第一章ー1『YES』
「あー……クッソ」
暗い部屋に一つ、ため息が溢れる。
やや低めのその声に覇気は無く、気怠げな印象を受ける。
「誰だよこんな設定にしたの……無理ゲー鬼畜すぎ。いつになったら先に進むのやら……」
呻くその声の色は、気怠げな様子を抜いても曇っており、声の持ち主がいかにご機嫌斜めであるかを表している。
「はーぁ、また死んだ──残機いくらだっけ。……あと一つか。ホント無理があるだろ。どんだけ死亡イベントあんの? しかもフラグもどこで立ってるんだかわかんねえって……」
頭にやった手は白く痩せ細っていて、不健康であることが見て取れる。
「ま、ボヤくだけ無駄か。……これ創ったの、俺だしなぁ」
割り切った様子に次いで声も明るいものになる。といっても、意識しなければわからないほどの些細な違いではあったが。
「んー……でも、いくらなんでもあのバグは俺のせいじゃねーよなぁ……? いちいち動作が止まってやり辛いったりゃありゃしねえ……ん? 待てよ? 記憶喪失にしたのは俺か。……となると、やっぱ俺のせいなのかねぇ……」
と思ったら再度、瞬く間に声の色が濁って行く。上がり下がりが激しい。
「しゃーない。とりまキリの良いとこまで行ったらどうにかしますか」
この声の持ち主である少年がいるのは、現世、魔界、天界、機界、霊界、時空界、創世のどれでもない。
ただただ暗く、狭い部屋。
少年の前にある画面に浮かび上がる文字。
『コンティニューしますか?
残機×1
スタート地点:草原
YES/NO』
少年はYESを選択した──




