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102話

 さて。久しぶりの全員でご飯という事で……ええと、から揚げにします。なんか知らんが皆さんに大人気だからね、から揚げ。

 そして揚げ物は少人数だと作る気になれないから、っていうのもある。

 あとはお野菜摂れるようにしたほうがいいね。何にするかな。蒸し野菜にしてしまおうかな。スープにもお野菜いっぱいにしよう。そうしようそうしよう双子葉類。


「ただいまー!」

 鼻歌まじりにご飯の支度してたら皆さん帰還!

「お帰りなさいませご主人様兼部下よ!」

「あー、そういえば俺達魔王の配下だったんだっけ」

 久しぶりに実験室が騒がしくなって嬉しいね。全員揃っているっていうこの安心感!いいね、ほんとに。


 ご飯を久しぶりにわいわい食べて落ち着いた所で、始まります、楽しい尋問タイム。

「とりあえず怖いのは『眠り繭』を解除した瞬間に攻撃されることですね。さて、どうしましょうか」

「解除してすぐに僕が凍らせる?」

 あー、それもいいかもしれない。『共有』は頭だけ出てればとりあえずできるから。

「……『共有』の前に……まずアミュレット、外さないと、じゃない?」

 ……あ。

 という事は、とりあえず……武装解除からだから……でもこのオッサン亀甲縛りになってるし……。

「眼前に剣でも突きつけておけばまず大丈夫だろう」

 鈴本はそういうけど、微妙に不安じゃないですか。うっかりここでよく分からんスキルとかぶっ放されてみ?我らが実験室が吹っ飛ぶよ?

「安全を期して場所を変えましょう。神殿の上の浮島とかいいんじゃないですかね」

 そうね。あそこならまあ、程よく狭くて程よく逃げ場がないからね。

 ふむ、そうと決まれば『転移』だ。


『転移』してきたけれど、初めてここに来た時みたいな荘厳で不気味で何とも言えないあの感じは無かった。まあ、元凶が無くなってるんだからそうだよね。

 部屋の真ん中に大司祭を置いて、その周りを鈴本、角三君、鳥海という前衛で固める。

 針生は何かあった時にすぐ大司祭を気絶……最悪、殺してしまえるように、大司祭の影の中で待機。

 羽ヶ崎君と社長もそれぞれ何かあった時の為にすぐ動けるようにしておく。

 刈谷は暗い部屋の中の照明係で、加鳥は……例の人型光学兵器に乗って出口をふさいでいる。圧迫感が凄い。

「……じゃあ、いくよ?準備はいい?」

「いつでもどうぞ」

「……『お掃除』」

 例の房付き錫杖で大司祭の周りの膜を消す。

 ……うん、自習室に居た人たちの時と同じだ。大司祭、眠りっぱなし。

 起こさないように注意しながら襟の中を探ると、指先に細い鎖の感触があったので引っ張り出す。

 ……ふむ、アミュレットがいくつか。

 鈴本に見せてみると、その内の1つを指差して頷くので、例のアミュレットはこの中にあるらしい。

 起こさないように首から外すのも難しそうだったので、無難にそれぞれ鎖の輪の1つを『お掃除』して外した。

 それから皆さんには厳重に耳を塞いでおいていただいてだな、『子守唄』を歌いながら指輪とか、何かの飾りとか、そういう何か付いてそうなものをひたすら外していく。

 あらかた装飾品を外し終わった所で、『鑑定』。そして念には念を入れてもう一度『眠り繭』。

 ……よし、成功。

「はい、ここで皆さんに相談」

 外した装飾品を袋に詰めつつ、耳を塞いでいた皆さんにジェスチャーで伝えると耳から手を離してくれた。

「この大司祭の服、『魔法耐性(大)』と『防御力上昇(中)』と『光の揺籃』と『威光』なんだけど、消しちゃっていい?それとも一旦亀甲縛り解く?」

 前者2つは兎も角、後者2つはちょっと惜しいような気もするんだよね。

「ところで刈谷は『光の揺籃』のロザリオ持ってたな。何の効果だったんだ?」

「ええと、多分光魔法の効果増大、だと思うんですよ。特に『箱舟』に効果が大きいんですけど」

 成程ね。ふむ、じゃあ要らないかな。私達の中で光魔法が使えるのは刈谷だけだし、その刈谷はもう『光の揺籃』持ってるんだし。

「『威光』が気になるが……念の為聞こう。それは、どの服についている効果だ?」

「ぱんつ」

 何とも言えない沈黙。

「……念の為、聞こう。一つ目に、お前はその『威光』の効果が付いた……下着をどうするつもりだったんだ」

 ……そういえば、そうね。他人の、しかもこんなオッサンが履いてたぱんつって、どんなに優れた効果があっても履きたくないね。

「二つ目だ。お前は、大司祭の下着を消した後何が出……いや、どうなるか、分かっているんだろうな?」

 ……。うん、ええと、私の想像力が欠如してたかな。

 あ、いや、待てよ。生物を消したことは今まで無かったけれど、ちょっと頑張ればいけそうな気がする。

「連続してすぐその下のものまで消してしまえば」

「やめろ」

「やめて!」

「やめてあげてください」

 ……男性諸君には何か思う所があったらしい。凄く真剣に猛反対された。

 うーん、私には無いもんだからその感覚って分からないんだけど……うーん……これは別に分からなくてもそんなに悔しくないぞ。不思議。




 という事で、私は膜と縄と、法衣とその下の法衣、さらにその下の服まで『お掃除』したら一時退散。

 皆さんが寄って集って脱がせて処分してくれた模様。うん、まあ、ありがたいよね。


「舞戸さん、もう大丈夫ですよ」

 社長に呼ばれて戻ったら、土のブロックがでん、とあり、そこに大司祭の首から上が出ていた。ここまでされても大司祭、まだ寝ている模様。ある意味大物だね。

「着せる服が無かったので埋めました」

 私が何とも言えないでいると、社長が胸を張って言ってくれた。……うん……。

 ……君のセンスに乾杯。




 さて、では早速『共有』して情報を引っ張り出しましょうかね。

 一応何かあった時の為に、また皆さんが包囲網を築く。相変わらず背後の機動戦士が圧迫感。

「じゃあ行ってきます。人を生き返らせる方法と、命の操作、あと帰還の儀式について調べてくればいいかな?」

「んー、あと魔王と神殿の話とかもちょっと知りたいかなー」

「あ、俺は光魔法について、もしあったらお願いしたいです」

「勇者の数とかも一応確認しておいた方がいいんじゃないの」

 ……結構色々出てきたな。

 うん、まあ、そこら辺も順次やっていくとしましょう。

 というわけで、『共有』。




 ……うぎゃ、ちょっとこれは……。このオッサン聖職者じゃないな?さもなきゃこういう記憶がある訳ないよなっ!

 あーあーあーあー……探せど探せど、手前の方にある綺麗なおねーちゃん達とのアバンチュール的な何かが邪魔をして奥の方にありそうな大事な情報が見つからない。自分をこぼさないように気を付けながらだと尚更。

 ……くっそ、しょうがないから一旦離脱。MPも減ってきたし。


「舞戸さん、大丈夫ですか?」

 離脱したら社長がミント抽出液の小瓶を渡してくれたので、それでMPを回復する。

「何か見つかった?」

「……精神的ブラクラは沢山見つかったよ」

 でもここで弱音を吐いていても終わらないのでもう一回『共有』。


 今度は情報を踏みつける事も厭わず進む。もう知るか!綺麗なおねーちゃん達との情熱的な一夜なんてよっ!どうにでもなれ!この腐れ聖職者め!

 雑多な情報の影にまともな色彩のものが見つかったので引っ張り上げると、あたり。ビンゴ。

 ふむ、これは……多分、『霊薬』の作り方だ。先代の大司祭から教わったものらしいね。

 らしいんだけど……分からん。……読めるし、情報として得られるんだけど……多分、『英語を専攻している人なら英語で書いてある化学の論文は全て理解できるという訳では無い』、っていう感覚に近い。

 まあ、離脱してから社長辺りと『共有』すればよかろうね。

 よし、次行こう。


 次は……あ、これは見っけもんだ。

 この大司祭の『生命観』。つまり、この世界の命のしくみ。

 ……要約すると、こんな感じになる。

『命は器に入っていて、器は肉体に入っている。その内肉体を取り戻すのに『霊薬』を用いる。無くなった命は他者から継ぎ足す事もできるが、器は壊れたら戻らない』

 とな。

 多分、器、っていうのはあのグラスの事で、命はグラスを満たす液体で、肉体、っていうのは……あのグラスがあった場所、なんじゃないかと思う。

 肉体が傷つくとそこから水銀みたいなあの液体が降ってきて、命を減らしていく。『霊薬』によって傷が治ったら、水銀みたいなあれも降ってこなくなる。

 うん、私が見たあの不思議光景と辻褄は合うね。

 ……もしかしたら、もし『霊薬』が作れたら、やっと。合唱部の人たちを戻してあげられるかも、しれない、なあ。




 ここでまた一旦離脱して、MPを回復したらすぐ戻る。

 ……アリアーヌさんも大概だったけど、この大司祭の煩悩にはもう一周回って敬意を表するよ。

 ここまで煩悩まみれになれるってある意味素晴らしい事だよ。自分に正直なのは悪い事じゃないよ。ただし公共の福祉の範囲内に限る。

 そんな煩悩に精神力をごりごり削られつつ、何とかまたマシそうな情報を見つけた。

 ……ふむ。大司祭の指輪の内の1つは、大司祭に代々伝えられてきたもので、鍵になってるらしい。これで開く扉が神殿内に何箇所かあるらしい。……っつっても、この大司祭、そういうのにあんまり興味が無かったらしく、全然探索してないからその先に何があるのか知らないらしいけど。……けど、少なくとも、中庭の滝の裏側にある洞窟の先の扉、っていうのは……気になるよね。滝の裏に洞窟、っていうのがお約束なのはこの世界でも同じなんだなあ。


 更に探してみると、神殿の教義、というか、神話が見つかった。ここら辺は社長がとっくに仕入れてるかもしれないけど、一応見ておこう。

『女神は世界を創り給うた。世界とは空、海、大地、そして理と命。世界は女神により創られ、永久に保たれる。女神は創造主にして担い手。我ら神殿は女神を讃え、女神の僕として世界の担い手の責を負う』

 ……ふむ、魔王についての記述が無いな。もうちょっと見てみよう。

『永久の世界脅かす者、魔王と名乗り、世界に魔を生み出す。女神は魔王を滅ぼし、世界に平穏を取り戻した』

 おや、ケトラミさん達の話だと、女神と魔王は『消えた』はずなんだけど、ここでははっきり女神が勝った、って……あ、書いてないのか。女神は魔王を滅ぼした。けど、女神が滅んでないとは書いてない。

 ……尤も、大司祭の記憶によれば、神殿どころか、この世界中では、今も女神が世界を保っている、っていうのが常識になってるらしいけど。




 ええと、それから、大司祭に伝わる珍しい光魔法の情報とか、王都のお偉いさんたちの情報とか、そういう割と役に立ちそうな情報を集めました。

 前者は刈谷に横流しして、後者は今後に役立て……る機会が無い事を祈ろう。


 さて。

 それから遂に、欲しかった情報が手に入りました。

 この世界を脱出する方法。

 現在私たちが知っているのは、『世界の欠片を全て集める』『神殿が帰還の儀式を行う』の2本でした。で、その前者の為に私たちは教室を集めまくってた訳です。

 で、その後者の方。これの方法が分かりました。……っつっても、さっきの『霊薬』の時と同じでちょっとよく分からないんだけども。

 ……けど、確かなのは……これ、『送る』人が最低でも1人は必要になるので、生徒だけ全員集めたとしても、この世界に残る人が1人は居ないといけないんだな、っていうこと。

 その人が大司祭とか、この世界の人なら何の問題も無い訳だけども、儀式っていうくらいのことはあって、滅茶苦茶、MPというか、魔力?というかを消費するのだ。

 だから、大司祭も帰還の儀式は少人数だけを帰す位の規模で、かつ、司祭たちにも協力してもらって行う気でいたみたい。つまり、実質、私たちの学校の生徒全員を帰還の儀式で元の世界に帰すのって、かなり無理があるんだね。分かってよかったよ、ほんとに。

 それから、大司祭は帰還の儀式以外の方法で異世界人に帰られるのを恐れていた模様。

 まあ、そうだね。神殿が帰還のカギを握ってる状態じゃないと勇者がみんな逃げるもんね。そりゃ困るわ。

 だから、大司祭は色々調べて、『世界の欠片を全て集める』方法も知ってたらしい。

 ……でも、過去の記録の中では、異世界人達を余分に召喚するようになってからは、全員揃って帰れた記録は無いみたいだ。

 当然だね。そうならない為に神殿が頑張ってたんだから。

 ……私たちが、その最初の例になってみせる。絶対。必ず。なにがなんでも。


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