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129話

 朝ごはんも無事終了し、早速私は捕虜用のご飯を作り始める。

 ……はい。お昼の。

 朝は……抜き、だそうです。社長曰く。どうせ吐くから、との事。おお、えげつねええげつねえ。

 そして鶏肉と生姜と青ネギで鳥出汁を取る私の横で、皆さん何やら話し合いの真っ最中。

「俺絶対やだよ」

「分かってる、針生にはやらせない」

「どう考えてもこの中で一番面の皮厚いの社長なんだから社長やればいいじゃないの」

「いや、今回ばかりは俺も許しがたいので鳥海を推薦します」

「餓死させようぜ!」

「……これ駄目じゃん、任せたら」

「刈谷がいいんじゃないかなあ。姿見られてないし」

「いや、ちょっと俺は嫌です。絶対表に出ちゃいます」

 ……一体、何の話よ。

「君達はさっきから何を面白い押し付け合いをしているの」

「あっ」

「あっ」

「そうだー舞戸さんがいるよー」

 だから、一体何が、だね?

「そうだな丁度いいなー。……ということで、懐柔役は舞戸でいいんじゃないか?」

「……は?」

 ……社長曰く。

 ここであんまり酷く拷問でもして廃人になられたりしたら、それは面倒だから、最少の拷問で効率よく情報を収集したい、との事。

 そして、その為に、『北風と太陽』の如き方法をとろう、というのである。

 つまり、拷問で弱った所にご飯を差し入れて懐柔し、情報を貰う、という。

「舞戸さんならこの世界の住人のふりもできますし、適任ですね」

 なんか、予定調和の如く私に任せて皆さん、あーよかったよかった、とか言ってる。うん、それ、もう最初から決めてただろ、お前ら。

「女子の拷問は私がやった方が良くない?やりにくくないかね、君達」

「大丈夫です。俺は女子も平等に拷問にかけます。男女平等です」

 あ、心配するだけ無駄だったか。失礼しました。

「むしろ女子の方がえぐい事してくれたしなー。俺も手加減するとか考えてないわ」

「まあ、そういう事だ。俺達も相当に腹立ってるからな。大丈夫だ」

 ……一応、さ?あんまりそこんところ、針生は皆さんに説明しなかったから私も言わないけど。

『共有』して色々分かっちゃったもんで。下手したら、実際に針生救出に行った皆さんよりも、私の方が腹立ってるかもしれんのよ?

 ……まあ、なんというか、仕返ししたくなる気持ちも分かるし。

 効果的に拷問できるのはどう考えても私より皆さんなので、異論は無いよ。


「では、もう一度確認です。聞くことは、前国王とのつながり、命(物理)との関係、他の生徒や教室の目撃情報、『奈落の灰』の情報、それから、知っている限りの元の世界に帰る方法、ですね。そして、聞くときは、全員が話すことが一致したら全員とローズマリーさんを解放する、という事を条件にしましょう。勿論ローズマリーさんについては向こうから言われるまでは提示しません。いいですね?」

 ……作戦としては、まあ、なんだ、私というか、ローズマリーさんを逃げ道にする、という。『拷問に耐えかねて話す』のではなく、『ローズマリーさんを助けるために話す』のなら正当化しやすいし話しやすいだろう、という。

 ……ということで、皆さんは階段を下りていき、私は昼食の為、出汁をしっかりとって、美味しくてお腹に溜まらないお粥を作りますよ、と。

 具?入れない。入れるとお腹に溜まりやすくなるんで。

 よーく煮込んで柔らかく消化良くしたお粥を出すのには理由がある。

 勿論、空っぽで久しい胃を労わる、とかいう意味もあるけど、それ以上に、時間の感覚を狂わせたい、っていうのがある。

 光は入らない、時計も無い、という部屋では、ご飯の時間が一つの時間の指標になるんだよね。

 それに伴って、お腹が空くまでの時間も。

 なので、早くお腹が空くようなメニューにすることで、時間の感覚をどんどん早めていって、何日も監禁されてるような気分にさせて、精神を参らせてやれ、という。

 そして、一杯のお粥でも満足できるように美味しく作る。これ大事。

 お粥は吹きこぼれやすいんで気を付けて煮込まないといかんね。

 塩はちょっと濃いめに入れるかな。うん。おやつのお水が美味しくなるよね、きっと。




 鳥出汁濾して、油は可能な限り全部除去して、その出汁でくつくつお米を煮込む事1時間。

 すっかり柔らかくなった米粒に鳥の旨味が染み込んだお粥の完成であります。

 生姜とネギの風味が食欲増進させてしまうのが良く無かったかも。あと、生姜が体暖めちゃうから次回は違うのにしよう。

 という事で、既に昆布を水に漬けてある。こっちはあとでお魚干した奴の出汁と合わせる予定です。はい。ちょっと醤油で風味つけてもいいかもね。勿論次回もお粥である。永遠にお粥だ。微妙にバリエーションは作るが、お粥だ。甘んじて消化の良いお粥を食って腹空かせてるがいいさ!


 お粥鍋を保温しつつ縫い物して待機していた所、皆さんが帰ってきましたよ。

「経過はどうよ」

「こっちに敵対心が育ちすぎてて上手く行きませんね。男子は殆ど黙秘を貫いています。女子は殆ど全員が全ての項目について喋りましたが、結構内容がバラバラで審議が必要です。どっちもどっちですね」

 ……最初から敵対しちゃってるし、こっちとしては、向こうが許せない一線を越えてきやがったのでそれに追従してるし、まあ、しょうがないっちゃしょうがないね。

 ……うーん、しかし、他の生徒の目撃情報とかもしゃべらない、となると、私たちが他の生徒捕まえて殺そうとしてるとか思ってるんだろうか。前国王とのつながりについてはまだ分かるけど、生徒については喋っていいんじゃないのか?

「ということで、食事を出してきてください。それで、申し訳ないのですが、これを」

「ああ、うん。了解了解」

 社長が出してきたのは例の首輪である。ま、そうね。説得力は小道具からだね。

 勿論、全員分……27名分の食事を一気に持っていくことはできないので、大体5人分ずつ位持っていって往復する形になるね。はー、しんどい。




 階下に降りると、すぐに後ろで壁ができて、階段が消えた。

 ここにいるメイドさん人形が連携して、先輩に合図を送る係になってくれてるんだな。なので、現在この地下牢の出入り口は認証制となっております。便利。

 お粥のお椀とスプーンを乗せたお盆を片手で支えつつドアを開けると、その音で明らかに中の空気が委縮した。

 ……ダイジョウブダヨー、拷問シニキタワケジャナイヨー。

 まじでただのご飯なのでそう緊張なさるな。……皆さん、軽くやっただけ、とのことだけど、一体どういう拷問したんだろ。あれかな、節足動物出すとかかな。まあいいや。

 個室のドアは二重構造になっている。脱走防止とこっちの安全を図る手段だね。一番手前の個室の鍵を開けて、鍵閉めて、そこにお盆を置いたらお椀1つとスプーン1つだけをとって、個室に直接つながるドアの鍵を開けて中に入る。

 入ると、ぐったりした男子が1人横たわっていた。外傷はそれほど目立たない。うん。この程度で済んで良かったよね、君。

「ええと、ご飯、ですよ」

 ただしノリの佃煮では無い。

 手の拘束はされていないので、そのままお椀とスプーンを渡すと、恐る恐る、という具合に受け取った。

「……毒でも入ってるんじゃ」

「作ったのは私です。入れてないですよ」

 社長が作ったんじゃあるまいし、という意図を込めたんだけど、こいつはそれ以上の意図をくみ取ってくれたらしい。つまり、私は君の味方だよー、みたいな。

 窺うような素振りの後で、ほんの小さく一口、お粥をスプーンですくって口に入れた。

 ……ふっふっふっふ、割と美味いだろう。自信作だよ!

「……美味しいですか?」

「……うん」

「それは良かったです」

 美味しいって事は、もっと食べたいって思ってくれるって事だもんね。という事は、お腹減るの早いよね!

「後で食器を片付けに来ますね」

 にっこりしてから外に出る。勿論、鍵は忘れない。

 さて、じゃあこの調子で行きましょう。




「ごはんですよ」

 そして、数人目にご飯ですよをやった結果。

「あ……君は……オークションの時に居た」

 ……アレこと福山君がいた。ま、そうだね。居なきゃ逆におかしいんだから居て良かったけどね。

「ごはんですよ」

 あんまり喋りたくも無いので、ご飯を置いてにっこりしてからそそくさ退散を試みる。

「あ、待って!」

 も、失敗。

「……なんでしょうか」

「ね、ねえ、君、やっぱりあいつらには酷いことされてるんだろ?」

 ……ええとね。

 作戦的には、ここで『そうなんですよ!』とか言って『酷いことされてる』のを認めた方がいいんだけどさ。

 けど、癪なんだよね、こいつ相手にそれ言うの。

 大体、多分、言わなくても済むだろうしなぁ。

「そんなことはありませんよ」

「でも、そんな首輪なんて付けさせられてるじゃないか!それって酷いことなんだよ!君は分かってないみたいだけれど、こんなのおかしいんだ!」

 ……ね?言わなくてもそういう風にご高説垂れ始めたでしょ?


 ……結論。

 やっぱりというか、福山君は義憤(笑)に駆られたらしく、非常にローズマリーさんの境遇に怒っていました。

 その間私は意地でも皆さんの悪口は言わなかった。なので勝手に福山君が勘違いして勝手に頑張っただけです。


 しかし、27人にご飯配って、ちょっとしてから食器回収するだけだったんだけど、スムーズにいかないし、1人1人と少し会話挟んだりしたし、けっこう時間がかかってしまった。

 ……しかし、結構全員、警戒しても食べはするね。

 なんだろ。この世界の住人に対しては警戒が薄いのか、それぐらいお腹が減ってたのか。

 両方かなあ、前国王のいう事は無条件に信じちゃったわけだし、お腹は空いてるだろうし。

 さて、じゃあ、次のお粥を作ろうかなあ。




 それから1時間ぐらい置いてまた皆さんが働いて、そして私はお粥をぐつぐつやりながら次のお粥の準備をしたり。

 次のお粥は野菜出汁ベーコンフレーバーです。洋風だね。最初が中華、次が和風、その次洋風と来たので次はエスニックかなあ……カレー粥……トムヤム粥……いや、やめとこう。


 ……暫くは、拷問とご飯をこういう風に順番に入れていって、だんだんその感覚を狭めていって、時間間隔狂わせる、っていう作業になるらしい。

 うん。ちょっと長期戦になるかも。


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