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魔王と勇者と黒猫と。〜GAME SIDE〜  作者: 紅条
第一プロローグ
1/30

プロローグ『虐められた黒猫』

 秋の風が吹き荒ぶ。

 頬を撫でる風は、春にここを訪れた時に比べると、刺すような痛みを伴うほどに冷たい。

 あの時は、新しく始まる生活に胸踊らせながら、立ち入り禁止の屋上に入ることのスリルもあって、全てが前向きに、輝いて見えた。

 どうしてだろう。

 なぜこうなったのだろう。

 俺の両親が悪いのか?

 いや、違う。確かに少し、俺に負担を乗せていなくなっちゃったけど、あの二人が全て悪いわけじゃない。

 なら俺を虐めた奴が悪いのか? ロクに話も聞いてくれなかった先生が悪いのか?

 それも違う。

 結局は、逃げる俺が原因だ。

 遺書は書いた。脱いだ上靴の下に挟ませてある。

 そこに綴られているのは、謝罪。

 俺が死ぬことで困る、全ての人たちへの謝罪。

 ただ一言、


 ──ごめんなさい。


 と。


「それじゃ、さようなら世界」


 言ってみたかったフレーズを口の中で呟き、右足を空へ。

 後は、身体を前に傾けるだけ。

 そして俺は──


「──何してんだよッ!」


 そんな声を背中で聞きながら落ちて行く。


 ──ああ、今の人にも迷惑かけちゃったかな。

 自殺を止められなかった、なんて思わないと良いんだけど。


 そして、衝撃が俺を襲った。


 ーーーーーーーーーーーー


 ────ピピピピッ


 鳴り響くベルが、寝ぼけてボーッとする俺の耳朶を叩く。

 機械的に延々と鳴るベルを、手刀一閃で黙らせ身体を起こす。

 温かい布団には汗が染み込み、俺が身につけるシャツも濡れていた。相当な量の汗をかいたらしい。

 少し、シャワーを浴びよう。


 冷たい水が徐々にお湯になっていくのを確認し、それからシャワーを浴びる。全身に張り付いた汗を流すそれに気持ちよさを感じながら、ボーッとする頭が覚醒を始める。


 ──そして気付く。


「ッ!?」


 俺は昨日……昨日? 屋上から飛び降りて自殺したはず。

 なぜ? なぜ俺は今こうして生きている?

 シャワーを浴びている。

 ここは死後の世界なのか? 死んだら、生前の世界とそっくりな世界を生きるのか!?

 …………それとも、夢?

 夢、夢か。

 感覚もリアルで、死ぬ直前の痛みもリアルで、だから死んだと思ったけど……そうか、夢か。

 この世界が死後の世界だと考えるより、遥かに現実的だ。

 ってことは、俺は──


「夢の中でしか、死ぬ勇気は無いのか……」


 シャワーを浴び続けながら、浴室の壁に頭をぶつける。

 実は、今までにも自殺を図ったことはある。それも何度も。

 だがそのいずれも未遂に終わった。

 死ぬ勇気なんて無かったのだ。


「…………」


 シャワーを止め、浴室から出た。



 日付けを確認。二○一四年十月十日金曜日。夢の中で自殺したその日と同じ。

 もしかしたらあれは正夢なんじゃないか?

 今日、俺が自殺に成功する──っていう。

 ……とにかく、学校に行かなきゃ。

 行って、また──



 ガンッ!


 背中を掃除用具入れのロッカーに押し付けられる。

 前髪を無造作に掴まれ、顔だけ持ち上げられる。

 ボロボロになった制服は薄汚れ、白さなんて微塵も見当たらない。まるで泥遊びでもしたかのようだ。


「ねえ雪村くぅん、今日十五秒遅刻したよねえ」


 今朝、多少の混乱の最中にあったため準備に手間取ってしまった。その結果、チャイムギリギリで登校する羽目になったのだが。


「ま、間に合ってた……じゃ」

「口答えすんなよ」


 ガァンッ!


 頭をロッカーに打ち付けられた。脳の奥らへんが揺れに揺れ、目の前が明滅する。

 その揺れる視界の中で、島種しまぐさゆねが俺に話しかけ続ける。


「不吉の象徴『黒猫』……なんてあだ名がついた奴が遅刻すると、ただでさえ同じクラスで迷惑被ってるアタシとかがさらにいらん迷惑かけられることになっちゃうじゃん? アタシだけしゃない、クラスの皆もだよ」


『黒猫』。そんなあだ名をつけられたのはいつのことだったか。

 最初は、俺の名前が黒音クロネで、猫のように自由気ままで傍若無人だから──そんな良い意味でのあだ名だった。

 なのに、俺の両親が冤罪で捕まって死刑にされてからは不吉の象徴としてそのあだ名が使われている。


「アタシもこうしてアンタと関わるようになって、制服が汚れるわ、そのせいで母親に叱られるわ、悪いことだらけなんだけど……ま、これは自分で望んでやってることだし? どうこう言うつもりはないけど──」


 そう言って前髪を離し、俺から距離を取る島種ゆね。


「──泥水でも被っててくれない? 人間だと判別できなくなるほどに」


 手に持ったバケツの中に入った汚水を、俺に浴びせかけた。

 その際に、いつも通りの、どこか辛そうな自嘲をたたえた笑みを覗かせて。



 それ片付けといてねー、と言い残し、暗く染まりかけた空と同じように闇に埋もれる教室を後にする島種ゆね。

 そして俺は、雑巾片手に教室の床を拭いている。

 自身にこびりついた悪臭に気持ち悪くなりながらも、延々と、延々と床を拭いていく。


「誰か残っているのかー」


 誰もいない教室に声が響く。日直の先生だろう。


「お、俺です。……雪村ゆきむら、です」

「……なんだ、雪村か。何をした?」

「床が、汚れたので……拭いて──」

「嘘をつくな。もう一度聞くぞ。──何をした?」


 俺の言葉を、「嘘をつくな」と一蹴する教師に。

 今さら傷つくほどのことでもないはずなのに、心にささくれ立ったような痛みに、顔をしかめ。


「……俺が歩いて、足跡をつけて……床を汚しました。それを、綺麗にしようと、思って」

「最初からそう言え。まったく……あとどの程度で終わりそうなんだ」

「一時間、くらいですけど……」

「遅い。三十分で終わらせろ。その後この掲示プリントを各教室に貼って来い。その際についた汚い足跡は……まあいい。そこまでを一時間でやれ。いいな」

「…………はい」


 俺はペースを早め、床の掃除を三十分で終わらせた後、教卓の上に置かれた掲示プリントを持ち、五つあるクラス全ての教室の掲示板に画鋲で貼っていった。

 重い身体を引きずって、どうにか一時間の内に終わらせた。

 そのまま俺は、屋上に続く階段の踊り場まで来た。

 ここはどんな時間でも、誰も来ない。ここでしばらく大人しくして、疲れが回復してから帰ろう。

 ドカッと音を立てて座り込む。そうして、無心に徹していた感情が溢れ出したら……もう、止まらなかった。


「……なんで、こうなったんだよ」


 両親が連れてかれて、わけもわからぬまま、ただ常のごとく笑顔で、大丈夫、大丈夫と自信を偽り続け、面会の度に両親も大丈夫、大丈夫と俺に言ってくれて、お互いに笑顔で、大丈夫、大丈夫って。

 そしたらなぜか両親に死刑が言い渡されて、詳しいことは何も教えられないまま、あっさりと殺されて。

 俺の両親は最後に言ったんだ。


 ──笑顔で、強く。


 だから俺は無理やりにでも笑顔作って、クラスのみんなと接して。

 なのに、クラスの皆からは、


『両親が死刑で殺されたのに笑ってるとか薄気味悪い。家族揃って犯罪者なの?』


 それからは、全てから拒絶される日々。

 生きる全てが灰色で、早く明日になれ、明日なんて来るな、なんて喚き散らして。

 死のうとした。何度も、何度も何度も何度も。

 手首を切ったくらいじゃ死ななかった。

 首を吊ったら苦しくてやめた。

 包丁を突き刺すのが怖かった。

 薬には手が届かなかった。


 ──死ぬのが怖くて、死ねなかった。


 そうやってまた生き地獄へ舞い戻って、また死のうとして死ねなくて。

 知らず知らずのうちに、両目から涙が零れた。


「うぁ……、っ……」


『死のう』


 何度目になるかわからないその決意。

 屋上から飛び降りれば簡単に死ねる。

 あと一歩踏み出すだけで俺は死ねる。

 立ち上がり、立ち入り禁止の屋上への扉を開く。鍵はかかっていなかった。

 空はすっかり暗く染まり、星が見えるほどに澄んだ空気が肺へと流れ込んでくる。


「……俺は月。星の輝きを邪魔する、星にとっては鬱陶しい存在」


 誰もいないのを良いことに、昔から患っている中二心を疼かせる。


「そうさ、俺は月だよ。仲間なんて太陽一つで十分だ。月が輝くのに必要なのは太陽だけだ。他の小さい小さい星なんて敵じゃない。どれだけの星の光が集まっても! 月一個の輝きには遠く及ばない!」


 徐々に叫びに近くなっていく。

 ああ、なんか気持ち良いや。

 久しく、大声を出していなかった。


「不吉の象徴? 『黒猫』? それがどうした。カッケーじゃねえか! リアルでそんなあだ名つけられるなんて普通あり得ねえよ!? 運良いな俺! ははははは!」


 不思議だ。

 何度も死のうとした。

 何度も怖いと思った。

 何度も死ねなかった。


 でも、今なら。


「俺は死ねる」


 軽く二回ジャンプし、ストレッチを入れ、クラウチングスタートの姿勢になる。

 腰を高く上げ、屋上についた両手は次第に力が込められていく。

 ゴールは屋上を囲うフェンスのその先。数々の星が瞬くその夜空だ。


「俺は月だ。今からてめえら星々に挨拶に行く。そんでその後はサヨナラだ。良かったな。月が消えりゃあずっと夜空で輝いていられるぜ。夜の王は月じゃなくて、てめえら星になる」


 ゆっくりと足腰に力を入れて、抜いて、リラックス。

 緊張がピークに達するその瞬間──走り出す。

 クラスの人気者だった頃は、運動神経抜群でイケメンでモテまくりだった。

 拒絶されてから部活もやめて、スポーツそのものから遠ざかっていたが──脚は衰えていない。短い距離でグングン加速し、大して高くないフェンスを蹴り越し、屋上のヘリに足を乗せ──夜空目掛けて、飛んだ。


 冬に移ろうにはまだ早い、若干のぬるさを伴った秋の風に全身を煽られ、飛ぶ。


 これから死ぬというのに、俺は、笑っていた。


「ごめんな母さん、父さん!」


 ──生きることから逃げてしまって。


「それじゃ、さようなら世界」


 俺は、夢のままに落ちて行き──死んだ。


 ーーーーーーーーーーーー


 ────ピピピピッ


 鳴り響くベルが、寝汗でぐっしょりのシャツと布団をどうしようか悩んでいる俺の耳朶を叩く。

 ──ああ、また夢なのか?

 そう認識した瞬間、肌に貼りつく濡れたシャツの気持ち悪さが鮮明になり、さっきまで見ていた空飛ぶ夢で感じていたリアルな感覚が薄れていく。

 時計を見れば二○一四年十月十日金曜日の午前十時十分という、中々に奇跡的な時刻を表示していた。

 十時……完全に遅刻だ。

 もしかしたら二度寝した末に見た夢なのかもしれない。

 嫌な夢だな……二度寝しても自殺する夢だなんて。


「学校、どうしようかな……」


 明日は土曜日だ。いっそのこと、休んでしまった方が良いんじゃないか?

 一度そう思い始めたら最後、俺は咎める者が誰もいないアパートの一室でまた、眠り始めた。



 目が覚めたら、日も傾き始めた午後三時だった。

 五時間も寝ていたのか……。

 気怠い身体をほぐすために伸ばし、その拍子に腹が鳴る。

 そういえば何も食べてないな……とはいえ、冷蔵庫の中は空っぽだったはず。

 ……コンビニに行こう。この時間ならまだ授業中のはずだし、誰かと会うこともないだろう。

 軽くシャワーを浴びて、びしょ濡れのシャツや下着は洗濯機の中に突っ込む。

 久しぶりの私服に袖を通し、やや浮かれた気持ちで外へ。

 学校に行くわけじゃない。そう思ったら、こうも気持ちが軽くなるのか。

 俺の中で学校が、どれほど嫌な場所になっているのかがよくわかる。

 登校時とは違う道を行き、昔はよく母親に使い走らされたコンビニへ。両親が捕まってからは一度も来たことがない。

 そんなコンビニで弁当とコーラを買って外へ出──ようとした瞬間。


「──あ」


 制服姿でコンビニに入ってきた、島種ゆねと、出会ってしまった。



 島種ゆねがコンビニで買い物を済ませる間、俺は待たされていた。

 なぜこんな時間にこんなところを彷徨いているんだろう。

 それは相手も同じだったようで、コンビニから出て来て開口一番にこう言った。


「アンタ、なんでこんなとこいんの」


 やや剣呑な雰囲気を伴った口調だが、教室での俺を小馬鹿にするような態度ではなかった。


「学校に来なかったのはなんで」

「ね、寝坊して……」

「…………」


 嘘をついたってすぐバレる。

 寝坊して学校をサボった。その言葉の意味を考えているのか、島種ゆねの表情は動かなかった。

 やがて──


「…………はあ。そんなことか」


 と、ため息を一つついて頭を掻きむしった。

 その反応に戸惑う。

 だって、それはまるで、安心しているかのように見えたから。


「島種、さん……?」

「んぁ? なんでさん付けなの。同い年でしょうが」


 いや、そりゃそうなんだけど……。

 わけがわからない。


「……立ち話疲れる。裏に公園あったっけなー」


 そう言って歩き始める島種ゆね。俺は混乱の中でただ佇んでいると、


「なにボーッとしてんの」


 と言われた。

 ……つまり、ついて来い、と?

 言われるがままについて行く。コンビニの横の狭い道を通るとそこには、茂みに埋もれる小さな公園があった。

 こんなとこに、公園なんてあったんだ……。

「あー疲れる」とボヤきながら古びたベンチに腰をかけるその姿は島種ゆねそのものなのだが……普段の刺すような怖さは感じられない。本当に同一人物か?


「なに突っ立ってんの。アンタも座れば」


 恐れ多くてできねえよ。

 なんて言葉が喉から出かかったが、まさか口にするわけにもいかず、結果、そのまま座ることにした。……できるだけ端っこに。

 島種ゆねは、何事も無かったかのようにコンビニで買ったのであろういちご・オレをストローで飲んでいた。

 ……なんか、意外だ。

 いちご・オレを飲むってことも、ストローで飲むってことも。

 俺の知ってる島種ゆねじゃないんだけど……。

 そんなことを思っていたら、


「──ぷっははは!」


 突然島種ゆねが笑い出した。

 しかも、普段見せるような嘲笑じゃなくて、楽しくて仕方ないといった笑いで。


「アンタ、さっきからこっちチラチラ見過ぎ! チラ男かよ!」

「なんだそのチャラ男みたいな言い方……」


 思わず溢してしまうが、それに気にした様子もなく笑い続けている。


「あー、おもしろ。まったく、こんなのが不吉の象徴とか呼ばれてんだから腹痛いわ。バッカじゃねーの。性格は平和ボケそのもの。容姿もふざけてるくらいにイケメンで、だけど今じゃ嫌われ者。はー、わっけわかんない」


 俺の方がわけわかんないっす。

 唐突に何を言ってんだこの人。


「ん」


 いきなり右手を差し出された。

 何の真似でしょう?


「握手」

「…………」

「握手!」

「…………はい?」


 アクシュ? アクシュ……あくしゅ……悪手? それとも……ああ!


「…………なにやってんの」

「すんすん……え? 悪臭とか言うから、もしかして寝汗の臭いこびりついてるのかな……って」

「んなわけねーだろ! そんな細かい臭いまでわかるかッ! 握手って言ってんの。手と手を握る!」

「あ、ああ……握手か。…………なんで?」

「なんでって……あー、そりゃそうか」


 差し出した右手で頭を掻きむしる。それにより、よく見ると綺麗な黒髪が揺れる。


「まずは……ゴメン。って言いたいんたけど……言わないって決めたから言わない。だからアタシのことは無条件で許せ。……じゃなくて。なんだ、その……ああもう!」


 ……ゴメン?

 もしかして、島種ゆねは……俺に、謝ろうとしてる?

 そんなバカな。今まであんだけやっといて、今さらゴメンなんて……いや、そもそも、島種ゆねは謝るなんてこと、絶対しなさそうなのに……。


「いいか、よく聞けよ。アタシはお前を徹底的に虐めてた。合ってる?」

「え? あ、うん……」

「んで、ここからはこっちの話なんだけど……アタシは、罰ゲームでお前を虐めてた。アタシと仲良かった連中知ってるっしょ? ジャンケンで負けて、その罰ゲームで……雪村黒音を虐めろってね」

「…………」


 なんでそんなこと、言うのだろうか。


「そして最後。……これはアタシの身勝手な、個人的な感情なんだけど……」


 そこでなぜか、頬を赤く染め、島種ゆねらしくない、女の子らしい表情を浮かべ、──とんでもないことを言い放ちやがった。


「アタシは、カッコ良くて面白いアンタが好きだった。……いや、今も」


 ────────。

 はい?


「はいお終い。言いたかったことは伝えた。これからもアンタには酷いことし続けるし、許せとも言わない。ただ、間違っても死のうだなんて思うなよ。アタシ泣きたくないから」

「ちょちょ、待って、何が何だって?」


 混乱する俺を他所に、立ち去ろうとする島種ゆね。

 何を言ってんだこの女は。まったくわけがわからん。

 今まで俺を虐め、小馬鹿にし続けた女が、俺のことが好き?

 どこの少女漫画ですか。少女漫画だって好きになるまでの過程は割と筋が通って──いや、髪についた芋ケンピ取ってやっただけで惚れたり、突然ラブホに連れてこうとする不審者に惚れたりするのもあるから、なんかもうめちゃくちゃだ。

 って、そうじゃなくて!


「しま、島種さん!」

「だーから呼び捨てで良いっての! 学校以外では!」


 振り向いたせいでその歩みが止まった。追いつける。


「もっと、俺にわかるように説明してくれ……くださいよ!」

「アンタはこれからもアタシに虐められる。だけど死のうなんて思わないで。アタシは泣きたくないから──それだけ!」


 そう言って、公園への入り口を進みコンビニの横に出る。俺もそれに続き、開けた空間を目にして──心臓が止まった。


「──ッ、島種さん!」

「なんだよもう! 呼び捨てで良いって──」


 歩く島種ゆねに、軽トラが猛スピードで迫る。

 島種ゆねは突然の事態に動けなくて、ただその表情を凍らせる。

 俺はコーラが入っているのも構わず、コンビニの袋を投げ捨て──走る。


 あれ? 俺、なんでこんなに必死に走ってんだ?

 島種ゆねは、俺を虐めてた奴なんだぞ?

 何度も俺が自殺しようとする、その原因みたいなもんなんだぞ?

 この女がいなければ、俺は、もっと、笑顔でいられたんだ。

 そうだ、轢かれてしまえば良い。そのまま、悲痛な表情のまま死んじまえ。


 ────ッ!


 あと一歩で、手が届く。


 この一歩で、島種ゆねが死ぬかどうかが決まる。

 あと一歩を諦めるだけで、島種ゆねは死ぬ。


 俺は──


「──島種ァアアアアアアアアッ!!」


 ──一歩、踏み出した。


 届いた手は、島種の肩を押し飛ばし、代わりに俺がその位置に入る。

 迫る軽トラ。鳴り響くクラクション。


 ──ああ。今まで何度やっても踏み出せなかった一歩を、踏み出せた。

 これで俺は死ねる。何度やっても無理だった、死との直面。

 何度も何度も望んで来た、死を前にして、俺は、


「あーあ、やっと生きたいと思ったってのに」


 死ぬのが、嫌だと思った。


 そして俺は、全身が砕ける感覚を死ぬ直前まで感じ、意識が切れた。


 最後に視界に写ったのは、あれほど泣きたくないと言っていた島種ゆねの泣き顔だった。











あらすじにもある通り、続くかわからないお試しって感じの投稿です。作者の名前すら変わる可能性もあるんです。めちゃくちゃですよね。

続いたらその時はよろしくお願いします。

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