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130話

 ということで、適当に交代で仮眠とったりしながら拷問とご飯を繰り返す。

 ……ほら、さ、だんだん時間の感覚速くしてくわけだから、最初8時間おきだったのが速くなっていって4時間おきにまでなりまして。

 つまり、交代で寝ないと4時間に一回起きないといけなくなっちゃうんだよね。

 お腹が空くペースを速くするために吐かせたり、感覚ごっちゃにするために水責めしてみたり、と、皆さんも中々工夫している様子。

 私はと言うと、4時間に一回お粥作ってるとやってられないので、一気に3種類位作っておいて、3時間寝て、配給してきて、3時間寝て、起きて、次のご飯作って、とやっている。

 そしてそれにプラスして私たちのご飯も作るので、なんか、頭がごっちゃになりそうである……。

 更に、残念なことにローズマリーさんは一人しかいないので、私は夜泣きの赤子に起こされるお母さんのような状態になっている。

 赤子の夜泣きっていうか、お粥の吹きこぼれに起こされてるんだけどね……。

 うん、まあ、これにメリットがあるとすれば、だんだんローズマリーさん寝不足で疲れていくんで、そろそろ情が移ってきたらしい捕虜諸君が心配し始めたっていう事かな。

 特に福山君。

 ……あ、そういえばこの部屋って前述のとおり、天井付近の壁が無くて、空間が繋がってる状態なんだよね。だから、声とか音とかは結構だだ漏れな訳です。

 その結果、福山君の義憤(笑)が他の捕虜の皆さんにも伝染してきた。

 おかげで、ご飯の配給8回目にもなると、いい加減捕虜の皆さん、好意的である。

 しかし、ご飯が毎回お粥ですまんね。でも許さん。よって今後もお粥だ!食えるだけ有難いと思え!




 さて、次の配給で記念すべき10回目、という時に、社長がやってきた。

 こっちもこっちで拷問10回目にもなるといい加減しんどくなってきてるらしく、疲れ気味だ。

「やばいです。予期せぬ事態になってます」

「ほう。それは?」

「ストックホルム症候群です」

 ……。

 それは……それは、うん、やばいね。

 ……ストックホルム症候群、とは。

 簡単にざっくり言ってしまえば、監禁されたり立てこもりの人質にされたりした被害者が、加害者に対して親近感を抱いたり、好意を抱いたりしてしまうという現象、である。

 この場合は……捕虜が、拷問してくる相手に対して、という事に……なるんだけど……うん。

 完全に、これは予想外だった。

「念のため聞くけど、ストックホルムったのは女子?それから、リマ症候群は起きてないよね?」

「女子です。そして俺達は正常です。当然じゃないですか」

 ストックホルム症候群とは対照的にリマ症候群、なるものがあって、こっちは犯人側が被害者側に好意とか親近感とかを抱いてしまうという現象だね。

 尤も、こっちは犯人側の生活知能諸々の指数が被害者側よりも極端に低い場合におきやすいみたいだから、今回は当てはまらないんだけども、念の為。

「まだ、対象が鈴本とかなら分かるんですが、おぞましい事に多分そうでもないんです」

 それをおぞましいと言ってやるなよ。

「とりあえず、舞戸さん。次の配給は俺達でやるので寝ててください」

「え、いいの?」

「はい。ローズマリーさんは捕虜と仲良くし始めたのでお仕置き中です」

「成程」

 ここで勝負をかけに行くわけですね?ということは、私はお粥の番人から解放されるわけですね!やったー!

「これ以上長引かせてもますます相手が盲目的になるだけですし、これ以上やるのはこちらの体力等の関係からも辛いです」

 うん、分かるよ。お粥の夜泣きに起こされまくった身としては凄くよく分かるよ。

「舞戸さんはこの後も仕事があるかもしれないので、今のうちにしっかり休んでおいてください」

「仕事、というと、具体的には?」

「『眠り繭』ですかねえ」

 ……うん。超具体的。

 でも、そうね。前国王側を引っ張り出すための人質、とかの用途で使わなきゃいけなくならない限り、もう全員寝かしといてどっかに詰めておいた方が何かと楽でいいもんね。

「じゃあ行ってきますので、舞戸さんは寝ててください。そうですね、多分、9時間は動かないと思いますから、ゆっくり寝てください」

「君達は大丈夫なの?」

「俺達は順番に結構寝てますから。気にせず寝てください」

 そうかね。それじゃあ遠慮なく寝かせてもらおうかな。




 起きたら、角三君と目が合った。

 ……デジャブ!

「あ、ええと、起こしに来た」

「ならさっさと起こさんかい!」

 目開けた途端目が合ったら結構びっくりするわ!

「……なんか……凄く、気持ちよさそうに寝てたから……」

 ……そうかね、うん……なんか、ごめん。そんなに申し訳なさそうな顔しないでくれ……。

「何か進展した?」

「……うん、情報は、多分これで打ち止めだろう、って社長が。だから舞戸さん、出番だって」

 そっか。よし、じゃあ出動するかな。

「あ、で、社長が、着替えて、別人になってきてくれ、って言ってた」

 ふむ、つまり、ローズマリーさん以外、って事だね。幽霊メイドのエウラリアさんでいいか。

 着替えも、ってなると……うーん、剣闘士大会に出た時の服でいいか。

 よし、着替えてこよ。


 着替えて『変装』で全体的にブルーグレイのエウラリアさんになった所で、社長と少し話してから、捕虜を寝かすために地下に下りた。

 そして、個室を開け、今まで来たことの無い人物の襲来に戸惑う捕虜に『眠り繭』をかけて、さっさと次の個室へ。

 MP回復を挟みつつ、さくさく『眠り繭』していって、27人分終わらせた。やー、あっさり!

 さて。出てきた情報を教えてもらうとするかな。




 捕虜全員を引っ張って一か所に集めたら、全員で会議だ。

「得られた情報を照合していった結果、おそらく、彼らは元の世界に帰る方法を神殿の儀式によるもの以外知らなかった、と言えるでしょう」

 それに関しては特に疑問の余地も無いね。神殿……というか、まあ、元大司祭の意図としては、他に元の世界に帰る方法があるって知られたくなかったんだろうし。

「それから、他の生徒や教室についてですが、これは何人かから情報がありました。王都やデイチェモールで見たという証言の他に、デイチェモールから北東の位置にある国でも数人確認されているみたいです。教室については新しい情報はありませんでした」

 ほうほう、北東に国がある、っていうのはこれではっきりしたね。次の目的地はそこになるかな。

「前国王とのつながりに関しては、福山以外の全員は福山に話を持ち掛けられた、ということで、福山は、王都に逃れてきた前国王と接触して、ということらしいです。殆ど運ですね」

 前国王は運が良かったのか、悪かったのか……悪かったよなあ、これは。

 今頃糸魚川先輩にこってり絞られている事でしょう。南無。


「最後に、『奈落の灰』と勇者の命(物理)についてですが、これは少し厄介かもしれません」

 まず、この面倒な事態……『奈落の灰』が神殿に無く、そして大司祭はそのありかを知らない、という、非常に嫌な事態にどうしてなっちゃったか、というと、それは、この勇者たちの命(物理)のシステムにあった。

 まず、命(物理)についてだけど、勇者たちは、実は既に数回ずつ死んでいる。

 ……そして、死ぬと、『神殿の大司祭の元から再スタートになる』のだという。

 その復活の為に必要な契約が『勇者契約』、つまり、命のあのグラスを肉体と分離する、という作業だ、と説明されたんだとか。

 そして、生き返る度にその契約をもう一度やり直していたらしい。

 ……今までに得た関連情報を元に推測するに、これ、つまり、命を分離して勇者を肉体だけの状態にして、その肉体が死んだら、その肉体を『霊薬』で蘇生させることで、復活、と相成る。

 その後またその復活した勇者から命を分離しておけば、無限ループできるよね、という。

 ……そして、『奈落の灰』の話になる。

 知っての通り、『奈落の灰』は霊薬の材料だ。

 そして、『霊薬』は確かに勇者の復活の為に幾度となく使われ、つまり、幾度となく作られていたことになる。しかし、神殿に『奈落の灰』は無く、大司祭は『奈落の灰』のありかを知らなかった。

 ……ここから導き出される答えは、1つだ。

 元大司祭は、勇者を復活させるために『霊薬』を馬鹿みたいに使い、そのせいで神殿にストックされていた『奈落の灰』を使い果たした。入手方法も知らないのに。

 そして、入手方法を知らなかった以上、きっと神殿に昔からあったようなものなんじゃないだろうか。

 ……アリアーヌさん頼み、だなあ、いよいよ。

 神殿の不始末の1つだから、まあ、何とかしてもらおう……。

 それにしても、元大司祭は余りにも計画性が無さすぎやしないか?神殿に『霊薬』のストックがもしかしたらあるのかもしれないけど、これ以上の生産ができないものを湯水のように使ってた、っていうのは……アホの所業としか言いようがない。

 そのアホの尻拭いをさせられるアリアーヌさんが不憫でしょうがないね……。




 とりあえず、神殿へ行くのは夜になるまで待つとして、久しぶりに私達はのんびりしよう、という事になった。

 うん、とりあえず、睡眠時間の不規則化と、拷問するというちょっと精神によろしくない行為の連続、そしてそもそも、あの戦闘から間をおかずにコレだった、というのもあり、休息が必要だね、という結論に至ったのである。

 今はお昼すぎなので、夜ご飯までは各自好きに過ごすことになった。

 眠い人はお布団に潜りに行き、暇な人はトランプ等に興じ、そして私はプリンを量産しております。

 ほら、疲れたら甘いものだよ。幸いな事に、この部には甘いものが嫌いという人が居ないので助かるね。

 プリンにする理由は私たちのお疲れ様の分以上に、今尚、徹夜3連荘で頑張っていらっしゃる糸魚川先輩へのお疲れ様である。

 チョコレートっぽいお菓子がこの世界にもあるので、それでチョコプリン作った。

 チョコプリンともなると先輩が凄まじい量を食べてしまう事が予想できるので、かなりの量を作った。

 まあ、食べ物の保存には困らない異世界クオリティな食料庫(講義室)もあるし、余ったら余ったで問題は無いから大丈夫だね。

 それから、晩御飯の準備もしておく。

 今晩はロールキャベツにしようかね。トマトで煮込む奴。なんか疲れ気味の時はトマト煮込み食べたくなるよね。うん。


 晩御飯の準備をして、私も暇になってトランプの輪に混ざったりしていた所、へろへろになった先輩が帰ってきた。

「やったわよ。私はやったわよ。……舞戸ー」

 先輩は亡霊のようにふらふらと私に向かってやってくると、むぎゅー、と、抱き付いてきた。

「うふふふふふふ舞戸だわー舞戸だわー柔らかーいあったかーいなんかいい匂いーうふふふふふふ」

「先輩、お疲れなのは分かりますが舞戸を離してやってください。そいつの肋骨は折れやすいんです」

 先輩の容赦ないベアハッグにまたしても私の肋骨は悲鳴を上げたけれども、鈴本が先輩を引っぺがしてくれたおかげで無事折れずに済みました。うん、ホントさ、勘弁してよ!

「先輩、チョコプリンが冷えてますよ。食べますか?」

 へろろん、とその場にへたり込んで突っ伏してしまった先輩に声を掛けると、

「ぷりん!」

 と目を輝かせながら復活なさった。

 ……よし。チョコプリンの事はこれから糸魚川先輩専用霊薬、と呼ぶことにしよう。


 さて、これで何とか、この国の事もけりがついたかな?


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