124話
朝ごはんができた頃全員起きてきたので、朝ごはんですよ。
先輩はお城のご飯なので、「いいなー!いいなー!ご飯美味しそうだなー!舞戸の作ったご飯私も食べたいなー!あー妬ましい!」と文句を言いつつそっちに行った。
お城ご飯は基本的にパン食なのでさぞ羨ましかったものと思われる。どうもすみません。おやつに小さいおむすび作っときます。具は昆布の佃煮とお魚のほぐし身で。
朝ごはん中に昨夜得た情報を話したり、あと、『転移』封じについて結構色々と議論が捗った。
そもそも相手がどうやってこっちに来るかが問題でさ、『転移』の上位互換みたいな奴で突然ワープしてこられたら非常に困るんだけど、まず間違いなく向こうはそう来るだろうし。
奇襲って強い、っていうのは私がこの世界に来て学んだことの1つでもある。
……詳しく聞くわけにもいかなかったからあいまいな部分も多いけど、福山君の『転移』上位互換みたいなスキルは、距離と方向を指定する、または、場所自体を指定するとそこにワープできる、っていうスキルであるらしい。
つまり、王城どころか、町にすら入らずいきなり玉座の間に来られる可能性が割とあるんだ、これが。
……ただ、単騎で来るならまだしも、聞く限り結構大人数で来そうなかんじではある。
だとすると、『転移』ではMPの消費は運ぶものの重量と距離にだいたい比例するから、ある程度近づいてから、っていう事になるような気もする。何人運ぶつもりなのかは分からないけれど、神殿から奪還した勇者の命(物理)の数を見る限り、20人は超えてると思うんだよ。
そして神殿の騎士の派遣を要請していたらしいから、人数が増えることは厭わなさそうだし。
となると……やっぱり、こっちとしては対策がやりにくくてしょうがないんだ。
事は一発勝負で出落ち系と来たもんだから、できる限りの事はやって対策をして成功率を上げたい所ではある。
いつ来るのか、どういう経路でくるのか、何人で来るのか。
ここら辺まで分かれば非常に良かったんだけど、流石にそこまでは分かってない。
いつ来るのか、に関しては、貴族の動きを見てれば大体分かる。経路は、ワープしてくるんだろうな、っていうことは分かる。何人で来るのか、っていうのも、結構大所帯なんだろうなあ、ぐらいの想像は着く。
しかし、その程度なのである。
……実は、この辺りを知る方法はあるんだ。
つまり、福山君のお宅にお邪魔すれば多分分かることなんだ。不用心にも福山君はどこに住んでるか教えていってくれたからね!
……なので、針生の今日の予定はそっちの偵察、っていう事になる。
私が舞戸(妹)として行ってもいいんじゃないかという案はさっくり却下された。
うん、まあ、二度あることは三度あるし、今度こそ死にかけたらそのまま死ぬかもしれないから、というのは分かるし、異論は無い。そもそも、私は『転移』封じの網を量産するという仕事があるからね!
最悪の場合、針生ならとりあえず影に隠れてやり過ごす、とかもできるし、そもそも影に居ればそういうスキルを相手が持ってでもいない限りは見つからなくて済むんだし、『忍者』だから大丈夫だろう、という理由で針生が単身デイチェモール南エリアに送り込まれた。
何かあった時にすぐ戻ってこられるように、鳥海がジョージさんの所で待機中である。
霊薬製造班は鳥海と針生と一緒にジョージさんの所に行って、霊薬の材料について聞きに行った。
加鳥はグライダ戦で溶けたりした装備の補修をする模様。
それから、あれだ。……室内で人型光学兵器はちょっと、というか、かなり戦いにくいから、そこら辺の制作もするらしいね。
そして余った鈴本と角三君は元凶の浮いた部屋で筋トレである。暇になってきたらしく、腹筋しながらしりとりやってるのがシュールで何やら笑える。
さて、そしたら私はまた網を量産するとするかな。
この『転移』封じの糸、どうにか上手く扱いやすくできないものか、と考えた結果、片栗粉まぶすことにしました。
そうする事であら不思議、あのぺたぺた具合が収まって、割とするする編めるようになった。
編みあがったら『お掃除』で付いた片栗粉を落としてあげればもとのぺたぺた具合に戻るしね。
この分ならこれで織物もいけるかも、という事で、現在ガタガタ機織り中である。
結論から行けば、うん。可能。
これで絨毯みたいな物体をでっかく作って玉座の間に敷いておけば『女王様からは逃げられない』が可能になるね!
しかし、この方法、もっと早く思いつけば良かった。昨日の私は何をぺったらぺったらさせながら頑張って編んでたんだ。アホみたいである。
ああ、昨日の段階でもっと食欲が……あ、いや、いやいやいや、糸に片栗粉まぶす、っていう方法、揚げだし豆腐が食べたくなったから思いついたっていう訳では無いんだよ、決して!
延々と鈴本と角三君のしりとりを聞きながら織り続けた結果、午前中になんとか敷物作ることに成功した。
ひたすら緻密に綾織していった結果、耐震ジェル糸の癖にそこそこ見られるものになった。
あとは目的に合わせて『染色』するなりすればよさげだね。
現在の候補としては『火無効』かな。燃やされるのが一番厄介ではあるし。
……ここら辺が最近分かったことなんだけれども。
『火無効』が付いた装備を装備すると、その『火無効』は装備者に付く。つまり、別に全身覆ってなくても『火無効』な訳だ。
その代わり、『防御力上昇』みたいに、面積に応じて効果が出てくるんじゃなくて、ある一定以上の面積が無いと効果が出ない、っていう0か1かの効果になるみたい。
そして、その装備自体、つまり、装備してない装備、服とか布の状態の『火無効』装備はどういう扱いになるのか、っていうと、その装備自体が『火無効』になる。
つまり、燃えない布ですよ。火鼠の皮衣ですよ。
これを使えば燃えない絨毯ができるという訳なのですよ。
……他に考えたのは、『防御力上昇』で耐久性を上げるとか、『魔法無効』で魔法全般に強くするとか。
そうだなあ、魔法で破壊されるのも怖いなあ。うーん、ここら辺は要相談かね。
全員一旦帰ってきたのでお昼ご飯にしますよ。
針生と鳥海はこの後また行ってくるらしい。お疲れ様です。
お昼ご飯は揚げだし豆腐食べたくなったんで揚げだし豆腐。そしてご飯に味噌汁と鯖っぽい魚の味噌煮。
……満足!
そして例の如く、ご飯食べながら各自報告である。
「福山の所見てきたけど、人が居なくてさ。生活してるかんじはするから、多分外出中なんだろうとはおもうんだけど。午後また見てくる」
おや、そうか。まあ、引きこもってないことは確認されたって訳だな、うん。
……私、割と福山君の精神状態が心配なんだけれど、何かに打ち込んでる間はとりあえず大丈夫な気がしないでもない。引きこもってないって事は大丈夫なんだろう、多分。
「僕たちの方は、『碧空の種』が植物の種じゃないことは分かった。宝石らしいね。王都の宝石店とかに時々あるらしいからジョージさんと午後行ってくる。『奈落の灰』についてはさっぱり」
うん、こっちは1歩前進、っていう所だね。
「『奈落の灰』って位だし、地下とかにあるんですかね?」
……ごめん、関東ローム層をイメージしてしまった。多分違う気がする。
「大司祭はどこから手に入れるか知らなかったんでしょ?」
「もっかい見てくる?」
「いや、いい。となると、どこかから仕入れてたのか、元々神殿にあってそれを使ってたのか、って事になるから」
そうかあ、神殿か。
……昨日せっかくアリアーヌさんとこ行ったんだから聞いてくりゃ良かった!ごめん!また夜になったら行ってくる!
「僕の方は捗ったよ。鳥海の鎧と角三君の鎧直ったから後で確認しておいてくれるかな。あと、針生の装備も頼まれてた分作っておいたよ」
「おー、サンキュ。で、加鳥の装備は結局どうなったの?」
「うーん、やっぱり室内で動けるサイズだから、パワードスーツ型になりそうだね」
君は一旦そこから離れたらどうかね?一時期は君、普通に弓とか銃とか使ってなかったっけ?
「私は絨毯作りました。『染色』どうするかは針生の偵察の結果が出てから決めるんでいいよね?」
「いいんじゃないかな。……あ、そうだ。舞戸さん、網を打ち出す装置作るから、網いくつか貰っていっていいかな?」
「構わんよ。これからは大量生産が可能になりそうだから」
加鳥は嬉しそうに何か考え始めたんで、多分そういう夢と浪漫の詰まった何かができるんじゃないでしょうかね、はい。
「俺達は「ぷ」から始まる単語の発掘してた」
「……あと腹筋鍛えた」
うん、私ががっしゃんがっしゃん機織りしている最中、ずっとしりとりやってたからなあ。
プールとかプラスチックとかより先にプラグマティズムが出てくるあたりが素晴らしかったと思う。
「……プアラルンクールじゃなくて、クアラルンプールだ、って気づいた時の絶望が凄かった」
「ああ、あの時の、そういう理由だったのか?突然角三君が凄く落ち込んだから何かと思った」
うーん、さっきまでの報告との落差がすごい!
午後は午後でまた皆さん各自やる事やり始めた。
霊薬製造班はジョージさんと一緒に王都へ、針生はデイチェモール南の福山君の住んでる家へ。鳥海はタクシー係として駆り出され、加鳥は城内の空きスペースでひたすら何かを作り、私は網をひたすら編み続け、そして鈴本と角三君は「どうせ2人しかいないんだったら2つしか無い元凶を装備してしまえ」という考えに至り、ぐったりしている。ぐったりしながら潜水艦ゲームやってる。暇なら編み物教えてやろうか?ん?
「ただいま」
「あ、お帰りなさいませ霊薬製造班。首尾はどうよ」
おやつ時になったら霊薬製造班が帰ってきた。鳥海はタクシーしてMP補給したらすぐジョージさんところに待機しに行ってしまった。針生が居るからね。
「これが『碧空の種』らしいです」
社長が袋から出して見せてくれたのは、透き通ってひたすら青い、潰れた雫形をした宝石だった。1つ1つは親指の爪ほどの大きさで、それが袋にざらざら入っている。
……そんなに大量に仕入れるんじゃあ、大変だったろうに。
「ジョージさん凄いですね。ちょっとジョージさんが宝石店の主人と話したら、コレ貰えたんですよ」
……ジョージさんのあくどいドヤ顔が浮かぶようである。何だ、何の弱みを握っているんだ。
「他にも色々買い込んできたのであとで分配しましょうか」
それ、本当に正規の値段で買ったんだろうな?