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魔王と勇者と黒猫と。〜GAME SIDE〜  作者: 紅条
《魔界編》第一章
16/30

第一章11『勇者と悪魔』

「キツネ!!」


 黒いコートを纏い、闇色の騎士の攻撃を間一髪で躱す。

 反射的に体が動いたっていうのもあるけど、キツネが上手く誘導してくれたのも大きいと思う。


「どうなってんだよ! やっぱこいつ敵だろ!」


 突如襲いかかって来た闇色の騎士。

 その目は俺を見据えて、逸らそうとしない。


「んなッ、わけ──」

「見てなかったのかよ!? 今コイツ、実際に俺に攻撃してきたんだぞ!」

「そんなのはわかってます! でも、彼は私と契約して……私が召喚してッ! 私の魔力で!」


 こんなことはあり得ない。少女の声はそう訴えているように聞こえた。

 んなこと言ったって、現に俺は襲われてるし。

 とにかくコイツをなんとかしないと……!


「キツネ、剣出して剣!」


 俺の声に呼応するように、背中に重さが現れる。


「【大罪の英霊】……! 止まってくださいよ……でないと、魔力奪い返しますよ!?」


 赤い少女が何かを訴えかけているが、それはセイレーン語のようで意味はわからない。

 が、あの必死さを見るに、止めようとしている気配はする。


「ゥオラァアアアア!」


 剣を振り、月牙○衝のように衝撃波を飛ばす。

 それは騎士には当たらず、遥か後方の壁を破壊する。

 あ、これ無理だ。調子乗って勝てる相手じゃねえ逃げよう。


 だが逃げる俺を騎士は追ってくる!!


「どわぁああああッ! なんで俺狙いなんだよぉー!」


 ガッ


「あ」


 既視感のあるその音は、やはり俺がつまずく音だった。

 石畳みに足を引っ掛け転んでしまう。

 うーわー……マジか。

 そんな俺を、闇色の騎士は容赦無く殴──らなかった。いや、殴れなかったのだろう。

 なぜなら、


「キツネ……!」


 俺が纏っていたコート、握っていた剣。それらが、本来の大きな狼のような姿に戻り、騎士の前に立ち塞がったからだ。

 なんでだ? なんでコイツはここまで俺に懐いた?


 最初は逃げ回る俺を追い詰め、俺を喰った。

 次は、またも逃げ回る俺とネーマーの少女を追いかけ、転んだ俺に飛びかかり、それを庇ってネーマーの少女が死んだ。そしてその少女に俺は殺された。

 だが三回目では、俺を追いかけこそしたけど、喰うことはしなかった。それどころか俺を親や飼い主を見るペットのような目で俺をその瞳に映した。

 訳がわからない。


 けど、今、俺はコイツに助けられたことはわかった。


 その隙に俺は起き上がり、赤い少女の元へ駆け寄る。


「おい! キツネが足止めしてる間に、これがどういう状況なのか説明しろ! 何か知ってんだろ!?」


 赤い少女は、その表情は苦痛に歪め、やがてポツリと一言洩らした。


「私が、召喚したんです」


 それから、次々と句を紡いで行く。


「私がアイツを、【大罪の英霊】を召喚したんです。魔人を殺せ、って命令して、なのに、魔人はもういないのにアイツは攻撃をやめなくて、クロネさんを攻撃しようとして」

「どうすれば止められる!? 早くしねえと俺ら殺される!」

「や、槍が……【楔の槍】を撃ち込んで、動きを止めれば、帰投魔法陣を展開して……」

「槍ッ? どこにあんだよそれ」

「…………空です」


 そう言って、空を指差す赤い少女。

 そこには、


「…………デカくね?」

「あれくらいじゃないと、【大罪の英霊】は止められませんから」


 俺たちのいる図書館前広場全てを焼け野原にしそうな、巨大な炎の槍が浮かんでいた。

 よく見ると、炎は大きく揺れていて、さらには何か白い煙も見える。水蒸気だろうか。それらが小さく爆発し、さらに大きな炎を生み出していた。

 楔って名前にあるから、その場に縫い付ける為のモノだと思っていたけど……これじゃあ、この槍ぶつけるだけであの騎士を倒せるんじゃないのか?


「倒せませんよ」

「なに人の心読んでくれちゃってんのっ?」

「あなたがわかりやすすぎるんです。……でもまあ、アレを見たら誰だってそう思うでしょうけど。実際、アレをここに落とせば、ここは木っ端微塵になるでしょうから」

「…………あれ、じゃあ俺とか、ここにいちゃマズいんじゃね?」


 俺今、黒いコートキツネ着てないし。

 そう言うと、赤い少女は薄く微笑み、


「ええ。だから逃げてください」


 そう、口にした。


 ーーーーーーーーーーーー


 特に何か、責任を感じたわけでもない。


【大罪の英霊】を召喚したのは確かに私だ。

 でも、それだって本来はこの街を救う為に召喚したわけで。

 街を救うのだって、悪魔わたしじゃなくて勇者わたしが使命感に駆られたからだし。

 正直、こんな街どうでもいいと思ってる。

 それが私なんです。

 でも、なんでですかね、クロネさん。


 あなただけは──本心から、救いたい気がします。



「ぜっっったい、逃げない」

「はぁ?」


 そんなことを言ってのけたこの男に、私が取れた行動は一つ。

 疑問符を浮かべることだ。

 なぜ。クロネさんとはそう長く行動していたわけではない。……というか、出会ってまだ一日も経ってない。

 でも、なんとなくの性格なら把握できる。クロネさんならここで、『わかった、逃げる』と言うはずなのに。


「な、なんでですかっ? 巻き込まれて木っ端微塵になってもいいと?」

「んなわけねえだろッ!? あんた俺のこと死にたがりだとでも思ってるわけ!?」

「だ、だって、今の、そう言ってるようにしか……」


「ここに、キツネを置いていけるはすがねえだろ」


 そう言って、クロネさんは【大罪の英霊】と戦うキツネを見た。

 キツネ……魔獣は、今でこそまだ渡り合えている。己の魔力を練り上げ、その身体能力を極限まで高めながら、時折簡単な魔法を駆使しながら。

 だけどそれも長くは続かないでしょうね。相手は【大罪の英霊】。天界で名を馳せた元英雄。この勇者わたしでさえも、軽く苦戦したほど。


「あそこでキツネが頑張ってるんだ。置いてくわけにはいかない。いなくなられちゃ困るし」

「アイツは魔獣なんですよ……? 随分あなたに懐いていますけど、本来は人に害を与える獣なんですよ? なんでそれをそんな……」


 私は、キツネには死んでもらう気でいた。

【大罪の英霊】がキツネを倒したその瞬間の隙をついて、槍を撃ち込む。または、【大罪の英霊】がキツネに夢中になっている間に【楔の槍】で諸共吹き飛ばす。

 だって、アイツは魔獣。


 ──勇者わたしの、敵だ。


 殺さなきゃならない、敵なんです。


 なのにクロネさんは、そいつを助けようと、死ぬかもしれない場所から逃げないと言う。

 理解出来ない。

 一体何が、クロネさんをそこまで──


「キツネがいなきゃ、俺、弱いだろ」


 ────────。

 え、待って。

 今の、本心?

 いや、こんな状況でボケてるならブッ飛ばさなくちゃいけないから本心であってほしいんですけど。


「言っとくけど、俺アイツがいなきゃ何もできないからね?」

「ええ、知ってます。クソ弱いですよね」

「ぐはぁっ! ……女の子がクソとか言っちゃいけません。と、とりあえず、ここでアイツにいなくなられちゃ、これから先のことを考えると辛いんだよ」

「私が──、……これから先って……だからって、ここで死んだら本末転倒でしょう! あなたは不死身って訳でもないんですよね!?」

「なんとかする」

「なんとかって具体的には!?」


 私が半分ヤケになって問うと、彼はニカッと笑って、


「知らねえの? 俺、アイツがいればケッコー強えよ?」


 そう言い残し、クロネさんは、キツネと【大罪の英霊】がぶつかるその中へ駆けて行った。


 ──あの人はアホだ、バカだ。考えなしだ。

 いくら魔獣を防具にして、武器に変えて戦えるって言ったって、本人はめちゃくちゃ弱いじゃないですか。強い武器手に入れて突っ走るっていう、ネトゲによくいる勘違い野郎ですかあなたは。

 ……………………。


 やるしか、ない。


 私が、どうにかして、クロネさんとキツネを殺さないように、あの【大罪の英霊】を──


「……ハハ、なんで私、出会って数時間の男を命懸けで守ろうとしてるんですかね」


 折角故郷の魔界に戻ってきたのにめんどくさい男と出会ってしまって。

 この世界に着いて最初の街でこんな酷い目に遭って。

 とんだ里帰りですよ、まったく。


「これも、勇者がそうさせてるんですかね……命懸けで誰かを守るだなんて、自己犠牲も甚だしい。やっぱり勇者なんてロクでもない。悪魔の私がなるようなもんじゃありませんよ……どんな呪いよりも、勇者としての私が存在することが一番呪いっぽいなんて、魔王顔負けです。ざまぁみろ」


 口ではこんなことを言いながらも、私は薄々気付いている。

 命懸けで誰かを守ろうとしているのは、勇者わたしだけじゃない。悪魔わたしもだって。


『ここでアイツにいなくなられちゃ、これから先のことを考えると辛いんだよ』


 この言葉を聞いた時、私は一瞬でも、


 ──私がいるじゃないですか。


 だなんて口にしようとした。

 なんですかねコレ。私、彼に恋でもしたんですかね?

 長年そんな感情抱いて来なかったせいで、随分枯れてしまったけど、もしかしたら。


「……あり得ませんね。どんな少女漫画ですかって。いえ、日本の少女漫画だってもう少し脈絡のある恋愛感情の抱き方を──あ、あら、酷いのもありましたねそういえば」


 さて、少し考えすぎてしまった。

 見てみれば、クロネさんがコートを纏い剣を手にし、カッコ良く戦って──るなんてことはなく、逃げ回っているところだった。

 この状況を、どう変えよう。

【大罪の英霊】を倒すだなんて無理だし、やはり【楔の槍】をこの場に落とすしか無いのですが。

 ……………………。


「──ああ、やっぱり、私が思いつけるのはこんなのばっかですか」


 覚悟は決まった。


 これから行うことは、勇者としての私だけではない、悪魔としての私も、心の底から『誰かを救いたい』って思ってやることだ。

 さあ、始めましょうか。




 勇者わたし悪魔わたしの──共同作業を。



僕は、単純計算で『ラノベ1冊300ページと考えると20万文字程度』って考えているんですが……(改行やらスペースやらで実際はもう少し少ないと思います)。

この作品がただいま6万文字前後ってことで、そろそろラノベ1冊の3分の1まで来たかなと。んでまあ、そろそろ1回目の山場なんですよ。……ペース考えないでやろう、って思ってたら、3分の1辺りでそれが来ちゃった、と。そんな話でした。

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