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魔王と勇者と黒猫と。〜GAME SIDE〜  作者: 紅条
《魔界編》第一章
7/30

第一章 3『魔獣』

文章力と構成力が無さすぎて不自然になって……ウッ

 一旦集中し出したら止まらなかった。

 俺は魔界に関する資料を漁りまくり、この世界における魔法、魔族、歴史、そのほとんどについて洗った。

 特に苦労は無い。俺にとってそれは、文字通り物語を読むようなことだったから。


 確信した。

 俺は、現世からの転生者であると。


 突拍子もないのはわかっている。

 非現実的なのもわかっている。

 でも何か、どこかで否定できない自分がいる。

 もっと、もっと証拠となる物を。

 転生についてもっと、詳しく。

 『現世』について、調べられる限りを──


 ────ウゥウウウウウウウ────


 突如、耳を抑えたくなるようなサイレンのような音が図書館内に響き渡った。

 調べ物を邪魔されたことから舌打ちを一つ。

 どうやらそのサイレンは図書館内にだけ響いているわけではなく、街全体に轟いているようだ。

 何か声がする。

 だが何を言っているのかまったくわからない。この放送は何を示しているんだ?

 青い顔をした、おそらく図書館で働く従業員であろう人が俺の後ろを駆けて行く。それを呼び止める。


「あ、あの!」


 何を言っているのかはわからなかっただろうが、呼び止められたことはわかったらしい。

 俺はメモにペンを走らせ、


『なにが おこって?』


 と簡潔に問うた。

 従業員の人は逃げたそうにしているが、やがてペンとメモ帳を取り、


『まちに まじゅう が』


 それだけ書き、その従業員の人はさっさとその場を離れてしまった。

 まちにまじゅうが……街に魔獣が?

 魔獣って、魔獣?

 あのなんか強そうなイメージのある、アレ?

 俺の記憶にある魔獣は、なんかこう、おどろおどろしい雰囲気に包まれている。

 そんなのがこの街に──って、そしたら俺もうかうかしてらんねえじゃん!


 逃げ出そうとした俺は、そこでふと止まる。


「…………あれ、なんで逃げる必要があるんだ?」


 この図書館内にこもっとけば、むしろ安全な気がするのだが。

 そうだ。こんなところに魔獣なんて来るわけないし。

 じゃあ慌てず、まずは魔獣について調べることから始めようじゃないか。


 そう、危険なんてない。


 頭ではわかっているのだが、なぜかさっきから俺の脳内では警鐘が鳴り続けている。

 冷や汗が止まらない。

 動悸も収まらない。

 嫌な予感がする。

 だけど俺はそれらを振り払い、務めて冷静に、魔獣に関してを調べることにした。

 そして、やっとその項目を発見し──


 俺は、己の選択が大いに間違っていたのを知った。


『《魔獣》

 例外もあるが、大抵はそのデカい図体は真っ黒な魔力に覆われていて、それが体毛に見える。魔力が枯渇してくると、魔力を保有するありとあらゆるモノを喰らい尽くす。そのため、腹を空かせた魔獣は非常に危険である。

 その存在を確認した時には、魔獣は魔力が低いモノに対して優先度を低く見る習性があるため、出来る限り魔法やスキルは解除し、何も無い場所に逃げるのが好ましい。

 間違っても戦おうとしたり、結界を張られた建物に避難したりしないように。

 注:噛まれたりした場合は──』


 ーーーーーーーーーーーー


 結界を張られた建物。

 あのネーマーの少女はなんと言っていたか。

 この図書館には、透過魔法がかけられていて、それは結界系統の陣式魔法である──そう言っていた。

 さっきまで調べていたこの世界の魔法について。その知識を総動員して考える。

 結界系統の魔法というのは、どんなモノであれ、対象を全て覆うことによってその効果を発揮する。

 こんなデカい建物全てを覆うような結界だと考えれば、そりゃもうとんでもないほどの魔力が注ぎ込まれているのだろう。

 そして、魔獣が腹を空かせている時に狙うのはなんだ?

 魔力。

 もし今、魔獣が腹を空かせているとしたら。

 この図書館を包む結界。その魔力を喰らい尽くすために魔獣がやって来たとしたら。


「だからあんなに青ざめてたってのかよ……!」


 あの従業員の人はおそらく、俺をどこか遠い国から来た人としか捉えていない。

 だから、魔獣が来た、そう伝えるだけでその危険を知らせることができたと思ったのだろう。実際には俺はその危険性など何もわからず、調子乗って図書館なら大丈夫だとか思い込んでいた。

 むしろその逆、一番危ないのは図書館なのに。

 急いで図書館から逃げようと走る。

 既に誰もいない図書館内を走り、飛び、早く出口へと──


 一階の本貸し出しスペース。そこは、普段は多くの人が並ぶのだろう。それなりに広いスペースが確保されていた。

 そこに、一人の少女がいた。

 あのネーマーの少女だ。


「クロネさん……! やっぱりいた……ッ」

「なんでここに……じゃない。魔獣ってのがここに来るんだろ? 早く逃げよ──」


 入り口に目を向けたその瞬間、俺は次の句を紡げなかった。


「グルルルルルル……」


 そこには、見憶えのある姿のそれがいた。


 俺の身長の倍はありそうな巨躯。

 それは黒い体毛に覆われ、伸びた四つの細い脚がそれを支える。

 口から見える鋭い牙。垂れるよだれ。

 俺はこいつを見たことがある。

 いや、てっきり夢だと思っていた。

 こいつに、喰われる、あの夢。


 そこにいたのは、夢の中で俺を喰った、あのデカい狼だった。


「  ……!」


 ネーマーの少女は俺の手を握り、何かを呟きながら走り出す。

 入り口から逃げ出すことはできない。ならばどこへ行こうと言うのか。


「クロネさん、今から裏口に行く。そこから逃げて」

「は? あ、ああ、うん……あんたは?」

「あいつを引きつける」

「んな……どうやって。じゃなくて、どうして引きつける必要がある? あの狼……魔獣は魔力狙ってんだろ? この図書館に来た時点で、優先度はこの図書館を覆う魔力が一番じゃねえのかよ。それだったら逃げられるんじゃ?」

「……もう、喰われたよ」

「……は?」


 俺の手を握る少女の手に、力が込められる。


「図書館を覆ってた結界系統の陣式魔法。全部、喰われた。一瞬で」


 は、はぁ!?


「今ここにある、魔力を放出するモノはあちこちにある魔道具とわたしとクロネさんだけ。モノに宿る魔力より、人間が無意識に放つ魔力の方が多いから、魔獣は当然わたしたちに狙いを定める。だからどちらかが囮になるしかないんだよ」

「ちょ、ちょっと待てよ。なんでそれで、あんたが囮になるってんだ?」

「わたしはこの街の案内人。旅人やら旅客の安全を第一に優先するのが仕事。だからさ。それに、クロネさんって魔法使える? 見た感じ、魔力の流れが悪いからほとんど使えないと思うんだけど。その状態で囮やろうとしても、その役目を果たせないよ。魔法を使える、わたしの優先度の方が高いんだから」


 今さらながら少女の口調が段々と、少女のそれらしくなっていることに気付く。慣れたのだろうか。

 だが、せっかく慣れても今ここで殺されたら意味がないじゃないか。


「ほら、そこの角を右に曲がったら裏口だよ。出たら左側に見える高台に避難して。わたしはなんか魔法使って、あの魔獣を引きつけるから」

「か、勝手に決めんなよッ」

「なに? 女の子は置いていけない? そんな正義、今は邪魔だよ」

「そんなんじゃねえっての! 普通に考えて嫌だろう!? たった数時間だけど世話になった人を置いて逃げろ? バッカじゃねーの!」


 俺は少女の手を引き、共に角を右に曲がる。


 怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。

 何を言ってんだ俺は。少女を置いて逃げるのが嫌だ? ここで少女と仲良く死ぬのとどっちが嫌だよ。

 さっさと手を離せばいいじゃん。他でもない、少女自身がそうしろって言ってる。綺麗事抜かしてないで、少女を囮にして生き残ること考えろよ。

 この汗ばんだ右手を開いて、少女を開放しろ。


 手を、離せ──


「うるッせえよクソッタレぇ!」


 叫ぶ。

 パニックを起こし、正常な判断なんて微塵もできない状態で出口に向かって走る。


 そして。


「っしゃ、外に出た──ッ!」


 背後を見れば、出口につっかえて外に出られない魔獣の姿があった。

 逃げ切った……?

 そう息をついた瞬間。

 魔獣が壁をぶち壊し、外に飛び出して来た。

 そのまま、俺に向かって、歯を剥き出しにして突進してきて──


 その牙が少女に突き立てられた。


 俺を庇う形で少女が、俺と魔獣の間に入り、その身に深々と歯が刺さったのだ。

 ミシミシと音を立て、鮮血を撒き散らしながら華奢な体躯が宙に浮く。

 わけもわからないままこの街を訪れ、そんな状態の俺に声をかけてくれた少女が、俺の目の前で喰われていく。


 魔力を喰らい尽くしたのか、魔獣が少女から牙を抜いた。


 魔獣が側にいるのも構わず、這いずりながら少女に近寄る。触れてみると手に血がこびりつき、少女がもう助からないことを痛烈に告げる。


 俺のせいだろうか。

 少女がこんな目に遭ってしまったのは、俺のせいだろうか。

 俺が怯み、逃げられなかったから?

 俺が少女の手を握り共に逃げたから?

 俺が何も知らずに図書館に残ったから?

 そもそも。


 俺が少女と出会ったから?


 俺が少女と出会わなければ、声をかけられなければ、この街に来なければ。

 案内人である少女が俺のためにとか考えることはなかったのではないか。


 罪悪感とも違う、良いしれぬ不安、恐怖に押し潰されそうになりながら、血で染まった少女に触れる。


「ごめん──なさ……」


「ごめん、なさ……い」


「ごめ……ん」


「ごめんなさい」


 俺の口から次々と零れる、届かない謝罪の言葉。


 うわごとのように、ただただ、ごめんなさいと言い続ける。


 すると、少女の体が動いた気がした。


「!?」


 少女の目が薄っすらと開き、その頬に仄かな赤みが指す。

 生きてた……?


 そんな淡い希望はすぐに切り捨てられた。

 他ならない、少女の手によって。


 起きた少女の歯が俺の首筋に立てられる。

 熱さを伴った痛さに呻くことすら忘れ、ただただ呆然とする。

 何が起こっている?

 なんで少女が、そんな──


 瞬く間に俺の意識は霞み始め、やがて混濁の内へと沈んで行った。
















 その時、魔獣について調べた時に、一つの注意事項があったことを思い出す。




『注:噛まれたりした場合は「諦める」しかない。魔獣の牙は魔力を注ぎ込むために存在するのだが、その魔力は他の生き物にとっては毒となり、噛まれた生き物は凶暴になり、魔力を求めるようになる。さながら魔獣のように』


 ──吸血鬼かよ。


 呟く声も、届かない。

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