7話
朝です。昨日アセテート作ってたせいで眠い。されどメイドの朝は早い。
自分を『お掃除』してから、さっさか朝ごはんを作る。
ベビーリーフとトマトのサラダ(塩味)と、昨日のポトフの残りだね。今までお野菜が不足気味だったのでガンガンお野菜を食うメニューですな。
そして起きてきた皆さんもハタキでぽふぽふやって、朝食。
そして、なんと、鈴本から爆弾発言が。
「あ、今日昼飯要らないから」
「はいぃ?」
聞けば、今まで昼で戻ってきていたけれど、MP回復もできるようになったんだから、もう少し遠くまで行ってみようとの事。
た、確かにそりゃそうだ。できるだけ早く他の部員を見つけてやらんと、何時ぞやの角三君みたいになってる可能性は大いにあるんだし。
けれどな、だからって君たち……お昼ご飯、どうするんだい?
「適当に鳥とか焼いて食う」
「お前らに捌けるほど鳥甘くねーぞ舐めんな」
「後は果物とか適当に食べる」
「MP回復のハーブ類は?そのまま食うの?」
「え、別にいいだろ?」
「羽ヶ崎君、それでいいの?」
「あんまりよくないけどしょうがないじゃん」
……こんな調子であった。
「君たち……お弁当って、知ってますか?」
「……あったな、そういうの……」
とりあえず大慌てでお湯を沸かしながらジャガイモと人参を一口大にして蒸かしつつ、塩のあんまり入ってない燻製肉を選んでそれは紙で包む。
火の通ったジャガイモと人参をプラスチックの広口瓶に入れて蓋して肉と一緒に提出。
沸いたお湯でミントとローズマリーとローリエから成分を抽出して、お茶にしてそれはプラスチックの瓶に入れて提出。
果物は適当に探して食べてください、ということでいってらっしゃいませ。
次回からくれぐれも、お昼をお弁当にするときは予め言ってから寝ろ、とよーく言っておきました。
お弁当、っていうことで考えたけど、どう考えても携帯性が悪いんだよね、今日のメニュー。
これが小麦粉があればパンにすればいいし、米があればおにぎりにすればいいんだけど、主食が芋の現在、ちょっと携帯食を作るのが難しいのです。
……しょうがないから、ちょっと模索してみましょう。
ジャガイモの蓄えは結構ある。できたてほやほやの庭にもいくつか植わってるし、尽きる心配はなさそうだ。
ジャガイモを摩り下ろす……道具が無いので、しょうがないから工具箱の鬼鑢を良く洗って使う。
サッカーボール大のジャガイモ一つを摩り下ろすのに1時間かかったよ。チクショー。
摩り下ろした芋を布巾で包んで絞って、でんぷんを取り出す。
ひたすら絞る。滅茶苦茶絞る。
でんぷんが含まれる水ができたので、これに少し水を加えて放置。
後は沈殿したら上澄みを捨てて、また水を加えて、沈殿させて、を数回繰り返して、最後に残ったでんぷんを日向で乾燥させるだけ。
これででんぷんができるので、ジャガイモに混ぜてジャガイモ餅が作れますよ。
普通のジャガイモよりは携帯性がいいと言えよう。でんぷん混ぜれば炭水化物増えるし。
でんぷんが沈殿するのを待ちつつ、鹿の皮をミョウバン・食塩水溶液から引き揚げて、ビニールに包んで冷暗所へ。このまま1日置きます。明日鞣そう。
それから庭に出て散水の時間です。
水に関しては羽ヶ崎君が寝る前に毎日ポリタンク8つ分を充填してくれるので、それを使う。炊事にはポリタンク2つあれば十分だしね。
ポリタンクの水を盥に入れて運んで、撒く。それを繰り返す事数十回。
……庭仕事も、メイドの仕事だよねえ?だったら、これもスキル化できないだろうか。
いや、今までやっててスキル化しなかったんだから、道具が悪いのかな。
そういえば小さいから使わなかったけれど、ジョウロがあるんでした。
これを使えばスキルになるかなーと思いつつジョウロで水を撒いてみた所、案の定、ジョウロから質量保存の法則を無視した量の水がさらさら出てきて、すごく簡単に水撒きが終わりました。小さいジョウロだから重くないし、水は無限にどこからともなく出てくるので補充の為に往復する必要も無い。
スキルの確認をしたら、『繊維錬金』と『水撒き』というスキルが追加されていた。うん。うん……昨夜のあれは、錬金だったのか……。
とりあえずアセテート繊維を紡いで糸にすることにした。
糸車とか無いとだめかなー、と思ったがそんなことは無かった。
スキルがやってくれました。
手の動かし方がなんとなく分かるからその通りに動かしていったらそれはもうサクサクと糸が紡がれていく。いやー、速い。
そしてこのスキルの凄いところはその速さだけでない!
特筆すべきは安定した糸の品質!
手紡ぎとは思えない糸の太さの安定加減!そして細い!機械紡績真っ青のスキルだった。
さて、次にこれを織らないと布にならないんだけれども、織機とか、作れる気がしない。
暫く考えた結果、縦糸を掛ける板と、横糸を通す杼さえあればあとはスキルが何とかしてくれる気がするので、とりあえずその2つを作ることにした。
縦糸の方は……ええと、両端に小さな穴が一列に並んで大量に開いている縦に長い木の板を作れば良くて、杼の方は、横糸が巻ければそれでいいや。
『お掃除』で木の板を作って、それに『お掃除』で穴を空けようと思ったら、まあ、案の定失敗したので、錐で一つずつ穴を空けていく作業に移る。……うーん、これだと間違いなく、滅茶苦茶目の粗いガーゼみたいな布になってしまうなあ……。横糸きつめに入れれば大丈夫だろうか。
とりあえず何とかできたので、縦糸を通す。ここが一番大変なわけだけれど、スキル様様で、ここはすんなりできた。
で、杼に横糸を巻き付けて、いざ、機織り。
結論。目が粗いけど、一応布ができました。
でも目が粗すぎてちょっとお話にならない。やっぱり『お掃除』を使いこなして、1つの木材から織機を生み出せるようになるまでやりこんでいくべきかな。
とかやってたらでんぷんが沈殿してたので、上澄みを捨てて水を加えて撹拌。また放置。
皆さんが帰ってこないから微妙に時間の感覚が鈍くなってて、既に午後2時。ああ早い。
というわけで、実験も兼ねたお昼ご飯。
塩をきつめにいれてある燻製肉をベビーリーフと一緒に水で煮込んで、塩味のスープにして実食。
うん、まあこれならいける。
塩抜きとかしないとあれかと思ったけど、こういう食べ方なら塩きつめでも大丈夫かな。
前から気にはなっていたので、実験できて丁度良かった。
自分以外に食べる人がいるとご飯で冒険できないからね。
午後はひたすらに鹿肉を燻製にしていく作業と『お掃除』の精度を上げていく作業に勤しみました。
もちろんでんぷんの世話もするよ!
その結果、何とか単純な三次元的加工なら可能になったので、お皿、お椀あたりを作ってみる。数を作るとだんだん上達してくるのが目に見えて分かって嬉しいね。
ただし、この『お掃除』の仕方、おっそろしく集中力を持っていかれる。
終わった後に気力がなくなったので試しにミントをもさもさ食べてみた所、気力が回復した。そうかー、これがMPかー。
折角なのでローズマリーとミント、それぞれでハーブティーを淹れて、どちらがよりMP回復に適しているかも実験。
結論から言うと、どっちも大して変わらなかった。ミントの方が若干即効性かな、ぐらい。
夕方になってきたので、晩御飯の支度をする。
今日は鹿肉とネギで串焼きにしよう。
鹿肉だから、あっさりした牛串みたいになるね。
ネギ塩ダレと醤油の2種類でいこう。
醤油の方は、砂糖の代わりに例の緑のオレンジの果汁を加えてみました。試食したけど、割といい感じでございます。
それから、ネギ含むハーブ類と鹿肉、人参あたりからとった出汁とジャガイモでポタージュスープに。ミキサーとかないからしんどかったです。はい。
それにベビーリーフ類のサラダを付ければとりあえず完成。
後は皆さんの帰りを待ちましょうね。
「ただいまー」
「お帰りなさいませご主人様方。増えたね」
そう。増えた。
ドアの前に立っているのは……その数、6人!
「わー、舞戸さん、本当にメイドさんなんだねぇ」
「どうもー。お邪魔しまーす。うわ、久しぶりの実験室だ、懐かしいなー」
周りに花でも咲いているのではないか、っていう雰囲気の方が加鳥君、実験室に感慨を覚えてる方が針生君である。
「見つけたから拾ってきた」
角三君がちょっと自慢げだから、角三君が2人を発見したのかもしれない。
とりあえずえらいえらい、と褒めておこう。無反応だけどな!
……しっかし、加鳥は弓、針生は短剣2本を携えているわけで……こいつらも普通の戦闘職なんだなあと悲しくなる。
チクショー、メイド仲間が欲しい。
急遽増えた人数分のご飯を補うべくちょっと奔走し、無事ご飯にこぎつけました。
やっぱりというか、加鳥も針生もまともなもんを食べていなかったらしく、その食いっぷりには目を見張るものがあった。
「久しぶりにあったかいもの食べたなぁ」
「俺達、ずっと果物か生肉だったからね。あははははは」
二人は化学講義室で実験の計画を立てていたらしい。ちなみに、化学講義室は化学実験室の向かいの教室にあたる。他の生徒はいなかったらしいので、やっぱり運がいいのか悪いのか。
そして案の定というか、掃除ボックスから武器を見つけてそれぞれ装備して、出てきたらしい。教室自体を運べることは知らなくて、教室を取りに行ったりして遅くなったとの事。
加鳥は『狙撃手』、針生は『盗賊』らしい。針生が『目利き』というスキルを手に入れたおかげで、食べ物選びにはそんなに困らなかったらしいが、火が使えなかったせいで、加熱ができなかったらしい。
……そりゃー致命的だね!
更に、『お掃除』ができるわけでもないので、大層小汚かった。これは許しがたかったので入り口でさっさと『お掃除』してある。
……こう考えると、本当に私達、恵まれてたんだなあ……。
そして、そんな二人は実に素晴らしいスキルを持っていた。
加鳥が『機構制作』、針生が『木材加工』というスキルを手に入れたらしく、加鳥の弓はコンパウンドボウになっていた。
という事で、早速二人を動員して織機を作ってもらう事にした。自分で作れ?いやー、餅は餅屋でしょう。
科学研究室にあった本に織機の構造が載っていたので、それを見せると、材料さえあれば作れそうとの事。
食後で悪いが、鈴本と角三君を動員して木材を確保すると、その晩のうちに織機ができた。
……ひゃっほおおおおう!これで明日から機織りできるぜ!
尚、明日もお弁当が要るとの事なので、早起きするために今日は早く寝ます。おやすみ~。




