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魔王と勇者と黒猫と。〜GAME SIDE〜  作者: 紅条
《魔界編》第一章
6/30

第一章 2『転生者???』

 石畳みをコツコツと鳴らし歩く。

 辺りに見られる家はレンガで建てられていて、そのどれもが今は不気味なくらい人気ひとけがない。


「ん? ああ、今は軽いお祭りだからな。街に来た新人さんの相手を任されてる俺──わたしなんかは例外としてあの入り口に残ってるけど、大抵の人はそっちに参加してるんだ。ま、全員が全員ってわけじゃないけど」


 話によれば、今は豊作を祈るための祈祷祭のようなものが催されているらしい。この街最大のイベントの一つで、街中の人がそれに参加する。

 ちょっとした祭りも度々行われているそうなので、もしかしたらこの街の人たちは祭りが大好きなのかもしれない。

 ……祭り大好きなのは良いけど、最大のイベントの一つ……って、つまりもう幾つかあるってことだよな? それ最大って言えるのか?


「あはは、クロネさん面白いところ突いてくるな。

 まあ正直言うと、最大ってのは肩書きだけなんだよ。参加人数が最大、出店する屋台の数が最大、打ち上げられる花火が最大──そんな感じだから気にしたら負けだよ」

「へえ……アバウトだな……」


 年に何度も『最大のイベント!』って銘打たれるのを想像すると混沌を極めた。


「んで、俺らは今どこに向かってるわけ?」

「んぇ? 今の話聞いてわかんなかった? 屋台だよ。今は祭りでいろんな屋台が出てる。その中には当然食べ物だってあるさ。まあ少し高いんだけど……街の喫茶店とかはほとんど閉まっちゃってるし。クロネさん、お金は?」

「……………………お恥ずかしながら、持ってません」

「ならしゃーないか。お……わたしが貸してやろう」

「良いの……?」

「それも街の案内人であるわたしの仕事だから」


 そんなわけで、俺は男口調の女の子に奢ってもらうことに。

 これはどういうことなんだろうね……。


 少しして、徐々に賑やかさが耳に届くようになった。

 まだ明るい空には……なんだろう。あれ、白い煙弾? が撃ち上げられている。


「ほら、ここが祭りのその会場だぜ」


 狭い道を抜け、その先にある広場に躍り出る。

 そこにあったのは、人、人、人。

 なるほど、街に人の気配がしないのも頷ける。それほどの数の人が、その広場で蠢いていた。

 辺りから漂うのは屋台の食べ物の匂い。それと同時に再度、俺の腹が鳴る。

 …………。


「ははっ、何が食いたい?」


 少女に問われた俺は、とりあえず目についたそれの名を口にした。


「じゃあ、たこ焼きで」


 ーーーーーーーーーーーー


 この街の屋台、食べ物が美味すぎる。

 なんだこれ、手が止まらん口が止まらん。

 一心不乱に食べ物を口に運ぶ俺に、ネーマーの少女が微笑みかける。


「それにしても、本当謎だよなあ。クロネさんってどこから来たんだろう?」

「どこだろうな。俺自身にもサッパリわからん」

「……一番不思議なのは、クロネさんのその、ザックリとした考え方なんだけど」

「仕方ねえじゃん。そういうこと考えるとなんか頭痛くなるし、何にも思い出せないし。それに食いもんが美味いし。そういうめんどくさいこと考えるより、考えない。その方がよっぽど賢明だろうよ」

「そりゃそうなんだけど。自分のことか知りたいとは思わねえの?」

「…………まあ、少しくらいは。でも今は何よりも食いもんが美味い。それで十分だ」


 そりゃあ俺だって、自分がどこから来たのかは気になる。

 でも答えも結論も出ない。なら考えるだけ無駄だろう。そんなことに時間を費やすよりも、今をこうして楽しんだ方がはるかに有意義だ。

 どうして自分がこんな性格をしているのか。そのルーツすらも忘れた今となっちゃ、それは些細なことに過ぎず。俺はただ、俺の知らない過去の俺に感謝の意を捧げるのみだ。

 ──楽観的な性格になってくれて、ありがとう──と。


「なら良いけど。

 ……そうそう。泊まるところも手配しとこうか。ま、最大でも手配できるのは三日くらいだろうけど。そこから先は、働くなりして金稼いで貰うぜ?」

「三日か……目的もなくふらつくよりは、マシかもなあ」


 祭りの熱気も程々に、俺とネーマーの少女はその場を離れる。

 行きずりに少女と、祭りを楽しむ人たちが何か声を交わしていたが、その内容はまったくわからなかった。おおかた、俺について聞かれたりしているのではないだろうか。

 なんだろうなあ……。

 そこらに書いてある字は読めるのに言葉はわからない。

 その状況一つで、俺の脳はいくばくかの不安感を増幅させる。

 ……俺って、どこから来たんだろう?

 さっきは考えない、などと言っておきながら、やはり口を閉ざすとそのことばかり頭に浮かぶ。

 あーあ、『  』に帰りた──


 ────ズキンッ


「──っ?」


 また頭痛。

 いや、そんなことより、俺は今なんと?

 どこに帰りたいと?

 そこを思い出そうとすればするほど頭痛は増し、記憶も朧げになっていく。

 そんな俺の様子に気付いたのか、ネーマーの少女が駆け寄って来る。


「ど、どうした?」

「……いや、なんでも」


 俺は今、なぜなんでもないと答えたのか。

 言えば良いではないか。

 何かを思い出しかけたけど、頭痛にそれを阻まれた、って。

 なのに俺の口は、それを言おうとはしなかった。


 ーーーーーーーーーーーー


「んじゃ、宿を手配してくるけど……クロネさん、字は読めるんだよな?」

「ん? ああ、たぶん」

「オッケー。そしたら図書館の場所を教えよう。空いてる宿を探してくるから、その間暇になるだろうし」


 図書館、か……それはありがたいかもしれない。

 もしかしたら、調べ物でもしているうちに何かを思い出すかもしれないし。


 連れられた俺は、国会図書館も顔負けのドデカい図書館に来た。

 なんッだこれ……こんだけデカいのに、近付くまでまったくその存在に気付かなかった。


「驚いた? こんだけデカいと、影が伸びたりしたりでいろいろ不便もあるんだよ。そのために……なんだったかな、透過魔法使ってるんだったっけ? 結界系統の陣式魔法で、文字通り日の光とか風とかそういうのは遮られずに通過しちゃうんだよ。近付くまでその存在感すら透過するって」

「魔法……ねえ……。……で、俺ってば一つ懸念があるのですが。こんな国会図書館ばりのドデカい図書館で暇を潰せと言われても、迷う未来しか見えねえよ?」


 魔法なんて俺の常識では使えないことになっているのだが、やはり、どうやら周りとは多少の常識のズレがあるらしい。

 まあそんなのはなんとなく気付いていたので、目下のところ問題はこのデカさだ。

 それを指摘したら、


「へえ、未来が見えるの? ってことは……特性は占い師か? ってか、コッカイ図書館……って?」


 っていう、的外れな返答が。

 ……一つ一つ、解いていこう。


「未来が見えるってのは比喩っつか。そうなりそう、っていう勘だよ。深い意味は無い。特性ナンタラも知らない。で、国会図書館だっけか……」


 ……………………。

 はて、国会図書館って、なんだ?

 それを思い出そうとしたらまた頭痛。

 くっそ……この頭痛鬱陶しい。


「……悪り、わかんねーわ」

「なんだそれ」


 少女は何かを察したのか、あまり追求はしてこなかった。助かる。


「まあ、あれだ。迷いそうになったら誰かに聞けば良いでしょ。祭りとはいえ、何人かは留守番みたいに残ってるだろうから」

「聞け、って……俺言葉わかんねえんだけど」

「ん」


 少女は自分の持っていたペンとメモ帳を俺に差し出した。

 …………え? マジ?


 ーーーーーーーーーーーー


『このせかい に ついて くわしく しらべられる ばしょ は どこですか ?』


 そのメモを受け付けの人に見せて、案内板とメモを駆使しその場所を説明して貰った。

 このメモが不思議で、思ったことがスラッとメモに書き出されるのだ。こう、ちょっとペンを乗せたら勝手に走り出すみたいな?

 超便利。


 俺が調べたいのはこの世界について。

 当たり前な話だが、この図書館に俺に関する何かがあるだなんて思わない訳だ。……いや、なんかありそうなのが怖いんだけども。

 まあ可能性はあまり期待しない方が良いだろう。

 そんなわけで、ひとまず視点を俺個人から周囲に、つまり世界に向けた。何を中二病拗らせてんだと言われそうだが、別にそんなことはないぞ。

 文字は俺のわかるものだったのですんなりとスムーズに調べ物は始まった。


『世界の成り立ち』


 ──昔、一人の少年に異能が宿った。

 その少年は、己に宿った異能に気付かず、様々な事象を引き起こし周囲を混乱させた。

 その結果、少年についたあだ名は『疫病神』。

 心を閉ざした少年は引きこもり、黙々と日々を生きた。

 その最中、ふとしたきっかけで己の異能に気付く。

 少年はその異能に没頭し、次々と己の願いを叶えていった。


 一つ、少年をハブにした者たちへの復讐

 一つ、少年の望むままに世界の法則改変

 一つ、


「……異世界の創造。んだこりゃ、御伽噺にしてもぶっ飛びすぎだろ」


 世界の成り立ちとか言うから神話的なの想像してたら、なんか不幸な少年の大逆転劇だった。それも何か、煮え切らない感じの……なんと言えば良いだろうか。B級映画のような?

 ……まあいいや。こういうのにツッコミ入れたって意味が無い。

 続き、っと。


 少年が創造した異世界は六つ。

 魔界、天界、機界きかい、霊界、時空界、創世つくりよ

 それぞれの世界に少年の願望が存在する。

 魔界──少年が望んだのは『王道』。

 天界──少年が望んだのは『憧れ』。

 機界──少年が望んだのは『夢』。

 霊界──少年が望んだのは『永遠』

 時空界──少年が望んだのは『やり直し』

 そして創世──少年が望んだのは、


「『全て』──他の五ついらねえじゃん?」


 いかん。またツッコんでもーた。

 いや、しゃーなくないっすか?

 なんていうか、全体的にお粗末な印象を受けるこの『世界の成り立ち』。

 …………まあいいや。今度こそツッコまねえぞ……。


 この世界は『魔界』にあたる。

 望まれたのは『王道』。ゆえにこの世界には、魔族や魔王が存在し、魔法技術が確約され、数々な伝説的な逸話が残されている。


 そこから先は、魔界と言うらしいこの世界に伝わる様々な伝承の羅列だった。

 やはりというか、そのほとんどが御伽噺の類で(『世界の成り立ち』が御伽噺なのだろうから当然ではあるのだが)、これらを突き詰めても調べ物にはならない。

 ……はずだった、のだが。


 俺の目がとある項目にぶち当たった。


『《転生》

 天災に分類される謎の召喚儀。突如、身元不明の人間がどこからともなく現れるその現象は、おそらく他に五つあるその世界からの訪問者ではないかと伝えられている。

 言葉は伝わらず、おおよそ姿格好も別物。一説の中には、異世界からの偵察者だと思われていたが、転生者が世界を救った伝承もあるため、後に救世主ではないか、と触れ回るようになった。』


 それだけでも俺の目は釘付けだったのに、さらに続く文で、俺の脳は完全なる停止を遂げた。


『中には、異能を持った少年が存在していたとされる「現世」から来る者もいるらしい』


 ────────。


 俺はなぜか強く、『現世』という存在に惹かれた。





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