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113話

 色々と作り終わった頃に、皆さん起きてきた。おはよう。

 ハタキで全員はたいて、朝ごはんを食べる。今日はご飯で朝ごはんだね。

「今日は海の中の町の探索だな」

「この世界って海とか湖とかに面した町多いよね。俺達がそういうのばっか見つけてるだけなのかな?」

 そうね。デイチェモールも、王都エイツォールも海に面した町だし、神殿は湖の上だし。

「……あのホモ術士、僕見て『北の方の出身か?』とか言ってたから、北にもあるんじゃないの、なんかしか」

 ……うん。そうね。私たちはまだ1Fの東の方は探索してないんだよなあ。あるとしたらそこら辺か、或いは、穂村君達が探索している北棟のあたりか。何にせよ、まだ町とかはあって然るべきなかんじがするね。

「ま、何にせよ、あの町は海の中にあるからさ、俺と鈴本以外の人は『転移』以外で町から出ようとしたら困るよね」

「……俺、水泳苦手だから……」

 角三君は水辺というか、水の中の町という事で、何やらげんなりしている模様。

 どうも、脚に筋肉ついてて脂肪が無いもんだから、脚から沈むらしい。そりゃ、水泳苦手にもなるわ。

「それ言うと僕も浮かないからね?」

 羽ヶ崎君も別の意味で脂肪が無いので、やっぱりあんまり浮かない。

「俺も水泳は余り得意じゃないですね」

 社長もやっぱり脂肪が少ないのであんまり浮かない。

「んー、いざとなったら皆俺に捕まればいいんじゃないかな?」

 鳥海は……異世界に来る前だったら、それができたかもしれないけども。

「でも鳥海も結構筋肉になっちゃったでしょ?浮き輪にはならないと思うなあ」

 ……この世界で肉体労働しまくってる内に、結構こいつ、脂肪が筋肉になっちゃってるからなあ……。

「この中で一番脂肪の割合が多いのは私だけど私に掴まるともれなく溺れるから注意な」

 そして、私は泳ぐのがそんなに得意では無い。一応、超スローペースの平泳ぎでなら200m位までぎりぎり泳げる、かもしれない。

「お前に掴まるぐらいなら藁掴むよ、僕は」

 おお、辛辣。

「……まあ、なんだ、とりあえず、全員鳥海か舞戸とは絶対に一緒に居ろ。何かあったらデイチェモールの質屋で集合だ」

 うん。妥当な所だね。緊急脱出の手段は私と鳥海の『転移』と、針生の『影渡り』だけで、針生の『影渡り』は色々縛りがあって面倒らしいから、実質使い物にならない。

「何かあったらすぐに連絡。それから、待避は早めに行うこと」

 やっぱり何かあってからじゃあ遅いんだもんね。うん。


 朝ごはんも終わって、裾上げが終わった装備を配布して全員着替えて、今回は軽く武装するにとどめた。

 ……鎧着てたら泳げないからね。いざという時ね。

 それに、まあ、変に警戒されるのもなんだし、という事で。

 その理由で今回はケトラミもグライダもお留守番だね。ハントルは私のポケットに入ってついてくることになった。ご満悦の様子。

 そして私の『転移』で出発。

 いざ海中のモーセ町(仮)へ!




「おお、水の壁だ」

 移動してすぐ、海水の壁に出くわした。

 ここは町の一番端っこの方だね。

「どうなってんだろうね、これ」

「物理法則の欠片も働いてないですね」

 元々結構働いてないけどね。

「とりあえず町の中心部に出れば体育館が近かったはずだ。行ってみよう」

 鈴本と針生が昨日上空から見た様子を手繰りつつ、一旦大通りっぽい所に出た。

「昨日はすぐ帰ってきちゃったから分かんなかったけど、あっちこっち物理法則おかしいねー、やっぱ」

 水の壁が外壁のようになったこの町では、水が色々おかしい。

 水が一点に集中して飛び込んでいく噴水の逆バージョンみたいな奴とか、水でできた花みたいなのとか、空飛ぶ鳥も水でできてて透き通ってたりして、色々面白い。

 ……まあ、しかし、だ。

「デイチェモール程活気づいてないな」

「露店とかも無いですね」

 街並みはエイツォールと似てるけど、露店とかがある訳でもなく、そこまで賑わう様子も無い。

「……人が少ない……?」

 やっぱり、規模が小さい町なんだろうか、人の数が少ないような気がする。

 一応物価とか調べる為に近くのパン屋さんっぽい所に入って見てみると、まあ、そんなにお値段が凄く違う、っていうような事も無かった。

 入った以上なんか買わないとまずいのでおやつとしてショートブレッドみたいな奴を買う。

 露店じゃないと冷やかしが効かないのがなー。


 まあ、何と言うか、水がおかしい、人がそんなに多くない、あと、奴隷が見当たらない、っていう事以外、そんなにエイツォールとかと違いはない、と思う。

 思うんだけど……。

 体育館とかグラウンドとかが全部ここに来てるんだとしたら……あまりに、私達異世界人が居なさすぎる。

 これは流石におかしい。

 ……この理由は結構すぐに分かった。


「おい!止まれ!異国人だな!」

 道の向こう側から、兵隊がやってきた。……周囲に異国人って、私たち以外いないので、うん、私たちの事だね。

 咄嗟に、針生が全員の武器を取って影に潜った。

 うーん、ナイス判断。

 針生は上手い事やってくれたんで、兵隊は1人消えた事に気付かず私達を囲んだ。

「異国人だな。来てもらおうか」

 兵隊の中でも一番偉そうな人がそう言うと、周りの兵士たちが一斉に槍を構えた。おおう、物騒。

「……どうする?」

「とりあえずついていこう。マリー、いつでも移動できるか?」

「はい。いつでも」

 まあ、何が起きてるのか分からないので、とりあえずはついていくことにした。

 いざとなったら『転移』すればいいしね。




 さて、私たちはその場で拘束されて、王城に連れて行かれることになった。

 私は異国人じゃないんだけど、念の為、ということで連れて行かれる模様。

 王城の門を潜って、どこに連れて行かれるのかと思ったら、なんか取調室みたいな所に連れて行かれて、私以外の武装が無い事を確認された。……ここ、びっくりなんだけど、私のスカートの中は検査されなかった。おかげで包丁もハタキももちっぱである。念のためメイドさん人形達はステルス状態にしたりしてたんで、拍子抜けである。いいのかなあ……。

「ところで、なんで俺達は連行されたんでしょうかね」

 社長がのんびりした口調で聞くと、兵士の1人が舐め腐った態度で返してくれた。

「フン、そんなことも知らんのか。それは女王様が国中の異国人を集めよとおおせだからだ!……まあ、今までよく隠れていたもんだな!」

「何故女王様は異国人を集めてるんですか?」

「女王様の高尚なお考えがお前らに分かる訳があるまい!……まあ、言えることはな、この城に入って出てきた異国人は居ない、という事だな」

 ……。

 ええと……「転移する?」と目で社長に聞いてみたら、小さく首を横に振られた。まだ様子見する模様。

 まだ何も分かってないしなあ。




 さて、その状態で私たちは一旦地下牢みたいなところにぶち込まれることになった。

「そこで大人しくしてるんだな!」

 というお約束ともいえる台詞と共に、牢屋の鍵がかけられる。

 そして兵士の足音が遠ざかっていき、扉を閉める音が聞こえた。

 ……ふう。

「さて、急展開だけど、どうする?」

「とりあえずは女王とやらに会うまでは様子見だな。……念の為、針生はスタンバイ頼む」

 武器が無くても皆さんそこそこ強そうだけども、まあ、すぐにフルの戦力で戦えるのは現在針生と私だけだからなあ。

 ……私の戦力は勿論、たかが知れてるのでまあ、実質針生だけだという。

「というか、よく昨日鈴本と針生は無事だったよね」

 ね。まあ、大通りに居たりしたわけでもなかったらしいし、そもそも長居しなかったし、妥当なのかも。

「なんで女王が異国人を集めてるかの理由によっては……体育館付近に居た生徒は全滅、っていう事も考えられるぞ」

 う、うわあああ、考えたくない!

「でも、1つ俺達はこの町に来てよかった事があります。霊薬の材料を見つけました」

 社長がご満悦気味なので見てみると、ポケットから水の花弁を持った花がはみ出てた。

「他の材料もここにある可能性がありますからね、ここに来た意味はあったでしょう。後は女王の出方を見て待避するかどうか決めましょう」

 ……どこまでも冷静だなあ、こいつ!




 そして、そのまま暫く放置されてお腹空いたんでポケットに入れておいたショートブレッドをメイドさん人形に出してもらって皆で食べたり、遂にはあまりに暇なんで皆で人狼ゲームやったりして待った。

 うーん、この心の余裕が優越感。

 そして、明り取りの窓から見える空が杏色になってきた頃、遂に兵士がやってきた。

「さあ、来い」

 ぞんざいなかんじに全員連れだされて、連行。

 階段をいくつか登って、ある部屋に通された。

 絨毯が一直線に敷かれた先にあるのは、どう見ても玉座。遂に女王様の御成り、という事らしい。

 さて、どう出てくるか。


 そのまままた少し待たされてから、盛大にファンファーレが鳴り響く。

 そして、豪奢なドレスを身にまとった女王がやってきて、優雅に玉座へ腰かける。

 ……思わず唖然としてたら、兵士の内の1人に頭を押さえられた。いかん、不敬ってことか。

 ……いや、いやいやいや、でも、でもさ……でもさ……。

 女王の方も、気づいたらしい。私がブルーアイズホワイト人間になってても分かったらしい。

 顔がちょっと動いた。

「……下がりなさい。この異国人達と話があるの」

 女王は少し震える声で、如何にも傲慢そうに言った。

「は、しかし」

 勿論、兵士たちは戸惑う。

「下がれ!……私のいう事が聞けないの?」

「は、はっ!」

 女王の一喝に、兵士も召使いも、全員出ていく。……今、多分なんかスキルつかったんだろうなぁ。

 ……そして、女王は息を吸って、私に向かって言った。

「そこのメイド。……私が好きなプリンについて述べなさい」

「はい。女王様がお好きなプリンはずっしり系のプリンでは無く、固まるギリギリまで牛乳を入れたふるふる系のとろけるプリンです。そしてキャラメルプリンよりはチョコプリンがお好きです」

 女王はよしよし、というようにゆっくり頷くと、急に冷たい目をして、皆さんに言った。

「ねえ。……私の舞戸に、何てカッコさせてんの?ど変態共」

 異世界でも女王様っぷりは健在なんだなあ。


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