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第一章 最終節

「ふぅ」

 俺は、いつもの公園で一服していた。時間は午前十一時。今日は休日という事もあって、公園には親子づれがたくさんいた。

 顔に張ってある絆創膏を触る。

「いてっ!」

 まだ傷は治っていないようで、血は出ていないものの、触るとまだ痛みがあった。

 魔王との戦いが、ずっと前のように感じられる。いや、実際は昨日の事なんだが、感覚的に遠い日の記憶のようだ。

 

 魔王が倒れた後、主を失った魔王の塔は、崩壊を始めた。

 俺たちがいたのは六十階という事もあって、走って逃げても間に合わないと右往左往しているところを、昇の、

『俺の作る風に乗って逃げよう』

 という一言のおかげで、俺たちは九死に一生を得た。

 崩れ去る魔王の塔を見ながら、俺はあることに気が付いた。俺は裸だった。最後の大技を使った時に、服まで燃えてしまったのだ。今となっては笑い話だが、その時の未宇の悲鳴と愛歌の鉄拳、そして、女だと判明した阿久津の、真っ赤な顔は忘れられそうにない。


「よっ!」

「おすっ!」

 不意に声をかけられる。どうやら一番乗りは大河のようだ。いつも学校には遅刻してくるくせに、こういう時はやけに早い。まぁ俺は、人を待たせるのがあまり好きじゃないので、だいたいみんなより早く来る。

「相変わらず早ぇな」

「お前こそ。まだ十五分前だぜ?」

「え? 何! 俺の腕時計十五分も遅れてんのかよ!」

 こいつの場合、ただの馬鹿だったようだ。

そういや、俺が鉄拳を浴びた後、この馬鹿の一言で、また問題にぶち当たったんだっけ。


『なぁ。俺たち、どうやって帰るんだ?』

 まさに、世界が終わったような気分だった。

 魔王を倒したところで、異世界はなくならない。もちろん、悪魔や魔王と言った憎悪の類は消滅したのだが、問題はそこじゃない。

『あの扉は、一方通行なんです』

 という、阿久津の言葉だった。

 俺たちは、どうにか帰る方法を模索した。俺たちが入ってきた扉は、こちら側にはなく、ただ荒野が広がるばかりだった。

 絶望した。このまま帰れないのかと。そして、俺は全裸のままなのかと。  

『扉ならありますよ?』

 その時だった。神のような言葉を聞いたのは。


「早いな二人とも!」

「まだ十分前ですよ?」

 おっと、モデル級のお二人さんの登場だ。二人が一緒に歩くと花があるな。

「よう! 愛歌、未宇!」

「大河。お前も学校この位の早さでくりゃいいのに」

「そうですよ。真宮寺君」

「ふっ。俺は一匹狼なのさ」

 使いどころを間違ってるな。どうせゲームで手に入れた知識だろうが、無暗に使うとこうなるので、俺も気を付けよう。

「お前らもずいぶん早いじゃないか。どうしたんだ?」

「あたしは別に――普通だよ普通」

「そうです! 私も普通ですよ普通! 別に拓夢の為に朝早く起きてお弁当なんか……」

「え? 何?」

「いえ! なんでもないです!」

 女子二人がこそこそ話始めた。未宇の語尾が聞こえなかったが、まぁいっか。


『扉ならありますよ?』

 そう言ったのは、いつの間にかに俺たちの背後にいた勇者ミックだった。最初に会った時は瀕死だったくせに、魔王が消え、負の念が消え去った事で、力の源でもある善の念が増えたらしい。そのおかげで、傷も癒え元気を取り戻していた。

『本当か!』

 俺たちの声が重なった。

『えぇ。本当ですよ。われわれが、主軸世界との流通に使う扉が、ここから一番近い町にあります』

 いや。ちょっと待てよ? そういえば、阿久津も俺たちの世界からゲームやらを手に入れてたと言っていたな。入手経路については聞かなかったが、こういう事なのか。というか、それって俺たち以外にも、異世界の存在を知っていて、交流を持つ奴らがいるってことなんだが、まぁそれについては後日調べよう。結果から言うと、俺たちの知らないところで、世界には不思議がいっぱいって事だ。

 と、今になって思ったが、あの時は帰れるという事が判明したことへの喜びで、考える暇などなかった。俺たちは、ただ勇者に従って町を目指した。

俺はもちろん、全裸で。


「ありゃ。みなさんお揃いで」

「昇、遅いぞ!」

「いや、そんな事言われても、まだ五分前だよ愛歌?」

「女の子待たせるなんて、男として最低!」

「ごめんごめん。お待たせしました」

「どこに女の子がいんだよ」

「ふっ!」

「ぐはぁ!」

 大河を見ると、口から泡を吹いていた。顎に入ってたし、こりゃ当分起きないな。


勇者の言う町は、俺たちの世界で言う、発展途上の町だった。決して田舎な訳ではないのだが、都会ともいえない中途半端な感じがした。町中を歩く人々は、顔さえ俺たちと違うファンタジーな人種などもいたが、服装は基本的に俺たちと変わらなかった。その為、俺と勇者の恰好は完全に常軌を逸していた。というか、俺は警察っぽい人に連行された。まさか異世界にも、こういう機関が存在するとは驚きだったが、何より驚いたのは、みんなが俺の事を見捨てた事だった。

『む? 君たちもこいつの仲間かね?』

『いえ。知りません』

 泣きたくなった。

俺について来てくれたのは、勇者と陽だけ。何とか勇者が魔王退治の事をネタに弁解してくれたおかげで、

『いやぁ。悪い事をしたね。まさか君が魔王を倒してくれたとは』

 と言って解放されることができたのだが、正直俺の心の傷は小さくなかった。

お巡りさんは、ついでに服も貸してくれた。普通のシャツにチノパンだったが、俺にとっては聖骸布に等しかった。今となっては、返す当てがなくなってしまったが、まぁありがたくもらっておくことにしよう。

 こうして解放された俺は、仲間たちと合流して、口論の末、扉を目指した。

 町の一角。海はないが、港のような場所があり、扉はそこにあった。

 別れ際、

『ありがとう。君たちのおかげで、この世界も安泰だ。それともう一つ、そこの前髪が長い少年。君からは魔王と同じ気を感じる。まさかとは思うが、君も他の世界の魔王なのではないか? もしそうなら、何故こんなことを……』

 なんて、勇者が言った。阿久津は、少し黙った後、

『僕にも、やらなくちゃいけない事があるんです』

 と言って、扉を潜った。

 言葉の真意までは分からないが、阿久津の事だ。どうせゲームの事だろう。

『そうか。では、君たちの武運を祈る』

『お前もな』

 俺たちは、扉を潜って異世界に別れを告げた。

 戻ってくると、俺たちの街の一角だった。人通りがなく、静かな場所だったが、子供のころに、何度も探検で来たことがある場所だった。空を見上げると、日が落ちる寸前の黄昏時。

俺たちは、その場で解散することになった。

家に帰ってテレビをつけたら、俺たちが旅立った日付だったことに驚いたのを覚えている。異世界では、大体一日位の時間を過ごしたはずなのに、こっちでは十分ほどしか時間が経っていないようだった。異世界とこっちじゃ、時間の流れが違うらしい。

 その事を阿久津に電話で聞いてみたのだが、

『それは異世界によっても異なります』

 と、簡単な答えが返ってきた。

 もしかしたら、浦島太郎のような事もあり得る事を知った時、ぞっとしたのは今でも頭から離れない。


「すみません! 遅くなりました!」

 おっ! やっと来たか。

「阿久津! お前最後だぞ!」

「すいません!」

 女だと判明した阿久津は、魔王の塔崩壊後すぐに、俺たちに黙っていたことを謝罪してきた。だが、特に咎める気もなかった。阿久津は不服そうに、何故かを聞いてきたが、そんなの決まっている。

もう、仲間だからだ。

「あれ? でもまだ長篠先輩が来てないじゃないですか?」

「私なら、ここにいる」

「うわぁ」

 陽は遅刻しないので、この公園のどこかにいるとは思っていたが、いつの間に俺の背後に居たのだろう。

いや、今か。

「うしっ! これで全員集合だな」

 俺は、周りを見渡す。そこには、いつもと変わらない特能部の面々がいた。

 昨日、俺はみんなに連絡を入れた。次の日が休日という事もあって、まだこっちの世界に来て間もない阿久津の為に、俺たち部活メンバーで、街を案内しようという提案をするためだった。

 みんな戦闘の後で疲れているはずなのに、二つ返事で了承してくれた。

 

 待ち合わせは午前十一時。


 噴水のあるいつもの公園で。


「ほんじゃまぁ、行きますか!」

『おう!』

 

 晴天の春空の下、今日も星ヶ丘高校特能部は活動中。


ご愛読ありがとうございました。今後続編も書いて行きたいと思っており、その時また目を通していただけるよう、私も成長していこうと思っています。どうぞまた、よろしくお願いします。

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