肆 「うっせ。黙って呪われてろ」
火曜日。
僕は市内の神社の前に、さっきのお医者さんこと、真先生と一緒にいた。
そして、絶望的な長い階段を見上げて、僕は弱々しく笑っていた。一応病人である僕は、こんなことをしていいのだろうか?
聞いた話によると、この石製の階段は百八段もあるらしい。おおよそ一階から七階へ一気に行くぐらいの長さだろうか? 考えた人の頭を疑う。作った人の頭も疑う。
「さぁ、行こうか♪」
昨日の神妙な顔は、この笑顔を堪えたからだったらしい。
美人のナースに聞いたところ、真先生はオカルトが大好きらしい。医者なのにというのは偏見だろうか?
「ここにいる凍空さんという方がここにいるのだが、この人の息子さんが、すごい人でね~♪」
階段を一段飛ばしで上りながら、楽しそうに語る真先生。対照的に僕はだんだん気分が悪くなってきた。確かに呪いと言われれば、そうかも知れない気がしてきた。つまり、半信半疑。
しばらくもしないうちに、僕は真先生の肩を借りる羽目になった。なかなかどうして、僕も弱くなったものだ。
永遠に続くかと思われた階段だったが、百八段しか続かなかった。いや、百八段も続いていた。とはいえ、なんとか冷や汗で汗だくになりながら、上りきった。帰りは、楽であってほしい。
「大丈夫かい♪ 最近の若い子は体力がないね♪」
「すみませんです」
真先生のハイテンションに圧倒されながら、なんとか僕は返事した。今どきの若者さん、ごめんなさい。代わりに謝ります。
「凍空さん♪ 凍空さんはいませんか♪」
疑問符すら音譜かよ!
さすがに、真先生の大声が聞こえたのか、箒を持った中年の神主が穏やかな表情を浮かべて、歩いてきた。
「斎蓮先生ですか? 久しぶりですね」
神主の声は、とても心が落ち着くような声だった。
斎蓮というのは真先生の名字。フルネームで斎蓮真。
「凍空さん♪ 琥珀君はいらっしゃいますか♪」
「琥珀ならおりますが、すると、また呪いですか」
「はい♪ この子が呪われているのですよ♪」
真先生は嬉しそうに言った。僕は真先生に嫌われている気がしてきた。
「琥珀に見てもらいましょう。ついて来てください」
僕らは神社の裏にある凍空さんの自宅に案内された。屋敷と言ってもいいぐらい大きな、和風の一軒家だった。
中は広かった。凍空さんが僕を気遣ってゆっくり歩いてくれたから、そう錯覚したのかも知れないけれど。これが凍空さんと真先生の違いだ。
凍空さんは何も言わずに、部屋の前で立ち止った。
「琥珀。見てほしい子がいるんだ」
「うっせ。黙って呪われてろ」
沈黙。
嘘だろ? 僕ら誰に頼ろうとしてたの? 彼じゃないよね?
声は若かった。たぶん、僕と同い年。問題はそこじゃない! 今のは神社に住んでいる人間のいう台詞なのか?
「いつもの場所で待っているよ。それじゃ行きましょう」
「えっと、会話が成立していませんでしたけど」
僕は控えめにそういった。かなり控えたぞ?
「いつもああだからね。それに世話焼きだから、きっと来るよ」
僕は、ゆっくりと頷いた。