参 「そうですね」
「二章が短い」
「急に喋るなよ! びっくりするから!」
どうやら、シチュエーションは二章と同じみたいだ。
翼が僕の見舞いで、僕は見舞われている。ただ、場所は保健室じゃない。もっとしっかりした場所だった。
「急に倒れるからびっくりしたぞ。そんで、急に起きられてびっくりしたぞ。それよりも、お前、頭大丈夫か?」
「勉強は君よりできる」
「急に倒れただろ? そっちだよ」
頭痛がしてたのに帰ろうとしたから、また倒れたのか。
そんな馬鹿な。さすがに倒れはしないだろ!
「お前、サッカーボールで頭を強打したの覚えてないんだな?」
「そっちか」
「どっちだよ」
「いやいや、待て待て待て」
「待ってるぞ?」
「サッカーボールに頭をぶつけたんだよな」
「ニュアンスは変だけどな」
「それで、病院?」
そう。ここは病院。名前まではわからないけど、間違いなく病院の病室である。
「お前、いつからそんなに貧弱になったんだ?」
「僕もわからない。陸上部の一員として、普通に体育会系だと思っていたんだけどね」
こんな僕と翼の中身のない会話は、神妙な顔のお医者さんの登場で打ち切りとなった。
「気分はどうだい?」
「悪いです。ガンですか」
「いや、違うよ」
神妙な顔をしているから、ガンかと思ったのだけど、どうやらそうじゃないようだ。
お医者さんは驚いたような顔をしているけど、ま、構わない。
お医者さんは再び神妙な顔に戻って、翼に向かう。
「小鳥遊君と二人で、話をさせてもらえるかな?」
「あ、わかりました。じゃあな、また明日」
「じゃあな」
短い挨拶を交わすと、翼は真っ白い部屋から出ていった。
急いでいたみたいだ。あいつ、財布を置いて行った。
完全に翼がいなくなると、お医者さんは神妙な顔で僕に質問を始めた。
「君には失神の癖はないかな?」
「ないです」
「虚弱体質かな」
「違います」
「以前に似たような経験は?」
「今日のお昼頃に一度だけ」
「今日のお昼頃に?」
「はい」
それだけ聞くと、しばらく、お医者さんは神妙な顔でブツブツと呟き始めた。
そして考えがまとまったのか、確認するように切り出した。
「サッカーボールが当たっただけで、気絶して病院だなんて、変だね」
「そうですね」
「これは、不思議だね」
「そうですね」
「まるで、魔法だね」
「そうですね」
「オカルトチックな症状だね」
「そうですね」
「まったく科学的じゃない」
「そうですね」
これでは、完全に、平日のお昼の某テレビ番組だ。
僕が一通り肯定すると、お医者さんは、嬉しそうに顔をほころばせてこう言った。
「きっと呪いだね」
いや、違うでしょ。僕はその言葉を口にできなかった。
だってあまりにも嬉しそうに笑うから、否定してはいけないような気がしたのだ。