玖 「死にたくない。死にたくない。死にたくねぇよ」
金曜日。
なんとか最後の力を振り絞って、僕と琥珀君は犯人と対峙していた。
「刑事ドラマ風にキメるつもりはないんで、単刀直入に言うぜ」
犯人はドキッとしたに違いない。ほとんど要件だもん。
「お前だろ? 小鳥遊天を呪った奴は」
琥珀君は指で犯人を指す。
「何を言ってるんだ?」
小倉翼の声は震えていた。
「証拠だけ、見せるよ。僕には時間がないからね」
僕は翼に財布を投げる。
「どこにあったんだよ?」
「病院。忘れて行ったのを覚えていたんだ」
「あの時は、お前の症状を見て、ビビってたからな」
保健室の時も、そうだったんだろう。
「お前と瞳のプリクラを見ちまった時、気が付いたら抜いてた。プリクラを捨てた後、誰かに見つかったらって思ったら、怖くて捨てられなかった」
やや長い沈黙。そして、決断。
「呪い返しのこと、図書館で話したよね?」
「おい、まさか。俺を殺すのかよ?」
「先に小鳥遊を殺そうとしたのは、テメェだろ」
琥珀君が翼の胸倉を掴む。
「そんな、死ぬなんて思ってなかったんだ。だって呪いだぜ?」
その弁明は予想内。
「そもそも、天が、俺に怪我させて……瞳も!」
それも予想内だ。
クラスの女子に聞いた話だけど、翼はずっと、あいつに片思いだったらしい。僕が憎くて憎くて仕方がないだろうな。
「悪いのは田所だ! 俺にこれを教えたのは、田所なんだ」
「関係ねぇよ」
僕は動揺した。琥珀君は一蹴した。翼は泣き始めた。
それを僕は、いい気持ちで見ることができなかった。
「死にたくない。死にたくない。死にたくねぇよ」
支離滅裂な言い訳と訴え。だが、内容は全て理解できた。
瞳のことも含めて、全て、予想内の動機。
田所のことを除いて、全て、予想内の嘆き。
なぜか心が揺れる。
なぜか、心が揺れてしまう。
どうしようもなく、同情する。
胸が張り裂けそうに痛い。
「犯人の確認は終わったぜ。コイツには悪いが、帰るぞ」
「待ってくれないかな?」
僕は、琥珀君の返事を待たずに、翼のそばにしゃがむ。
「お前は死なせない。瞳をよろしくね」
「お前、今、なんて?」
僕に、その問いは届いてなかった。