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第一章 四節 勇者

「いててて」

 衝撃で赤くなったであろう鼻の頭を摩る。顔を打ったからか、なんとなく頭がくらくらする。

 落ち着いてから、辺りを見回す。

 そこは、一面の荒野だった。

 空は厚い雲の覆われ、どことなく赤黒い。日の光があまり届いていないせいか、黄昏時のような若干の暗さが、世界を彩っていた。


「ブランチワールド……」


 まさにBWと言うにふさわしい場所だ。阿久津の話では、アクシスワールドに似ているという事だったが、全然似てないじゃないか。どっからどう見たって別世界だよ。

「ふぅ」

 とりあえず、懐から煙草を取り出し口に銜える。いやぁ、一服するときは幸せだ。

「きゃっ!」

「どはぁっ!」

 突然、後ろから衝撃! 振り返ると、そこには見覚えのある空手ウーマンがいた。

「愛歌!」

「いたたた。たくむぅ?」

 おっと! 愛歌さん、パンツ見えてます! それに見事なM字開脚!

「きゃっ! 見たか?」

「いえ、何も!」

 本当は丸見えだったが、咄嗟に嘘をつく。

「嘘だろ? 見ただろ? 正直に言え!」

「だから、見てないってい――ぐぁぁぁむっ!」

 なんで殴るの! 

「ふん! 拓夢が悪いんだろう」

「理不尽だぁぁぁ!」

 俺の叫びを聞いてか、後ろから声がした。

「こんなところでイベント発生?」

「どうやら無事にたどりつけたようですね」

「昇、未宇! あと……誰だっけ?」

「阿久津です! なんで数秒前まで一緒にいたのに、忘れちゃうんですか!」

「ごめんごめん。今、愛歌に殴られたばっかだったから」

 なにはともあれ、みんな無事にたどり着けたようで良かった。

「ここが異世界ですか。薄気味悪いところですね」

 未宇はぶっさんともBWとも言うつもりないみたいだ。

「そうだね。あんまりいい気分にはならないね」

「うん。なんか違う世界みたいだ」

「いや愛歌。違う世界なんだよ、ここっわぁぁ!」

 俺、戦死。

「とにかく、真宮寺さんを探しましょう!」

「そうだ! 大河は!」

 あたりを見渡す。前方は、ひたすら荒野が続いている。後ろを確認しようとした時、横から、遭難者を発見したかのような、短く鋭い声がした。

「誰かいる!」

「何?」

 目を凝らすと、少し先に人影のようなものが見える。俺たちは、大河であることを信じ、その人影に駆け寄った。

 よく見ると、その人影はうちの学校の制服にTシャツを着ている。間違いない! あの片膝をついてしゃがんでいるのは、大河だ!

「たいがぁ!」

 俺たちは、叫びながら人影に駆け寄る。

「ん」

 人影が、こちらに振り向く。その顔は、まぎれもなく大河だった。

「ようみんな。揃ってどうした? まさか、お前らも落ちてきたんか? 馬鹿やなぁ」

 このバカっぽさも、今日ばかりは、腹立たしくなかった。

「やっぱり、この馬鹿は死んでなかったね」

「大河! 心配したじゃねぇか!」

「よう拓夢に昇。お前らもドジ踏んじまったみたいやな」

 安堵で、口元が緩んだ。このバカ! 一人だけヘラヘラして。

「もう、無事なら無事って最初から言いなさいよ!」

「心配したじゃないですか」

「お前ら……。そうか、そんなに経っちまったっちゅう事か……」

 大河は、何故か遠くを見るような目をして、意味不明な事を言っていた。まぁ、それも今はどうでもいいや。なんてったって、大河が無事だったんだから!

「いや、でもほんとによかったですよ、真宮寺さん」

「阿久津まで。そっか……」

 またしても、遠い目をする。

「俺も、まさか愛歌の拳で死んでまうとは、思わんかったわ」

 うんうん。そうだな。ってはぁぁぁ?

「みんなが来るっちゅう事は、俺が死んでえらく経ってしもたみたいやな。こっちの世界じゃ、あんま時間とか分かんなかったよ」

 もしかして、大河はここが、死んだ後の世界か何かと勘違いしてるんじゃないか? いや、十中八九そうだろう。

「まだ、十分も経ってない気がするで」

 その通り! 大河が飛ばされて、まだ十分も経ってないから!

「あのさ、大河……」

 口を開いたのは愛歌だった。俺的にはもうちょっと見ていたかったが、さすがにそろそろネタばらしかな。

「なんだ? 愛歌」

「あのさ、あんたは私の拳で死んだわけじゃないんだよねぇ」

 多少は罪悪感を抱いているのだろうか。確信を付かずに遠回りに説明をしている。

「え? じゃぁ落ちた時か。そうかそうか。お前は殺人者にならずに済んだんか」

「…………」

 愛歌がプルプルと震えだした。怒りの鉄槌まであと三秒!

「あなたは死んだのではなく、異世界に飛ばされたんですよ」

 そんな時、痺れを切らしたのか未宇がネタ晴らしを始めた。

 ふぅ。もうちょっとで、大河がほんとにあの世に行くとこだったよ。

「どういう事?」

「どうもこうも、ここが異世界だって事です」

「阿久津が話してたやつ?」

「そうです」

 頭の悪い大河も、ようやく自分が置かれている状況を理解したようだ。

「そうか。どうりでおかしいと思うたわ。ぶっさんか。いやぁ、こいつがいたのも納得できるで」

 大河は、ゆっくりと目線を自分の膝元に移した。それと同調するように、俺たちも視線を移す。

 実はその膝元に何かがいる事には気づいていた。気づいていたんだけれども、俺はあえて無視してたんだ。そいつが何か認識するのが怖かったから。

「悪い大河。何となく予想はついているんだが……」

「僕もだけどあえて聞くね。それは誰だい?」

 大河の膝を枕にし、横になっている奴。見た目は何の変哲もない人間。年は俺たちとあまり変わらないと思う。

だが、根本的に違うのは、身に纏っている服だった。

RPGの勇者とかが装備しているような、そんなどこか脆そうな甲冑を身に纏い、左腕には鈍く光る剣が握られている。

 まさかとは思うが、いや、そのまさかだろう。

「こいつか? 本名は、長ったらしくて忘れたけど、職業がこれまたウケるで? 勇者なんやて!」

 恐れていた事態が、いきなり訪れてしまった。




「な? ウケるやろ?」

 爆笑している大河の後ろでは、勇者が死にそうになっていた。

 頭からは血を流し、呼吸すらままならない様子だ。

「いやな。こいつそこでリンチされててさ。そこを俺様が助けてやったんだけど、結構こっ酷くやられててな? とりあえず休ましてるとこに、お前らが来たっちゅう訳や」

 未宇と愛歌が、元々鞄に入っていた救急キッドで応急処置をしている間、俺たちは大河から事情を聞くことにした。

「それで? 勇者は何に襲われてたんだ?」

 正直聞かないでも分かる。

ここはBWだ。勇者の相手と言ったら、怪物か悪魔の類だろう。

「それが、咄嗟のことで顔は見れへんかったんやけど、なんかスーツを着たサラリーマン風の奴やったで?」

『そんな奴がいるかぁ!』

 あまりにもバカな事を言うもんだから、俺たちは思わず叫んでしまった。

「いや、ホンマやって。あいつに聞いてみ?」

「…………」

 そういって、勇者を指差す。死んでいるのか、気絶しているだけなのかは分からないが、とりあえず話を聞ける状態でない事は確かだった。

「ホ、ホンマやって。聞いてや」

「なんだよ?」

「いやな。俺がこっちに来た時、あたり一面荒野やろ? 人がいるかも分からんかったし、とりあえず『あぁ!』って叫んでみたんや」

 それ何の意味があるの?

「そしたら『あぁぁぁぁ!』って返ってきたんや。人がいると思うて興奮してな、とりあえず踊ってみたわ」

 それ何の意味があるの?

「でな、その声の主を探したんや。分かるか? それが、サラリーマンや」

「分かる訳ねーだろ!」

「咄嗟にやられている方を助けたんやけど、まさか勇者やったとはな」

 訳分かんねーよ。嘘つくならもっとマシな嘘つけよな。

「まぁまぁ。おそらく、真宮寺さんが言っている事は、嘘じゃないです」

 そんな俺たちを見て呆れたのか、唯一BW人である阿久津が口を開いた。

「阿久津。お前だけは味方や思うてたわ」

「おいおい阿久津。お前はこの世界の住人じゃねーだろ? なんでそんな事言い切れんだ」

 妙に確信を持っている阿久津が、俺には不思議で仕方なかった。

「昨日の夜を思い出してください。奴はこの世界の住人です。身なりはどうでしたか?」

「そう言えば、スーツだったな」

「それに、これを見てください」

『これは!』

 阿久津が見せてきたのは、ピンクのヒョウ柄をしたネクタイだった。

「そこに、落ちてました」

 決定的証拠を見せつけられ、俺たちは何も言えなくなる。

「すまん……大河」

「分かればええねん」

 俺は、そのセンスの欠片もないネクタイを、ズボンのポケットにしまった。

「みんな! 勇者の意識が戻ったぞ!」

 愛歌の声に、俺たちは勇者のもとに急いだ。

「君……たちは?」

「ただの通りすがりの人間だ。体は大丈夫か?」

 とりあえず、正体を濁して答えた。

「俺は……いったい……痛っ!」

「あぁ。あんま体を動かすな」

 愛歌に押さえつけられる勇者。未だに目は虚ろで、状況をあまり理解できていないようだ。

「とりあえず、俺たちは怪しいものじゃない。落ち着いてくれ」

「…………」

 目を瞑り、息を整える。さっきまでの動揺は、もう見えない。どうやら、落ち着いてくれたみたいだ。やっとまともに話すことができる。

「あんたは何者だ?」

 勇者とは聞いていたが、一応聞いてみる。

「俺は、ミハエル・エクシール・レイバース。呼ぶときは、愛着をもってミッキーでいい」

「それは、いろいろと問題がありそうだね」

「そうだな。やめとくよ」

「じゃぁ、ミックって呼んでくれ」

 正直呼び方なんてどうでもいいと思ったが、ツッコんでいたららちが明かないので、とりあえず流す。

「それでミック。あんたはなんで、ここにいたんだ?」

「俺は、勇者をやっていてな。それで魔王を倒しにきたんだが、魔王と対峙する前に、雑魚に袋叩きにされてしまった」

 よわっ! 勇者よわっ!

「おいミック! 勇者のお前が、そんなにだらしなくてどうすんねん!」

 一喝したのは大河だった。その顔を見るや、ミックの目は見ひらかれた。

「君は、さっきの!」

 死んでしまうのではないだろうかと心配するほどの驚き方するミック。

「なっ、なんや?」

 腕を掴まれた大河は、困惑の色を隠せていない。

「折り入ってお願いがある! 君は、超能力者だよな?」

 何故サイキッカーかを知っているか疑問に思ったが、大方ミックを助けた時に、力を使ったのだろう。BWじゃ、超能力ってのは、広く知れ渡っていてもおかしくはない。ましてや勇者なら教養の範囲内だろうし。

「だったらなんやっちゅうねん? いいから離せ!」

「もしや、君達も?」

 大河の腕を掴みつつも、俺たちに顔を向けたミックにそろって頷く。

「ならば、君達に魔王を倒してもらいたい!」

 勇者の悲痛の叫び。はっきり言って、あまり見たくない。RPG好きの子供が見たら二度とプレイしなくなるような、そんな情けない顔だった。

「俺の力じゃ、魔王どころか下っ端にも勝てない。だが、君達は違う! さっき彼の力を見た時、勝利を確信した。お願いだ! どうか魔王を!」

 俺たちは、黙って顔を合わせた。そのあと、ゆっくりと立ち上がって、

「分かったよ。俺らも、それが目的で来たんだし」

 と、答えた後、俺は続けて口を開く。

「勘違いすんなよ? ミックの代わりに魔王を倒す訳じゃない。特能部の活動内容が『魔王から趣味を守ろう』だから倒すんだ」

 陽はいないが、逆に連れてこなくて良かったと思っている。彼女に危ない思いはさせたくない。だから、俺たち六人で魔王を倒す!

「よろしく――頼む」

 ミックは、横になりながらも、まるで頭を下げるように言った。

「それでミック。どこに魔王はいる?」

 場所が分からないと、倒せるものも倒せない。居場所を知っているだろうミックに尋ねる。するとミックは、俺たちの後方を指して、

「あの魔王の塔にいる」

 そう言葉を並べた。

 振り返ると、百メートルほど先に、それはそびえ立っていた。

「って、魔王の塔近っ!」

 こういうのって、少し旅をしてから辿りつくものじゃないのか? こんなにラスボスの居場所近かったら、レベルとかあげられないじゃん!

「全然気づかなかった」

「私は気づいていましたが……」

「あぁ……」

 言いたいことは分かる。ごめん! 俺、もう限界だわ!

「魔王の塔って言うか、オフィスビルじゃねぇか!」

 そう。俺たちの前にそびえ立つ魔王の塔は、どっからどう見ても、どこにでもあるオフィスビルだった。もっとイカつい建物を想像していたから、拍子抜けもいいとこだ。

「阿久津くん。君のところもこんな感じだったのかい?」

 昇も、さすがに動揺しているようだ。

「いえ。僕のところは、もうちょっと皆さんの想像に近いものかと……。いやぁ、この世界の魔王は実業家なんですね」

 それはボケているのか?

「まぁ落ち着け拓夢。別にビルだろうがマンションだろうが、俺たちの目的は一つや」

「そうだね。魔王さえいれば、建物なんて関係ないだろうしね」

「お前ら主人公っぽい事言うな! てか、なんでそんなに落ち着いていられるんだ! いつもは冷静さなんて微塵もないのに!」

 熱をもった俺の耳に、無数の足音が入ってきた。音の方を向くと、ビル――いや、魔王の塔の入り口。自動ドアの向こうから、おびただしい数のサラリーマンが出てきた。ざっと五百人はいるんじゃないか?

「サラリーマン近くにいたぁぁぁ!」

「な? いたやろ?」

「悪かった。じゃなくて! なんでこんなとこにサラリーマンが!」

「会社だからだろうね」

「その通りです。じゃなくて!」

 あぁ! もう何がなんだか分からなくなってきたぞ!

「おいっ! あいつら見てみな! なんか変だぞ」

 愛歌の声に、そのサラリーマンを見る。彼らは、まるで魔王の塔を守るように整列していた。よく見ると、頭には角が生え、顔はいびつに尖ったりしている。まさに悪魔という生物にふさわしい顔だった。というより、悪魔がスーツを着込んでいるようにしか見えない。

「なんか、気持ち悪いですね」

 普通の感想を述べる未宇。もちろん俺も同意見だよ。

「あっ! あいつ!」

 大河が指差す先、大勢の悪魔の中で一際異彩を放つ悪魔がいた。顔はボコボコになっていて、一人だけ何か違うような気がする。ん? まさか?

俺は気づいてズボンのポケットからネクタイを取り出す。

「あいつ、さっきの奴だ!」

 このネクタイは彼のだったか……。一人だけ違う風に見えたのは、ネクタイを締めていなかったからだ。

 それにしても、顔に似合わず派手なネクタイを締めるんだなぁ。

「どうする拓夢? あたしが殴り込んでもいいけど?」

「いや、様子をみよう」

 愛歌の案も有りだと思ったが、あちらは武器すら持っていないところを見ると、素手でも十分な戦闘力を持っているに違いない。俺は軍師とかそんな上等な頭は持ち合わせていないけど、数々のバトル漫画を読み倒してきた。こういう場面、下手に突っ込めば、命とりになるかもしれない。

 少しずつ、魔王の塔に近づいていく。まだまだ距離はあるとはいえ、油断はできない。踏みしめる砂の音が、やけに大きく聞こえた。それだけ、神経質になってるって事だ。

「仕掛けてこないね」

「だな。元魔王として、この戦況をどう思う?」

「そうですね。僕たちの出方でもうかがっているんですかね?」

 俺と同じ見解だ。おそらく、こちらが打って出るのを待っているんだろう。魔王サイドだって、俺たちの戦力を知らないはずだ。たった六人で来たところを見て、多少の警戒はしているのだろう。

「おい拓夢! 誰か出てくるで!」

 悪魔たちの間を、一人の悪魔が歩いてきた。

「まさか、あれが魔王ですか?」

「どうだろう? それにしては威圧感がないというか……」

 歩いてきた悪魔は、魔王というより、『課長』と呼ぶのがふさわしい奴だった。彼もここの会社員なら、おそらくそういう地位なのだろう。だから周りよりちょっと偉い分、彼が先頭に出てきたのだ。

「なぁ? あの手に持っとるのは一体何や?」

「ラジオ――じゃないでしょうか?」

 課長は、片手にラジオを持っていた。そのラジオを置くと、こちらとは逆に悪魔たちの方を向いた。

「なんでラジオなんだ?」

「僕にも分かんないよ」

 まさか、あのラジオから、特殊な音波などが出るのではないだろうか。それなら、今のうちに手を打たないと遅いかもしれない。あのラジオ型兵器の事を聞こうと、後ろにいるはずのミックを見たが、また気絶しているようだ。

「よしみんな、作戦を伝える」

 俺は一度屈み、その周りをみんなが囲む。

「愛歌。もし、あっちが攻めてくるような態度をしてきたら、その時は」

「分かってる。悪魔だろうが魔王だろうが、あたしの拳で蹴散らす!」

「未宇は、基本援護を頼む」

「分かりました」

「大河も、愛歌と一緒に特攻。僕と昇と阿久津は、状況に応じて対応。この作戦でいこうと思う。今回の作戦名は、オペレーション・ジャスティスだ」

 一通り策を伝える。全員了承してくれたようだ。とにかく、腕っぷしに自信がある二人で攻め、俺たちはみんなを怪我させないように援護すればいい。問題は、俺たちの力だが……。

「なぁ阿久津」

 阿久津は一体何だという顔でこちらを見てくる。

「俺の予想が正しければ、俺たちの力も数倍上がっていると思うんだがどうなんだ?」

 力とはもちろん超能力の話だ。AWでは微弱な力とは言え、BWでの認知度と勇者ミックの俺たちに託すという言葉から想像するに、かなりの力を発揮できるはずだ。

「はい。おそらく数十倍はパワーアップしていると思います」

「やっぱりな」

「はい。元々サイキッカーとはBWの気を胎児の時点で浴び、潜在能力を覚醒させた貴重な存在の事を指します。特に、みなさんのようにAWでも微弱ながら力を発揮できる人は稀なのですよ」

 へぇ。そんな秘密があったんだ。てか、ぶっさんあっさんって言うのやめたの?

「元々超能力はBWの気で覚醒したもの。なら、BWでの力は莫大な物になるはずです」

 今は試したいが、派手な動きはできない。それはみんなも同じなようで、拳を握りしめ我慢していた。

あとの問題は、敵の強さだが、想像を絶するものでない限り大丈夫なはずだ。

 俺は相手の出方を慎重に見る。

まだ攻めてこない。距離は大体五十メートル。攻めてきても、まだ対応が効く距離だ。

 先頭に立つ悪魔が、ラジオになにかしようとした。

 課長が動いた! 来る!

「…………」

 聞こえてきたのは、殺人光線でも悪魔たちの怒号でもなく、ラジオから流れる聞き覚えのある音楽だった。一瞬音響攻撃かと身構えたが、流れたのは俺たちも良く知る音楽だった為、気を緩める。そんな俺たちとは裏腹に、悪魔たちはそれに合わせて踊りだした。

「まさか……」

「えぇ」

「ラジオ体操かよぉぉぉ!」

 俺は思わず叫んでしまった。ある意味攻撃だった。それも不意打ち。

「なんであいつら、ラジオ体操なんて踊ってるんだよ?」

「いやぁ、こっちじゃ朝なんじゃないか? それに良く聞いて。あれ、ラジオ体操第二だよ」

「どうでもいいからそんな事! いつ攻撃がくるか分かんねんだ。気を抜くな!」

 とりあえず部長らしく一喝。

「了解」

「あ、あぁごめん」

「はい」

「任せてください、部長!」

 もう一度気を張るみんな。あれ? 今の返事、一人少なくなかったか?

「大河、分かってんの? お前が一番心配なんだからな――っていない!」

 大河が消えた。さっきまで一緒にいたはずなのに。

 周りを探す。

「いた!」

 愛歌の指す方。ラジオ体操をしている悪魔たちの中に、大河はいた。

「なにをしてんだお前はぁぁぁ!」

 しかも、一緒にラジオ体操を踊ってる!

「いやまったく、大河は僕の想像の斜め上を走る抜けるね」

「馬鹿だな。真性の……」

「はい……」

 みんなから蔑んだ声が上がる。はっきり言って、これで俺の計画はおじゃんだ。とにかく、大河にはどうにかバレずに戻ってきてほしい。

 その時、ラジオ体操の歌がぴたりと止まる。

「おい! お前そこで何をしている!」

「なんでこんなところに人間が!」

「いつの間に! この泥棒猫が!」

 バレたぁぁぁ! 悪魔の中に国語が弱い奴がいた事もバレたが、それよりも大河の存在がバレた! どうする? 考えろ俺!

「あぁ? やんのかコラ?」

 お前から喧嘩を売るなっ! なんでお前が逆ギレしてんだ!

 俺の思考が追い付かない間に、大河は行動を起こす。

「人間風情が調子にのんなよ?」

「あぁ? 人間なめんなや」

 まさに一触即発。一際大きな叫びと共に、大河の胸元に手が伸びた。

「上等じゃおらぁぁぁ!」

――刹那。大河の叫びと共に、悪魔たち数人が宙に浮く。呆気にとられているのは悪魔たちだけではなく、俺たちもだった。

 大河の能力。

『サイコキネシス』

 物体を動かしたりする能力。

 でも、動かせるのは文房具ほどの軽い物だったはず。ましてや人一人動かすのなんて、到底不可能だったはずだ。

 だけど、眼前で力を使う大河の先には、十人ほどの悪魔が宙に浮いているじゃないか。

「これが、BWでのあなた達の力です」

 横から阿久津の声がした。踵を返すこともできずに、俺は言葉を耳に入れる。

「おそらく、あなた達が想像するような技が出せると思います。まだ未熟ですから、大きすぎる技は無理でしょうが」

 予想以上だった。

『人間が月に行ったら、異常に力持ちになる』という話を聞いたことがある。あれは確か、重力が関係していたんだっけ。これは、また違う問題なのか。

 ふと、自らの手に視線を落とす。

「燃えさかれ、焔よ!」

 ちょっとどころか、自分でも恥ずかしくなるような中二病っぽいセリフを吐く。後ろからは俺を蔑む声が聞こえてきたが、お構いなしに両手に集中する。すると、両手から炎が上がった。それも、今までとは比じゃない大きさで。

「マジか」

 今までは『火』という感じだったが、もはや『炎』だ。しかも自分で自在にコントロールもできる。

「うわっ! すごっ!」

 愛歌も試したのだろう。目に見えるほどの電流を、体に纏っていた。その名の通り、まさに電気人間だった。

「すごいねこれは」

 昇は、手の上で小さな竜巻を作っていた。

『拓夢。私の声が聞こえますか?』

 ふいに頭に未宇の声が流れてきた。

「聞こえるよ?」

『これが、私の増幅した力のようです。人の頭の中を読めるだけではなく、コンタクトを取ることも可能になったようです』

 未宇の能力は、完璧に近いものになっていた。攻撃力はないものの、援護するにはもってこいの能力だ。

 ドゴォォォォォン!

 すさまじい轟音と共に、前方で砂埃が上がった。大河が、宙に浮かばせていた悪魔を、投げ飛ばしたようだ。

 それが、俺たちの開戦の狼煙となった。

 俺は、みんなを見渡して、大きく息を吸った。

「行くぞ! オペレーション・ジャスティス、発動だ!」

俺たち、特殊能力研究部の初陣の火ぶたが、切って落とされた

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