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101話

『何も殺すことはありません。トップが変わればその下の人間も変わる可能性が十分にある。もし変わらなかったらそれから殺しても十分間に合う』

 何やら社長が物騒な事言い始めた。

『神殿を俺達の物にしましょう』

 ……見えないけど分かるよ。今君は輝いてる。……できればもうちょっと平和的な輝き方をして欲しいんだけどなあ……。十分平和的なのか、社長的には。




 ということで、社長から直々に作戦を授けられてしまった。

 まずは3時間程度仮眠をとる。大司祭は多分大丈夫だろう、という事になった。うん、あれから更に針生がぐりぐり縛り上げて(『忍者』のスキルらしいんだ、これが)益々面白い事になったので、もうこれ以上できる事は無いと判断。

 そして私と鈴本は色々と準備してから『転移』でアリアーヌさんのお部屋へ。

 しかしいらっしゃらない。当然だ。当のアリアーヌさんは大司祭が居なくなって混乱状態の人たちを落ち着けようと頑張ってるらしいから。

 なので私と鈴本は持参してきたお茶とお菓子で優雅に待機。正直勝手に人の部屋使って勝手にお茶飲んでるとか、心臓バクバクものなんだけど、魔王ならこれぐらいの事はやるよね、多分。


 そして、鳥海と刈谷あたりが巧い事やって、アリアーヌさんを部屋に帰してくれる。

 多分「お疲れのようですから部屋にお戻りください。この人たちは俺達がなんとかしますから」とかやったんじゃないかな。

 メイドさん連絡網で連絡が回ってきたので、きっちり優雅にスタンバイ。鈴本の分のカップは片づけておく。一応、私が魔王なのだから、こいつは部下って事になっちゃうのよね。だとしたら一緒にお茶飲んでるよりは、私だけお茶飲んでた方がそれっぽい。

 そして、足音が近づいてきて、扉が開いた。

「……きゃっ!あ、あなたはっ!」

 アリアーヌさんは私を見つけるや否や、手にしていた杖を構えた。しかし私は魔王、こんなことで動じてはいけない。

「邪魔しているよ」

 軽くカップを掲げて、優雅なティータイム中だったこと……つまりはこちらの余裕をアピール。私は魔王、私は魔王、と自分に言い聞かせてます。さもないと色々吹っ飛びそうなんだもんよ!

「待ってください、アリアーヌさん」

 鈴本が前に出ると、それで警戒がかなり緩んだのが見て分かった。それでいいのか司祭長。

「これは一体どういうことですか?何故、魔王がここに」

 それでも困惑は収まらない。当然だね。うん、これであっさり納得された日にゃあ魔王の名折れだよ。

 ……さて、じゃあここからは私のターンだ。音をさせずにカップをソーサーに戻す。

「女、貴様だな?こいつに心を強く保つ術を授けたのは?」

「……それが何か?」

 さて。ここでアリアーヌさん、私も鈴本も、腕だの頭だのに包帯巻いたり、ひっかいたみたいな痕があったり、痣ができてたりすることに気付いて、不審げな顔をする。

 そりゃそうだ、敵地に乗り込んできた敵の親玉に生傷があるって、面白すぎる。

 ……私のは『変装』の一環で傷跡だの打ち身だのを作って、鈴本はそういう訳にいかないので包帯ぐるぐる巻きにしてある。

 一応、私の方が軽傷、っていう設定になるように調節した。魔王の方が強いんだよ、っていう事なのだよ。

「貴様のせいでこいつと一晩中殴り合う羽目になったわ。どうしてくれる」

 少し冗談めかしたように言ってみると、アリアーヌさんがぽかん、とした。

「しかもこいつは余を殴り余に殴られる間、一瞬たりとも黙らんでな。黙らせようにも心が折れないと来た。……しょうがない、あまりに五月蠅いので余が折れてやったのだ」

「そういう事です、アリアーヌさん。魔王を説得しました」

 鈴本が微笑してやれば、アリアーヌさんの顔がぱっと明るくなった。

「じゃあ、無駄な殺し合いは……?」

「せぬよ。さもなくばまたこいつが五月蠅いのだからな」

 私も薄く笑いながら言ってやれば、アリアーヌさんは安心したような、しかし警戒の抜けきらない顔で喜んだ。


「……ただ、この神殿の腐敗は見逃せぬ」

 そこで、表情を引き締めて、一気に空気を変える。

「女、貴様も知っておろうな?この神殿の大司祭が如何に腐りきった下衆であるか」

 勿論、半分ハッタリです。残り半分は『大司祭が消えた』という事実。

「……はい。私は……知ってしまいました。大司祭様が寄付金を娯楽の為にお使いになっていることを!」

 あれっ、それ、私が想定してたのとちょっと違う。……まあいいか。

「そして、大司祭は消えたというではないか。この神殿の長であるというのに、だ。……のう、女よ。余はやはり、そんな腐りきった者が治める神殿の人間なぞ皆殺しにしても良いと思うのだ」

「そんな!」

「五月蠅いこいつとて、余りに五月蠅いようなら……殺してしまってもよいのだからな」

 できるだけ鋭い目で鈴本を見てやれば、鈴本も緊張したような素振りを見せるという名演技。

 アリアーヌさんはさっきからころころ表情が変わって可愛いなあ。

「……しかし、こいつは殺すには余りに惜しい。……そこで、だ。女よ」

 ここでまっすぐ、アリアーヌさんの瞳を見つめて、魔王らしく、不敵に笑みながら言う。

「この腐った神殿を変えてみよ」




 言った途端、アリアーヌさんの瞳が見開かれた。うん、良い調子。

「できぬなら殺す。しかし……こいつは、人間とは変わることのできる生き物だ、等と言うのでな。……どうだ。貴様にできるか?」

「わ、私が……?」

「もう一度だけ問うぞ。貴様に、できるか?」

 できなければ殺す、と言ってるのだから、ここはやる、と言わざるを得ないのよね。我ながらあくどい。

「……私に、できるでしょうか」

「できなければ殺すまでよ」

 意志を秘めつつ、不安げなアリアーヌさん、非常に可愛いんだけども、ごめんね魔王は非情なの。

「……やります」

 おっ、来た。

「やります。私が、この神殿を変えてみせます!」

 よしよしよし。これはいい調子!

「ふむ、言いおったな。……では、女よ、心して聞け。よいか、正しい歴史を探すのだ。この神殿が腐る前、何を教えていたのか。世界はどのように変わったのか。それを知れ。そして、神殿を……元の姿に戻すのだ」

「元の、姿……?」

 あ、やっぱり知らないのか。うん、私も知らないんだけどね。

「勇者を何のために召喚しているのか。勇者帰還の儀式によって犠牲になるものは何か。気になる点は幾らでもあろうな」

「勇者様の帰還の儀式で、犠牲が……?」

 これは知ってるからね。余裕ぶっこいて返事できるよ。

「やはり知らぬか。……それが分かるまで、勇者帰還の儀式を行うでないぞ」

「そもそも帰還の儀式の方法は大司祭様しかご存じでないので……」

 うん、それも知ってる。アリアーヌさんの記憶の中には無かったからね。

 ……と、ここで、とこよが私の意識を引っ張る。お、きたか。

「……そろそろ戻らねばならぬな。女よ、また来るぞ。その時までに少しでも神殿を変えておけ。余は、腐った神殿など見とうない」

 さて。ここで帰れば万事計画通り、だったんだけども。

「あ、あの!……魔王、さん……5分、いえ、3分だけ、この方とお話させていただけませんか?」

 おおっ!?アリアーヌさん、鈴本をご指名である。これは……これは、想定外だったなあ……。

 でもここは許可した方がいいか。

「……ふむ。余は先に戻るでな。……好きにしろ」

 ちょっと面白そうに笑ってみせれば、アリアーヌさんの顔がぱっと明るくなった。

 ということで、鈴本を取り残して私だけ実験室に『転移』。


 そしてティーセット片づけて、鎧脱ぐのにちょっと手間取って、なんとか服脱いでステルス状態になって、ちょっと怖いけど元凶も1つだけ外して棚にしまい込んで、念の為MPも回復して、蜻蛉返り。

 鈴本は自力じゃあ帰れないからさあ……。


「……、アミュレット、お返しします。ありがとうございました」

「いいえ、それはあなたが」

「これからあなたにますます必要になるでしょうから」

 鈴本は丁度、アリアーヌさんにアミュレットを返す所だった模様。

 もう私もいるよ、ということで、鈴本の手をつついておく。

「……そう、ですね。返してもらった方が良さそうだわ」

 アリアーヌさんはアミュレットを受け取り、また自分の首に掛けた。

「近いうちにまた来ると思います。また、それまで」

「はい。魔王さんにも、よろしくお伝えください」

 丁度よさそうだったので、鈴本を巻き込んで『転移』再び。


「ね、話って、なんだったの?」

 気になったので聞いてみたら。

「お前は知らなくてもいい話だ。大したことじゃない」

 と、なんともつれない返事を頂いてしまったのでそれきりになってしまった。

 ……まあ、アリアーヌさんがああ言って引き留めた以上は……さぞかし甘い会話をなさってたんでしょうなあ、と、思うんだけどさ……。メイドさん人形を鈴本に持たせていなかったことが悔やまれる!




 それから針生を拾って来て、また簡単なお昼ご飯を食べたり、ベーコン作成に勤しんだり、と、楽しい午後を過ごす間に神殿は大きく様変わりした。

『アリアーヌさんが大司祭として名乗りをあげました。俺達が支持したので支持率も鰻登りです』

 お、これはやったか。……そしてモテモテ効果はここにもあらわれたかあ。

『神殿をあるべき姿へ戻す、という考え方に反対する神官もいましたが、それは全て処理しておきました』

「……処理?」

『はい』

 ……処理、ねえ。……うん、きっと社長の事だから穏便に何とかしてくれたんだろう。多分洗脳とかしてさ……。

『それから、魔王の脅威は去った、という宣言の元で、傭兵たちも解雇、という形になりました。給料もらったらそちらに戻ります』

「晩御飯は食べてくるの?」

『……できれば帰ってから食べたいんですが、大丈夫ですか?』

「勿論さ!」

 今晩は久しぶりに全員でご飯が食べられるみたいだ。嬉しいなあ。ホントに久しぶりな気がするよ。

『じゃああと一時間程度で戻ると思います。戻ったら全員で楽しい尋問タイムを始めましょう!』

 そういえば、そうだったね。

 はてさて、大司祭からはどんな情報が得られるかな?


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 勇者。 ……いや、見たいわけではなく。 [一言] グラスに共有(限定)で行けそうな。
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