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流れ星の降臨

 真後ろの魔法陣から燦然さんぜんとした光があふれ、重い音が落下する。別の金属巨人が現われた。

 新たに現れた敵に、緊張が走る。


「お嬢様、金属巨人があと5体、こちらに向かってきています」


 風の指輪をゆらめき光らせたロイがフェリンデールに事態を知らせた。街中に風を巡らせて監視している。

 一体を倒すだけでも精一杯だったにも関わらずに、無慈悲に何体も現れてきている危機的な状況だ。


「そう。これは随分と本格的に睨まれたみたいね」

「先程の撃破が原因と考えられます。我々を倒すために本腰を入れたのでしょう」


 背後から降臨した金属巨人よりも先に、別の巨人がやって来た。

 金属質な鎧が泥で汚れている。最初にユーリ達を襲っていたニ体の金属巨人のうちの一体で、ロイが吹き飛ばした方の金属巨人だった。

 まだ距離はあるが、ユーリは炎のかまを出し臨戦態勢にはいる。


「吹き飛ばされて戻って来た金属巨人に、後ろで新しく出てきた金属巨人。そして、あと5体がかけつけて、これはちょっと……」


 言葉を濁したユーリへ、ロイが皆に聞こえるように声をかけた。


「訂正する。あと2体増えた。更に、別の場所で新たな魔力波動を4つ確認。後続で4体ほど追加される可能性もある」


 圧倒的な絶望の状況。こちらに向かってくる金属巨人だけではなく、新たに生まれる金属巨人とも対立しなければいけないのだ。


「フラン、あなたの境界術は、いま発動できる?」

「連続はキツイかも。魔力が溜まるまで、次のは撃てないかな」


 フェリンデールの問いかけに、フランが苦く笑った。

 思わずフェリンデールは不安げにすがるような声でロイに訊く。


「勝てるの、ロイ?」

「かなり苦しい状況です。勝てる可能性があるかと聞かれたなら、肯定はします。しかしながら、先程の成果は我々の私兵の奇襲と、フランチェシカの大打撃あってのものです。運の向きが私たちにがあったからでしょう。これが複数相手となると、相当に作戦を練らなければなりません」


 ロイの濁した表現に、この場にいる全員が顔を曇らせた。

 いつの間にか、吹き飛ばされた金属巨人と、後ろから召喚された金属巨人がフェリンデール達の退路を挟んだ。フランの境界術がまだ使えないなら、体勢を立て直すために逃げるのが得策だろう。幸いにも両脇に小道3つがある。

 しかし、その小道は、大人がひとりなら入れそうだが二人は無理だろうと思える大きさの小道だ。小道を使わずにロイのように飛ぶという手もあるが、招集されている金属巨人の目につくリスクがあり、わりに合わない危険な行為だろう。つまり、安全に逃げるには小道を使わざるえなく、小道を使うということは、全員でまとまった行動は難しいと考えられる。

 フェリンデールが今後の作戦を考えていく。


「三手に分かれて行動し、学園に集合して! 金属巨人は私とロイが引きつける。私達の最終目的は金属巨人を倒す事じゃなくて、学園長を逮捕。集まったら、生き残った人達で学園に突入すること!」

「ちょっとフェリンちゃん! それっておとりになるってことだよ、だいじょうぶなの!?」

「大丈夫よ、フラン。戦うんじゃなくて、時間を稼ぐだけ。それなら幻術使いの得意分野だし、ロイもいるから平気よ。ユーリ、フランを守ってあげて。学園長は境界術の使い手だから、境界術の専門家のフランがいないと戦いにすらならないかもしれない」

「……分かりました、任せてください」


 ユーリは嫌な気持ちを呑みこむように言葉を詰まらせながらも、フェリンデールの思惑を受け入れた。



 ◇◇◇



 フェリンデールとロイが、金属巨人を引きつけていく。追ってくる金属巨人は最初の2体から3体へ増えた。

 二人は、金属巨人がフラン達から離れるように誘導していき場所を移していく。辿り着いた場所は帝国前の露天市場だった。この場所は、正門からの眺めはもちろんのこと、高い所から見下ろせば一番に目のつく場所だ。

 逆に言うならば、金属巨人のような高い背丈からでは目がつきやすい場所でもある。そして、人間が逃げるには障害物が多すぎ、金属巨人が人間を探すには低い屋根で視界は良好だ。

 まるで追いつめられたと思わせるような場所。おとりとしては適役の空間にたどり着くことができた。


「でも、はぐれちゃった……」


 先程の金属巨人の攻撃によって、フェリンデールとロイが分断されてしまった。一体がロイへ向かい、残りのニ体はフェリンデールを探すように首を360度動かして見まわしている。


 フェリンデールはひとりで静かに露天市場を駆けていく。真夜の暗闇の中を、燃えている長屋が影を揺らす。屋根が崩れている屋台から、木々の焦げた臭いがゆらめいて鼻についた。


 フェリンデールの背後から、屋体を豪快に踏みつぶしながらニ体の金属巨人が迫ってきた。


「なんで、勢いでおとりになるって言っちゃったかな、もうっ!」


 金属巨人に迫られているストレスを吐きだすように、盛大に愚痴を叫んだ。もっとも、フランとユーリを行かせた選択は本人も正しいと思っており、命を賭けているやりきれない気持ちが溢れてきただけだ。特に深い他意はなかったりする。


 フェリンデールが懸命に逃げていると、長屋の中でドンドンと壁を叩くような音がした。鬱々していた気持ちが吹き飛び、思考がぞっと冷えた。誰かがいるのだろうかと、嫌な予感が脳裏をかすめる。


「出てきちゃダメ!」


 フェリンデールの声を聞きつけたのか、急に壁や扉を叩く音がそこら中に増えはじめた。

 帝国にかかっている催眠魔法が効いていないのだろうか。複数から聞こえる音に、この露天市場だけでも何人も 人が残っているのかと 血の気が引いた。いま人が出てきたなら、フェリンデールは守り切れる自信がない。


 しかし、フェリンデールの声を聞いたのは、金属巨人も同じである。

 金属巨人がフェリンデールへ砲撃を放った。猛火が露天を砕き、フェリンデールを吹き飛ばす。

 その拍子にフェリンデールは抱えていた人形を落としてしまった。


 身がすくむような振動がふたつ。ニ体の金属巨人がフェリンデールを挟むように囲んだ。

 ニ体の金属巨人はフェリンデールの反撃に備えて用心深く構えている。


 ふと、学園側から光の柱が空に穿たれた。何か重たい物体が崩れる音が聞こえる。


「むこうは、大丈夫そうね」


 フランやユーリ達があそこまで行けたなら、おとりの役目はもうおしまいだ。もう無様に逃げまわる必要はない。

 つまり、この露天市場さえ切り抜ければ、また皆に会えるのだ。あとはこの場だけ、ちょっと頑張るだけで、窮地から抜け出せるのだと心が焚きついた。


「人形を落としちゃった。あとで絶対にロイに探させよ。だから、絶対に生き残る……!」


 戦う決意を呟き、自身を鼓舞する。

 ニ体の金属巨人のうちの一体が、フェリンデールへ駆けてきた。剛腕を振り上げながらフェリンデールとの距離を詰めてくる。


 フェリンデールは落ち着きを払いながら指をパチンと弾いた。踏み込んだ金属巨人の足元から、綿ワタが大きく膨れ上がる。


伊達だてに、自分でおとりになるって言ったわけじゃないんだからっ!」


 幻術で巨大化した綿ワタで、金属巨人を転倒させる。

 ニ体目の方の金属巨人がフェリンデールへ砲撃を放とうとしてきた。

 フェリンデールは数枚の硬貨を弾いた。幻術を使い、硬貨を巨大化させて巨大な盾を作りだした。


 突然に出現した盾に目標を失った金属巨人の動きが少しだけ止まる。

 その一瞬の隙に、金属巨人は風の拳で殴り飛ばされた。


「お嬢様、ご無事でしょうか」

「うん、お疲れさま。あとは逃げるだけね」

「はい、本来ならば向こうと学園で合流できれば良いですが、やはり金属巨人三体を相手にしながらは厄介です」


 その通りだとフェリンデールは頷いた。

 たしかに戦うことはできるのだが、こちらには決定打がない。ユーリとフランが学園長を逮捕するまで逃げ続けるのが現実的な目標だろうか。


 ロイを追っていた三体目の金属巨人がやってきた。

 先程に転倒した一体目の金属巨人が砲撃を放つ。三体目の金属巨人も合わせるかのように砲撃を放ってきた。

 ニ体の合わさった激烈な火力に、二人は肝を冷やす。


「――ッ! ロイ、私が合わせるわ!」

「承知しました!」


 魔術の真髄は思い込みであり、幻術のサポートとの相性は良い。

 フェリンデールがロイへ幻術をかける。ロイが指輪の力を最大限に解き放ち、炎の壁を出現させた。

 猛烈な炎の壁であるが、ロイはフェリンデールの幻術によって 実物よりも超大な炎の壁を作り上げた光景が見えている。ロイは超大な炎の壁を作り上げている幻覚から、超大な炎の壁を作り上げていると思い込んでしまう。魔法の真髄である 思い込みの力によって威力がブーストされ、ロイが見ている幻と寸分違わぬ 炎の壁が出現した。


 砲撃と炎の壁が衝突する。

 激しい衝撃により、ロイとフェリンデールは二人とも吹き飛ばされてしまった。


 フェリンデールは横回転に飛ばされて、地べたを何度も転がり、うつぶせになった。

 フェリンデールが立ち上がろうと地に手をつく。すると、大きな影が降ってきた。


 咄嗟にフェリンデールが見上げると、金属巨人が腕を振り上げてきていた。

 即座に硬貨に幻術を用いて大きな盾を作るが、叩き割られる。今度は金属巨人へぶつけるよう投げつけるが、いとも簡単に払われた。


「いま、参ります!」


 ロイが風を巻き込みながら金属巨人へ飛翔し、フェリンデールを庇うように割り込んだ。風の拳のアッパーを叩きつけ、金属巨人がよろけたところで、全力で吹き飛ばした。


 しかし相手にしているのは一体だけではない。ニ体の金属巨人が、二人へ腕を振り上げていた。


「しまった……ッ!」


 ロイは魔術を使うことができなかった。なぜならば、先程に風の魔法を放ったばかりなので、空間にある風のマナが枯渇している。炎のマナも幻術でブーストしながら使ったため、今は心もとない程度にしか大気にマナが浮遊していない。


 振りあげられるニ体の金属巨人の剛腕に、フェリンデールとロイは身構えた。


 しかし、予想は大きく裏切られた。ニ体の金属巨人は腕をあげたままピタリと止まっていた。


 ―― まるで、糸で吊りあげられたかのように。




「ずいぶんと懐かしいのが歩いてるね。10年ぶりなのかな、このロボットも、フェリンデールちゃんとも」


 落ち着きのある艶やかな声が静かに響いた。

 肩までのさらりとした黒髪の女性が、正門の頂上から見下ろしていた。彼女を護るように武器を持った人形達が控えている。

 フェリンデールは遠目からでも、その人形達から発せられるただならぬ空気に鳥肌を立たせた。

 フェリンデールは本格的に戦争に臨んだことは無かったが、いわゆる戦いの素人でも分かるほどに、次元の違う圧倒的な存在であることを肌で感じ取れた。女性と人形の歴然とした風貌ふうぼうに、フェリンデールは その存在を本能的な直感で理解した。


 『あの人』が優雅に ゆっくりとこちらを見下ろしている。


「連絡をくれて、ありがとう。なんとか間に合ったね」


 さっきまでの緊張感が吹き飛ぶような、優しい笑顔を咲かせた。

 その笑顔からは想像できない戦歴をフェリンデールは知っている。


 彼女こそは、10年前に起こった帝国の存続をかけた戦争を、たった一人で鎮圧した調停者。

 彼女こそは、生きる伝説として歴史に記されている者。


「それにしても、やっぱりこうなったんだ。ここまでムキになるなんて、過去に戻るのを知ってる奴の仕業なのかもね。でも、いいよ。わたしは王道が大好きだから。未来を掴むために大切な仲間と一緒に戦うんだよね。そして、その大切な仲間の危機に、サプライズな助っ人が駆けつけるのもいいよね。しかも、助けてくれたのが、いままでの出会いだったりとか、色々なモノの総登場がお約束だよね」


 突如、ドンドンと叩くような音が破られた。帝国中ていこくじゅうの扉が、窓が、一斉に開けっぱなされたのだ。

 すると、家々から ぞろぞろと人形達が湧いて出てきた。


 様々な人形達が雪崩のようにわらわらと集まってくる。

 最初に目についたのは、凛とした鎧をまとった騎士の人形と、明るいオレンジ色のファンシーなドラゴンのぬいぐるみだ。鎧をきっちりと着こんだ騎士の人形が、ドラゴンの背にまたがった。ジャンノルが違うせいか、どこか似合わない。それもそのはずで、演劇では敵対している役だからだ。畏敬の組み合わせが手を組んだかのように凛と構えている。その数も一組ではない。皆に配れるよう作られたため、数十騎も列を組んで並んでいる。

 他にも愛らしい熊のぬいぐるみに、猟師のような銃を持った人形。長い髪が綺麗な人形が気取ったように歩いている。鑑賞用の人形だろうか。


 用途も姿も様々な人形達。その数は倍々に増えて続けていき、数えることが馬鹿らしく思えるほどの大群へと成長し続けていく。


 元は愛らしい人形達ではあるが、まるで 見るまに大きくなる津波を目の前で見ているような圧巻される光景は畏怖すら覚える。それも一カ所や二カ所ではなく、見える道の全てが人形で埋め尽くされ、続々と人形の群れが露天市場めがけて集まってきている。


 この人形達の多くは、あの人の弟子である ひとりの人形師によって生み出されていった物(者)たちだ。帝国学園に入学してから今日までに その人形師が作り続けてきた人形やぬいぐるみ達と、その家から連れてきた他の仲間たちである。


 この場にいれば、人形達の瞳には熱く煮えたぎる意志を容易に感じとれることができる。

 それぞれの人形には当然に持ち主がいる。つまり、人形達にとってこの戦いは、持ち主が危機に晒されている戦いなのである。


 人形達は自分を愛してくれた持ち主を守るために、持ち主の未来を掴むために、すすんで身を呈して戦いに臨むことを決意した。帝国中の全ての人形達が、今ここに集結しているのだ。


「私たちの大切な未来を、よくも失くそうとしたね……」


 義姉が小さく呟く。それは彼女自身の言葉でありながら、一方で声を出せない人形達の心の代弁でもあった。

 小さく呟いた義姉の声をフェリンデールとロイには距離のせいで聞きとれなかったが、離れているにも関わらず ぞっとする雰囲気は感じ取れた。


 その姿を一度見た者ならば、絶対に忘れられるはずはない。二人は息を呑んだ。

 百万人部隊の守護者が君臨したのだから。




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