約束の記憶
「三年ぶりかー。なんだか変な感じがするね!」
レイリーは、先頭を行くイクスの後に次ぐみんなに話しかける。彼女のトレードマークであったおさげはもう跳ねない。
「三年前か。なんか昨日のことのように覚えてるのにな。確かに変な感じ……か?」
リオンが首をかしげた。そして続けざまに話を広げる。
「そういえばさ、この三年の間にこっちに戻ってきたり姫とかイクスと連絡取ってたやついねーの?」
「それは約束違反だろう」
すぐさまローザが口を挟む。
「いや? 明確にはそんな約束はしてなかったはず。でもなんか暗黙の了解って感じだったよな?」
ナイトの発言に周りは約束を思い出す。確か、自分たちがした約束は……
「ええっと、何だっけ。三年後の今日会うことは覚えてたんだけどな」
照れたようにレイリーが笑う。しかし、それにみんなはそのまま頷く。
「だよな、そんな感じの約束だったはずだ」
「……そう、ですよね」
リオンとシリルもあやふやな記憶と戦うが、それ以上は思い出せない。戦争の記憶はあんなにも鮮明なのに、大事な部分そのままそっくり抜け落ちてしまっているようだ。
「みなさん、あの時はいろいろと大変でしたので。移動の手続きも済ませなきゃいけないし、復興もしなきゃいけないでバタバタしてたので、覚えていなくても仕方がありません」
そこで、今まで黙っていたイクスが話し出した。
「私たちがした約束はこうです」
すっとイクスは息を吸う。そして静かに語りだした。
「三年後の今日、またここで会おう。そして、今度こそ姫を守ろう。強くなって、何かに囚われることなく自分の意思で守れるように。もう、あのお方を泣かせないように」
しばらくの間、沈黙が続いた。歩く音だけが耳に残る。
「……思い出した。そっか。そんな約束してたんだよね。なんで忘れてたんだろう」
からっぽの心で約束した言葉がよみがえる。あの時の言葉、顔、気持ち、におい、感触、全てが自分の中に戻ってくる。
「ありがとうございます、イクスさん。覚えててくれて」
レイリーはそのままイクスの前に出てきて頭を下げる。あげた顔はいつものレイリーらしい笑顔だった。レイリーは短くなった髪の毛をふわりと舞わせて方向転換をした。そして右手を挙げて
「さ、行きましょう! 姫が待ってます!」
そう元気に大きな声をだすと走り出した。
「そうだな! 城の位置は代わってないんだろ?」
リオンもそれに続いてマントを翻し、走りだした。気が付けば、騎士全員が走り出していて、イクス一人取り残されていた。
春の香りがする風が吹いた。その風に乗せるようにイクスは呟いた。
「みなさん、ごめんなさい」