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いきなりの非日常

作者: 吉満日吉

※小説初執筆のため、文法の変なところや、誤字脱字があると思います。優しくご指摘いただければ嬉しいです。


「次の町はここなのか?」

「はい、間違いありませんわ」


 まだ日も出ていない早朝だというのに、話をしながら、二人の男女が町に入ってきた。

 男の方は、170cm後半くらいの身長で、髪はつんつんとしており、ちょっと赤味がかった色をしている。顎鬚も生やしていて、見た目ダンディだ。

 今は7月だからか、グレーの無地の半袖に、ベージュのちょうど膝くらいの丈の半ズボンといった格好だ。

 女の方は、身長は140cm前半くらいであり、髪は綺麗な黒のストレートで腰くらいまであり、前髪は眉毛の少し上で横に切りそろえてある。

 服装は、黒をベースに白が所々入っているゴスロリ系の服だ。ちなみに、この服は動きやすいように、自分で改造しているそうだ。


「まずは、どこから行くかー?」

「そうですわね…… ここから一番近いのは、あっちですわ」


 女は、肩からかけている大きめのがま口のカバンから、地図を取り出し、地図とにらめっこをしたあと、その方向を指でさした。


「りょーかい。さっさと終わらすかー」

「そうですわね」


 話しながらその方向に歩いて行った。




 ――――――――


 キーンコーンカーンコーン

 チャイムが鳴る。


「おわったー」


 と、少年は伸びをしながらつぶやいている。

 すると後ろから、その少年の頭に軽くチョップが落とされた。


「護はまだ日直の仕事が残ってるでしょ!」

「知ってるよ。少しくらい休んだって罰は当たらないよ」

「そうかもだけど…… 早く帰ろうよ! 今日は帰りにケーキおごってもらう約束なんだからね」


 そう言い、彼女は護を急がせる。

 少年の名は佐藤 護(さとう まもる)

 中肉中背で顔も悪くはないが、かっこいいとも思えない平凡な感じだ。

 だが、人当たりが良く、面倒見のいい性格のため、モテてたりするが、本人はそのことに気づいていない。

 護にチョップを落とした彼女は、田中 葵(たなか あおい)という名である。

 葵は、ショートカットで少し肌が焼けている。運動が得意でボーイッシュな感じだ。

 二人は高校一年生のとき、初めての席替えで隣の席になり、話をしていたら家の方向が同じということがわかり、一緒に帰ったりしているうちにとても仲良くなっていた。

 一緒にいるうちに、葵は護のことが好きになっていた。



 学年が上がり二年になるとき、クラス替えがある。

 クラス発表を見て、葵は護と同じクラスになれたことを心の底から喜び、護に笑顔で「今年もよろしく」と言っていた。実は護もそれは同じだったが、なぜか照れてしまい、心では喜んでいても表情にはあまり出さなかった。

 というエピソードがあったりする。



 今日は期末テストの返却日であり、二人はテストの総合点で賭けをしていた。

 結果を言えば護の負けだ。36点の差だった。

 そういう事情があり、ケーキをおごる約束をしたのである。



 日直の雑務を終え、日誌を書いているとき、護の前の席を勝手に借りて、二人向き合うように座り、葵がどこに行こうか「うーん」と幸せそうに悩んでいる。

 その顔がとてもかわいく、護はずっと眺めていたいと思っていたりする。


「新しくできた駅前の店にしよう!」


 そう葵は言ってきた。


「あの店か…… 高くなかったっけ?」

「ん? 護のおごりだから、わたしは大丈夫だよ」

「僕の財布事情も考慮してくれると嬉しいのだが……」

「えー、バイトしてるんだからいいじゃん。わたしに貢いで!」

「……しょうがないなー」

「え! ほんとに!?」


 護は、葵が冗談で貢いでといってきたのだと思い、冗談のつもりで返事をしたら本気にされてしまった。


「一回行ってみたかったんだよね。何食べようかな……」


 などとつぶやいて、自分の世界に行ってしまった。

 護は、今月はピンチだな、行く前にお金をおろさなくては。と誤解を解かずに、おごってあげようと考えている。

 これが葵ではなかったら、護は「冗談だよ」と言っているだろう。そのことを護は気づいていない。



 日誌を書き終わり、教室を見渡す。

 もうクラスメイトは誰もいない。護と葵の二人だけだ。

 二人は帰り支度をし、教室を出る。

 この学校はテスト返しに日は、テストお疲れ様ということで、大会が近い部活以外は休みとなる。学生に、やさしい?学校なのだ。

 なので、いつもより学校が静かだった。

 日誌を担任に渡さなければならないので、葵に先に校門まで行っててと言い、職員室による。


「失礼します」


 職員室に入り、担任に日誌を渡して下駄箱に向かう。

 その間、冷房が効いた職員室をずるいと、心の中で思っていた護であった。



 靴を履き替え外に出る。すると、校舎と校門の中間より校門側を歩いている葵が、ちょうど振り返ってきた。

 葵が手を振ってきたので、手を振り返し、葵に追いつこうと駆け出した。

 その直後、パリンという大きな音が、護から見て葵のいる場所から左の方向。30mくらい離れた、何もない空中から聞こえた。




 ――――――――



「ちっ!」

「あっ!」


 二人の男女が同時に声を出し同じ方向を見た。


「来ちまったか、予定より早いな」

「そうですわね。あと一か所でしたのに。急がなくては」

「だな。少し遠いか……」


 会話はそこで終わり、二人は走り出す。

 走りながら二人は、顔に耳を近づけないと聞き取れない声で、ぶつぶつと何かをしゃべっている。

 しゃべるのが終わると同時に、二人はジャンプをする。人間業とは思えない跳躍力で民家の屋根までだ。さらに走るスピードも、さきほどよリ上がっている。

 そこから屋根伝いに走ったり、道を走ったりしながら、目的地まで直線的に向かっていく。




 ――――――――


 護は、パリンという音の発信源を見ると、その場所だけ少し揺れているように見えた。

 見違いかと思い、目を擦りもう一度見る。

 確かに揺らいでいる。その場所だけ。

 葵をふと見ると、葵もその場所を見て首をかしげていた。

 護、は葵に追いつこうと歩き出す。

 すると、葵がいきなり揺らいだ空間を見て後ずさりを始めた。


「よっこいしょっと」


 揺らいだ空間の方からか声がする。

 護は、えっ?と思い振り向こうとした。

 だが、その前にドーンと音がし同時に地面が揺れた。



「えっ、なにあれ?」


 震えた声で葵はつぶやく。

 地響きで葵は尻餅をついていた。足が震えて立てない。お尻をするように後ろに下がるのが精一杯だった。


「ふーむ、学校ですか」


 謎の声はそう言った。


『学校に残っている生徒はすぐ逃げてください。繰り返します――――』

 

 放送が流れた。

 放送している人の声が震えている。パニックになっている様子で、どこが、どう危ないのか、などの注意事項がない。

 校舎から校門のあたりには護と葵しか居らず、警察でも対処しきれないと護は思った。

 なぜなら、地響きを出した正体は、でかい化け物。見た目恐竜だった。

 全身茶色で、ティラノザウルスみたいな体のつくりなのだが、腕が長く太い。足も体重を支えるためか太く、その代り尻尾が博物館などで見られる、ティラノザウルスの骨の尻尾の長さの半分くらいだ。高さは10mくらいだろう。こんな奴に踏まれたら一貫の終わりだ。


「グァァアアァァァ!!」


 と雄叫びを上げる。鋭い歯が見えた。


『――――、きゃぁぁ!! ブツっ』


 放送が切れる。


「フレッシュン、やっちゃいなさい」

「グァウ!」


 謎の声に、フレッシュンと呼ばれた恐竜モドキは学校にパンチを入れた。

 ドカンッ、ゴトゴト、パリンパリン

 と、音がしてパンチが入った周辺が崩壊し、屋上も崩れる。

 護たちは、まだ気づかれてない。

 ということに護は気づき、尻餅をつき、震えている葵に近づくため、走ろうとした。

 だが、気づかれてないということに気づくのが遅かった。


「おや、こんなところに人がいましたか。フレッシュン食べていいですよ」


 護は、謎の声を発している人を見た。

 顔は白い仮面で全体を隠しており、顔が見えない。綺麗な白髪で、頭には黒のシルクハット、服装は白い長ズボンに、白のワイシャツ、ワイシャツの上に青い長そでコートを羽織っている。手には白の手袋。

 そんな男だった。そして、こいつは宙に浮いていた。

 宙を歩き、護を見つけたのだ。



「――――食べていいですよ。」


 そう聞いた葵は我に返った。

 護か食べられちゃう。そんなの嫌だ。助けたい。

 葵はそうは思った。

 しかし、恐怖なあまり体がいうことを聞かない。

 葵はまだ気づかれていなかった。


「ぅぁ、だめぇぇ」


 と言うが声がかすれていて、誰にも聞こえて無い様だ。

 何回も叫ぶが、声がすべてかすれ、消えていく。

 フレッシュンが、護を捕まえようと動き出した。

 その時、葵は護と目が合った。



 護は葵を一度見た。

 すると、葵と目が合う。護は、葵に微笑み、すぐ、フレッシュンと、謎の男に目を戻した。

 護は葵だけは絶対助ける。そのためにはどうするかを考えながら、フレッシュンが掴み掛ってくるのを避け、葵から距離を開けようと逃げていた。

 走り、ときに転がりながら避ける護は、フレッシュンをどうすれば倒せるか、という知識なんて持ち合わせていない。

 当たり前だ。

 今の今まで普通に生活をしており、非日常に巻き込まれることなんてありえない。と護は考えていたし、この世界には非日常なんて起こらない、とも思っていた。

 フレッシュンの、掴んでこようとする手を、避けきれていること自体奇跡だ。

 フレッシュンは、知能があまり発達していないため、なんとか逃げきれていることを護は知らない。

 フレッシュンは何回も避けられて、イライラしている。

 護を掴めないと考えたのか、フレッシュンは、護目掛けてパンチを繰り出した。

 ズドン、という音の後、土煙が舞う。




「あっ!」


 葵は声を出した。


「うそ……」


 口に手を当てフルフルと震え、涙を一筋流した。

 普通に声が出るようになっているのに気づかないほど、動揺していた。

 今すぐ護のところに駆けつけたい。だが、足はブルブルと震え、いまだに動けないでいた。

 土煙の中から誰かが走り出てきた。

 護だった。

 全身ボロボロで、右腕を押さえながら、護がこっちに向かって走っている。

 葵は一度安心する。だが、危機が去ったわけではない。



 護は、走っている途中、葵を見つけ、失敗した。という顔をした。

 土煙のせいで方向が分からなくなる。

 さらに、フレッシュンのパンチを避けたと思ったが、至近距離で受けた風圧だけで右腕に激痛が走ったという事実に恐怖してしまった。

 風圧のみでこの痛みということは、体の一部、たとえ髪の毛だけだとしても、まともに当っていたら、頭皮を持っていかれ死ぬかもしれないと、想像させる威力だ。

 ということが、護の頭によぎり、恐怖に取りつかれ、逃げなくては、と焦った結果だった。

 恐怖で、足がすくまなかったことだけは、良かった。


「逃げ足の速い子ですね。 おお! そこにも人がいましたか。女の子は美味しいらしいんですよ。私は食べませんからわかりませんが。ねー、フレッシュン」

「グァァウ!」


 と会話をしている。

 そして、護の苦労もむなしく、葵に向かってフレッシュンが動き出した。




「えっ、ちょっ」


 狙われた葵は、これで護が助かるなら食べられてもいい、という思いと、まだ、護と一緒に居たいという気持ちが混ざり合っていた。


「葵!!」


 息を切らしながら護が葵の前まで来た。


「逃げるぞ!早く!!」


 葵を立たせようと、優しく左手を貸し、葵は立とうとするが、足が、生まれたての小鹿のように震え、歩けずへたり込んでしまう。

 ドシンドシン、と足音がゆっくり近づいてくる。


「私はもう駄目。護だけでも逃げて」

「駄目だ、一緒に逃げるぞ。ケーキだってまだおごってない」

「でも、わたしもう動けない」


 葵は大粒の涙を頬に流しながら護に言った。

 すると、護は、地面に膝をつけ、葵を左手でぎゅっと抱きしめた。


「葵を置いて逃げるなんて、僕にはできない」


 護は、葵の耳元でそうささやいた。



 その言葉を聞き、絶望的なこの状況の中で、葵は自分が前から思っていた気持ちを、ぽろっと言ってしまった。

 絶望的な状況だったからこそ、言ってしまったのかもしれない。


「……護、好き」


 護は、抱きしめていた葵を離し、葵の顔を見た。

 葵は、涙で顔がぐちゃぐちゃになってしまっている。こんな葵の顔を見るのは初めてだ。

 だが、今はそんな顔がとても愛おしく見えた。

 そして、護は答える。


「僕も、好きです」


 と。

 二人は、どちらからともなく、顔を近づけ、軽く唇をくっつけた。

 唇を離した後、葵は、護の腰に両腕で抱き付きぎゅっとし、頬をくっつけ合い、護は、左腕は葵の腰に、怪我をしているはずの右腕は、葵の頭をやさしくなでている。



 ドシンという足音が止んだ。


「ふむ、二人まとめて食べてあげなさい」

「グァウ」


 フレッシュンは二人に腕を伸ばす。


 葵は今、幸せだった。

 ぽろっと、護に告白をしてしまったが、護はしっかり答えてくれた。しかも、「僕も好き」と。

 この化け物に襲われていなかったら、葵は告白なんて、出来ていなかっただろう。

 もしかすると、振られてしまうかも知れないという恐怖と、護との関係を壊したくなかったからだ。

 高校生活の中で、護が告白をされたという話を、一回聞いたことがあった。

 護は、その告白を断り、「これからも友達として――」、と言ったそうだ。

 葵だったら、そんなことを言われたら、いつもみたいに話しかけることはできなくなる。護を見るだけで、葵からしゃべりかけることはできなくなってしまう。

 なら、告白するより、ずっと今の関係でいたほうが幸せだと考えていた。

 護が、葵のことを好きだなんて、考えてもいなかった。告白しても振られるのがオチだ。



 中学の頃、少し気になっていた男子が、友達と会話はしているのが、たまたま耳に入り、その時、聞こえたのが、「葵は恋愛対象にはならないよ。んー、男友達みたいな感覚だな」という言葉だった。

 葵は、この言葉を聞きショックだった。

 女子として見られていないのかと、思ってしまった。

 これがトラウマとなり、告白しても振られてしまうという考えを持ってしまった。

 そんな葵のことを護は、好きと言ってくれた。抱きしめて、キスをし、頭までなでてくれている。

 この時間がずっと続けばいいのに。

 でも、もう遅い。



 護は、びっくりしていた。

 葵が、護のことを好きといったからだ。

 護自身も、葵を好きという気持ちに、さっき気づいたばかりだというのに。

 こんな場面でも、告白をされたことが、とても嬉しかった。

 さっきまで、どうすれば葵が助かるか、ということだけを考えていたが、葵の告白を聞き、頭が真っ白になり、「僕も好き」と言い、キスまでしてしまった。

 護は、もう助からないと悟り、怪我も気にせず、葵を安心させようと、頭を撫でていた。

 葵を助けたかったが、無理ならせめて一緒に食べられよう。そう考えたのだった。





 ドスン。


「グゥアアアアァァ!?」


 いつもと違う恐竜モドキの声。

 フレッシュンは、護たちに伸ばした腕を、綺麗に切り落とされていた。


「よかった、間に合いましたわ」


 と、女の声。


「お二人さん、アツいねぇ」


 と男の声が聞こえた。

 向くと、背が小さい、可愛らしい女の子と、ラフな格好をした顎鬚が目立つ、銀の剣と盾を持つ男がいた。


「お! あなた方ですか。久しぶりですね、我が好敵手(ライバル)

「お前と好敵手になった覚えなんてねーよ! 美代(みよ)やってくれ」

「はいですわ」


 美代と呼ばれた女の子が、唱え始めた。


御簾納(みすの)の名のもとに、我に脅威から護るための力を…… 結界!」


 そう言い終わると、学校の周りが少し白く染まり、空も染まっている。


「結界を張りました。これで、外に被害はでないですわ」


 美代は、結界を張っていたらしい。周りに張ったため、結界の中にいた葵と護は、周りが少し白くなったことしかわからなかった。


「お二人とも大丈夫でございますか?」

「ええ、なんとか……」

「本当によかったですわ。すぐ退治しますので、待っていてくださいまし」


 美代はそう言い男に話しかけた。


千景(ちかげ)さん!」


 名前を呼ぶと千景は振り返り、持っていた銀の盾を護に投げた。


「自分の身は自分で守れよ」


 そいう言い、敵の方を向いた。



「好敵手よ、私の名を忘れてしまったのですか!」

「だから、好敵手じゃねぇーって」

「私の名は、ジェント・ルマンです」

「きいてねーよ!」

「今日勝つのは私です。行きなさい、フレッシュン!」

「グァウ!」

「……変なネーミングですわ」


 最後に美代がツッコミをいれ、戦いが始まった。



 フレッシュンが切られていない方の腕で、パンチを思いっきり振り落す。

 それを二人がジャンプでかわす。

 パンチの反動で飛んできた石などが、護と葵に襲い掛かるが、千景に借りた盾でそれを防ぐ。

 千景は、振り下ろされた腕に着地し腕を切り落とそうとするが、フレッシュンは千景に噛みつこうと攻撃する。

 千景は腕から飛び降り、フレッシュンの噛みつきは外れる。

 美代は、フレッシュンの真横にジャンプしており、詠唱していた。


「呪術師、美代が命ずる、我の右手に炎の祝福を!」


 すると、美代の右手から炎が上がった。


「はぁぁぁ!」


 美代はフレッシュンの横腹に炎のともったパンチを繰り出す。

 ドスン、と言い音がしたが、ダメージはあまりなさそうだ。

 だが、次の瞬間、フレッシュンの横腹が燃え上がった。


「グイァァァ!」


 フレッシュンが叫びながら、尻尾をおもいっきり振りかざしてきた。


「きゃぁぁ」


 尻尾は美代に直撃し、美代は5メートルほど、飛ばされた。

 尻尾はそのまま千景も襲うが、千景は尻尾が来る前にフレッシュンの背中に跳び、剣を突き刺した。

 美代は、倒れたまま詠唱していた。


「御簾納の名のもとに、悪を縛る無数の糸を…… 封糸(ふうし)!」


 唱えると、フレッシュンの尻尾の一部、札のついたところから3cmほどの太さの糸が5本ほど出てきた。

 美代は、尻尾に飛ばされる瞬間、お札を張り付けていた。

 糸は、まずを尻尾にぐるぐると巻き付き、2本ほど地面に刺さり尻尾の場所を固定した。

 残りの糸は、フレッシュンの体に纏わり付き動きを封じる。

 動きが止まったのを見て、千景は、フレッシュンの首を切り落とした。




「お見事」


 宙に立ち、戦いを見ていたジェントは手を叩いていた。


「次は、お前か?」


 千景は剣を構える。


「私は戦う気はないのです。フレッシュンに、餌をあげるために来ていたのですが、死んでしまいましたからね…… 帰るとしますよ。」


 そう言って、手をこちらに振りながら、空間が揺らいでいた場所に入っていった。


 美代は、ジェントが入って行ったと同時に、お札を空間の揺らぎに投げつけていた。


「御簾納の名のもとに、世界の秩序を守る力を…… 封印!」


 空間の歪みに浮いていたお札が、言葉とともに消え、揺らいでいた空間も消えていた。


「これで大丈夫ですわ」


 美代は、服をポンポンとはたきながら、護たちのところに来る。

 フレッシュンの死体は、淡い光を放ち、消えていく。

 千景は、それを見届けてから護たちの方にやってきた。






「大丈夫だったか?」


 千景はぶっきらぼうに、護たちに言う。


「あっ、はい、助かりました」

「ありがとうございます」


 二人は答える。

 葵は、まだ声が震えていたが、護が近くにいることで安心している。護の服をぎゅっと握っていたりもする。


「腕の怪我は大丈夫ですか?」

「えっ」


 護は怪我のことなど忘れていた。

 思い出したと同時に、痛みが走り悶絶している。


「怪我を直す術なんてないからなー。病院行けよ」

「うっっ、……はい」


 痛みをこらえながら、千景に返事をする。


「すいません、助けてもらって聞くのも悪いかと思うのですが、あなた達は何者なんですか? あんな怪物を倒すなんて……」

「巻き込んでしまったのですからね。聞く権利はありますわ。わたくし達は、呪術師ですの」


 そういうと美代は説明してくれた。

 二人は、何らかの原因で起こる時空の歪みを直すべく、旅をしている。

 この町では、その歪みが5か所も起こると予測されており、発生するのが早いと予測されたものから封印を行っていたが、この場所の歪みの発生が予測より早く、この事件は起きてしまった。

 予測は滅多に外れないが、滅多にということは、時々外れるということを意味している。

 詳しい説明はしてくれていないが、聞いてもほとんどわからないだろう。 

 あと、ジェント・ルマンは、昔、一度だけであったことがあり千景と一対一で戦い引き分けたという経歴をもっているそうだ。

 などと、美代が話し終えると、ジェントを思い出したのか、少し苛立った感じで千景が言った。




「あの、盾ありがとうございました。」


 護は盾を返そうとする。


「お前は、その女の子のことが好きか? これからも守っていくか?」


 唐突に言われ、考えることもなく護は「もちろんです」と答えた。

 葵が後ろで顔を赤くしているが、護は気づいていない。


「よし、小さくなれと念じてみろ」

「? はい」


 何が、「よし」なのか分からないが、護は、言われたとおり念じてみる。

 すると、盾は、護の掌で握れるくらいまで小さくなった。


「それはお前にやる。お守りだ。彼女を守ってやれよー」


 軽く言いながら千景は校門に向かって歩き出した。


「ちょっと、待ってくださいわー」


 美代はそう言うと、護と葵にお辞儀をして、小走りで行ってしまった。

 残された二人。

 最初に葵が、口を開いた。


「護、助けてくれてありがとう」

「僕じゃ助けられなかったよ。あの二人がいなかったら今頃おなかの中だ……」


 葵は護に抱き付いた。


「でも、護が化け物を引き付けてくれていなかったら、わたしはとっくに食べられてたよ。だから、護もわたしを助けてくれたんだよ」


 護の胸に顔をうずめながら言う。

 護は、左腕で葵の頭をなでる。

 沈黙が続いた。

 嫌な沈黙ではなかった。助かったという安堵からくる沈黙だと思う。


「葵」

「ん?」

「こんな時に、言うことではないかもしれないけど」

「なに?」

「好きです。僕と付き合ってください」

「……はい。もちろんです」





 ――――――――



 二人の男女が町を出ようとしている。

 ちょっと赤味がかった髪をしていて、170cm後半くらいの身長の顎鬚が目立つ男と、身長は140cm前半くらいの、綺麗な黒のストレートの髪を持つ可愛らしい女の子だ。


「助けられてよかったですわね」


 そう言うのは女の子だ。


「そうだな、あの少年の頑張りのおかげだろう」


 男はそう答えた。


「そうですわね。あんな怪物に一人で立ち向かうなんて、何も力を持っていないのに……」

「それほど彼女が大切だったんだろ。」

「なるほど。愛の力ですわね。わたくしも、いつも千景さんに使っているやつですわ」


 女の子はそう言い、男の腕にしがみついた。


「それにしても、盾をあげるなんて、どういう風の吹き回しですか?」

「こういう事件に一度でも巻き込まれると、また巻き込まれやすくなるだろ。そうならないようにするお守りだよ」

「わたくしは、巻き込まれたおかげで千景さんと一緒に居られるので、嬉しいですわよ」

「お前は、俺を巻き込んだ方だろ。」

「ふふっ、千景さん好きですわよ」

「……俺は、小さい子に興味はない」

「あー、言いましたわね。気にしていることを。わたくしはもう18歳ですわ。身長は関係ないですわー」


 女の子は、プンスカという言葉が合う怒りかたをして、男とじゃれながら歩いている。


「あっ、そういえば、次の仕事はまだ入っていませんのよ?」

「ん? だから何だ」

「なので、わたくしと遊んでくださいまし」


 うるうるとした目で男を見る。

 男はこの目に弱かった。


「……しょうがないな」

「やりましたわ。ここから既成事実を作れば」

「聞こえてるぞ」


 そんな会話をしながらこの町から消えていった。





 ――――――――



 事件から一週間たった。

 学校は校舎を直すため二週間ほど休みである。その代り、夏休みにその分学校に行く羽目になる。

 護は、病院に行き、他にも色々やっていたら一週間たってしまった。

 葵とはメールなどでやり取りはしていたが会うのは一週間ぶりである。

 そう、今日はあの時の約束を果たすとき。そして、葵との初デートである。

 待ち合わせの30分前に待ち合わせ場所についた護は、そわそわしている。

 服装もこの日のためにと、昨日買いに行き店員さんのおすすめを選んでもらった。

 おかげで少し高くついたが、葵にかっこいいと思われるのなら安いものだ、と考えている。

 右腕には、ギプスを着けていて、少し目立っている。

 20分ほど待ったら葵がやってきた。

 ピンクを基調とした膝丈のワンピースで、可愛らしい。


「おまたせ! 待った?」


 そう聞いてくるが、護は返事をしない。


「おーい、聞いてるー?」


 護は、見惚れていた。

 葵は護の顔の前で、手を振りながら覗き込まれる。


「……かわいいね」


 ボソッと言った言葉を、葵は聞き取れていたようで顔が赤くなっていた。


「では、行こう」


 葵は恥ずかしさを紛らわすためか声をだし護の左手を握り引っ張っていく。目的地はケーキ屋だ。



 10分ほど歩き目的地に到着。


「いらっしゃいませ」


 店に入ると、店員さんがお出迎え。

 お客さんは女性ばかりだ。

 カップルらしき人たちも見える。

 わたしたちもあんな感じに見られてるのかな、と葵は思いながら席に着く。


「メニューはこちらになります。お決まりになりましたら、お呼びください」


 そう言い、店員さんは戻っていく。


「んー、なににしようかなー」


 上機嫌でメニューを見つめる葵。


「僕は、ショートケーキでいいや」

「王道だなー、もっと違うの頼のみなよ」

「葵の一口貰うからいいよ」


 ぼふっと音が聞こえて気がした。


「さ、三個くらい頼んでいい?」


 顔が赤くなりながらもそう聞く葵。


「食べれるならいいよ」

「護も食べてくれるんでしょ? なら大丈夫」

「わかった。じゃぁ、選んだら教えて」


 葵が選び終わり、注文をする。


「ショートケーキと」

「あと、モンブランと、ティラミスと、イチゴのパフェください」

「かしこまりました」

「葵、パフェって……」

「三個までならいいって言ったじゃん」

「まあ、そうだけど」


 お金は、持ってきてるから大丈夫か。葵も楽しそうだしいいか。



 右腕の調子や、たわいのない話をしていると注文したケーキたちが届いた。

 パフェは、後から来るそうだ。

 葵が、ケーキの一かけらをフォークで刺し、なにやら、もじもじしている。

 護を見て、意を決してフォークを護の口元へ。


「あーん」


 恥ずかしげにやってくるところがまたかわい。


「あむ。ん、美味しい」

「ほんと!?」


 そう言いながら、葵は、一かけら刺し、自分の口元に、持っていく。


「これって、間接キス……」


 小さい声で言う。


「どうしたの?」

「な、なんでもないよ」


 焦った風に口へ運んだ。


「んんー、美味しー」


 左手をほっぺにやり、幸せそうに顔を緩める。

 護るのも食べたいと、葵が言うので、護も恥ずかしがりながら「あーん」をしてあげる。

 ケーキ4個を食べ終えのんびり話していると、パフェが来た。

 目を疑ったのは、パフェだ。

 何、このデカさは。

 50cmくらいの高さで、器もデカい。


「……葵、食べきれるの?」

「……一緒に食べよ」


 葵も想定外だったのか、驚いた表情をしている。

 スプーンが二つ付いている。

 店員さんが気を利かしたのか、これは、元から二人用なのか、メニュー表を片されてしまっているため分からない。

 言えば貰えるだろうが、今はそれどころではない。

 強敵(パフェ)片付け(食べ)なくては。

 二人で上の方からすくって食べる。

 ソフトクリームだ。

 真ん中らへんに、フルーツもあるのでそれと一緒に食べたり。

 葵がときより「あーん」を放ってくるのを受け止め。護もお返しに「あーん」を放つ。

 そうしているうちに完食した。

 二人は少しやつれていたかもしれない……。

 甘いものを食べすぎたため、少し休憩をし店を出る。



 二人で歩く。

 護の左手には葵の右手が、指と指が重なっている。


「ごちそうさま。おいしかったね」

「おいしかったけど、当分は甘いものは要らないかな」

「ははっ、確かに」

「……護、これからもよろしくね」


 繋いでいる手に少し力を入れる。

 すると、護もそれに反応して力を入れた。


「こちらこそ」


 そうして、二人は歩いていく。


 護の鞄についている、銀の盾のキーホルダーが日の光でキラッと光った。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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