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127話

痛い内容を含みます。

ご注意ください。

「馬鹿な!なんでこいつらが居るんだ!」

「まさか全員やられたっていうのか!?」

「捕虜はどうしたんだよ!まさか見殺しにしたのか!?」

 眠らず、落ちもしなかった皆さんは混乱の渦の模様。迫りくる氷の壁への対処もままならず、何人かはからめとられて全身ないしは体の一部を氷漬けにされてしまう。

 ……ふむ、言葉だけ聞いてみる限り、向こうにもある程度の戦力を割いておいたのかな?

 だとしたら、尚更向こうにこっちの戦力割いて良かったね。こっちは福山君のノリが良かったから私一人でもぎりぎりなんとかなったし。

「無駄口叩いてる暇あるの?」

 羽ヶ崎君は容赦なく氷の壁を破壊する。凍った人の体ごと。

 嫌な絶叫が響き、そして相手の回復役が慌てて回復していく。

「ほら、さっさと治してよ。治ったら次いくから」

 そしてわざわざそれを待つ羽ヶ崎君。

「楽に死ねるとか思わないでよね?」

 ……との、ことです。うん、楽じゃないだろうし、死ねないだろうね。


「ここは俺が居なくても大丈夫そうですね。俺は床下を見てきます」

「あー、じゃあ俺も行くわ。撃ち漏らしが居たら困るし」

 社長と鳥海は裏に引っ込んでいった。先輩経由で床下の様子を見てくるんだろう。

 勇者に背を向けた2人の背中を、矢が追う。

 矢を放ったのは勿論、勇者の1人。

 しかしその矢は当然、届かない。

「甘いよね。ちょっとそれだと遅いんじゃないかなあ」

 飛ぶ矢を焼いたのは光線。……右腕は網を射出する機構ではなく、やっぱりビーム発射する機構にしたらしい。うん、それでいいと思うよ、だって加鳥だもの。

 そして光線はそのまま、相手の射手をも焼いていく。肉の焼ける臭いが満ち、射手の絶叫が響く。

 焼けた傷口からは出血こそないものの、それだけに痛みは凄まじいものがあるだろう。

「な、なんでこんな酷い事できるの!『ウィンド」

 魔法使い系であろう女子の魔法は結局発動しなかった。

「こっちの、台詞だよ!」

 珍しく激昂した角三君の剣は違うことなくその女子の首を斬り飛ばして、返す刀で杖も斬った。

「……これ、治さないと死ぬから」

 そして、首を律儀に元の位置に戻して、回復役に回復を促す。

「ふざけるなあああああ!」

 丁寧に首を戻していた角三君に向かって、剣士が1人突っ込んでいき。

「それもこっちの台詞だ」

 そして、殆ど瞬間移動のように飛んできた鈴本に胸を貫かれて倒れる。呆気ない。

 ……そりゃそうか、いくらドーピングしてるかもしれないと言っても、元凶が浮いた部屋で異世界人が動けるっていうだけでも凄い事なんだし。

 こっちは伊達に訓練してない、って事なんだろう。

 このワンサイドゲームは、なるべくしてなったワンサイドゲームだ。今更驚かないよ。

「ほら、こっちも早く治せよ」

 そして倒れた剣士を掴んで回復役の側まで無造作に放る。

「『ライトアロー』!」

 そしてその回復役が攻撃に転じてくると、あっさりそれを受ける。

「やった……え、あ、嘘!?」

「回復しないならお前の手足、切り落とすぞ。なんなら、指先から1㎜単位で切ってやろうか?……早くしろ」

 勿論、魔法なので効かない。

 回復役の女の子の絶望したような表情を見て尚、鈴本は氷点下の表情のまま。更には刀突きつけて脅しながら敵を回復させるという。




 ……そんなかんじの、戦いとも言えないような状態が続いた。

 回復役がばてて遂にMP切れになり、相手が回復できなくなったのでやっとひとまず終了。

 その頃には相手の戦意は完全に失われており、武装解除も簡単でした。

 ……そりゃ、首斬り飛ばされること数回、内臓飛び出る事数回、凍らされて体の組織破壊されること数回、レーザーで体を焼き切られること数回、ともなれば、そうもなるよね。

 その頃には床下で毒と糸に絡まって死にかけてた人たちの救助もとい捕獲も順調に終わっていた。

 それから、敵の本拠地……福山君宅に居た人達……こっちは、もう本当に虫の息だったのを刈谷がある程度治したりして、その人たちもこっちに連れてきた。

 先輩に学校のトイレの個室のような、天井が空いてる個室に区切られた部屋を作ってもらい、その個室に一人ずつ拘束して収監。

 そして部屋の真ん中には元凶を2つ浮かべておく。

 こうしておけば能力の低下が見込めるから、縄で縛っておくだけでも脱出されなくなるんだよね。

 ……というか、この部屋、出入り口無いから脱出しようとしても無駄なんだけどね。カモフラージュにドアがあるけど、そのドア開けた先は行き止まりである。私たちが行くときには、そこを先輩につなげてもらえばいいだけなんだし。


 と、いうことで、この戦闘はひとまず決着がついたのでした。

 ……めでたし、とも、言えないんだけど。




「……どう?」

「治りはしました。けど、ちょっと根が深そうです。ちょっと寝てはすぐ魘されて起きちゃうみたいで」

「……トラウマになるなっていう方が無理ですね、あれじゃあ」

 私は見てないけれど、針生は相当酷い状態だったらしい。

 メイドさん人形を通して聞こえた音から推測するに、針生は拷問でも受けてたんじゃないかと思われる。

 それは大体合ってるみたいだったけれど、詳しい状況を聞いてみたら、「お前には知られたくないと思う」と返ってきたのでそれ以上聞けなかった。

「……晩御飯、食べる?」

「あー……俺、いいや、ちょっと、食欲、無い……」

 聞いてみるも、角三君を筆頭に、全員食欲が無いようなので、本日の晩御飯はお休みです。

「じゃあ、私は後始末してくるわ。くれぐれも針生の事、頼んだわよ。何か必要なものがあったら何でも言ってちょうだいね」

 先輩は「後始末」に出かけて行った。今日は帰れない、とか言ってたから、結構大仕事になるんだろうなあ。貴族を大幅に処分しなきゃいけないんだから、そうもなるか。


 先輩が出て行って少しして、針生が飛び起きた。

「……あー……夢か……夢だよね?」

「夢だよ、大丈夫だよ」

 加鳥が手を握ると、針生も落ち着いたのか、荒かった呼吸も落ち着いてきた。

「あー、ごめん、水、貰える?」

「はい」

 水は枕元に元々用意してあったので、水差しからコップに移して手渡す。

「……あー、水が美味いわ」

 じっとり寝汗かいてるらしかったので、とりあえず『お掃除』しておいた。

「ごめん、俺もうちょっと寝てても平気?」

「ああ、平気だ。ゆっくり休め」

「うん、ごめん、ありがと……」

 ……普段明るい、割とムードメーカー的存在である針生が、ここまで憔悴しきってしまう、と、いう事は……それだけの事を、された、っていう、事、なんだろうなあ……。




 針生が寝付いてから、暗い雰囲気の中で少し話す。

「どうしたもんかな」

「いっそ忘れちゃった方が本人は楽なんだろうけど、そう簡単に忘れられないだろうしね」

 そういうレベルの話らしい。

 ……忘れて、ねえ。

 前、私がハントルのお母さんと色々『共有』しすぎた時、ハントルはそこら辺を整理してくれた。

 けど、1人の中に在る2人(1人と1匹)分の記憶を分離して、片方回収する、っていうのと、1人が体験したことの一部を分離して消す、っていうのは、完全に別物だろうし、多分、それ以上に、ハントルのお母さんとハントルの関係だったからできたんだろうし。

 ……難しい、よなあ。消しちゃいけない物まで消しちゃうのは、怖いし。

「今のところは、のんびりやっていくしかないんじゃないんでしょうか。幸い、時間はこれからある程度とれそうですから」

 時間が解決してくれる、か。

 逆に言えば、それ以外、解決方法が見つからない。

 何とかできればいいんだけど。




 お茶飲みながら少し待っていたところ、針生が寝てる部屋から悲鳴が聞こえた。

「……起きちゃったみたいですね」

 魘されて起きたのか。

「悪いんですけど、舞戸さん、様子見てきてくれませんか?あの、俺達だと、また色々思い出すかもしれないから。すみません」

 救出に行った人よりは、一切関わらなかった私の方が、確かにそういう連想はしにくいかもしれない。

 ドアを軽くノックしてから入ると、布団の上で頭を抱えてじっとしている針生が居た。

 ドアを閉めるときにこちらに気付いたらしく、憔悴しきった顔でこちらを見て、へらり、と疲れた笑顔を浮かべた。

「ごめん、騒がしくしちゃったよね」

「いや、大丈夫」

 こういう時、自分のボキャブラリーの無さが嫌だ。なんて言ったらいいんだろう。

「お水、飲む?」

「うん、もらう」

 水差しからコップに水を注いで手渡すと、少し震える手で針生はそれを受け取って、ゆっくり飲む。

 私はそれをゆっくり見守る。

「水美味い」

「それは良かった。……何か欲しいものある?」

 コップを受け取りつつ聞いてみる。今何をしたらいいか分からない以上、聞くしかない。

「なんでもいいよ。欲しいものとか、してほしい事とか、なんでも」

 聞いてみると、窺うように針生がこっちを見てきた。

「……なんでも?」

「なんでも」

「まじで?」

「まじですとも」

 それから針生は暫く考え込んで、それから口を開きかけて、言い淀むようにまた閉じて、それからまた少しして、ようやく言った。

「え、えと、……じゃあ、あの……『銀河の果てまで』……あ、いや、ごめん、やっぱ無し」

 銀河の……ああ、うん。『抱きしめて』の下の句(?)ね。

「ほい」

 残念ながらやっぱ無しとか言われてももう聞いちゃったし分かっちゃったので、腕を伸ばして針生を抱き寄せる。

 もふ。

「……舞戸さん、大丈夫?嫌じゃないの?」

「いや、別に」

 回した手で背中をぽんぽん軽く叩いていると、もぞもぞ腕の中で動いて、腕が私の背に回った。

「……俺さあ、社長とかみたいに頭と心がきっちり離れてなくて、さあ。だから……分かってるんだけど、整理、できなくて」

「うん」

 少し、腕に力が込められるけど、まだ肋骨が折れるまでじゃない。

「すぐ思い出しちゃって。もう大丈夫だって分かってるんだけど、なんか、駄目で」

「うん」

 ……少し、声が震えてきた。

「……ああもう、やだ、俺、駄目だ」

 すん、と鼻を啜る音が聞こえたので、頭を強く胸のあたりに抱き寄せると、私の背に回された腕の力も強くなる。

 暫くそのまま、会話せずに針生の気が済むまで待った。


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