8話
おはようございます。今日も1日元気に過ごしましょう。
今日は朝ごはんに加えてお弁当作りからスタートだ。ハタキで自分をぽふぽふやったら、早速取り掛かりましょうかね。
蒸かしたジャガイモを潰して、昨日から乾しておいたでんぷん(まだ生乾きだけど大丈夫だろう)を加えて整形。
蒸して完成。携帯性に優れた芋餅であります。
それに昨日の牛串とお野菜を添えて、『お掃除』でうすーく削り出した行木で縦横に包む。
アセテートの糸を撚り合わせて作った紐で固定。
はい、お弁当の完成です。
それに昨日同様の『MP回復茶』も淹れて、準備万端でございます。
朝食は肉と野菜のスープと芋。
あまりにも加鳥と針生が不憫だったため、できるだけあったかい物を心がけた。
なんだよ、食べるものが果物か生肉、って。生肉って。
……人肌程度には暖かいのかな、生肉……。
ちなみに、彼らは荷物の運搬をスクールバックに入れて行っている様子。
全員化学実験室に寄ってからそれぞれ行動を開始したため、全員分の鞄は化学実験室に置いてある。
勿論、全員がそれぞれ鞄を持つという愚は犯さない。
一人分の鞄に全員分の食料を入れて、あともう一つ空の鞄を持って行って食料の調達を兼ねる、と、そんな感じにやっている様子。
大体鞄持ちは羽ヶ崎君か社長みたいだね。前衛が鞄持ってたら動けなくってしょうがないもんね。
全員起きた所で毎朝恒例のハタキのターン。そして朝食。
「朝ごはんとか久しぶりだなあ」
とは加鳥の言葉。……本当に、こいつら、見つかってよかったよ。
そして恒例のいってらっしゃいませ。
さあ、今日は楽しみにしていた機織りの日ですよワッショイ!
『祈りの歌』は忘れないようにしつつ、スキル模索の為他にも歌いながら織機に縦糸を張っていく。
杼に横糸を巻いたら準備完了。縦糸を4つに分けて動かせる織機を作って頂いちゃったのでいろんな織り方ができるだろうけど、とりあえずは平織だ。
杼を通して筬で整えて、縦糸動かして、また杼を通す。
……っていう作業の楽しい事。いやー、頭使わなくてもいいからね。のんびり楽しく歌いながらひたすら機織りであります。
そうしてできましたのは、110㎝幅、5m丈の布でございます。
アセテートだから丈夫さは大したことないけど、防火性はあるからね。何かに使えるかもしれないよね。
できるだけ目を詰めまくって織ったから、まあ、そんなに弱いって事も無いでしょう。
さて、繊維が無くなってしまったのでまた木材を繊維にするよ。そしてそれを紡いでまた織るのだ!
ふふふふふふ、そして明日はお裁縫だ。ふふふふふふ。
……さて、ちょっと考えたけど、何もアセテートばっかり作ることも、無いんじゃないか?
セルロースから繊維を作る、っていう事を考えて一番単純なアセテートにしたけど、別にレーヨンでもキュプラでもリヨセルでもいいんじゃないだろうか。
ということで、リヨセルを作ることにしました。
リヨセル。あるいはテンセル。
セルロースを精製して、細く絞りだして固めなおして作る、天然繊維寄りの再生繊維である。
特徴としては、綿より丈夫。濡れても弱くならない。乾きやすい。以上。
こっちはアセテートみたいにセルロースに何かをくっつけて別の物質にするんじゃなく、セルロースを溶かして固めるという非常にシンプルなやり方でできる繊維だ。
その分溶剤の名前が長くて……覚えてない!正直色々覚えてないけど理屈は分かってるんだ。
どうせ出来上がるものは配列が直線になっただけのセルロースだ。
酢酸無しでもアセテートはできたんだ。
ちょこっと配列変えるだけなんて、異世界クオリティで何とでもなるだろ。
という事で、木材の山に向かって念ずる。リヨセルにおなり、と。
……うん。なんか繊維になったけど、これがリヨセルなのか、アセテートなのか、今の私にはちょっと分かりません。
まあいいや。とりあえずできたんだから。
これを紡いで、織機に掛けて、また織る!
織ったらさっきのアセテートとは違う風合いなので、やっぱりリヨセルになったんだと思う。多分。
とかやってたらまたしてもお昼のタイミングを逃していた。
お昼ってよりおやつって感じの時間だ。くそう。
果物を齧りつつ、お弁当の残りを食べる。
……そんなに悪い味じゃないと思う。ひとまず成功かな。
MP回復茶の味は……まあ酷いけど、これでMP回復するんだから文句は言えない。
マズい、もう一杯、って奴だね。うん、洒落にならないね。ホントに……。
午後は織った布でベルトに通せるような小さい鞄を縫った。
単純にMP回復茶ぐらいは各自で持ってた方がいいんじゃないかと思ったからである。
それから、私のメイド服以外の服も縫った。
型紙とか無いので、とりあえず単純な形状のワンピースしか縫えないのが悲しい。
パターニングもスキルでできるかもしれないけど、気力と体力と時間の兼ね合いで断念。そのうち頑張ります……。
ちなみに縫うのもスキル様様なのである。
針仕事が早くなるというだけのスキルだけど、単純故に有難い。
ここんところ、スキルが沢山入手できてうれしいなあ。全部裁縫関係だけど。全部裁縫関係だけど。全然戦闘関係ないけど!
晩御飯の支度をしていたら、いつもより早く皆さんが帰ってきた。
「お帰りなさいませ。どうしたんですかご主人様方」
「これ、見つけたからな。色々やらなきゃ食えないだろうし、とりあえず帰ってきた」
……そう。
何故かというと、見つけちゃったからです。
麦を。
麦を。
麦、を。
早速加鳥と針生に原始的な脱穀機を作ってもらって、全員で麦を脱穀。
黙々と作業を進めていく中でスキル入手成るかと思いきや、何故かならない。
……これはメイドの仕事じゃないよ、っていう事なんだろうか。解せぬ。
むかついたので『お掃除』してやったら、精麦された。
一瞬で、精麦された。
そうか、もうできることについてはスキル化されないのかな?んー?
今までの苦労は何だったのか、という皆さんからの何とも言えない視線を浴びながら、私は麦の実を蒸す。蒸したら木の板で挟んで押して、それを加鳥と羽ヶ崎君の風魔法で巧い事乾かしてもらって、押し麦完成。
挽くんだったら臼とか要るだろうし、とりあえず主食になるものが欲しかったので、とりあえず押し麦。
あと、麦の一部は籾ごと水に漬けてある。
植えてもいいし、芽を出させて麦汁を作って、でんぷん分解して水飴作ってもいいし。
うーん、夢がひろがりんぐ。穀類万歳!
折角の麦なので、その日のご飯は麦飯になりました。麦100%だからそんなに美味しくないかと思いきや、割とおいしゅうございました。皆さんにも好評。
あれだね、芋に飽きてたんだね、私達。
そして早めの晩御飯に従って、就寝も早くするのかと思いきや、ちょっと会議をすることになった。
「とりあえず、全員ドッグタグ見せろ。針生と加鳥も増えたし、全員が全員のできることを把握しておく必要もあるだろ?」
鈴本の言うとおりである。
私、最近、置いてけぼり感が半端じゃなかった!
よっしゃ、ここで意識の擦り合わせといきましょうや。
とりあえず全員ドッグタグを外して、見せ合いっこした。
全員分まとめるとこんな感じだ。
鈴本『剣士』
『斬撃』『片手剣術』『跳躍』『アクロバット』『剣舞』『毒耐性』『回復速度上昇』
『疾風斬』『燕』『翡翠』『揚羽』
羽ヶ崎『魔術師』
『水魔法』『氷魔法』『風魔法』『詠唱速度上昇』『毒耐性』
『アイスビュレット』『アイスコフィン』『ウォーターカッター』『清流』『ウィンドカッター』『テンペスト』
柘植『学者』
『鑑定』『土魔法』『マッピング』『土木魔法』『緊急回避』『毒物制作』『毒耐性』
『アースウォール』『アースビュレット』『耕作』『泥沼』
角三『騎士』
『剣術』『勇敢』『斬撃』『盾術』『空腹耐性』『毒耐性』
『クリーンヒット』『シールドガード』『エアスラッシュ』『フォースブレイド』
加鳥『狙撃手』
『弓術』『狙撃』『風魔法』『機構制作』『改造』『毒耐性』
『ニードルショット』『ウィンドアロー』『清風』『ウィンドカッター』
針生『盗賊』
『短剣術』『二刀流』『目利き』『木材加工』『アクロバット』『毒耐性』
『クロスカッター』『二段斬』『隼』
舞戸『メイド』
『お掃除』『熟成』『歌謡い』『手当』『回復速度上昇』『水撒き』『被服製作』
『祈りの歌』
『被服制作』=繊維錬金+糸紡ぎ+機織り+裁縫
うーんと、うん。あれだ。私だけ浮きすぎだ。なんでこんなにもメイドなんだ。
皆さんからも何とも言えない目で見られた。ごめんなさいメイドで。
とりあえず分かったことがいくつかある。
1つは、私以外全員『毒耐性』持ってるっていう事。
多分、鈴本、羽ヶ崎君、社長、角三君、は、社長が作った毒を飲んだせいだと思うんだよね。
でも、加鳥と針生は……あ、そっかあ。食中毒耐性、略して毒耐性、か。成程。
尚、できる過程が違っても、スキルの性能は変わらないらしい。
私も早急に『毒耐性』を付ける必要があるよなあ。
じゃないと、同じもの全員で食べて一人だけ中毒症状、とか、笑えない。益々足手まといになる!
よし、あとで社長に毒をもらおう。
2つ目は、やっぱりスキルの落差。
どう考えても私のスキルはおかしい。
なんでここまで生活に密着したスキルばっかりなんだ。
私も戦闘用のスキルを一つぐらい覚えておいた方がいいんじゃないだろうか。
あとで包丁振り回してみよう。
3つ目は、鈴本に『回復速度上昇』が付いているっていう事。
ええと、さっきの食中毒耐性即ち毒耐性、みたいな例もあるから何とも言えないけど、もしかして、こいつもちょっと……やらかしたんじゃなかろうか。
後で聞いてみよう。いや、やっぱりやめとこう。きっと藪蛇だ。藪蛇はもうごめんだ。
「舞戸、お前いつの間にスキル増えたの?」
羽ヶ崎君が『できの悪い生徒がテストで60点取ったのを褒める』ようなニュアンスで言ってきた。チクショー!
「君らがいない間だっつってんだろっ!入手経路なんて想像つくでしょうが」
「うんまあ確かに」
くっそ、この野郎、自分のスキルが立派だからって!馬鹿にしやがってえええ!
「ところで、やっぱりこうしてみると、スキルの下に表示されるのって、所謂『技』なんでしょうね」
技。呪文。特技。そんなところである。
私の『祈りの歌』はこれに当たる。
私は一種類しかないから分からなかったが、これは、『スキル』によって複数得られるものらしい。
例えば分かりやすいのが羽ヶ崎君。
『アイスビュレット』『アイスコフィン』は両方『氷魔法』から得られたものだ。
鈴本の『翡翠』は、文字通りカワセミの如く、高所から急降下しつつ対象を斬りつけて、自分はひらりと着地、というなんか色々恐ろしい技で、『跳躍』と『アクロバット』と『片手剣術』あたりから得られるものらしい。
複数のスキルで入手できるものもあるっていう事なんだろう。
つまり、私も歌いまくってればそのうちなんかまた覚えるかもしれん、という事である。
それから、私の『布制作』。これは他に例を見ないものだった。
何故かって、省略されてるから。
スキルは同じようなものを取っていると、それらが一つに纏められる場合、勝手にまとめて省略されてしまうらしい。
確かに一連の動作だからさあ、困らないけどさあ……。
数が少なく見えるのが嫌。
後は適当に各自、名前を見て分からないスキルの効果とか、そういうものを教え合った。
そうして役割分担ができていく。
まず、当たり前だけど、鈴本と角三君が前衛。盾が使える角三君が引きつけつつ、鈴本が後ろに敵が行かないように気を付けつつ、敵を倒す。
針生は遊撃。角三君の敵が多くなりすぎたら、何匹か間引きする。鈴本が撃ち漏らしたら、それを何とかする。そんな感じ。
羽ヶ崎君、社長、加鳥は後衛。社長が壁を作って、その陰に隠れつつ、それぞれ魔法や弓で攻撃していく。
ちなみに、羽ヶ崎君と加鳥は回復も兼ねる。『清流』と『清風』はそれぞれ、似た感じの効果の回復スキルだ。
そして私はお留守番。はい、誰が何と言おうとお留守番。
ちょっと文句のつけようが無いので、黙るけどさ。黙るけど……やっぱり、悲しいなあ。
うん。しょうがないけどね。私は私にできる事をやるしかないんだけどね。




