111話
明石が落ち着いたらここら一帯の地面を全部巨大ハタキではたいて綺麗にして、演劇部の人たちも一緒に朝ごはんだ。
ストックのパンとジャム、野菜のサラダ、それから焼いたベーコンだけの食事だけども、割と好評だった。主にベーコンが。
うん、作ってよかったベーコン。
……よく食べるんだ、明石が。
「舞戸ぉぉぉぉぉ!これ美味しい!これ美味しい!これ何!?」
目をきっらきらさせながら焼いたベーコンをひたすら齧っている美少女。ううん、何だろうこの残念感。
「ベーコン」
「私の知ってるベーコンと違うぅぅぅ!もっと食べたいのにお腹いっぱい……あ、ちょっと吐いてくれば……あああ、でもそれ勿体ない、あああ、でもでも」
「やめろ!吐くな!」
ここまで喜んでもらえるともうなんか嬉しい通り越して別の何かになるね。うん、何だろう。何だろう……。
結局演劇部にベーコンを半分ほど譲渡することで明石は落ち着いた。
今まで調味料も無しに肉焼いて食べてただけだった明石にとってこのベーコンは麻薬と化したらしい。
馬に人参、明石にベーコン。これからこの子を釣る時にはベーコンをぶら下げる事にしよう。
明石にベーコンを殆どかっさらわれた朝食も無事に終了して、本日はこれから演劇部の衣食住を安定させる作業に入る。
4Fへの階段探索班は鈴本、羽ヶ崎君、角三君、鳥海、刈谷に加えて、演劇部の明石、紫藤君。
明石と紫藤君は単騎でも演技ができる程度に演技力があって、紫藤君は回復係、明石は白兵に向いているらしいので、この2人が演劇部から選出された。
明石も紫藤君も頭がいいからきっと階段攻略も楽に進むことだろう。
そして、衣食住の食は化学部の貯蓄で今日は凌いで、明日一気にやる予定。
何故かというと、今日を演劇部の人たちの装備を整える日にすれば、一気に戦闘力が上がり、明日の食料調達が凄く楽になるであろうことが予想できたから。
そして加鳥と針生がひたすら演劇部の装備……大道具に小道具、そういった演劇用品を作っていく。
社長は階段攻略よりもこっちがいいとの事で、グライダの毒をなんかやって調べている。楽しそうで何よりです。
私も演劇部の装備、つまり衣装を大量生産していく。
演劇のバリエーションによってドレスから着ぐるみまで、色々な衣装が欲しいという事だったのでこっちはこっちで大忙しだったりする。うん、でも楽しいね、やっぱり。
我々、やっぱり物を作るのが好きな性分らしい。針生と加鳥も何やら楽しそうだ。
……加鳥は……足を溶かされた初号機の修理と共に、演劇部の人達用の2号機を作る予定、らしい。
なんでも、ロマンだから、だそうだ。
……異世界が壊れていく!
お昼頃には階段攻略班も帰って来て、お昼ご飯になった。
お昼ご飯はピザにしました。ごめんよ、クリスピー薄生地派の諸君。パンっぽいアメリカン生地で許してくれ。うん、パンタイプも食いでがあっていいだろ?宗旨替えしようか。
……ご飯中、紫藤君が「ピザって十回言ってみて!」「ぴざぴざぴざぴざぴざぴざぴざぴざぴざぴざ」「ここは?」「ひざ!」「残念、肘だ……!」……っていうのを見事な一人二役で演じて見せてくれた為多くの人のご飯に支障が出た。演劇部の人は愉快だなあ……。
午後はまたひたすら作業だね。
階段攻略が思いのほかさっさと終わっちゃったので、階段攻略班は演劇部の人達の中で生産系スキルを持っていない人たちと一緒に食料調達に行きました。
ケトラミもこの人たちに着いていってご飯を済ませてくる模様。
ケトラミに毒の影響を聞いてみたけど、それは大丈夫とのこと。
そして、あれで疲れちゃったのかハントルは今もうつらうつらしているので、私の首に巻き付いてお留守番である。
……時々寝ぼけて絞めてくるのはやめていただきたい。
そして我々生産班はひたすら作るのみ。
私も服だけじゃなくて布団とか布団とかも作らにゃならんからね、ちょっと手が足りないよ。
『おはよ。ねえねえ、何やってんのよう』
おや、グライダが起きてきたようだ。
「服を作ってるよ。けども糸が足りんでなあ」
縫い糸が無くなったのでまた木材を加工して……っていう所からだね。まあ、木材を繊維にすればあとはメイドさん人形達がわらわら動いて糸にしてくれるんだけどさ。
『糸お?……粘らない方がいいのよねえ?』
「うん……ん?」
『アタシの糸は丈夫よお。使う?』
……蜘蛛の糸は同じ太さの鋼鉄の約5倍らしい。それがユニークモンスターの糸だったら?
……もっと、丈夫なんじゃね?
「ええと、ちょっともらってもいいかな」
『いいわよお。アタシ、アンタのいう事は聞く契約だしね。……はああ、何度見てもいいわあ、このボディ。うっとり』
グライダが自分の脚を見つめてうっとりしている間に私は糸巻を針生に作ってもらう。
「グライダ、そしたら巻くからちょっと糸出してもらっていい?」
『分かったわ。じゃあ行くわよ』
そして凄まじい速度で出てくる糸。
……。
『……あら、アンタ巻かないの?』
「いや、なんかちょっと……早すぎてだな……」
『やあだ、アンタ、ホントにどんくさいわねえ』
う、うるせえ!お前が早すぎるんだよ!
『しょうがないわね、それ貸しなさい』
しょうがないのでグライダさんに糸巻を渡したところ、一瞬で糸を巻き付けて返してくれた。
……この蜘蛛、相当器用だぞ、おい。
その糸を『鑑定』してみると、『玻璃蜘蛛の糸』という結果。
玻璃……ガラスか。うん、ガラス蜘蛛っていうのはあながち間違いじゃなかったんだね。
ちょっと引っ張ってみたり曲げてみたりしたけど、質感は上等な絹糸みたいなかんじだ。
たんぱく質繊維なわけだからまあこれも間違っちゃいないか。
……今まで、布を『染色』とか『刺繍』とかすることで性能をあげていたけど、そもそもの素材がよりいい物になればより性能が上がることが期待できるね!
とりあえずは演劇部の人達の分を何とかしなきゃいけないけど、それが終わったら化学部の装備も一新かなあ。
針生に糸巻を更に作ってもらって、グライダに糸を巻きまくってもらい、それをメイドさん人形達に織ってもらって、私はそれを縫う、という作業。
『玻璃蜘蛛の糸』で織った布は光沢があってしなやかで、肌触りは柔らかく、それでいて強靭、という素晴らしい布だった。
薄く織ったら透けるような質感の極上の薄物ができるし、ぎっちり詰めてがっちり織ってもしなやかさは損なわれず、それでいて強い布ができる。
うーん、これは楽しい。実用には向かない薄物なんかも演劇の衣装としてなら生かせるし、最高のタイミングでグライダは仲間になってくれたと言える。
『あーあ、まさかこんなに糸出させられるなんてねえ、まあいいけどお、コレ終わったらご飯の時間貰うわよ』
……ガラスでもお腹空くのか。
「グライダって何食べるの?」
『何でも食べるわよお。そうねえ、アンタなんて柔らかくって美味しそうよねえ……嘘よ、冗談よ!何よその顔!』
冗談に聞こえないんだよ!……私、どんな顔してたんだろう。
「何でもって、肉とか?」
『ま、そうね』
……まあ、グライダもそこそこに強そうだし、1人でご飯してらっしゃい、が可能そうだからそうなるだろうなあ。
ひたすら服製造マシンと化して夕方になりました。
いやはや、グライダの糸は手触りが良いもんだから縫ってても楽しいね。
……しんどい事に変わりは無いけどな!
そして食料もいい加減集まってきたので、ここらで夕ご飯の準備をしないとなあ。
「グライダ、ご飯は自分で何とかなる?」
『アンタ馬鹿にしてんの?今までアタシ自力でやってきてたんだけどお?』
あ、そうね。
「んじゃあご飯いってらっしゃい。お疲れ様。ありがとね。夜には戻って来てね」
ハイハイ、というようにグライダはその体の重さを感じさせない動きでどっかに行ってしまった。
さて、じゃあこっちもご飯だご飯だ。
そのころにはハントルも起きたので、料理中に生肉を少し切って食べさせたりしながらご飯の支度だ。
沢山野菜類だのお肉だのお魚だのが来たので、ご飯も自然と豪華になってしまうね。
演劇部の女子勢にも手伝ってもらってしまったりしながら晩御飯を作って、皆で食べ、雑談したりなんだりしつつ夜になり、そして明日に備えて出来立てお布団で早めに就寝。
演劇部の人達はお布団に夢中である。だってお布団だもの。
化学部の布団も一日お日様に当てて干したのでふっかふかだ。
さあ!者共よ!ふかふかのお布団に抱かれて眠りにつくがよい!
はい、おはようございます。
今日も準備日って事になるね。
主に準備が終わってないのは如何せん作らなきゃならない布製品が多い私と、人型光学兵器2号を完成させていない加鳥とそれに付き合っている演劇部員、という事になる。
……つまり、まあ、殆どの人たちは暇になってしまう。
なので、というか、彼らは異世界観光に出かけた。
デイチェモールと王都を観光してくるんだとか。まあ、折角だから、っていうのは分からんでもない。
この世界の云々を説明するのにも都合がいいだろうし。
……何より、皆疲れ気味だからね。こういうのは大事だと思うよ。
それから、ついでにお使いも頼んでしまった。香辛料とか、作るのがめんどくさい食料品とか、瓶とか。
瓶は社長がちょくちょく消耗品として使っちゃうからあってもあっても足りないんだよ。
なので、ここら辺はすっかり静かです。
……時々ガッションガッション聞こえる以外は。人型光学兵器は動くときに多少五月蠅いからね。
動いてるって事は完成間近ってことかな。
お昼には全員帰ってきた。
やっぱりこういうのは演劇部の女性陣には嬉しかった模様。
私たちは全然そういう買い物……私の実験以外は、全く、この世界で服とか買わなかったけども、皆さん服やアクセサリーや小物等を買ったり、買い物を楽しんだ模様。
……男性陣はそれに付き合わされたかっていうとそうでもなく、デイチェモールで延々と船漕いだり、コロシアム前で決闘を挑まれて伸してきたり、と、まあ、彼らなりに楽しんだ模様。
まあ、演劇部の女性陣は皆強いからね、攫われたりはしなかった模様。来るたびにワンパンだったとか。
不審者を一見か弱い明石が右ストレート一発だったらしいから、見せしめ的な意味で抑止力にもなったんだろうね。
そして私の方も、人型光学兵器の方もなんとか完成。
お昼ご飯が終わったらもう出発できてしまう。
……まあ、最終的な目標は、この世界からの帰還だから。それまでの別れである。
というか、『交信』の腕輪も派遣メイドさん人形もいるから、連絡はいつでも取れるし。
なんとなくしんみりしつつ、お昼ご飯を大人数で食べた訳でした。




