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第2話 副会長にご就任!

 近ごろ香歩(かほ)は実に精力的に働いていた。


 親から申し渡されている、日本残留条件の好成績維持を筆頭に、生徒会の仕事にも意欲的に取り組んでいる。

 中でももっとも力が入っているのがブログの更新で、それはもう新ブログの女王もかくやという勢いでの更新なのであった。

 内容は主に妄想。具体的には生徒会メンバーを主人公にしたBLSS。


 それはもう、生徒会の仕事に意欲的にもなる訳である――ネタ探しのためだ――。


 例えば。


「今度の梅華祭(ばいかさい)のことですけど、企画申請締切が昨日でした。集計した所、いくつか企画被っている団体がありましたので、明日の昼休みに各団体の代表を集めようと思いますが、どなたかお願いします」

 議題の用紙を見ながら、直樹(なおき)がすらすらと言う。


「じゃあオレが議長やるよ。(ゆずる)と直樹が立ち会いで良いか?」

 間髪入れずに(すばる)がまとめる。


 ――名前呼び捨てっ! しかも息ぴったり!


「はい。昴先輩お願いします。次に梅華祭予算会議の日程ですが、来週水曜の昼休みで良いでしょうか?」

 直樹が京弥(きょうや)を見て言うのに、京弥が興味なげに頷く。


 ――名前+先輩呼びっ! アイコンタクトはやっぱり愛? それとも名前+先輩呼びへの嫉妬? あ、それ良いわ! 三角関係ねっ!


 万事この調子だったりした。


 が、萌えるのに忙しかった香歩も途中でこの会議が何か変なことに気付く。


 無口属性で、議題や会議内容をパソコンに打ち込むのに忙しい譲はともかく、京弥がまったく発言しない。

 直樹が議題を読み上げ、昴が采配するのが主で、京弥は何か決定事項がある場合首肯するのみなのである。


「――とりあえず、この辺りでしょうか?」

「うん。後は来週でも良いんじゃないかな」

弓原(ゆみはら)さんは、何か疑問とか質問とかありますか?」

 直樹が問う。


「弓原先生と紛らわしいから香歩で良いですよ」

 そう告げてから、疑問を投げ掛けた。

「無口な高遠(たかとお)先輩は分かるんですけど、何で秋本(あきもと)先輩は会議に参加しないんですか?」


 直球ストレート。

 無口とか言われて、譲が密かにショックを受けていたが、事実なだけに本人含め誰も何も言えない。


「京弥は、心が狭いから男とは話したくないんだって」

 さらっと昴が説明する。さり気なく悪口だった。


「それは本当に心が狭いですねぇ」

「……先輩、くだらない嘘つかないでくれます? おまえも信じるなよ香歩」

 香歩まで同意するのに、京弥が流石に抗議の声をあげた。


「でも、秋本先輩、この間野郎の携帯番号とアドレスなんて登録したくないって言ってたじゃないですか」

「生徒会メンバーのは登録してるんだから、文句ないだろうが!」

 まぜっ返した直樹に、京弥が怒鳴る。


 ――野郎の携帯番号とアドレスなんて登録したくない→生徒会メンバーのは登録してる=生徒会メンバーは特別……つまり、生徒会メンバーが好き!

 かなり飛躍した三段論法で香歩がときめいた。


「俺はこんなくだらない会議に出るのが嫌なんだよ! どうせ決まり切ったことなんだから、勝手にやりゃいいだろうが」

「それだと、今は昴先輩がいるから良いですけど、来年以降困るじゃないですか」


 思わせぶりに直樹が微笑む。

「それに、そう思うならいつも通りサボれば良いのに、なんでそうしないんですか? もしかして――」

 言葉の先を察して京弥が憮然とした。


「もしかして、会議に出たい理由でも“いる”んですか?」

 微妙な言い回しに、香歩がぴくりと反応する。


 ――それはもしかして、秋本先輩の好きな人がこの場にいる?


 香歩の心拍数が跳ね上がる。思わずぎゅっと拳を握り締めた。


 ――誰、誰っ!? 支倉(はせくら)先輩? 高遠先輩? それともやっぱり桜田(さくらだ)くんっ!?


 見事なまでに自分は計算外。心の底からBL好き。

 それが弓原香歩だった。


    +


「一目惚れに1票」

 唐突に、昴。

 即座に意を汲んだ直樹が続く。


「僕は単にプライドが傷ついたに1票。高遠先輩はどうですか?」

「……一目惚れの方」


 室内に香歩と京弥はいない。

 京弥はなんかムカついたので。香歩はBL本新刊の発売日だったので早々に退出していた。


「1対2ですか。不利ですねぇ」

 まるでそう思っていない口調で直樹が言う。


「――どちらにせよ」

 珍しく譲が自分から発言をする。

「会長がきちんと会議に出てくれるのは助かる」


 ……一同、強く同意した。


    +


 後輩の女生徒とのデートをすっぽかし――生徒会の会議に出た段階ですっぽかしは確定だった訳だが――、京弥は街中を歩いていた。目的地は特にない。


 考えているのは先刻の生徒会の会議のこと。

 自分が声をかけても、なびくどころか動揺のひとかけらすら見せない女。それが弓原香歩の印象だった。


 気になってはいる。

 その意味で直樹の言ったことに間違いはない。


 ただし、直樹の考えているような意味ではない。


「くそっ!」

 なんか、イライラした。


 ふっと顔を横に向ける。なんということはない動作だったが、実にタイミング良く見つけてしまった。


 弓原香歩が、書店に入っていくところだった。


    +


 香歩はうきうきと書店に入り、目的のBL新刊を手にする。コーナーの位置も、手に取る本もわかっているので、動作に迷いはない。

 新刊小説とコミックスを片手ではつかめない程度積み上げ、胸に抱えて普通の小説コーナーに向かう。


 こちらは丹念にタイトルと作者をあらため、BL要素があると噂の小説を選び出す。

 一部の作家は作家買いする。あらすじなど見なくてもどうせ耽美の皮を被り、普通の小説に偽装したBL小説に決まっているからだ。

 それから、興味をひかれるタイトルや表紙の本を手にしては、あらすじを見返し、直感で購入・様子見・不購入に分ける。

 香歩の場合、この直感が外れることは滅多にない。


 名付けて、BLアンテナ!


 ついでに参考書でも見るかと柄にもなく愁傷な気持ちになり、参考書の棚に向かう。

 しかし、元をたどれば成績を気にするのは日本にいる為であり、日本にいたいのはBL本を読むためだ。突き詰めれば香歩の行動理由の大半は「BLスキー」の一言で理由がついてしまう。


「おい」

 数学の参考書を手にしかかった時、突然声をかけられた。

 思わず無防備に振り向いてしまう。


 ――秋本京弥。


 香歩は器用にも赤面と蒼白を同時にやってのけた。

 瞬時にまたもとの方を向き、抱えた本の背表紙を自分の体に押しつける。一番上にもっとも当たり障りのない小説を乗せ、抱えた手を下に下げた。

 香歩より身長の高い京弥は、これで一番上の小説の表紙しか見えない、と香歩は読んだ。


 それからゆっくり振り返る。

「きっ……きぐぅでね」


 ドモった。


 京弥にすれば、香歩の行動は予想外で、見慣れた動作だった。


 京弥が声をかけた女生徒は、瞬間自分が声をかけられた驚きに身を震わせ、緊張と興奮で蒼白になったり赤面したりする少女はよく見る。

 とっさに後ろをむいて、表情を取り繕い損ねるのも見たことがある。

 しかし京弥は、そんな反応を香歩がしたことに驚いた。


「奇遇だな」

「秋本先輩は、参考書を買いに来たんですか?」

 言ってから、香歩は失言に気付いた。今のは「秋本先輩『も』、」と言うべきところだ。


「お前は違うのか?」

 嫌なところをつっこまれて、香歩は苦し紛れに切り返す。

「秋本先輩も違うんですか?」


 単に香歩を追い掛けてきただけの京弥に、この科白は酷く効いた。


「まぁそんなところだ」

 どんなところなのかよく分からないが、曖昧にごまかし、京弥は話題転換の口実に参考書を手に取る。


「この参考書が、分かりやすいぞ」

 同じく話を反らせたかった香歩は是非もない。


「そうなんですか? そのシリーズ解答がページ下にあるんで、なんとなく嫌なんです」

「わかる! 俺もなんとなく嫌なんだ」

 共感に、思わず京弥の口元がほころぶ。


「でもこの本は試験形式だから解答は最後に――」

 続けかけて、京弥の科白が途切れる。先程の比でなく香歩の顔が真っ赤に染まったからだった。


 香歩がはっとして顔を背け、口元に手をやる。

「すみません……」

 消え入るような声で香歩が謝った。


 それから、うるんだ熱っぽい瞳で京弥を見上げる。

「秋本先輩って優しいんですね」


 京弥の方が赤くなってしまうような美少女ぶりだった。


 しかしもちろん成分の9割がBLスキーでできている香歩のこと――残り1割が水やたんぱく質などの人体の構成成分だ――。

 『もちろん』京弥が一瞬誤解したような意味で赤面したのではない。


 京弥の笑顔に思わず、という意味では発端は同じだ。しかし、笑顔を見てから赤面に至るまでの過程を京弥が推し量ることはできなかった。


 ――今のっ! 今の笑顔は、私でなく是非桜田くんに向けてほしかったっ!


 言うまでもなく、香歩の脳裏には自分に都合が良いおめでたい薔薇の花が咲き乱れていたのだ。


 ――それで、参考書を買ったふたりは、気恥ずかしさに目をそらしつつ、どちらともなく秋本先輩の自宅に向かい勉強することを言いだし、何故か折よく両親が不在で、つ……ついにふたりは……っ! きゃー!!


 この間約2秒。

 妄想と興奮で頭に血がのぼり、思わずヨダレが垂れそうになる。


 はっと気付いて慌てて顔を反らし、口元をぬぐう。

 結構危なかった。


 謝罪を述べつつ、まだ興奮と妄想覚めやらぬ顔で京弥を見つめた――というのがことの真相。

 京弥をうっとり眺めつつ、香歩の脳内では京弥や直樹があらぬことになっている。具体的には「あっ……先輩、だめっ」みたいなそんな感じ。


 香歩の脳内で、妄想の京弥がそんなことを言っても体は正直だな的なお約束科白を吐いている頃、現実(ホンモノ)の京弥は、真剣に戸惑っていた。

 告白?は丸ごとスルーの癖に、京弥を好きな女生徒のような仕草を見せる香歩。しかも今は、京弥を妙に艶っぽい視線で見つめてくる。


 こんなタイプは初めてだ。

 興味がわいた。

 あるいは子どもっぽい独占欲や支配欲なのかもしれなかったけれども――。


 これが一番最初のきっかけ。



 しかしその時香歩は、妄想をしつつも「先輩早く帰らないかな。BL本買えないじゃん」などと、いたく失礼なことを考えていたという。

 ――合掌。


    +


【鳥かごブログ】


○月□日(×)

 こんにちは。小鳥(コトリ)です。

 あぁ、もう毎日たまりません……。

 はぁう……天国です〜!


 今日はもうネタ思いつきまくりですよ!

 次の会議の日が待ち遠しい……。


 帰り際にBL本と小説購入〜。

 読み終わったら感想レビューします。


 本屋に行ったら、偶然知り合いに会ってしまいドキドキ(別の意味で/笑

 BLを知られる訳には行きませんよっ!

 本人をネタにしてるなんてバレる訳にはっ!




    +++++




【(独断と偏見に満ちた)用語?解説】


かなり飛躍した三段論法……BLスキーには必須技能。


耽美の皮を被り、普通の小説に偽装したBL小説……長野まゆみとか三浦しをんとか。大好き。


BLアンテナ……父さん妖気です!


抱えた本の背表紙を自分の体に押しつける。一番上にもっとも当たり障りのない小説を乗せ……書店ではよくやります。いや、表紙がね。最近のは表紙が特にね。


成分の9割がBLスキーでできている……腐女子はほとんどがそうだと思いますが、何か。


具体的には「あっ……先輩、だめっ」みたいなそんな感じ……京弥×直樹。

■...アトガキ...■


所謂、好きになったきっかけ編。

更新頻度激遅ですが、すみません。


次回は、香歩に仲間が出来ます(ぇ

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