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100話

「舞戸、動けるか?」

「ま、なんとか」

 鈴本が羽織を脱いでくれたので、それを受け取って着る。ありがてえ、温い。

「よし、そこか」

 と思ったら、私の位置の特定の為だったらしい。腕を捕まれた。

「……お前、生きてるよな?」

「うん、なんとか、まあ」

 何とも物騒な事聞いてきたなあ。

「冷たすぎるぞ」

「うん、寒い」


「……しょうがないか。鳥海。聞こえるか?」

 うえっ!?まさかのっ!?

『あ、うん。どしたの?非常事態?』

「今、神殿そばの丘の上に居る。舞戸が『転移』できなくなった。様子もおかしい。ちょっとタクシーになってくれるか」

『んん?そりゃ大変だね、今行くわー』

 その一瞬後には鳥海が現れて、私達を巻き込んで2F北東まで移動してくれた。も、申し訳ない……。


「じゃあ俺戻るんで、また何かあったら言って」

「ああ、ありがとう。後で連絡するが、明日の朝大司祭は神殿に帰ってくる予定らしいから、そのつもりで」

 巧くそこに居合わせて捕まえられたらこっちのもんなんだけどね。

「了解っすわー。じゃあ、おやすみ」

 鳥海は敬礼して帰って行った。……さて。

「とりあえず舞戸は服、着ろ。……自力で着られるか?」

「多分」

 そうか、と言って鈴本と針生は実験室から出ていく徹底っぷり。

 借りてた羽織を脱いで、メイドさん人形達に手伝ってもらって服を着ていったら、その内体の調子は元に戻った。

 ……なんじゃ、こりゃ?


「おまたせ」

 実験室のドアを開けてすぐのところに居た鈴本と針生を呼ぶ。

「服着たら元気になった」

「お前の元気は信用できない」

 ひどい。

「とりあえず、原因が分からないと怖いよね。舞戸さん、心当たりは?」

 ……そうね、原因を探っておくのは必要か。

 ええと、確か……元凶2つ目抱えた時に、違和感があったなあ。それか?確かに、今回は元凶2つ抱えっぱなしでステルスしてたからね。

「元凶2つ目が原因かな、と」

「そうか、じゃあそれ外せ」

 いやいやいやいやいや。外したら君達ぐったりじゃないですか!それにだな……多分、元凶2つ装備したまま、ドーピング装備だけ全部外したのが原因だったと思うんだよね。となれば、服脱がなければいいってことじゃん。

 ……というようなことを説明したら渋面で了承を得た。まあ、うん。元凶は私が装備しておくのが一番いい、っていうのはずっと前から結論が出てるからね。


「さて、じゃあ私はまた神殿行ってくるよ」

「……ああ、成程。アリアーヌさんだな」

 左様。アミュレットが無くなった今、アリアーヌさんは多分無防備!ならば今のうちに『共有』までやって、得られる情報を得尽くそう!という魂胆である。

「本当に大丈夫か?」

「平気。例の如く遅くなりそうだから君は寝ててね」

 っつっても起きてるんだろうけどなあ、こいつ。




 針生はすっかり神殿内部の地図を把握しちゃったらしい。すぐにアリアーヌさんの部屋を見て帰ってきた。

「駄目だー、寝てないよ、アリアーヌさん」

 しかしまさかの寝ていない。

「ステルスで行って歌って来ようか?」

「それでさっき動けなくなってたでしょ、舞戸さん」

 うん、そうだった。

「寝るまで待つ?」

「んー……あー、社長まだ起きてるかな。こう、眠り薬のエアロゾル版無いか聞いてくる」

 言うとまた針生は影に沈んでいく。

 うーん……ホントにこのスキル謎だな。影に入れる、って……なんかおかしくない?おかしくないの?


『舞戸さん、もう来ていいよ』

 針生から合図を貰ったので、みなもで『転移』。

 見れば、月光に照らされながらベッドに横たわってすやすや眠っている美女。

 純白のシーツに髪が広がり、幾筋かはベッドの端から零れ落ちる。うーん、何やらアリアーヌさんの美貌と相まって犯罪チックな香りがするなあ。申し訳ない。

 念の為『子守唄』も重ね掛けしておいてから、例の如く『共有』。


 ……うおわ!何これ!何これ!ああああああ、これは、これは……これは……酷い!

 鈴本関連多すぎてなんかちょっと辟易する!というか、うわあ、アリアーヌさん意外と情熱的……あ、ちょ、何これ、うわ、見なきゃよかった!本気で見なきゃよかった!ああああああああ!清楚な美女もこういう事考えるのか!考えてるのか!なんかアリアーヌさんだけじゃなくて鈴本に対しても申し訳ない!いや、これアリアーヌさんの考えた事なんだけどもちょっとうわあああああああああああ


 ……取り乱しましたが私は元気です。げんなりしたけど私は元気です。何を見てげんなりしたかって?そんなことはもう忘れた。記憶から抹消した。アリアーヌさんと鈴本と私の精神衛生の為に。

 そして何とかアリアーヌさんの『良心の呵責』部分を覗くことに成功。

 成程、アリアーヌさんが言ったことは半分本当だけど、半分は嘘だった。

 大司祭は本当にそんなに強くは無い。少なくとも、アリアーヌさんはそういう大司祭しか知らない。

 物理的な攻撃手段に乏しいのは勿論、魔法は光魔法が少し使える程度。回復もできはするのかな。

 ……それでも、それでも大司祭が大司祭という地位についていられるのは、唯一、奇跡を起こすという『霊薬』の作り方を知っているからだ。これが大司祭の一番の強みとも言える。詳しくはアリアーヌさんも知らないみたいだけど。

 そして、大司祭が明日神殿に戻ってくるというのは本当の事だけど、ここにも嘘がある。

 確かに、大司祭は明日神殿に戻ってくる。けれど、それは魔王と戦う為じゃない。

 ……きっと、勇者の命を回収するためだ。

 何の為に。それは、アリアーヌさんには分からないけど、私には分かる。

 つまり、1upキノコでしょう?




 さて。『共有』を終えたら空が白みだしていた。またか!

 MP空っけつだったので回復してから、針生を巻き込んで『転移』。

 実験室に帰ると、鈴本がぼんやり1人神経衰弱やりながら待っていた。

「お帰り」

「寝ててほしかったかなあ、君も動かなきゃいけなくなっちゃったかもしれない」

「……というと?」

「大司祭は、逃げる気だ。捕まえなきゃ」


 朝早くから申し訳ないけど、皆さんそれぞれについているメイドさん人形に皆さんを起こしてもらって、緊急会議です。

「テステス。こちら『メイド長』。我らが侍は完璧にやり遂げました」

 その報告の直後、皆さんから暖かい拍手と笑い。どうどう、ちょっと黙ってくれるかね。

「そして先ほどターゲットの記憶を覗いた所、大司祭は本日朝に帰って来て、そのまま勇者の命を回収しに行く模様。よって、私たちはあの部屋で待機しているのが望ましい。あの部屋で待機し、そこに来た大司祭を捕獲したい!」




 そこから作戦を凄いスピードで立てて、私たちは着替えて、皆さんの装備も持って『転移』。

 どうも、角三君と鳥海が相部屋だったらしいのだ。ならばそこが良かろうね、ということで全員そこに集合。

 そこで着替えてない人はがしゃがしゃ着替えて、魔王軍の完成。

 部屋のドア開けたらすぐ私が見えて、引き返そうとしたらすぐ私に背後を取られて、そして部屋の中には魔王軍がいるというセッティング。うーん、オーバースペック。

 針生だけは玄関の方に行って、大司祭がちゃんとこっちに来るかを確認してくれている。

 よし、私はちょっと台詞回しでも考えておくかな……。


『こちら『ミナモ』!ターゲットはそちらへ接近中!急いでいる模様です!』

「了解。こちらも準備完了。いつでも大丈夫だ」

 そして、針生の実況を聞きながらわくわく待って、そして扉の外側で慌ただしい足音が聞こえたかと思うと、扉の鍵を外す音が響き、そして、扉が開いた。

「なっ……!?」

 何やら良さげな装備をしているオッサン……大司祭は、魔王っぽく笑む私を見て硬直し、そして方向転換して逃げ出そうとした。

「甘い」

 しかしこんなのお見通しなのである。オッサンが硬直した時にはもう『転移』発動済みだからね!

 できるだけ魔王っぽくにやり、と笑って、すぐに『眠り繭』を大司祭に対して発動させ……ようとしたら。

「く、くらえっ!」

 突然、大司祭の指輪が輝く。

 ……そして、次の瞬間にはもう、私の腹には銀でできているらしい綺麗な短剣が、ぶっすり刺さっていたのである。

 ……ま、だからどうした、って話なんだけどね。

「どうした?これだけか?」

 周りの皆さんはそんなに表に出しはしないけれど、焦っているっぽかったので、余裕たっぷりな声で大司祭を嘲笑ってやる。

「ひ、光魔法を極限まで込めた、聖銀のナイフ、だぞ……!?」

「愚か者め。そんなものが魔王に効くとでも思ったのか?」

 腹に短剣ぶっ刺さったまま一歩、歩み寄ってやれば、また大司祭の指輪が光り……何かが発動する前に、砕けた。

 そして、その次の瞬間、もう大司祭は吹き飛ばされて壁に衝突。昏倒した。

 ……そして、昏倒した大司祭の胸元が光り始めたので、とにかく、急ぐ!

「寝てろっ!」

 そして、大司祭が目を開いたその瞬間、やっと、『眠り繭』発動だ。

『眠り繭』は、アミュレットで阻害されない。なぜなら、これは本来プラスの方向に働くスキルなのだから。アミュレットはプラス方向に働く技は通す、と羽ヶ崎君が情報を仕入れてくれたからね。

 目論見は見事通った。

 大司祭はよく分からん道具を発動させる前に、薄い薄い不可視の繭に包まれて眠りに落ちた。

 とりあえず期限は1か月位に設定しました。どうせ起こそうと思うなら私が『お掃除』すりゃあいいんだからね。

「舞戸さん、大丈夫ですか……ちょっと痛いと思いますけど、すみません」

 刈谷が断りを入れてから、私の腹にぶっ刺さった短剣を引っこ抜いた。

 確かにちょこっと痛かったけども、私の『痛感耐性』にかかれば屁でも無いのであった。

「……油断しましたね」

 社長が悔しそうにしてるけど、しょうがないさ。

 むしろ、私の腹の刺し傷1つで済んだだけマシだったと思うけどな。もっと訳分からん道具使われてた可能性、あったわけだし。

 ……使われた道具をぶっ壊しちゃったのが、ちょっと痛かったかもね。時を止めるとか、そういう系だったと思うんだけど……まあ、しょうがないか。


 さて、これでなんかあっさりと大司祭も捕獲できちゃったし、あとはこいつから情報を引き出すだけなのです。さあ帰ろう!そして寝よう!眠い!いい加減眠い!




 このまますぐに帰っちゃうと怪しまれまくり、という事なので、帰ってきたのは例の如く私と鈴本と針生だけです。あ、あと大司祭という荷物が増えたけども。

「さて。……一応こいつ、『眠り繭』に閉じ込めてあるんだよな?」

「うん」

 だから安心っちゃ安心なんだけど……手放しに安心できるほど私達、疑い深く無くないのよね。つまり、疑い深い。

「だからこのオッサン縛っとこうねー」

 針生が繭の上から大司祭を縛り上げた。うん、繭自体は凄く薄いから、こういう事しても無意味にならないのよね。

「魔法も使われたら厄介だな」

 何時ぞやの封印手錠、まだとってあったらしく、鈴本が大司祭の手に掛けた。

「目隠しもしておこうか」

 更に目隠しもした。

「口も塞いでおこう」

 猿轡までしちゃった。

「ええと、それから……」

 そして、気づいた。

「こいつ奴隷にしとこうか」

 あの、爆発する首輪なるものがホントにあるなら、それ以上に効果的な拘束具も無かろう、と。




 ということでジョージさんとこに来ました。

「おはようございまーす」

「うわっ!?……あ、舞戸さんか」

 相良君が驚いてくれたけども、そういや私まだ魔王でした。一応『変装』は解いておこう。

「えーと、ジョージさんいる?」

「まだ寝てる」

 でしょうね。

「ええと、じゃあ、相良君。奴隷につける、主人の命令に反したら爆発する首輪、って、この店にある?」

「はあ!?……何に使うんだよ、それ」

 ぶつぶつ言いながら相良君は倉庫に入っていき、やがてごつい首輪をもって来た。

「はい」

「……貰っちゃっていいの?」

「いいだろ、ジョージさんの事だからもう既にコピーしてあるんだろうし」

 あ、そういえば、ジョージさんの職業なんだけど、『コピーウォーロック』だった。月森さんと大体同じね。

「ええと、じゃあ貰ってく。あとそうだ、そろそろベーコン塩漬け終わってるから持ってくね」

「分かった。ジョージさんに伝えとく」

 首輪を貰って地下室に入って、塩とスパイスに漬かったお肉の容器と一緒に『転移』。

「あ、お帰りー」

「……それ、どしたの」

 帰ったら、大司祭が亀甲縛りになってた。

「折角だから」

 ……。折角だからという理由で亀甲縛りにされてたらなんか可哀相だなあ……。でも爆発する首輪は付ける。




 さて。お腹もすいちゃったので寝るのは後にすることにした。

 朝ごはんをさらさらお茶漬けで済ませると、ここで『交信』の腕輪が光った。

『『サクラ』です。聞こえますか?』

「聞こえてるよー」

 さて、どうしたのか。

『大司祭が消えたことが神殿内に広まりました』

 おお、結構広まるの速かったね。……まあ、そうか。何てったって大司祭だし。

『が、魔王軍に捕獲されたとは伝わっていません。……これはチャンスですよ』

 ……はて、何の?

『徹底的に神殿を解体する、チャンスです』

 ……まだ、私の魔王生活は続くようです。


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