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10話

 とりあえず、皆さんがこの拠点にいてできる事が無くなるまでにまだ一日二日の猶予があるので、その間に皆さんの旅立ちの準備をしましょうね。私にできるのはそれぐらいだからね。




 とりあえず、私が居なくて何気に一番困るのは『お掃除』が無くなることだと思うんだ。

『お掃除』の凄いところは、洗濯・お風呂要らずな所。

 これが意外と馬鹿にならなくて、時間の節約だけでなく、洗剤とか、そもそもの替えの服がなくてもいいという事なので、今の今まで私たちは着たきり雀で生活していたのです。


 なので、皆さんの着替えを縫います。

 その為に布を織ります。

 その為に、糸を以下略。




 なので、とりあえずありったけ、木材を運んできてもらいました。

 運ばれてきた端から全部繊維にする。丈夫さを考えて全部リヨセル。セルロースを延々と繋いでいくだけの簡単なお仕事です。


 それを片っ端から紡いで糸にする。丈夫さを考えて、そんなに細い糸にならないように注意。

 そこら辺の調整もスキル様がやって下さるので、私は無心に手を動かせばいい。

 あ、糸紡ぎに関しては、流石に手紡ぎだと効率が悪すぎるので紡錘を導入しました。

 本当は糸車とか欲しかったんだけど、作れそうにないし、その為に針生と加鳥を捕まえるのも悪いのでやめた。

 この作業中にMPが切れたらしく、頭がぐわんぐわんし始めたのでMP回復茶を一気飲みする。

 ま、不味い。あんまり飲みたくないけどもう一杯……。




 MPをなんとか回復させて糸を全部紡いだら、それを織機に掛けてガンガン織っていく。

 速度と丈夫さ重視でやっぱり平織になるのであった。

 がしゃがしゃやってたらお昼の時間になったけど、今日も皆さんはお弁当持って行ったのでキニシナイ。私は只々時間が惜しい。

 燻製のお肉切った奴を適当に咥えながら手は止めない。


 布を全部織って、必要なパーツを全て裁断し終わったあたりで夕食の支度をする時間になりましたので中断。

 機織りにもMPを持っていかれたらしく、やっぱり頭がぐわんぐわんしていたのでMP回復茶を飲もうと思ったら切らしてたので、ミントを生のままもっさもっさ食べつつ夕食の支度です。




 鹿の脂を鍋で溶かした後にそこで押し麦を炒める。

 ある程度炒めたら醤油をじゅっ、と入れて、完全に焦げ付かない内に水を注いで煮込む。

 そこに刻んだ野菜を投入して塩で味を調えて一丁上がり。

 炊く時間がなさそうだったのでこんなのにしたけど、消化良くするのってあんまりよくないかもね。お腹が空くのが早くなる訳だし。

 後は鹿肉の焼き物とサラダでご飯ですよ。




 皆さんが帰ってくるまでに集中力&スキルをフルスロットルで、何とか一着分、着替えを縫う事に成功。

 着替えっつっても、Tシャツと紐で結ぶタイプのおズボンなんだけどね。大したものは作れないです、ごめん。

 おそらく着替えとして最も必要であろう下着の類は、皆さんの希望を聞いてから作ることにしよう。

 うーん、こういう時に性別の差って不便だよなあ。

 全員女の子だったら容赦なく私の趣味と材料の都合で紐パンにしたところですが……構造がね、分からんのです。

 ……うん、なんとなくさ、こう、お父さんとお兄ちゃんのパンツ干したりしてたからさ、なんかこう、そういう穴があるっていうのは分かるんだけどさ、こう、まじまじと見てたりした訳じゃないんで……うん。

 ……これ、皆さんに聞いたら絶対嫌な顔されるよなぁ……。




 皆さんが帰ってきたので夕食。

 皆さんがいつも通りの角生えた鹿と、こちらは初めて見る牙が刃物でできてる猪を持って帰ってきました。解体は……あとにしよう。とりあえず開いてモツと血抜きだけやっておいて、残りは夜にでもやりましょう。

 皆さんはどうやら明日も探索に行く模様。明日で探索はおそらく終わって、明後日は旅支度になるそうです。

 よかったー。とてもじゃないが、明日一日じゃあちょっと縫い物その他諸々が終わる気がしなかった。




「あー、ところでさ、ちょっとお伺いしてもいいかね」

「ん?何?」

 作業を切りのいい所まで終わらせたら、比較的暇そうにしてた角三君を捕まえる。

「あのさ、君達のパンツってどういう構造してんの?」

 変に聞かないでいても困るし、だったら潔く聞いちまえ、ということなんだけども。

「……え?」

 角三君は固まってしまった。

「着替え、いるよね?でもこう……構造が分かんなくてさ……」

「……え?」

 解説しても、固まりっぱなしであった。




 緊急会議になりやがった。

 こう、ぱぱっと、説明してくれればいいんじゃないの、って思ったんだけどさ、なんか難しいらしい。

「……舞戸」

「はいな」

「お前はどこらへんまで把握してるんだ」

「なんか穴があるんだろうなあ程度」

 ここで皆さん、ひそひそもそもそ、話し始める。

「あのさ、実物は無いのかな」

「無い。この世界に来るときにもう下着類まで全部ファンタジー仕様になってたし」

 そういえばそうね。

 私も今履いてるのは紐パンみたいな褌みたいな奴だよ。面積広くて履き心地は悪くないよ。

「……で、その、だね、私にそういう器官が無い以上、こう、想像ができんのだけど、あれって右と左どっち」

「舞戸、黙れ」

「えっと」

「黙れ」

「……あの」

「頼むからちょっと黙っててくれ。すまん。お前に悪気が無いのも完璧に善意なのも分かってる。けどすまんが俺達がこれをお前に説明するのには膨大な精神力の消耗を伴うんだ。分かってくれ」

 鈴本に滅茶苦茶真剣にそういうことを言われてしまったら、お、おう、となるしかない。

 そしてまた延々ともそもそひそひそ会議である。


 それからなんというか、オブラート10枚位に包まれた説明が来たんだけど、抽象的過ぎて色々分からなかったのと皆さんも分かられたくなかったっぽかったのでもう褌でいいよね?ってことになりました。

 褌なめんな?あれだぞ?南極観測隊も使うほど高性能な下着なんだぞ?




 夜です。皆さんは寝てます。私は解体してます。

 そういえば、解体は庭ができてから全部庭でやってる。

 庭の一角に石畳風の場所を作ってもらってそこで解体することにした。じゃないと色々と床が大変なんだよ。

 いくら『お掃除』で一発だからと言って、あまり精神衛生上よろしいものでもないし。


 解体したお肉はその9割に塩とハーブ類を当てておく。

 現在保存食になる食べ物があんまりないので、明日明後日で大量生産せねばならんね。

 ええと、とりあえず明日の昼前位まで塩漬けしておいて、それから吊るして風乾させて、明後日の朝一あたりからじっくり燻煙かけていけばいいかな。

 ということで今晩中に何とか解体は完了させねばならんのですよ……。くそう、猪の大きさが憎いぜ。




 はい、朝です。おはようございます。

 何とか解体もお肉の処理も終わらせて、ぎりぎり何とか現在起きられた。

 それでも普段なら5時に起きてお弁当と朝ごはんの支度をする所が、現在6時10分。

 やばい。しかも眠い。

 私は本来7時間以上眠らないと体が動かない人なんだけども、昨夜は解体とかの所為で日付が変わってしまいました。つ、つらい……。

 何とかかんとか、お弁当と朝ごはんを皆さんが起きる前に作り終える。

 や、やばかった……。最近ご飯作るのに慣れてきて、速くなってるのが功を奏した……。




 という事で、朝ごはんを食べたら皆さんは今日も出発。

 私は昨日の続き。

 ひたすら縫う。縫って縫って縫いまくる。

 途中でMPが尽きたらミントをもっさもっさ食べながら縫う。

 そのおかげで何とか、昼前には全員分の着替えが縫えた。

 ただ、このままだと全部生成り色一色であまりにもアレなので、折角だし染色しましょうね。




 もうここまで来たら文句いう奴もそうそういまい、と考えて、包丁を装備して籠を背負い、外へレッツゴー。

 ドアから出て少しの所で月桂樹を発見。

 大きい木だから少し位貰っても大丈夫だろう、という事でばっさばっさ枝を切り落として貰っていく。

 採集作業中に鳥の鳴き声が聞こえたんで慌てて月桂樹の木の下に隠れたら、数度私の上あたりを旋回してからどこかへ戻っていった。

 ほっ。




 大量に持ってきた月桂樹の枝をこれでもかというほど鍋に突っ込み、煮る。

 できればでっかい鍋でやりたかったけど、そんなものは無いのでしょうがない、土鍋と雪平鍋と1Lビーカーを総動員して月桂樹をひたすら煮出す作業を進める。


 その傍らで、塩漬けしておいた肉類の処理。

 表面の塩をざっと流して、糸を通してカーテンレールにぶら下げていく。

 窓を開けておいて、このまま風乾させる予定。

 肉の量が量なので、全部吊るし終えるころには肉のカーテンと化していた。なんか嫌な眺めだなあ……。




 そうこうしている間に月桂樹が煮出せたので、葉っぱは取り出して、煮汁を鍋にセット。

 そこでぐつぐつやりながら、シャツとかおズボンとかを入れて煮込んでいく。

 一度に全部はできないから手間だ。


 服を煮ている間に定着剤の用意。食べ物用じゃない金属ボウルが食べ物用の金属ボウルの他にいくつかあったので、そこに媒染液を入れておく。

 ミョウバン媒染と鉄媒染の二種類を用意。薬剤は薬品庫のを貰う。


 服を煮汁である程度煮込んだら、おズボンは鉄の方、シャツはミョウバンの方に投入。

 そのまま少し置いたら水で洗ってまた煮汁に投入。

 また煮たら、引き揚げて水洗いして乾す。

 ただし、乾すにしても、カーテンレールは肉で埋まっているのであった。

 乾す場所が無いからちょっと自棄になってハタキで叩いたら水が飛んだので、『お掃除』は服の脱水もできる事が判明。何気にすごいと思う。

 ただ、やっぱりというか、食べ物の水分を抜く、とかいう事は出来なかった。

 あくまでも洗濯物を乾かす、という範疇で可能、っていう事なんだろう。

 練習次第ではこっちも何とかなるかもしれないけど。


 ……と、まあ、以上の工程を済ませ切った辺りで、アセテートで作ってみたワンピースの存在を思いだし、それもついでに染めておくことにした。

 ミョウバンだとベージュ、鉄だとグレーっぽく染まるので、鉄の方で媒染。

 乾燥もお手軽、ハタキで一瞬。ナイスハタキ。エクセレントハタキ。

 まだおやつ時だ。皆さんが帰ってくるまでには猶予があるので、折角だから着てみることにした。


 いやー、このメイド服脱ぐのって、この世界に飛んできて以来だから……やばいね、実に一週間ぶりだよ。意外とこの服って、クラシカルな所為でロングスカートだし、なんか重いし、肩が凝るのである。

 という訳でさくさくっと着替えてみた。

 あ、軽い。めっちゃ軽い。

 やばい、メイド服って滅茶苦茶動きづらい服だったんだなあと実感できる。

 なんとなく、気分まで軽くなってくる。よーし、じゃあパパ頑張って猪の牙、加工しちゃうぞー。




 猪の牙は、反りのある短刀と言った風情だった。

 こんなもんが生えてるとか、この世界の生き物ホントに不思議生物だな。

 どう見ても材質は金属っぽいし、刃がちゃんと付いてるし。ちょっと加工したらナイフとして使えそうである。

 という事でまずは『お掃除』で、牙を根元から切り離す。

 ごく薄い板を切断したい所から削り取るイメージで『お掃除』すれば、切断も可能なのでは?と思った結果がこれだよ!上手くいってよかったよ。

 その後、加工に邪魔な部分の刃を『お掃除』で潰していって持ち手の形に削っていく。

 よし、できた。あとはこれに目釘通す穴を開けて……ん?

 あれ、なんで私はいつの間に『お掃除』をこんなに使いこなしてるんだ?おかしくね?

 なんかできる気しかしなかったからやってみたけど、やってみてできちゃったけど……これ、おかしくね?

 なんで?なんで?

 しかもいつものMPごっそり持っていかれました感が薄い。

 ……ま、マジでなんで?


 変わったことと言えば……新しい素材を『お掃除』した事と、着替えた事ぐらいか。

 うーん、とりあえず木材を『お掃除』してみる。条件を揃えるためにこちらも包丁の持ち手みたいな形に『お掃除』だ。

 ……うん、普通にできる。

 じゃあ、もう一回着替えて、メイド服で同様のチャレンジ。

 ……うん、なんかできない。

 コツは分かったからその通りにやろうとするんだけど、なんか、『お掃除』のコントロールにあらん限りのMPをごっそり持っていかれて、そのせいで思うように動かせなくなる、っていう感じだ。

 つまり、メイド服を着ている時にMPがごっそり持っていかれるか、ワンピース着てる時にMPを持っていかれにくくなるか、って事になるね。

 普通に考えれば、これ、ワンピースのおかげなんじゃないだろうか。

 染料にMP回復速度上昇の効果のある月桂樹を使ってるわけだし、そういう効果が何かあってもおかしくはない。

 となると、他の染料も試してみたくなるわけですが、はい、時間切れ。

 そろそろ皆さんが帰ってきちゃうので、急いでご飯の支度をしましょう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] お掃除、便利だよねえ 現実世界でも使えればいいのにって思う
[良い点] 舞戸さん、紐パン派なのか… なんか、いい( *´︶`*)
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