れてくれるお茶は美味しいのでちょっと楽しみでもある。
お茶を淹れに行く前に、アリアーヌさんはテーブルに1つ、椅子を足していった。
それを見た鈴本がなんとも言えない顔をしているのがなんとなく笑える。
「……ちなみにプリンは3つ持ってきた」
勿論、私は最初からその気だった。
こいつは色々喋っちゃってるみたいだし、私も色々喋ったから、今更魔王とその部下、なんていう設定は要らないだろう。
「……じゃあ、遠慮なく」
恐る恐る、というように鈴本も席に着いて待つ。
少し待つと、アリアーヌさんがポットとカップを持ってやってきて、お茶を淹れてくれた。
軽くお礼を言ってから口をつける。
花みたいな甘い香りが少しするお茶だ。なんだろ、これ。
「今日のお茶はククルツから届いたお茶なんです」
どこだ、それ。
……まあ、考えるに、多分、北東にあるっていう町、国、の名前だろう。
「私はこれ、好きなんです。……さて、今日はどうしたんですか?何かあったんでしょう?」
……ふむ、その悪戯っぽい顔からしてみるに、海中都市の云々はこっちにまで伝わってるんだろうなあ。となると、そっちが先かな。
「ま、一応報告を、な。……エイツォール南西の海中都市、あそこに攻めてきた勇者を全員捕獲した。一応、現女王の肩を持った形になるな。……理由に関しては詳しく言えぬが、これは勇者と敵対するものでは無い。勇者にとって悪いようにはせんよ」
あんまり詳しく言うのも……というか、アリアーヌさん、私が異世界人だって分かってそうな気もするんだけど、わざわざそこら辺を詳しく説明するのも骨だし、やめておく。
「そうですか。勇者様方にとってそれが良い事なのであれば、私からは何も言う事はありません」
あ、けっこうあっさりしてた。
「そうか。何か言われるものと思ったのだがな」
「事前に勇者様達の行動について何もおっしゃらなかったので何かあるんだな、とは思いましたから」
そういうもんなのかね。うん、まあ、アリアーヌさんから何もないんだったらこの件は報告終わり、でいいのかな。
「魔王さんは勇者様達とつながりがあるのでしょう?そちらのスズモト様も異国の方のようですし」
そこまで分かってるのか。ふむ。
「……俺のような異国人が魔王の側についていることについて、何も思わなかったんですか」
となると、神殿との交戦の時の事情が気になる。鈴本も気になったらしく、その旨についてアリアーヌさんに聞く。
「勇者召喚で複数の異国の方を召喚していることは知っていましたから。……神殿が恨まれてもおかしくない、とも」
「魔王が勇者を害するとは?」
「思いません。……魔王、とは、神殿や勇者と敵対するものでは無い、そうでしょう?あんなに今まで勇者様達の事を心配して、私に警告して下さっていた魔王さんですから、勇者様達に酷い事をする訳がありません」
「随分信頼されているようだが、それでよいのか?」
神殿のトップとしては、それは問題があるんじゃないかと思うんだけども。
「神殿の現在の教義とは異なりますが、古い文献や禁書を探す限りでは、魔王とは決して女神や神殿と敵対した関係じゃないんだと思えるんです。そうでしょう?……だったら、それが本来、神殿のあるべき姿ですから」
アリアーヌさんはそう言って、プリンを一匙すくって食べた。
……その顔を見る限り、美味しいらしい。うん、お気に召したみたいで良かったです。
さて、そろそろ本題に入らないとね。
「『奈落の灰』について、知っているか?」
「『奈落の灰』ですか?ええと、禁書の中に在りました。ずっと前の代の大司祭が奈落から持ち帰ったものの1つですよね?」
……奈落って、どこよ。
「実は、それについて詳しく知りたいのだ。知っていることを教えてほしい」
知ったかぶってても多分話が進まないので正直に聞いてみたけども、アリアーヌさんの表情は芳しくない。
「ごめんなさい、神殿の禁書から得られた情報だと、今の事だけです。ある代の大司祭は奈落へ向かい、そこから『奈落の灰』と『碧空の種』を持ち帰った、と言われています」
『碧空の種』も?……あの、透き通って青い、親指の爪位のサイズの、潰れた雫形のアレ?
一応、あれも霊薬の材料だったわけだし、何か関係あるのかね。
「『碧空の種』は神殿で今も使われていますが、『奈落の灰』は……そもそも残っているかも分かりません」
えーと、『碧空の種』って、何かに使うの?……これは後でジョージさんなり社長なりに聞けばいいか。
「奈落、とは?」
「この世界の更に下にあると言われている世界です。半分神話の中の存在ですが……あまりお役に立てずすみません」
「いや、十分だ。助かった。それだけ分かっていれば何とでもしようがある」
……存在が不確かなのはあまりよくないけど、とりあえず地下を目指せばいいのかな?
次の目的地が決まったってことには、十分な価値があると思う。
アリアーヌさんとその後も少し雑談などして、お暇することになった。
ら。
「少しアリアーヌさんと話していいですか」
……と、鈴本から申告があったので、了承して先にテラスに出て待つ。
「すまない、待たせた」
暫く待つと、鈴本も出てきた。
何の話してたのか気にならんでもないけど、聞くのも憚られるので聞かないよ。
……しかし、なんとなくすっきりした顔してるね。うん、すっきりしたならいいことです。はい。
玉座の間の裏に『転移』すると、やけに静かだった。
早速得た情報についての審議に入らないとなあ、とか思ってたのに、誰もいない。
……あれ、まさか皆さん既に就寝済みか!?
ま、まあ、しょうがないか。皆さんお疲れだろうし。……いや、昼寝してた連中もいたけども……。
「舞戸」
「ん?」
会議は明日かな、とか思っていたら、鈴本に声かけられた。
振り返ると、ほんの少し、言葉を探すように逡巡してから、
「おやすみ」
と、笑って言って、男子諸君の寝室に向かって行った。
「おやすみー」
挨拶を返すと、軽く片手を上げて応えてからドアの向こうに消える。
……さて、私も寝るかな。
という事で、朝です。おはようございます。
今朝のご飯はパンです。そして朝ごはん食べながら昨日の情報について会議だよ。
「奈落、ねー。……地下って学校にあったっけ?」
「ありますね。石油庫が半分地下だったはずです」
確か、中庭からいける場所に石油庫があって、そこはちょっと掘り下げてあって半分地下になってはいた。うん。確かに。
「とりあえずはそこかなあ、次に探すのは」
「だろうね」
他に地下、っていうと……あかん、天井裏は割と分かるけど、地下、っていうと全然分からん!
……多分、最初はその石油庫で、次は階段の裏とかを探すって事になるのかな。
……地下、地下……うーん……単純に地面掘っていったら駄目かな、駄目だろうなあ……。
「じゃあ、私ももう少しゴタゴタが片付いたら連絡するから」
「はい。先輩、体調には気を付けてくださいね」
出発、という事で、先輩とは暫しの別れである。
しっかり王権をだれか信頼できる人に譲ってからじゃないと、先輩はこの国から出ていけないからね。
そこら辺が終わったら、メイドさん人形ごしに連絡を入れてもらう事になってる。
先輩との別れを惜しみつつ、私たちはケトラミを回収してから、1F中央付近、神殿が見える丘に『転移』した。
「石油庫はここから東に向かった位置にあるはずですね」
「ケトラミかあ……」
『なんだよ文句あんのかよ』
ということで、またケトラミライディングの時間である。
……頑張れ!