126話
ということで、魔王装備に着替えて玉座に座る。やばい。不敬罪でひっ捕らえられても文句言えない!
「いい?舞戸。私はあなたの指示に従うけれど、もしあなたが危険になったらあなたの指示一切合財無視するからね!いいわね!」
そう言って、先輩は玉座の間の奥に引っ込んでいった。
先輩にはこの王城をトラップハウスとして動かす役目を担ってもらう。
私が合図したら順番に1つずつ作動させていくかんじだね。
……そして、いざどうしようもなくなったら、つり天井である。ちなみに、うっかり天井を斬られたりするといけないので、天井を二枚にして隙を生じぬ二段構えになっている。
……今回、私と先輩がやる事は、1つだけ。即ち、時間稼ぎ。
皆さんが針生を救出して帰ってくるまでの間、ひたすら時間稼ぎと足止めをするだけ。
その為に、針生を最速で救出して帰ってくる為に、戦力のバランスをここまで偏らせたのだ。
最悪の場合、女王さえいれば相手は何回でも攻めてこざるを得ないんだから、先輩が無事なら足止めできなくても問題ない。
そう考えれば十分いける気がする。
何より、福山君を足止めする話題には事欠かないのだから。
玉座に腰掛けて数十秒で、玉座の間に人が大勢ワープしてきた。
うん、正面に居るのは福山君、その他に異世界人だとぱっと分かる人が十数名、それっぽいのがさらに数名、後は恐らくこの世界の人間だろうなあ。
女王の風貌位は元々聞いていたんだろう。明らかに女王じゃない私が玉座に座っているのを見てざわめく相手。
そして、何より、福山君は直接『魔王』を見たことがあるから、余計に頭がこんがらがった模様。
さて、ここからが腕の見せ所だ。この機会だ、言いたかったセリフ全部言うぞー!
「待っていたぞ、勇者達よ」
錫杖を弄びつつ余裕の笑みを浮かべて言ってみると、明らかに勇者っぽい……つまり、異世界人っぽい人達が反応した。わかりやすい!
「お前は誰だ!」
その内の威勢のいいのが早速噛みついてきた。ふむ、前口上聞かずに斬りかかるとかする人じゃなくてホントに良かったです。はい。流石勇者。
「余は魔王。絶対無比の存在なり」
言いながら、手に握りこんでおいた元凶を見えないようにそっと浮かべると、早速勇者たちが違和感に気付いたらしいけれど、多分……魔王のプレッシャーだとか思ってるんじゃないだろうか。少なくとも、「貴様何をした!」っていう雰囲気では無い。
「女王はどこにいる!」
それでも最初に噛みついてきた威勢のいいのは果敢に質問を重ねてくる。
「ふむ。……では、逆に問おう。女王は……どうなったのであろうな?」
思わせぶりに言ってみると、やっぱり都合よく誤解してくれたのか、表情が面白いぐらい変わっていく。皆さんリアクションが大きくて助かるよ。うん。
「そして、考えてみよ。何故、余がこの玉座に座っているのかをな!」
答えは女王と魔王が仲良しだからなんだけど、多分そういう回答に辿り着く人は勇者とかやらないと思う。
案の定、勇者諸君はそれぞれに武器を構え始めた。
うん、このまま戦闘開始すると私は瞬殺されるので、もうちょっと引っ張らないといけない。
ということで、福山君には悪いけど、そのトラウマを存分に抉らせてもらおう。
「まあ、そう急くな。折角なのだ、少し話でもしようではないか」
勿論そう言って止まってくれる人達じゃあないよなあ、という事は想像がついたので、2つ目の元凶を宙に浮かべる。
たちまち勇者諸君は動きを止めてしまうので、後に控えているこの世界の人っぽい兵士も動けない。
それを見てから元凶2つ目をまた手の中に握りこむ。
「貴様、福山といったか?」
「なんで僕の名前を!」
名指しされるとは思ってなかったんだろう、福山君も、福山君以外の人も結構驚いてくれた模様。ふむ、これで話を聞いてくれるかな?
「貴様のせいで死んだ女が居たな?」
笑いながら言ってみると、面白いぐらい福山君が固まった。
「ふむ、わざわざ夜の森へ連れ出しておきながら、いざユニークモンスターに出会った時には成す術も無く倒され、しかもその女を見捨てて貴様、逃げたな?」
「ち、違う!」
悪いけど、この話題でもうちょっと引っ張らせてもらうぞ。
「ああ、女を見捨てたのではなく、女を自分が逃げるために囮にしたのであったか?」
福山君は顔面蒼白を通り越して土気色になってきた。
「そんな貴様が勇者だというのだから笑わせる」
因みに福山君以外の人は福山君と私を交互に見ながらざわざわしているばかりである。うん、もうちょっとざわざわしていてくれると嬉しい。
「そしてそれに飽きたらず、もう一人殺したな?」
「やめろ!」
「やめぬわ。……2人目は見殺しどころか、貴様自らの手で殺したのであろう?」
「やめろ、聞きたくない……」
「聞け。……投げた刃物で違うことなく心臓を貫いたその手腕、見事であったぞ?」
これ以上言うのも可哀相なんだけども、君達が針生捕まえた挙句、拷問とかしなければ、時間稼ぎなんて必要なかったんだし、私だってこんな事しなかったさ。だから言う。
「因果なものだな?わざわざ姉妹そろって殺すとは。もしや貴様、殺人趣味でもあるのか?」
「違う……違う……」
「余には分かるぞ?貴様に殺された姉妹の怨念がな。まさか恨まれていないなどとは思っておるまいな?」
多分、ここまで来たら福山君、もう戦えないんじゃないだろうか。あ、いや、バーサク状態とかになる可能性も否定できないか。
「おい!魔王とかいったな!御託はいいからとっとと戦え!」
福山君をこれ以上精神攻撃されたらまずいと思ったのか、脇に居た威勢のいいのが口を挟んできた。
しかし戦い始めたら稼げる時間は本当に少しなので、できる限り前口上で引っ張りたいんだよ。
「何を言う。折角こやつにとって有益な取引を持ち掛けてやろうと思ったのに」
「……取、引?」
福山君がぼんやりしながらこっちを見てきた。うん、よし、乗ってきた。
「……福山よ、お前が殺した姉妹を生き返らせたいか?」
そのセリフの効果は凄まじかった。
途端に福山君、今までぼんやりしていた意識がはっきりしたみたいに反応し始めた。
「本当に、本当に生き返らせられるのか!?」
「舐めるな。余は魔王ぞ?」
余裕たっぷりに微笑んでやれば、福山君の顔が急に生き生き、というか、ぎらぎらしはじめた。
「頼む!生き返らせてくれ!何でもするから!」
「おい、福山!」
「福山君!」
おーおー、勇者も仲間割れかな?
「そうか、何でもするか。……では、まずは選ぶがよい。生き返らせるのは姉か?妹か?」
会話を引っ張るための問いなんだけど、効果抜群だった。
「ど、どっちかしか駄目なのか?」
「おい、福山!こんな奴のいう事聞くな!急がなきゃいけないだろ!」
「そうよ!私達はしなきゃならないことがあるでしょ!?」
周りから福山君を止めに入る他の勇者諸君。しかし、福山君は悩むばかりである。
うん、いっぱい悩んで時間を稼いで欲しいね。
「別にどちらも生き返らせなくても良いのだぞ?さあ、早く選ぶがいい。余はそう気の短い方ではないが、限度というものはあるでな?」
「じゃ、じゃあ……あ、姉の方……」
「ほう、そうか。見殺しにした方か。妹の方かと思ったのだがな。なんだ、姉の方に思い入れでもあるのか?」
……まだもう少し時間稼ぎしないといけないか。ああああ、この部屋に時計でもくっつけておけばよかった。
「ど、どうでもいいだろ、それで、何をしたらいい?どうしたら生き返らせてくれる?」
ね、どうしようね。
少し迷うふりをしつつ本当に迷った結果、こういう事にした。
「投降せよ。この国は諦めよ」
そう言うと、明らかに全員に緊張が走った。
そりゃそうだよ。投降しろとか、福山君以外の人は全員利害が一致しないから。
「冗談じゃねえ!この国を元の王に返すって約束したんだ!」
「私達と同じ生徒の不始末は私達で付けるのよ!」
前国王、中々慕われてるね。
「ふむ、そうか。ならばこの話は無かった事にしよう」
錫杖を構えるのは勿論、ふりである。いつでも先輩に合図を出せるように注意しつつ、展開を見守る。
「待ってくれ!なあ、皆、一旦引こう」
「何言ってんだよ!今を逃したらもうチャンスは無いぞ!?」
「でも、人の命が掛かってるんだ!」
「馬鹿言うな!こっちにだって人の命は掛かってる!いいか!?この国が奪われたせいでこの国の人は苦しんでるんだぞ!?お前はそれを見逃せるのかよ!」
「けど……ごめん!『空間跳躍』!……あ、あれ」
……お?これは……これは!
「な、なんで発動しないんだ……!?」
来た!
「知らなかったのか?」
さあ、私はこれを言う為に魔王やってきたと言っても過言では無い!
「大魔王からは逃げられない」
……決まった!
はあ、我が魔王人生に一片の悔いなし、と言いたい所だけど、ここからが本番だ。
戦闘でどのぐらい時間が稼げるだろうか。
さて、皆さんが帰還するまでにあとどのぐらいかかるんだろうかね。
「そっちから来ねえんならこっちから行くぜ!」
早速大剣を構えて一人突っ込んできそうなのが居る。やめていただきたい。
それでも余裕の表情は崩さずに、錫杖を少し動かしつつ、先輩の側に置いてあるメイドさん人形を動かして合図を送る。
「もらった……うおわああっ!?」
はい、床が抜けて、そこに突っ込んできた勇者君もろとも、回避できなかった人は全員落ちた。
落ちた先は『転移』封じの糸と社長謹製毒の海だ。多分死なないって言ってたから大丈夫だろう。
こうでもしないと私が死ぬので諦めて欲しい。
続けて合図を先輩に送ると、左右の壁から網が発射された。
避けて壁に張り付いたり魔法で浮いたりしていた人にうまく絡まって、場は混乱状態になる。
そしてその間、私は歌いっぱなしである。勿論、『子守唄』。耐性がある勇者が居たら厄介だけど、これでほとんどは無力化できるはずだ。ちなみに曲目はシューベルトのあれである。ほら、魔王だから、魔王。
しかし、驚くべきことにそれでも眠らず落っこちない人もいるんだな、これが。
なんでだ、そういう耐性でも……ああ!ドーピングの宝石!
そうだよね、仲間が持ってる物を敵が持ってないなんて事は無い!
くそ、これは想定外だった。眠ってくれないとなると、本当に手段が無くなってきた。
というか、毒の海から戻ってくる人まで出てくる始末。お前らゾンビか!
「卑怯だぞ!正々堂々戦え!」
お前らこそ、1人相手にこんな大人数で恥ずかしくないの?しかもその1人、戦力0だよ?
「ほざけ」
あんまり戻ってこられると困るので、先輩に合図して床を閉じてもらった。
これでよし、さて、これで勇者以外の兵士たちと、勇者の半分ぐらいは落ちたかな?
ここからが問題だ。残りのトラップはつり天井と上から降ってくる網位しかない。
それだけで、10人ちょっとの勇者相手に、あと何分、いや、何秒粘れる?
……いや、粘る。なんとしても、粘る。
福山君は落ちたらしいから、精神攻撃ができないのが辛い。いや、それでもやってみるだけやってみるか?
……と、口を開きかけた時。
「待たせたな」
瞬時に玉座の間に現れる頼もしい仲間達。
「よく帰った。待ちわびたぞ」
一気に力が抜けそうになるけども、私、魔王である。緩むのは顔だけにしておこう。
「これだけ?残りは?」
「床下だ」
「へえ、じゃあさっさと片付ける?『アイスウォール』」
羽ヶ崎君の魔法によって第二回戦開幕、と言った所かな。
いや、もう勝った気でいるけどさ。




