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110話

 はい。起きました。おはようございます。当然のように生きてます。

 首は繋がってます。想定通り。刈谷がすぐ治してくれたんだろうね。

 そして、首を一旦離したのが効いたのか、首から下も自由に動かせるようになってた。これは嬉しい誤算。

 ……いや、だってさ。片腕消失したとしても一瞬で復元できるんですよ?

 下半身炭化、消滅、っていう状態の人が普通に、何の後遺症も無く生き返るんですよ?

 無くなったでもなく、ただ離れただけの首が繋がる程度、おかしくないよね?え、おかしいの?

 生き返るならそれは致命傷でもなんでもない。ほっといたら不味かったんだろうけども、鈴本がああいう顔してた以上、刈谷あたりともう相談済みだったんだろうし。

 それにしても、鈴本の腕は予想以上でした。『痛感耐性』があるっていうのもあるのかもしれないけど、痛み一切無し。

 いやあ、頼んでおいて正解だったね。


「……おい」

 見ると、鈴本が相当渋い顔してこっち見てた。

「おはよう。さっきはすまんね」

「お前も一回人斬ってみろ。凄く嫌だぞ」

「うん、ごめん」

 立ち上がってみると多少貧血みたいなかんじだけど、そこまでの異常は無い。本当にさっさと処置してもらったみたいだ。

「後で羽ヶ崎君と刈谷にも礼言っとけよ」

「そりゃ勿論。ところで戦況は?」

 ……鈴本が指差す方向を見てみると、胴体に大きく罅を入れたガラス蜘蛛が地面に蹲っていた。

 まあ、私をあれだけ操作してたんだから、相当強く『共有』に近い事をやってたはずだ。

 で、その対象の首がいきなり飛んだら、どうよ。

 ぜったい一瞬はまともに動けなくなるよ。多分ガラス蜘蛛としては、いきなり自分の首が飛んだみたいな感覚だったんじゃないかと思われる。

 私は斬られてすぐ意識が無くなったからよかったけどね。意識があったらたまったもんじゃないね、きっと。

 ガラス蜘蛛は何かを喋る様子も無いけれど、頭を持ち上げてじっと私を見てくる。

 ……それがどういう意図なのかは分からん。

 届かない言葉は無いも同然なのだ。伝えたかったら伝わるように言えってんだ。

 そして生憎、私は倒したモンスターが起き上がってこちらを見てきたら、こう言うと決めている!

「仲間になるかい?」




 ガラス蜘蛛はびっくりしたみたいで、ガラスのボディがガタッ、と揺れた。

 後ろの方で鳥海が盛大に吹いたのが聞こえたけどもそれは気にしない。

「ほら、はいかいいえで答えなさいよほら」

『あ、アンタ、正気!?』

 あ、しゃべった。罅入ってる割に声は元気そうな蜘蛛さんだった。

「正気。とはいっても、私の仲間とも要相談になるけど」

『い、嫌よっ!何が悲しくてあんなおっかないの達の仲間になんなきゃなんないのよっ!』

「舞戸さん!俺は別に構いませんよ!」

 ほらあ、社長はそう言ってるぞ。生き生きとしてるぞ。きらっきらしてるぞ。

 ……絶対、毒と酸目当てだと思うけどな!

『だ、大体、アンタ、なんでさっきまで殺し合いしてた奴なんか仲間にしようとか』

「……私たちの居た場所では倒したモンスターが起き上がってこちらを見たら仲間にすべし、というしきたりがあるんだよ」

 鳥海が呼吸困難起こしてるけど私の知ったこっちゃない。

『何よお、そのしきたり……』

「で、嫌なの?」

 聞いてみると、暫くガラス蜘蛛は考えた挙句、やっと喋った。

『条件があるわ。アンタの魔力、ちょっと分けてよ』

「構わんよ。やり方分かんないけど」

 了承すると、ガラス蜘蛛は凄く……喜んだ。周りに花が咲くんじゃないかっていう勢いで。

『ほんとおっ!?うそおっ!?ダメ元で言ってみるもんねえ!え、ホントにいいのおっ!?』

 お、おう?そんなにあげたらまずいもんなのか?

 ……まあ、いいか。

「うん、まあ、ちょっとなら」

『やあったあっ!ああ、もう、こうしちゃいられないわ。じゃあ、さっさと契約しちゃいましょ』

「……契約?」

『契約よ』

「……それ、なんぞ……?」

『……は?』




 という事で諸々あって、私はこのガラス蜘蛛と、スキルとか関係なく、只、正式に、『契約』なる物を結んだ。

 どうも、この『契約』、本来ケトラミさんやハントルとも結んでないとおかしい物らしい。

 らしいんだけど……ケトラミさんは、『俺が適当に決めておいてやった』で、ハントルは『んー、どうでもいいや』で済ませたらしい。

 つまり、まあ、うん……今までのケースだと、決定権が、私じゃなくてケトラミだのハントルだのにあったらしいんだよね。

 ケトラミさんに関してはこっちからも色々と申し上げたいことはあるんだけど、まあ、ハントルに関しては……メイドが『子守り』するときって、その子供はメイドより身分が上だよな、とか思って納得した。

 しかし、今回の場合それはまずかろう、という事で、ケトラミさんが色々口出してくれた。助かるね、どうも。

 まず、ガラス蜘蛛は、基本的に私のいう事を聞く。それから、私達に危害を加えるものから私達を守る。私達に危害を加えない。私達に危害を加えたらガラス蜘蛛は死ぬ。

 その代わり、私はガラス蜘蛛に魔力をちょっと分けてあげる。

 ケトラミさん曰く。『お前みたいなのには勿体ねえ好条件だぞ。どうせお前魔力持ってても使わねえだろうが』だそうだ。


 じゃあ、魔力って、何よ。という事で、ケトラミさんにご教示頂いて、まとめると大体こんなかんじ。

 ……人は発電機を持ってるとする。

 その発電機が発電した電気が、『魔力』だとする。私たちはその『魔力』で動いてる訳だ。

 それで、例えば、何かスキルを使うとする。

 その時、私たちは回路を組んで、その通りに魔力を流してスキルを発動させてる、らしい。

 その回路を組み立てるのに必要なのが、いわゆるMP。ここまではまあ、分かる。

 ……それで、だ。

 私は……発電しても発電しても……回路が、組めない、らしい。

 例えば、身体強化の回路。つまり、いわゆる『補正』なんかは……その回路が存在しないから、幾ら無駄に発電されてても、それは無駄。

 無駄に発電して使わないでいるんだから、そりゃあ、『魔力が高い』状態になるよ、っていう。

 なので、その余剰分をガラス蜘蛛に少し分けてあげる位、どうってことは無いのだ。むしろ効率的で非常に素晴らしいね。




 勿論皆さんにも相談した。

 皆さん人がいいというか、割とあっさり了承してくれた。

 この蜘蛛、相当硬い。だから、味方になったら結構楽できそうだよね、と。

 それから、でかいのだ。この蜘蛛、とにかく。

 華奢で透明だからそこまでの圧迫感無いけど。

 だからまあ、役には立つ。間違いなく。

 そして、決定打になったのは、倒し方が分かった、っていう事だと思う。

 この蜘蛛の胴体に罅を入れたのは針生だった。

 この蜘蛛は、打撃だのには相当強いんだけど、極小さな点に大きな力がかかる……つまり、強い刺突をモロに食らうと、途端に割れ砕けるらしい。

 ……という事で、倒し方が分かった以上は、そこまで問題にならないだろう、と。

 後は……社長が凄く、「毒も酸も採り放題!」に反応したのが大きいね。

 社長はどこまで進んでいくつもりなんだ。帰ってこれなくなるぞ。いや、もうなってるか。




 ということで、私はガラス蜘蛛と契約した。

 その時。……ドッグタグが、光ったんで。ちょっと嫌な予感がしつつも見てみたら、『買い物』だ、そうだ。

 ……。ええと、多分、魔力を代金として、傭兵を買った、っていう事になるんじゃないのかな、これ。

 ……これ、幾らなんでも酷くね?


『はあい、調子どーお?』

 契約してパスが直接結ばれたことで、よりはっきりガラス蜘蛛の声が聞こえる。

「うん、感度良好」

『でしょお?じゃ、早速お代、いただきたいんだけど?』

 ふむ。ならば早速ケトラミさんに教えてもらった事をイメージしつつやってみましょうかね。

 魔力、魔力、とイメージしながらパスを通してガラス蜘蛛に何かを送り込むイメージでなんとかやってみると……次第にガラス蜘蛛の体が牛乳を混ぜた水みたいな、半透明の乳白色になった。

「ぎゃあああああ!濁ったあああああああ!」

『きゃあああああ!色ついたわあああああ!』

「ねえそれ大丈夫なの!?大丈夫なの!?」

『やあねえ、大丈夫に決まってんじゃなーい!もおお、うーれーしーいー!』

 怪我が怪我だけに動き回ったりはしないけど、これ、動ける状態だったら駆け回ってたんだろうなあ。


「とりあえずじゃあ、契約はこれで終了という事で、今後ともよろしく頼むよ。ええと……お名前は」

『名前?特にないから好きに呼んで頂戴』

 モンスターって、みんな名前ないのかな。個体識別どうやってんだろ。

「ええと、じゃあ」

 ガラス蜘蛛。ガラス蜘蛛。蜘蛛……スパイダーまん……肉まん……あ、いかんいかん。

「グライダで」

 うん、グラす・すぱイダーということで。

『あら。じゃあアタシ、グライダね。よろしく、舞戸』

「よろしくね」

 ……『ピーター』とちょっとだけ迷わんでもなかった。




 グライダは刈谷に治療してもらって、現在寝ている。

 ガラスも治療できるんだね。ガラスの脚がにょきにょき生えて戻ってきたのを見た時は思わずびびったよ。さて、そしたら雨も止んだことだし、演劇部の人たちと一緒に遅くなっちゃった朝ごはんにしようかね。

 ベーコンもそろそろいい具合に落ち着いてるだろうしなあ。


 ドアを開けた瞬間明石にタックルくらってぶっ倒れた。

「舞戸のばかぁ!なんで首切っちゃうの!」

 明石が私にくっついて泣き出してしまったので、地面に倒れたまま動けなくなってしまった。

 どうも、窓から見てたらしいね。

「いや、だってくっつければ戻る」

「だって絶対舞戸痛いじゃんあれぇ!」

 あああ、こら、人のエプロンで顔を拭くんじゃあない!

「いや、鈴本は腕がいいからね、痛みとか無くすっぱり」

「ああああああああ言わないでえええええ!私の首が痛くなるからあああああ!」

「うるせえ」

 ……明石はそのまま延々と泣き続け、落ち着くまで5分少々かかった。お陰様でメイド服のエプロン涙と鼻水でびっしょびしょだよ。……いや、私の血とかもべったりついてるからさ、それどころじゃないんだけどさ……。


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