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121話

 危うくチキンカツ食べ損ねる所だった。こいつらの食欲に泣きそう。

 なんでこいつらは時々こういう無駄な食欲を発揮してくれるんだろうか。いつもだったら普通にささみ4本もあれば満腹になってくれるはずだったのに。

 から揚げの時といい、こいつらの食欲は時々バグるなあ。どうしてこうなった。解せぬ。


 プリン出して片付けものして、少し雑談などをしていたら先輩が帰ってきた。

「舞戸―っ!プリン!」

「こちらでございます」

 ちょっとお疲れ気味の先輩の為に冷やして待ってたからね。プリン。

「ありがとう!これを励みに今日は頑張ったのよ!私!舞戸!褒めて!さあ褒めなさい!」

「えらいです先輩」

 ちゃっかり座ってプリンを食べ始めた先輩の頭をうにうに撫でつつ、実に美味しそうに食べる先輩を眺めて皆で和んだ。

 美味しそうに食べてくれると嬉しいよね。ね。


「ね、舞戸、これ食べ終わったら一緒にお風呂入りましょう!」

 美味しそうにプリン2つ目を食べた先輩。3つ目に手を伸ばしつつ、嬉しそうにそう言った。

「……OFURO?」

「お風呂」

 ……久しく、私達が聞いていなかった言葉である。

 なんか……懐かしいね、この響き。OFURO。

「……まさか、舞戸、あなた今までお風呂入ってなかった……ってかんじでもないわよねえ……?」

 不審がる先輩に『お掃除』の説明をして、実演もしてみた。

「便利ねえ、それ。でも、それとこれとは話が別よ。お風呂に入るっていうのは体を清潔に保つだけが目的じゃないわ。血行を良くしたり疲れを取ったりするのもお風呂の効果の1つよ。本当なら昨夜一緒に入るつもりだったのに、あんなことになっちゃったんだもの。ね。さあ、そうと決まれば行きましょう。そこの男子諸君は合宿の時みたいに女子の後に入るがいいわ!」

 勢いよく先輩はそこまで一気に言ったかと思うと、プリン3つ目を食べ終わり、そして、私を引きずってお風呂へ向かわれた。

 ……この行動力が、女王には必要なのかもしれない。




「今日はバラ風呂ね」

 お風呂場開けたら、別世界でした。

 広い浴場に華やかなバラの香り。大理石の湯船には綺麗な、黄みがかったピンクのバラの花が一面に浮かんでいる。

 なんぞ、これ……。

「……あの、先輩、これって……?」

「これもスキルの一環よ。自分の城ならどんな様にもできるわ。そう、『王城操作』ならね」

 ここで『女王』という職業について。

 この職業は、実は、『メイド長』と同じぐらい、補正が弱い。

 だから、先輩が私に抱き付いても私の肋骨は持ちこたえたって訳である。……恐ろしい事に、息ができなくなったのは、先輩の地の力である。怖いね!

 ……しかし、その代わり、最強なのである。バトルフィールドが自分の城であれば。

 城は『王城操作』で、床からいきなり槍出したり、壁から矢飛ばしたり、部屋を密室にしたり、つり天井にしたり、と、幾らでも弄れる。なんというトラップハウス。なんという刻○館。

 なので、待ち受けて戦う分にはおよそ他の追随を許さぬ強さなのだ、先輩。

 ……勿論、お風呂建造、みたいな、平和な使い方方向にも、かなり有能なスキルである。


「いい湯ですねー」

「でしょう?」

 背中の流しっこしたりして、湯船に浸かるとなんというか、お風呂の偉大さがよく分かった。

『お掃除』できるからって今までお風呂を作ろうとしなかったのは怠慢だったね。

 日本人たるもの、やっぱりお風呂に入ってなんぼな気がする。

 ……バラ風呂っていう時点で大分日本人的お風呂からはかけ離れてるけどさ。

「先輩は毎日このようなお風呂に?」

「毎日じゃないわ。今日は偶々バラが届いたからバラ風呂。一昨日は檜風呂だったわ」

 先輩、私、今日も檜が良かったです。

「バラのお風呂、好きなんだけど、流石にバラ生やしてる時間は無いし、消耗が激しすぎるから自前じゃないの。この国の貴族が送ってきたのよ。あ、勿論信頼できる貴族だわ。『平穏の薔薇』っていうんですって。綺麗でしょう?珍しい花なんですって」

 先輩は1つバラを湯船から掬って私の頭に乗せた。

「やっぱり折角女の子と入るんだもの、華やかな方がいいじゃない?それに、こんなお風呂、異世界でもなかったら入る機会無いわよ?」

 ……ご尤もだ。

 ここまで盛大にバラ入れたお風呂とか、リアルにやったらいくらかかるんだろう。あああああ、怖くて計算できん!しかも片づけるの大変だろうし!

 ……しかし、だ。

「先輩、これ、この後男性諸君が入るのでは」

 その時にお風呂が無駄に華やかである必要は無いのでは。

 むしろ彼ら、こういうのあんまり好きそうじゃない気が。

「……男子連中が入るのに薔薇はまずいかしらね」

 ……先輩、なんか、私が心配してる方向と先輩が心配してる方向が違う気がします。




 ということで、お風呂タイム終了。

 やっぱりそっちの方が楽しそうだ、という先輩のご意向で、お風呂はバラ風呂続行。

 先にお風呂に入ることになったらしい前衛4人がてくてくお風呂の方へ向かって行って、少ししたら「うわあ」みたいな声が聞こえた。うん。気持ちはよく分かる。

「……え、風呂、何かあるの?」

 羽ヶ崎君がどことなく嫌そうなので、特に何もないよ、と言っておく。半分嘘だがな!

「……舞戸さん、なんだか花みたいな香りがしますね」

 あ、社長は鼻がいいね。毒物ばっか扱ってるからそういう補正が高くなったとかじゃないよね?嘘の気配を察知したとかだったら嫌だな。

「……先輩とお風呂に入って、という事は……あ、社長、それ、百合の香りですか」

「いや、多分薔薇ですね、これ」

「逆じゃないですかー」

 ……うん。まあ、その風呂に君達、入る訳だけどね?


 そして、机の上では何やら、よく分からん植物とか干物みたいなのとか、羽とか、鱗とか、そういうものが並んでいた。

 この場の加鳥以外の3人……社長と羽ヶ崎君と刈谷、つまり、霊薬製造班は、霊薬の材料の確認をしていたらしい。

「これが『霊薬』の材料なわけです。『水精霊の花』は手に入りましたから、後、必要なのは『緋色蜂の蜜』と『碧空の種』と『奈落の灰』と『平穏の薔薇』ですね。それが手に入れば後は霊薬製造に入れるんですが、先輩、心当たりがあったりしませんか?」

 ……。

「『平穏の薔薇』?」

 それって……さあ。

「はい。もしかして……先輩。風呂、ですか?」

 私と先輩は顔を見合わせ……社長の言葉に先輩は立ち上がり……そして、先輩は凄い速さでお風呂の方へ向かうと……。

「5秒待ってあげる!見苦しいものは隠しなさい!ファイッフォーッスリーットゥーッワンッ!よし!入るわよ!」

 がらがらがらがら。

「うわあああああああああ!」

 ばっしゃんばっしゃん。

「先輩なんで入って来てるんですか!」

「今の5秒じゃなかった……!5秒なかった……!」

「先輩!これやめてって合宿の時言ったじゃないですかやだーっ!」

 がらがらがら。

 ……。

 凄くお風呂の方が騒がしくなり……それから先輩がバラの花を2、3個持って帰ってきた。

「これね?」

「……この花は元々くったりしているんでしょうか」

「仕様よ」

 ……それからしばらくして出てきた前衛4人は、お風呂に入っていたバラよりくったりしていた。うん、なんというか……止められなくてごめん。


「『鑑定』の結果、確かに『平穏の薔薇』でした。でしたが、状態があまりよくありませんね」

 そりゃそうだろ。お風呂に入ってたバラだし。

「これ、どこに行ったら手に入りますかね」

「そうねえ、送ってきた貴族に聞けば分かるはずよ。明日の朝一番に聞いてあげる。それから、『緋色蜂の蜜』なら、貯蔵していた食料の中にあった気がするわ。見てくるわね」

 そう言って先輩は席を立って行ってしまった。

「……さて。『奈落の灰』と『碧空の種』はジョージさんにでも聞いてみるとして、そろそろ霊薬にも目処が立ちそうですね」

 ついに、かあ。……合唱部の人達を生き返らせる、第一歩、だ。

「女神本の話だと、霊薬で『肉体』はなんとかなると思います。ただ、問題はその後ですね。……『命』です」

 そう。この世界は奇妙な世界だ。命が命(物理)になってジョージさんの家の地下に保存されてるのが最たるものだね。

「入れ物である『器』と、その『器』を入れる『肉体』までは目処が立ちそうな状態ですから。……舞戸さん、今の所、俺達の中で命(物理)を扱った事があるのは舞戸さんだけです。あれはどういうものなんでしょうか。人工的に作ることはできそうですか?」

 ……うーん、それは……なんとなく、できない気がする。

「……多分、作れない、と思う。代用品が無い、んじゃないかな、っていう気がする」

「最悪、命(物理)なら、ジョージさんの所に大量にあります。そして、女神本のいう所の『器』に当たるものがあの宝石なんだとすれば、舞戸さんが当初考えていた『募金』のような事が、できるんじゃないでしょうか」

 勝手に使うのはどうかと思うけどもな?

「何にせよ、今の所、その操作をするのは舞戸さんか、刈谷が新しいスキルを入手したら、刈谷、という事になると思いますが、不安要素もあります。まず、舞戸さんの『共有』の特性が未だによく分からない、という所です」

 ……うん。それは私もそう思うよ。

 元々は、メイドさん人形達を指揮する為の、『メイド長』としてのスキルじゃないかと思うんだ。

 けれど、私はこれをもっともっと早い段階で……ケトラミさんから、貰った、気がする。

 ……聞いてみるか。


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