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107話

痛いシーンがあります。ご注意ください。

 蜘蛛だ。蜘蛛である。でっかい蜘蛛である。しかも透明!

 サイズといい、あからさまにおかしい見た目といい、どう見てもユニークモンスターの類だよね、これ。

 という事は、多分、魔王の一部を分けられて生まれた存在の子孫で……倒しちゃったら、まずくないか?


 とりあえず一応皆さんには伝えておかねば。『交信』の腕輪を起動させると、寝ていたはずなのにすぐ出てくれた。

「もしもし、こちら『メイド長』。現在東の方向から透明なでっかい蜘蛛が接近中。尚、本日雨天なり」

『分かった。お前は中に引っ込んでろ』

 がしゃがしゃ音が聞こえるのは全員武装しはじめてるって事だろうなあ。

 気が早いとは思わないよ。幾らユニークモンスターが相手で、そいつが魔王の一部を持ってる可能性があったからって言っても、こっちが死ぬようじゃ話にならない。

 前回の火竜ももしかしたらユニークモンスターだったのかもしれないけど、あの場合だと間違いなく殺すか殺されるかの状況だったみたいだし。

 ……そして、多分、今回も。


 とりあえず一旦実験室に戻って装備を取ってこなきゃいけない。

 部屋に戻って明石たちにも同様の事を言ってから、雨の中を実験室まで走って戻って、念の為武装。

 私の最強装備って魔王装備なので魔王になっちゃうけどしょうがないね。

 外の様子を見てみると、ガラス蜘蛛はかなり接近していて、化学部勢が社長を除いて全員外に出ている。

 ……これは、交戦は避けられないかな。


『舞戸さん、聞こえますか』

 おや、1人外に居ない社長から『交信』が入った。

「聞こえるよ。どしたの?」

『演劇部の人たちを外に出さないようにしてください。この雨、毒です。『毒耐性』の無い彼らにはとてもじゃないけど耐えられないでしょう』

 そういう事なら急がねば。

 また外に出て雨の中を走って、明石たちの居る部屋のドアを開けると、丁度出てきそうになっていた明石たちと出くわした。

「全員部屋から出ないで!」

 私自身も既に雨に濡れてるので、私にも触らないように注意。

「今降ってる雨、毒らしいから。化学部は全員『毒耐性』があるから、こっちで何とかやってみる。もしできるんだったら回復とか援護とか、部屋の中からできる事だけよろしく」

「ちょっと、舞戸は!?」

「できる事無いと思うけど一応社長の方見てくる」

 社長が部屋の中に居るのは、多分、外に出た演劇部男子が毒にやられて、その治療に当たってるんだろう。

 というか、多分、演劇部の人たちが外に出なかったら、この雨が毒だって気づかなかったはずだ。だって私達、全員『毒耐性』あるからね。


 演劇部男子たちが居た部屋にノックしてから入ると、案の定社長が何やら怪しげな薬を男子部員に頭からぶっかけたり飲ませたりしていた。

「あ、舞戸さん、丁度いい所に。ここら辺の『お掃除』頼めますか」

 みれば、毒の雨の物と思われる水溜りが室内にできてしまっている。こりゃ危ないね。錫杖ハタキでぽふぽふやって全部綺麗にする。ついでに社長と私もはたく。むしろこっちが先だったか。

「戦況はどうなの」

「何とかなるんじゃないですか。少なくとも相手の切り札の一つである毒が俺達には効きませんから、これは大きいと言えるでしょう」

 つくづく、私達『毒耐性』持ってて良かったよね。

 これ、『毒耐性』無かったら、ガラス蜘蛛相手に手も足も出なかった訳で。……恐ろしいね。


『歌謡い』を発動させつつ、窓から確認すると、思っていたよりも苦戦、かもしれない。

 まず、加鳥の光学兵器。アレが撃てないらしい。……相手、透明だからね。効かないのかな。

 なので、加鳥の攻撃手段はかの人型光学兵器による相撲になる、はず、だったんだけど、こっちも上手くいってない。

 なんと、人型光学兵器、片足が消えていた。そうなると途端に機動性が失われてまともに動かせなくなった模様。

 ここは宇宙じゃないからね。足は飾りじゃないよね。

 それから、無駄にこのガラス蜘蛛は固いらしい。まともにダメージが入っていないのか、ガラス蜘蛛は動くのを止めない。

 突如、絶叫が響く。

 見れば、針生が水飴みたいなものを腕に浴びて、そこから溶けていた。

 ……強酸か、あれ!

『転移』して針生の隣まで移動して、すぐにその水飴みたいなのを錫杖ハタキではたいて『お掃除』する。

 ハタキ部分が溶けたけど、なんとか水飴強酸を消す事には成功。

 そしたらすぐに針生を巻き込んで、後方に居た刈谷の隣まで『転移』。

「あ、ありがと、助かったわ」

 刈谷がすぐ針生の腕を治してくれたんで、傷も残らず腕は復元された。

「舞戸さん、MP回復するもの持ってますか?俺の手持ち、もう無くて」

 言いながらも刈谷は回復魔法を飛ばしている。加鳥も回復に回ってこれだから、相当きついはずだ。

 手持ちのミント抽出液を刈谷のベルトにくっついてるポーチに移し替える。私の分は一旦実験室に戻って取ってくればいい。

「まずいよね、あの蜘蛛が吐いた酸が結構やばくて。雨に混じってそこら辺全部強酸の海になってるのかも。足もちょっと溶けかけだったり」

 針生の沈んだ声に辺りを見渡せば、水飴の塊みたいのがそこかしこにあって、その周辺の草が溶けたりしている。

 そして、この雨。確かに毒は効かないけど、水飴状の酸を溶かして混ぜて、流れていく。しかも、どっちも透明なだけだから、水溜りが酸の物なのか毒だけなのかが分からない。

 ……ふむ、成程ね。

「予備のハタキ持ってくる。強酸の塊消せればちょっとは違うでしょ?」

 それに、私は『強酸耐性』も持ってる。掃除婦としてはこれ以上無い適任だね。

「……舞戸さん、大丈夫?」

「たまには役に立たせてよ、私も」

「……うん、分かった。気を付けてね」

 よし、ハタキを使い捨てていく覚悟で『お掃除』していくよ!

『お掃除』の本領、見るがよい!




 実験室に一旦戻って、鎧を脱いだ。メイド服みたいにMPのブーストしてる訳じゃ無いし、溶ける可能性があるし、重いだけなら無い方がいい。

 棚を開ければ、そこには大量のハタキ。服とか作るたびに出る布クズを集めてはその都度作ってたからね、ストックは大量にあるよ。

 それをエプロンのポケットにできる限り詰め込んで、MPを回復させたら即『転移』。

 水飴状の酸の塊を見つけ次第『お掃除』していく。溶岩みたいに触れる前に燃え尽きるような事も無いから、使い捨てでいいなら一応『お掃除』できるのが救いだね。

 水溜りも手あたり次第『お掃除』していく。もう見分けがつかないから、とりあえず全部『お掃除』だ。

『転移』と『お掃除』の連発でMPが切れたら回復して、またひたすら『お掃除』。

 蜘蛛の側の酸の塊も、一瞬で『転移』して『お掃除』して、すぐまた『転移』すれば消しに行ける。

 何回か脚で踏まれそうになったりしたけども、そこら辺は考えながらやってればぎりぎり『転移』が間に合うレベルだ。どういう風に動くか位はある程度予想がつくし。

 そうやって飛び回っていたらあたりの酸は殆ど消せた。

 後は新たに出てくる酸を消せばいいだけだね。

 酸を避けながら戦う必要が無くなったら多少戦いやすくなったのか、戦況もこっちが押し気味になってきた。

 よし、いい調子!




 ……なんだけど、ガラス蜘蛛の様子がちょっとおかしい事に気付いた。

 ひたすら攻撃されて脚が1本破壊されたりしてるにも関わらず、攻撃の合間を縫って移動しようとしてる。

 しかも、こっちに。

 ……そういえば、非常にいやーな事を思い出した。

 ハントルのお母さん、かの大黒蛇さんは、何故か、わざわざ後ろの方にいた私めがけて突っ込んできて、私を丸呑みしてくれたんでした。

 今回も、それか?あのガラス蜘蛛、私に向かってきてるのか?

 考えられる理由としては……ケトラミさんとのパス、とかかな。

 ……無い話じゃないか。まあ、理由はどうでもいいんだ。

 気になるのは私に近づいてくる理由が、殺意なのか?っていう事。もし違うなら、また違った手段も取れるよね。

 そこら辺は私だけの判断で動くのも怖いので、一応、聞いておくかな。

 ちょっと見回して一番話しかけても問題なさそうだった羽ヶ崎君の隣に『転移』する。

「ねえ、羽ヶ崎君」

「何?あ、舞戸、MP回復するもの持ってたら頂戴」

 こっちもMP不足らしい。またミント抽出液を全部渡しつつ聞いてみる。

「なんかさっきからあの蜘蛛私を狙ってないかね」

 現にガラス蜘蛛はさっきまで私が居た辺りに向かっていたのに、私が『転移』した途端に進路を変更してこっちに進んできている。

「……来てるね。お前、何?ああいうのに好かれやすい性質なの?」

「しらん。……で、だな。あれに話しかけても大丈夫だと思う?」

「さあ……話しかけるって、どうすんの」

 ケトラミさんの時は……『番犬の躾』を発動させつつ、普通に話しかけたけど。

「あれは犬かな」

「お前目玉腐ってんの?」

 ですよねー。

 かと言って、アレが子供にはみえないから『子守り』が効くとも思えないし、『共有』しに行くのは死に行くのと同義だね。ふむ。ならば。

「ケトラミに通訳頼んでみる。……ケトラミーっ!」

 ……しかし、ケトラミ、来ず。

「通訳!通訳頼みたいんだけど!おーい!」

 それでもケトラミ、来ず。

 ……そこで、私、気づいてしまった。

 ……ケトラミって、もしかして、『毒耐性』とか……ないんじゃね?




『遠見』で辺りを見回してみると、遠く離れた木の陰に鈍色の塊が見えた。

 慌ててそこに『転移』すると、明らかに元気が無いケトラミさんが居た。

『……んだよ』

「無駄な強がりは止めて正直に答えなさい。ほっといたら君、死ぬ?」

『……かもな』

 それはやばいよ!くっそ、なんで私は気づかなかったんだ。ケトラミさんがいくら強かったとしても毒とかはまた別問題だってのに!

「人間用の解毒剤でもあればマシになる?」

『……必要ねえ。掃除だけしてくれ』

 必要ない、って、それは。……不安になりつつも『お掃除』してケトラミさんに付いた毒の雨をさっぱり消す。

 そう言えば、ケトラミと一緒に居たはずのハントルの姿が見えない。

 でも、ケトラミさんも特に心配する素振りも無いので……というか、尻尾のあたりがもそもそしてるので……大丈夫なんだろう。

 尻尾のあたりを見ていたら、突如、黒っぽいほわほわが光りながら現れて、ケトラミの体から黒っぽい何かを吸い取って大きくなった。

 その黒っぽいほわほわは飛んで行って、ずっと遠くの方で着弾。

 ……なんだ、今の。

『ケトラミ、上手くいった!上手くいったよ!』

 唖然としていたら、ケトラミの尻尾の下からぴょこん、とハントルが顔を出した。

『元気になった?ケトラミ元気になった?』

『ああ、もう大丈夫だ。ありがとな。……ったく、おい、舞戸、お前なあ、こっちの心配よりテメエの心配しやがれってんだ』

 何やらよく分からないけど元気になったらしいケトラミさん、また悪態をついてくる。うん、これなら大丈夫そうだけども。

「説明を求む。まず、君は大丈夫なの」

『見て分かんねえのかよ。ハントルが俺の体内の毒集めて飛ばした。……こいつ、闇魔法だけでなく毒魔法の才能もあるぜ』

『舞戸っ!舞戸っ!褒めて!褒めてっ!』

 お、おお、何時の間にか君は成長していたんだなあ。うん。えらい。……成長に気付かなくてごめんよ。


 ハントルの頭を撫でつつ、ケトラミさんにはもうちょっと突っ込んだことを聞きたい。

「じゃあ、次。なんであの蜘蛛は私を追っかけてくんの」

 現在もガラス蜘蛛はこっちに進路を変えて移動中だ。

『……さあな』

 ……ケトラミさん、教えてくれる気はないらしい。絶対にこれ、知ってる癖に。

「あの蜘蛛と話、できるかな」

『……話してどうすんだ』

「だってあの蜘蛛、ユニークモンスターでしょ?魔王の一部を受け継いでるんでしょう?……殺しちゃって、まずくないの」

 聞いてみると、ケトラミさんが嫌そうな顔をした。

『んな悠長なことしてる間にお前、死ぬぞ?』

「ですよねー」

 今現在、こっちが押しているとはいえ、相手は強敵なんだから、少なくとも手を抜いて勝てる相手じゃないってのは分かるよ。

『そもそも魔王が居て、お前らにいい事があんのか』

 ……ふむ。そうね、私が女神本さんから話を聞いた上では、魔王はこの世界に居た方がいい、っていう結論になるのよね。

「さあ、よく分からないのが現状だよ。でも、この世界に魔王って必要な気がするんだよね。……それにやっぱり、よく分からない内に取り返しのつかない事をすることはリスクだよ、単純に」

 ケトラミさんはちょっと目を細めると、何か集中し始めた。

 すると、突然自分が広がるかんじというか、風通りが良くなったような奇妙な感覚があって。

『……おら、パスは繋いでやったぞ。そこまで言うんなら後は勝手に上手くやれ。俺はもう知らねえ』

 そんなケトラミさんのつっけんどんな台詞の後に、甘い声が降ってきた。

『あらあ?やあっと繋いでくれたのお?』

 視線を上げれば、ガラス蜘蛛と、目が合った。

『はじめましてえ。ちょーっとアタシ、アンタの体に用があるのよお。だからちょーっと、貸してね?』

「は?」

 ガラス蜘蛛はにやり、と笑った。

 ……成程。ケトラミさんが嫌がる訳だ。平和じゃないぞ、これは。


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