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分岐点の哲学

 月の光に濡れたカーテン。ぽつぽつと透けた星光のシルエットを浮かびあがらせている。

 僕はベッドから頭を出している。胸元からすぅすぅと寝息がして、服にしがみつくように掴まれていてちょっと動きにくい。ココの治療はしたけれども、治ったわけではないから当分はこのままなのかもしれない。

 なんとなく寝付けなくて、少し離れた場所で仕事をしている義姉の様子をぼぅっと眺める。義姉はカンテラに照らされて、ぬいぐるみ人形を黙々と作っていた。


「そんなに人形を作って、どうするの?」

「たぶん近いうちに必要になると思うから。多いに越したことはないし」


 大きな注文でもあるのだろうか。でも、注文票を見せてもらったけれども、特別に大きな仕事も入って無かったはず。匿名な依頼だろうか。


「ところでさ、時々に眼鏡をかけるよね」

「眼鏡じゃないの。薄暗くても良く見える魔装品アーティファクトだもん。夜中専用だよ」

「なんだ。目が悪くなったかと思った」


 僕はおどけたように言うと、義姉が返事を考えるように黙った。

 なにか気になったのだろうか。そんな真剣に答えてもらおうなんて思って無かったのに。


「夢をたくさん直視しすぎてね。眩しすぎて、見すぎて、目が悪くなったかも」


 もしかして冗談だろうか。


「うわっ、ださいこと言った」

「ださくて良いの。だって大人なんだからね」

「そんな大人になりたくないな」

「それはそうだね。だから、これはマネしちゃいけない大人の見本だよ」


 義姉が静かに言う。


「10代って規範に縛られてばっかりで自由がない。何よりも、規範に守られているのをいつの間にか忘れている。そして、20代だと社会に出たての半人前でダメダメだもん。大人になるってけっこう難しいものなのかもね」


 なんか嫌な大人像だ。もっとこう、底ぬけに明るいような、なんとなく明日こそ何かが変わるんじゃないかなんて無性にわくわくしているような展望がいいのに。だから嫌な大人の見本なのだろうか。

 僕は義姉に問いかける。


「ちなみに、どんな大人になりたかったの?」

「もうなったからいいや」

「どういうこと?」

「称えられそうなことは何でもやったよ。でも、どんな良いことでも、どの賛美もみんな一緒に聞こえてね。なんだか退屈になったの」


 さらりと爆弾発言された。そういえば、いろいろと武勇伝があったのを思い出した。


 ふと気になった。義姉に目指しているものが無くなったなら、何のために生きているのだろうか。

 目標があるからこそ明日も頑張ろうって思える。だから、明日が待ち遠しくて、朝起きたら今日も頑張ろうと思えるんだ。目標が無くなってしまったらどうして生きていられるのだろう。


「じゃあ目標とか全部を達成したのにさ、言い方が悪いかもしれないけれどもなんで生きてるの?」

「どうしても作りたい人形があってね。いまはそれを作るために頑張ってる」

「すぐに作れないの?」

「モデルの成長に合わせてるから」


 僕をじっと見つめてきた。僕かよ。


「この世界では、けっこう好きなことやってきたよ。力があったからね。私の欲しいものは全部手に入った。つまり、私の自身の幸せはこれで完璧。だから、今度は私の周りの人を、大好きな人を幸せにしたいの。私が幸せでみんなも幸せなら、それこそ究極の幸せでしょ。だから、幸せの形を人形に込めて表現してみたいと思うんだ」

「モデルが言うのも変だけれどもさ、作るほどのものなの?」

「特に意味はないの。あえて言葉にするなら、芸術家肌って言った方が分かりやすいのかな。現状に満足しているから、あとはみんなの幸せを主張する手伝いをしたいだけ。主張する手段として人形を使っているにすぎないの」

「幸せを主張したいって、モデルの俺が不幸な人みたいだけれども」

「ちょっと違うかな。もっと幸せになれるよ、ってことだもの。私が帝国で生活していたなら、小説でも書いていたかもね。それで無料で配ったり公開するとか。あそこって紙は安いんでしょ?」

「そこまで安くないけれども」

「じゃあ音楽にしようかな。うたでも歌ってね」


 義姉がおしゃべりをしながらぬいぐるみ人形へ針を通していく。ただの人型だったモノが、義姉の手によって命が吹きこまれていくようにいろどられていった。


「なんで、作るのが俺なの? 主張するだけならかわいい動物とか、選択肢はいろいろあるよね」

「モデルのありのままの形がいいから……」


 義姉がぬいぐるみ人形を縫う手を止めた。


「人形という目に見える形にしようとするとね、分からない部分は作ることができないの。頭では理解しているつもりでも、本当は分かっていないことってあると思う」


 ぬいぐるみ人形を愛おしそうにそっと撫でる。


「例えば誰かに何かを説明したい時、理解しているつもりでも言葉にして説明しようとすると、なかなかできないってことあるでしょ。それって、本当は理解してない部分ということなんじゃないのかなってね。その時、はじめて分からない部分があったんだなと気付くことができる。だから私は人形を作り続けている。何度も何度も、私自身が本当に伝えたいことは何かなって問いかけていくの」


 再び針を通しはじめる。人形へ針を通すたびに、義姉が人形に語りかけているように見えた。


「でも、まだまだ。だって、人形に気持ちを映しながら作っても、できそこないしかできないもの」


 ぽつりと切なげに暗い声で義姉がつぶやいた。


「やっぱり、時間が足りないのかな……」



 ◇◇◇



 快晴の青空。今日も太陽が眩しく輝いている。シロツメグサの花が草原を飾り、木々は新緑に色づいている。


 僕とココは、家の裏にある倉庫をあさっている。

 発端ほったんは義姉が空車くうしゃの存在を思い出したことだ。我が家の倉庫には空車がある。空車とは風船のような柔らかさの円盤の椅子でふわふわと浮くことができる乗りものだ。もっとも、空車とは僕たちが勝手に名付けたもので、本当の名前は知らない。ずっと昔に僕が境界術の練習をした時に、勝手に落ちてきたものだからだ。稼働させるとモーター音が聞こえるから、きっとメタル属性関係の世界線を開いたと思う。

 僕が唱えたからか燃料は僕の魔力らしく、燃料切れだから補給してほしいと頼まれたのだ。



 ココと一緒に、物置から一個ずつ物を出していく。空車がなかなか見つからなくて、探すがてらに物置を整理することにしたからだ。


 それにしても昨夜、義姉が寂しげに呟いたのが気になる。

 時間が足りないと言っていたけれども、何に対して言っていたのだろうか。どうしても気になってしまう。なんとなくだけれども、とてつもなく重たそうな内容に感じられた。

 考えにふけていると、くいっと左袖ひだりそでが引っ張られた。


「これ?」

「そうそう、これ。ココ、見つけてくれてありがとう」


 ココが空車を見つけてくれた。座る部分が黒くて側面が金属質な灰色の円盤が、今はぺたんこにしぼんでいる。本当に風船みたいなしぼみ方だ。


 僕が触れると、空車がぴくりと反応した。魔力を送ると空車が燐光につつまれる。淡い光の飛沫しぶきが空車に吸引されていった。

 空車がぽふりと音をたてて膨らんだ。


「よし、終わった」

「どうするの?」

「移動するときに便利なんだよ。どうせだから、乗って遊んでみる?」

「でも……」

「充電は簡単だからだいじょうぶ。ともすれば、今日ずっと乗り続けても平気だし。ちゃんと数えた事はないけれども、稼働時間は五日くらい乗り続けても平気だと思う」


 一回充電するとかなり起動できる機械だ。稼働時間を調べようしたけれども四日目を越えたところで数えるのを止めた。たぶん、自動車のバッテリーと同じで、走っても充電される仕組みなのかもしれない。


 僕は、ぽむぽむとふくらんだ空車を叩く。すると、モーターが回転する音と共に、空車からつむじを巻いた風が噴出した。

 空車が浮上する。


「ほら、どうぞ」

「うん」


 ココが空車に乗ると、噴出していた風が穏やかになった。人間の重さを感知して、送風量が変わっているらしい。

 僕の腰のあたりの高さで空車がふよふよと浮いている。僕がそっとココの背中を押すと、空車が動き出した。ココが小さく声をあげる。


「体重を傾けると曲がれるよ」


 空車が、そよ風に揺れるようふわふわと流れた。ココが目を丸くして操縦そうじゅうをしている。


「わっ、おぉ……」


 名前の所以ゆえんは、くうに乗ることができるからだ。

 ココが楽しそうに声を上げながら操作をしている。形は違うけれども、スケートの楽しさと同じかもしれない。ココがふわふわした浮遊感を楽しみながら空中を滑っている。


「じゃあ、ちょっと休憩にしようかな」


『それでは代わりに私たちが続きをしましょう。奥の小物を出してきましょうか。体が小さいですので』

『獅子奮迅の如くお手伝いをするの』

『がんばるから。まかせて』


 ハツラツとした人形達の中で、ポプラだけ返事をしていない。人形達の視線がポプラに集まる。


『……じゃあ、手伝う。服が汚れナイのが良い。洗うのが面倒ダカラ』

「そういえば宝石箱も欲しいって言ってたな。奥にからの宝石箱があると思うから探索してきて」

『ハナシを聞いてナイし!』


 というかポプラ。そもそも服を洗うのは僕だろ。


 続きは人形達に任せて、僕は草っぱらに腰をおろして景色を眺めた。

 草原の絨毯じゅうたんの上を風がかけていく。芽吹く草木が風に撫でられてさざ波のように揺れた。穏かな風景の中で、ココが楽しそうに遊んでいる。


 そういえば、こうしてゆっくりしている時間なんてなかったな。ココと遊んだ記憶も少ない気がする。

 ココを引き取った時は、野外実習の準備があって模擬戦争もあった。やっと村に着いたと思ったら、ドラゴンの村の一件と、離ればなれになったアルフ。そもそも、アルフは何がしたかったのだろうか。今までが必死すぎて、考える暇すらなかった。


「アルフは、あのあとはどうなったんだろう……」


 アルフは帝国兵が近くにいるのに逃げるそぶりを見せなかった。アルフは、帝国兵がアルフを敵視してないことを確信していたのではないだろうか。そもそも、アルフが連絡したにもかかわらず、僕達へ捕縛命令が出されたのはどうしてだろう。


「あれ? ちょっとおかしいぞ……」


 疑問がわいてきた。帝国兵が一日遅れで到着したのはどうしてだろうか。

 僕達が帝国からドラゴンの村に着くには一週間かかった。逆に言えばアルフがハプニングの報告をした次の日に帝国兵が到着できるなんて、時間のつじつまが合わない。つまり、アルフが連絡したなら時間の都合がおかしくなるというわけだ。本当にアルフが連絡してあのような事態になったのだろうか。すでに連絡をしていると言っていたのは、実は嘘だったのではないだろうか。なんのために。


「ちょっと待て。本格的に思い出さないといけないことじゃないのか、これ。あと不思議に思うのは……。あえて言うなら落下地点のことか」


 僕がドラゴンの背から落ちる時に、アルフが待ち構えていた。高速で縦横無尽に飛んでいたドラゴンに追いついていたなんて、ちょっと無理がありそうだ。アルフはどうして僕が落ちる場所にかけつけられただろうか。


「運命を知っていたとか?」


 それはないか。呟いた言葉をその場で否定した。

 もっと真剣に思いだしてみる。アルフが村に着いた時、ドラゴンの事件が起こった夜、ドラゴンを倒した時のこと。


「何を言っていたかなあ。人形に魔力を通してから寝ろ。俺を信じて一緒に来い」


 何日も前のことだから記憶が曖昧だけれども、いま思い返してみれば全部が的を得ている内容だった気がしてきた。


「あとは、便宜上は未来だとかなんとか」


 思い返すと明らかにおかしい言い回しばかりだ。あんなにアルフからのアピールがあったのに、僕はなに一つも気付いていなかった。


 もしかして、アルフもハプニングに巻き込まれた側だったのではないだろうか。僕達のチームだけでなくて、なにか別の大きなつながりがあって、板挟みになっていたのではないだろうか。大きなつながりなんて、心当たりはないけれども、今日までの矛盾を考えるとアルフの行動が明らかにおかしい。


 今さらながら、アルフのことを全く考えていなかったことにやっと気がつけた。アルフのことを全く知らないことにやっと気がつけた。


 ラーメンが好きだとか、足が速いとか、風の魔法しか使いたがらないとかどうでもいいことは知っている。そんなのは外から見れば誰でも分かることなのに、僕はそれだけで満足をしていてアルフの心の内については全く知ろうとしていなかったのではないだろうか。


 僕の心がくらりと揺れた。震えそうになった手を握って、震えを握りつぶす。

 仲が良いだなんて、いつから錯覚していたんだろう。肝心な時にアルフのことを知らないなんて、友達と呼べるのだろうか。僕は自分の馬鹿さ加減に絶望した。


 あれはアルフなりのメッセージだったのではないだろうか。ならば、どうして僕は気付けなかったんだろうか。それとも、僕に力がなかったから、アルフは僕のことを頼りにしてくれなくて一人で抱えてしまったのだろうか。


 僕がもっと優しくて思いやりのある人間だったなら、アルフの心に気がつけたのだろうか。

 僕がもっと強い人間だったなら、アルフがこんなことになる前に頼ってくれたのではないだろうか。


 目の奥が熱くなってきた。喉がひくりと痙攣けいれんしはじめる。

 ああ、なんだよもう。男なのに泣きそうになるなんてカッコ悪い。僕の目指していた大人はそんなのじゃない。


 でも、僕は自分の無力さに泣きそうになった。まったく、無い物ねだりをするなんて子どもみたいで情けない。僕はどうして早く大人になれないのだろうか。やり場のない悲しみに襲われる。



 突如、背後から重たい衝撃が飛んできた。肺が圧迫されて空気が強引に絞り出される。

 座っていた状態だったのに、うつぶせ状態に突き飛ばされた。地面に頭をぶつけて突っ伏したところに、さらに背中へ何者かがのしかかってきた。


「ぐぎゃっ――!」

「あっ……」


 背後からのしかかってきた奴が、申し訳なさそうに小さく声をかけてきた。


「だいじょうぶ?」


 だいじょばない。でも、そう言ったらココが泣きそうな顔をしそうだな。そんなの嫌だし虚勢を張ることにする。


「ああ……。大丈夫……」


 おでこがジンジンとする。擦りむいたかもしれない。

 ココが切なげな声で、背中からぎゅっと僕を抱きしめてきた。


「真っ暗な心が見えたから。泣かないで……」


 もっとぎゅっと強く抱きしめられる。

 か細くて、あまり強くない力加減。それなのに、ふりほどけない重たさがあった。


「なんで飛び込んできた?」

「止まり方、分からない」


 たしかに教えていなかった。これは僕の自業自得なのかな。


「……はあ。なんだろう、もう」


 ココにまで心配されている。僕なりに、周囲に迷惑をかけないで立派に生きてこようとしてきたのに、なんてざまなんだろうか。

 情けないはずなのに、さっきまで泣きそうだったのに、心の芯がほっと暖かくなってきた。


「ココ。心配してくれて、ありがとうな」


 心配してくれる人がいるのはとても幸せなことだ。僕はうつぶせの状態から後ろに手をまわしてココを抱きしめる。ちょうどおんぶをするような手の回し方だ。きゅぅっとぬくもりが抱きしめ返してきた。


 風にたなびく草木のさざめき。のんきな青空。いまここにある幸せを、初めて実感できた気がした。

 よし、終わった事はしかたがない。いつまでもいじけて、このぬくもりまで手放すなんてことはしちゃいけないから。

 アルフのことなんてさっさと忘れて、今日まで会ったことなんて思い出として笑ってしまえるように頑張っていこう。いや、そんなにすぐに割り切れないだろうな。でも、時間はかかるだろうけれども、心が痛いからこそ振り切らないといけないんだ。


 うん、ここでずっと過ごすのも悪くないかもしれない。

 僕をぎゅっと抱きしめてくれる愛おしいぬくもりを感じながらそう思った。


 今度はご飯でも丁寧に作ろうかな。アルフしか食べさせる相手がいなかったから、手抜きばっかりだったんだよな。義姉も上手になっていたから僕も頑張らないと。


「なあ、ココ。今日はなに食べたい?」

「ニンジンの甘煮がいい」


 昨日と今朝に食べただろ。


「じゃあ、他にはどんなのが好き?」


 ココが小さく唸りながら考えている。背中越しだけれども、可愛らしく小首をかしげて、いっしょうけんめいに考えている様子が想像できた。


 ふと、背中に乗っているココがよじのぼってきて、僕の肩の方へ抱きついてきた。後頭部に顔を擦り寄せてくる触感がする。


「コレが好き」


 好きというか、僕が訊いたのとは違う方の好きだった。


「訊き方が悪かった。逆に訊くけど、嫌いなのある?」

「う~ん」


 ココが少しだけ考えてから、すぐに答えた。


「服が嫌い」


 え?


「ぎゅってしてもへだたりがあるから。でも、シャツは匂いが良くてあった方が……」


 ごめん。そっちの方は意味が分からない。きっとココが話しているのは、僕の知らない言語なのかな。


「匂いって……。そういえば、ココがシャツに巻かれて倒れてた時があったなあ……」

「堪能してたら息ができなくて、死にかけた」


 そんな死因やめてくれ。人類で初めて規模の死亡例だ。


「シャツで思い出したけれども、一枚なくなったんだよな。ボタンに魔除けが刻印されてるから高いんだけどさ。やっぱり干してる時に、誰かに盗まれたかなあ。見る人から見れば分かるだろうし」

「そ、そうですね」


 なんで急に丁寧語になったんだ。微妙に口調も震えていたし。

 まあいいや。とにかく話を元に戻す。


「ニンジンの甘煮以外に食べたいのある?」


 またココが考える。でも、ピンとこないように悩んだ。


「分からない。あまり料理を知らないから」

「そっか。話が変わるけれども、欲しいのってある?」

「欲しいの?」

「そう。たぶん長くここで生活するからさ、何か必要なのを買いに行こうかなって」

「それなら……。なわがほしい。しばって」


 僕の中で何かが凍った。

 次にむちが欲しい、ロウソクが欲しいとか言わないよね。そうだよね。


「ずっと一緒にいたいから。ずっと繋いで、離れないように」


 僕の手首を、小さい手がきゅっと遠慮ぎみに握ってきた。


「一緒に結ばれたら、手をつないでなくても、一緒」

「ああ、そういうことか。安心した」

「安心? 縄を、買うの?」


 それは別の問題だ。


「買わない」

「聞いてきたのに。答えたのに……」


 珍しく文句を言ってきた。けっこう思うところがあったらしい。

 消え入りそうな反抗の声に、罪悪感が込みあげてきた。


「まあ、善処ぜんしょはする」

「うん。まんぞく」


 とりあえず満足してもらった。どう善処すればいいか分からないけれども。



 当初の目的だった空車くうしゃが見つかったので、僕達は簡単に物置を片付けてから買い物へ出かけた。

 人混みの中を通ろうとすると、ココの足が立ち止まりかけた。そういえば、人見知りがあったんだよな。じゃあ、人混みを避けるような道を選んで行こう。


 この場所は、村のような村じゃないような場所だから、小道がいくつもあって迷いやすい。でも裏を返せば、小道を知っていれば近道や、人がいない道を選べるということだ。


 少し歩くと静かな通りに出た。店が並んでいるけれども、どこか活気がなくて静寂さが空間を支配している。

 たしか、この通りには喫茶店があったはず。静かで落ち着ける場所だからとかよっていたけれども、義姉に危険な場所だからと止められたことがあったっけ。


 いま思うと不自然な場所に建っている喫茶店だ。この場所に喫茶店があるということは、定期的にかよう人達がいるということ。もとい、人がいて欲しくない場所を選ぶということは、本来はそういう話をする場所なんだろう。


 歩いているとあの時の喫茶店が見えてきた。まだ店をやっている事に懐かしい気持ちが込み上げてきた。チラリと眺めてみると誰か来ているのが分かった。

 ココがきゅっと袖を引っ張ってくる。


「あそこ、いる」

「ココ、危ない人かもしれないから。じろじろ見すぎないように」

「でも、いるのが……」


 ココがどうにも引かないので、ちょっとだけ覗いてみる。

 ふと、アルフと義姉らしき背中を見つけた。二人がちょうど店から出てきた。


「……アルフ」


 心のが思わず漏れた。振り切ろうとしたばかりだったのに。

 二人の背中に、僕の足取りは引かれていくようについていった。





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