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魔王と勇者と黒猫と。〜GAME SIDE〜  作者: 紅条
《魔界編》第一章
9/30

第一章 4『空からロリ』

 ────ピピピピッ


 それを聞いたのは何度目になるか。

 目を閉じたままでも、今自分がいる場所がどこなのか、はっきりとわかってしまった。

 それを確かめるように、自分の体が寝転がるその地面に、手のひらで触れる。

 ふわりと柔らかい草。少しチクチクするが、触っていて気持ちの良い暖かさがある。

 そして目を開ければ、視界いっぱいに飛び込んで来る真っ青な空。記憶にある限りでは、おそらく見上げるのは三度目だ。


「……何がどーなってんだ。これ」


 動く気にもなれないままその場でボヤく。

 俺は断片的にだが、自分に起きた現象を理解し始めていた。


 脳内に明滅する、自分が死ぬ、その記憶。

 夢よりもリアルに、現実そのものに訪れたそれは、やはり夢なんかでは片付けられなくて。

 あり得ない。自分の中に存在する理性は、常識は、そう主張する。

 だがしかし、あれが夢なわけがない。

 あれだけ痛くて、苦しくて、辛くて。そんな死が、全部夢だった、で済まされるはずがない。


 俺は確実に、死んだ。


 ではなぜ、俺は今こうして、この草むらに寝そべっていられる?

 魔法? まだまだ知らないことが……というか、知らないことしかない魔法。その中に、この現状を説明する何かがあるのかもしれない。


「──まあ考えるのは後か。まだ吐き気がするけど……とりあえずここを離れよう。あんまりいたくない……」


 そう言って起き上がる。

 だが、望まぬ事ほど、目の前に現れる。


 ふと空を見上げれば──


「…………嘘、だろ?」


 ──黒く小さな点が、徐々にその大きさを増しながら俺が立つ地面に迫って来る。

 強烈な既視感。それに伴い、背筋を走る悪寒。


 ────逃げろ。


 ただ命ぜられるままに俺はその場から走り出した。

 だけど、もう遅い。

 俺の知る限り、ここから先はあいつに追いかけられて……。


 ────ズッゥウウウウウウウウン


 そんな音を立てて地面に沈み込むその巨体は、記憶に残る強烈な黒い肢体で。

 走る背後で土煙がもうもうと上がる。

 そう、そいつは──


「──魔獣……ッ」


 ついさっき、俺を殺したはずの災厄だった。


 ーーーーーーーーーーーー


 息が続かない。

 足腰には既にガタが──あれ?

 別に、そこまで苦しくない。いや、呼吸は苦しいけれど、ただそれだけだ。筋肉に疲労は感じられない。

 なぜ、どうして。自分のことなのにわからない。

 ただわかるのは。


 俺がまた、あの真っ黒な獣に追われている。


 それだけだ。


「クッソ……! なんで俺ばかり追って来るんだよ……!」


 辺りには何もない。遠くに背の高い草むら、その反対側には巨大な森。

 ちょっと他方を見れば街らしきものが見える──が、そのいずれもが遠い。全然届かない。

 そんな今も、魔獣は俺の後ろを追って来る。

 振り返る暇も無い。だからただ、気配だけでそう判断する。

 これも夢なのか? いやむしろ、夢であってくれ。

 だが、脳に与えられる刺激全てがそれを許さない。

 終われ。こんな地獄、早く終わってくれ──ッ!


「……あっ」


 何かにつまづく。小石だろうか?

 何にせよ、俺の身体はバランスを崩し、柔らかな草に倒れこんだ。

 そのすぐ側に迫る足音。

 カサッ、カサッ。草を踏む音はやけに軽く。

 だがその威圧感は途轍もない。押し潰されそうだ。

 そして、俺のすぐ上から、何かがボタボタと落ちて来る。……ねっとりとして生温かくて、生臭くて。

 よだれだ。

 ああ、俺の上に、あいつの口がある。

 クソッ、くそッ!

 知らず知らず涙が溢れる。

 悲しさだとか悔しさだとかではなく、ただ単純に、恐怖がそうさせる。

 そして、ポツリと呟いた。


「──死にたく、ねぇよ」


 その言葉は誰にも届かず、魔獣は俺を頭から──


 ーーーーーーーーーーーー


 ──私は今、空を飛んでいる。

 いや、正しく表現しようか。

 ──私は今、空を落ちている。

 超圧力によって顔が歪む。五臓六腑が震え、今にもその圧力に押し潰されそうだ。


「……何なんですかコレ何なんですかコレ! いや、そりゃいつもいつも地に足つくわけじゃないっていうのは過去に確認済みですけどッ!!」


 誰に届くわけでもないそんな叫び声と共に、私は空を落ちる。

 なんてこんなことになったんでしたっけ? ったく、この能力もホント役に立たない。数百年共にあれば少しくらい融通が効いてもいいものを……!

 まあ嘆いたって仕方が無い。思考を切り替えましょうか。

 さて、こうやって空を落ちることとなったその原因はどこに──あ、いた。


「見ーっけ……っと。散々逃げてこのすっとこどっこいが。でもそれも今日で終わりですよ。この何もない草原。そこに爆焔陣ぶちかませば──って、ん?」


 目標は、その草原を走り回っていた。なぜそんなことをしているのだろうか、と、そいつが走るその先に視線を向ければ、


「げ……人間、ですか。流石にアレ巻き込んでってのはマズいですかね……。ああもうめんどくさい」


 見れば、人間が転び、今にもそいつに喰われそうになっていた。


「…………あー、もーちょい右ですかね? よし、この位置──はいカウント10!」


 九……八……ん? 何か様子がおかしい。

 そいつはただ大人しくしていて、人間を喰おうとはしない。

 まいいや、関係ない。

 とりあえず、さらに大人しくなってもらいましょうか──ッ!


 ……いち……ゼロッ!!


「勇者、ドロップキィーック!!」


 私、勇者スクブスが放った一撃が──真っ黒な魔力で覆われたそれ、魔獣の背中に直撃した。


 ーーーーーーーーーーーー


 ……………………。


 …………。


「……あれ?」


 いつまで経っても、俺は喰われなかった。

 恐る恐る顔を上げ、振り返ってみると。


「ズビくぁwせdrftgyふじこlpッ!?」


 目の前に最凶最悪の獣の顔が、すぐ側にあった。

 思わず全身の筋肉に鞭打ち後退ってしまう。

 そんな俺を追うように、魔獣も近づいて来る。

 だが、喰おうとはしない。ただその場に佇み、俺を見ている。


 まるで、親……飼い主を見る、子犬のように。


 そんな時だった。




「──、──  ……──!!」




 魔獣に何かが空から突っ込んできた。

 ズドォンッ! そんな音と共に飛来したそれは、何やら奇妙な叫びを上げていたが、どうやら散々聞いたこの世界の言葉だったらしくまったくわからない。

 いや、この状況でわかることなど、むしろなに一つない。

 ……え? なに? 何が起こったの?

 またも上がる砂煙に咳き込みながら、突然起きた数々の異常事態に脳が処理を放棄した。


 目の前にあったのは、倒れる魔獣。その上に立つ、紅い、小さな少女だった。


 夢なのか実際にあった記憶なのか定かではないが、あのネーマーの少女の記憶と照らし合わせても、なお幼い顔立ち。

 紅蓮に染まる長髪は煙に煽られ淡くなびき、艶めくそれはまるで遡る炎のよう。

 ベルトを巻いたワンピースが持ち上がり、見えるか見えないかのギリギリだというのにまったく動じず、腰に手を当て魔獣の上に仁王立ちするその姿は──燃え盛る獣。

 蘭々と輝く緋色の瞳がこちらを見据える。その視線は威圧的で、やや腰が弾けてしまうほど。

 だが。

 そんな、いかにも強そうな少女に、最もピッタリと似合う言葉は、コレ以外には存在しないだろう。

 俺は思わず、ソレを口にしてしまった。


「──ロリが空から降ってきた」


 次の瞬間、俺は遠く彼方へと蹴飛ばされた。


 ーーーーーーーーーーーー


 ──あ、思わずやっちゃいました。

 いやーははは。別にロリって単語に反応したわけじゃありませんよ? 魔王との一戦以降、その言葉に敏感になってたりしませんよ?

 ……それにしても、少年が放った今の言葉。日本語だろうか。

 この魔界に、日本語を遣う種族、民族は存在しない。となれば、この少年はどこから来たのか、容易に想像できてしまう。


「……厄介なのに出遭っちまいましたかね」


 地面に伏す、真っ黒な魔獣に目をやりながらボヤく。

 本来であれば、この魔獣をぶっ飛ばしてそれで終わりだったはずなんだけど……なんでこんなことになったのやら。

 そもそもとして、あそこで突然飛ぶなんてことにならなければ……まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方が無いんですけど。


「おーい、生きてますー?」


 私の蹴りで気を失ってしまった少年の元に寄り、その頬をペシペシと叩く。──が、目を覚ましそうにはない。なんとも貧弱。

 ……まあ、出身があそこであれば、それも頷ける。


「んじゃこっちは放っといて、先にこの黒いの片付けましょうか」


 見れば魔獣が重そうにその身を起こし、目をギラギラさせて私を睨みつけていた。

 およ? なんだかやけに好戦的ですね。今までは逃げてばかりだったのに。

 魔獣の目は、やけにギラついていた。

 まるで、親の仇を見るかのように。


「なんだかわかりませんが……とりあえずこの人間邪魔ですね」


 そう言いつつ、私がその少年を掴んだ瞬間だった。


「グルァアアアア!!」

「────ッ!」


 突如魔獣が吠え、私に向かって駆け出した。

 咄嗟に少年を放り投げるが、私が逃げる暇はない。

 そして、私は──




















 頭を噛み千切られた。



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