表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第1話 生徒会へようこそ!

彼女にとって、この世は3種類に分けられた。


すなわち、

同性しか好きになれない男。

異性も好きになれる男。

脇役(おんな)



こういう言い方もできる。

男性には3種類しかいない。


(せめ)

(うけ)

両方(リバーシブル)



……端的に言って、彼女――弓原(ゆみはら)香歩(かほ)は、かなり重度の同性愛愛好家(ボーイズラブスキー)だった。




    +++++




「なんで私が生徒会なんかに入らなきゃいけないのよっ!」

 とは、香歩の言だが、友希乃(ゆきの)の目の前で言えないところに、如実な力関係が見える。


 彼女がいるのは、生徒会室前だった。会議は既に数分前に始まっている予定だが、香歩が遅れたのは何も望まない約束への意趣返しではない。

 基本的には、真面目で律儀な性格の彼女のこと。きっちり時間通りに行こうと思ったら迷った――要は方向音痴なのであった。しかし、それが部屋へ入りづらい状況を作り出している。


「こういう時は妄想よ! 妄想で元気を出すのよ!」

 色々間違っている。


 が、彼女に限っては有効だった。


 ――やっぱり、生徒会と言うからには、会長は小さくて童顔で天然な姫受っ! で、彼をめぐって幼なじみの爽やか青年と、手練手管にたけた百戦錬磨の両刀副会長が争うのよ!


 香歩のテンションがあがった。


 ――やっぱり必須は鬼畜攻な顧問! 2巻目くらいからは、同じく学園のアイドルの小悪魔受美少年(実は腹黒)とかも登場するのよっ!


「よしっ!」

 いきおいのまま、香歩は扉をノックして素早く開けた。


    +


 生徒会のメンバーが時間ぴったりに集まるのは珍しかった。


 普段は、先生から押しつけられた厄介事やら部活やら私事(デート)やらで、遅れたりサボったりなかなか会議が始まらないのが常だ。


 今日に限って、早々に皆が集まった理由は至極簡単。校内一の美女と名高い弓原教諭の姪であり、本人も美少女と噂の弓原香歩が、特別措置として生徒会に入る事になったからだった。

 ――興味本位ともいう。


 夏に転校してきたばかりで、未だ数日しか学校に通っていない彼女への措置は異例中の異例だったが、そうせざるをえない事情があった。


 ――人手不足。


 代々生徒に持たされる権限の大きい梅華高校の生徒会は激務で知られる。

 自由度の高さと引き替えに、学校の意向を汲む思慮深さと、忙しさにかまけて学校の勉強が疎かにならないだけの成績が求められる。

 生徒会メンバーとして立候補する際、教師の推薦が必要なのは、それを配慮してのことだ。


 ――が、近年では熱意ある若者などという過去の遺物は消え去り、もっぱら教師から白羽の矢を立てられた生徒がその任にあたっていた。

 それすらも生徒の「やる気がないので」の一言に阻まれ、今では入学したての新入生やら、受験を控えた3年生にまでお鉢が回ってくる始末。


 2学期始まってすぐの今現在、生徒会メンバーは1年1人、2年2人、3年1人の計4人――。最盛期の半数以下しかいないのであった。


 それを危惧した教師陣が狙い定めたのが、弓原香歩。

 転入試験を優秀な成績で突破し――転入試験に落ちたら海外転勤に着いていく事になっていたので、香歩が死に物狂いで頑張った結果な訳だが――人柄も弓原教諭のお墨付き。


 血縁の強みで無理矢理本人の了承をもぎ取ったのだとか。


 が。時間になっても彼女が来ない。

 さては、強制的に任命された生徒会が嫌になってのボイコットか、という考えが全員の脳裏によぎったあたりで、扉がノックされた。


「失礼します!」

 という、その涼やかな声音には不釣り合いな程元気なかけ声と共に扉が開く。


 入ってきた少女――香歩だが――を見て、全員あっけに取られた。


 デザインが可愛い事で有名な女子制服が野暮ったく見える程、整った顔立ちをしていた。


 後ろ髪を背に長く垂らし、前髪をまっすぐに切った髪は、黒。

 色の対比でより白く見える顔は、「可愛い」とか「綺麗」、というよりは「整った」というのが似合いの、今風ではないがバランスのよい容貌。

 髪型も相まって人形のようだが、そう言い切るには生気が溢れすぎている。

 グラマーとまではいかないが、スタイルも良い。制服のフレアスカートからは、すらりとした足がのぞいていた。


 これでオタクな腐女子(ふじょし)でさえなければ完璧な少女――それが弓原香歩だった。


    +


 香歩の方も、扉を開いて中を見るなりあっけに取られた。

 友希乃から、美少年揃いだぞ〜! と聞かされていたが、これ程レベルが高いとは思わなかった。


 端から順に、鬼畜攻、流され受、総受、へたれ攻、と勘で分類する。


 生徒会の面々が我に返るより、香歩が分類を終えて正気に戻る方がやや早かった。

「遅れてすみません。道に迷っちゃって……」

 言いながら、はにかむように微笑む。その脳内では妄想たくましい。


 ――鬼畜攻×総受、へたれ攻×流され受かな? いや、後者が弱いか……なら鬼畜攻×流され受、へたれ攻×総受……あ、いいかも!


「君が弓原香歩ちゃん?」

 生徒会メンバーの中で真っ先に我に返ったのは、香歩のいう所のへたれ攻――もっとも年長の支倉(はせくら) (すばる)だった。


「はい。1年の弓原香歩です。突然の事でどこまで頑張れるか分かりませんが、よろしくお願いします!」

 香歩がぺこりと頭を下げる。


 それに笑顔で応えた昴が、自己紹介する。

「オレは3年の支倉昴。前会長で――今は自称文化部長」


 にっこり笑顔のまま、香歩が器用に疑問符を飛ばした。

 ――自称?


「会長補佐とか、アドバイザーみたいなものですよ」

 と、フォローを入れたのは、香歩いわく総受。


 ――やっぱりへたれ攻×総受!

 と、至極失礼な事を考える香歩。


「僕は1年の桜田(さくらだ)直樹(なおき)。会計です。よろしくお願いしますね」

 ――敬語キャラ来たっ!

「よろしくお願いします」


 浮かぶにやにや笑いを必死に押さえながら、香歩は総受……もとい直樹の隣に座る流され受に視線をやる。


「2年高遠(たかとお) (ゆずる)。……書記」

 よろしくの一言もない無愛想さに、香歩は決してメゲない。

 ――無口朴訥系来たっ! 絶対剣道か弓道か空手か柔道やってるっ! イチオシは弓道!


 偏見だった。


「高遠先輩は剣道部の主将もやってるんですよ」

 と、直樹。偏見も案外当たるから侮れない。


 ――ニアピンかぁ……でも主将は美味しい……。


 もわもわと浮かぶ妄想にふけりかかり、慌ててそれを追い払う。


 不審に思われてはいけない。

 BLは秘すべき物。特にナマモノは本人達にバレないのが必須条件だ。


 香歩の中でスイッチが入る。

 ――こんな美味しい条件逃してなるものかっ! これは美男子が乳繰りあう(妄想)のを見るベストポジション!

 その為には、決して香歩がオタクと……ましてや腐女子とバレてはならない。

 ――そして地道に男同士の親密度を上げて、リアルカップルにっ!


 香歩の大いなる野望が歩き始めた瞬間だった。


「……それで、えっと……」

 心に熱い闘志を秘めて、香歩が最後のひとり――鬼畜攻に向き直る。


「俺は2年の秋本(あきもと)京弥(きょうや)。会長だ」

 京弥がまじまじと香歩を見る。

「おまえ、俺の女になれ」

 そして、手垢のつきまくった科白を吐いた。


 ――俺様! 俺様だこの人! やっぱ鬼畜攻じゃん!


 別の意味でひとしきりときめいた後、香歩は昴に向き直り、聞いた。


「――で、私の役職と仕事は何になるんですか?」



 告白、普通にスルー。



「………………ぶはっ!」

 妙な声をあげて、昴が吹き出した。

 見れば、譲と直樹も多かれ少なかれ肩を震わせている。


 京弥が、いまだかつて受けたことのない屈辱的な仕打ちに凍り付いていた。


 香歩は、こくりと首を傾げる。

 ――何か変なことを聞いただろうか?


 香歩にとって男はすべて同性愛者であり、恋愛の範疇外だった。

 才色兼備な香歩のこと。告白された数は数えきれないが、そのすべての告白を本気に取ったことは一度もない。

 香歩にとって告白は、世間へのカモフラージュであり、すべてのカップルは偽装カップルだった。

 だから、京弥の告白?も香歩にとっては普通にスルーする程度のことだった。


「あははは! いやいや大丈夫。香歩ちゃんみたいな子なら大歓迎だよ!」

 昴が笑いながら請け負う。


「弓原さんは副会長です――って言ってもただの雑用ですけどね」

 直樹が科白を引き継いで、そのまま副会長の仕事内容――要約すると本当に雑用だったが――を説明する。


 勧められた椅子に座り、メモを取りつつ神妙に話を聞く香歩を見ながら、京弥が低く呟く。

「弓原、香歩……」


    +


 友希乃が職員室で化学の試験の採点をしているところに、生徒会顧問の教頭がやってきた。


「弓原先生。本当に大丈夫なんですか? 姪御さんを生徒会に入れて」

「香歩なら平気でしょう」

 頭髪と同じく胃壁も薄そうな教頭に、振り仰ぎもせず友希乃が答える。


 次いで、小さく呟く。

「アレは男を恋愛対象に数えてないから」


「何か言いましたか?」

「いえ、」

 友希乃がようやく教頭の方を向いた。


「香歩は、前の生徒会役員のように秋本に惚れて捨てられて自暴自棄になったり、高遠が好きすぎて私物盗もうとしたりは絶ッ対にしませんから、ご安心ください」

 実はその辺りも、生徒会の人数が極端に足りなかったり、香歩が特別措置で副会長になった理由だった。


「でも、あの2年の女子学生の例もあるじゃないですか」

 教頭はまだ心配そうに続ける。


「そちらもご安心を。香歩は親衛隊だかにいじめられて凹むような性格でも、暴力に屈するようなタイプでもありません」

 それに、と艶然と笑んで友希乃が続ける。


「私の親戚と分かって手を出す勇気のある生徒はまだいなさそうですしね」


 ――なんか、怖かった。


    +


【鳥かごブログ】


○月×日(△)

 こんばんは。小鳥(コトリ)です。

 女王様の命令で某所へ出頭させられました。


 嫌々行ったら……天国じゃないですかっ! 腐女子の天国ですよ〜!


 あれは絶対鬼畜攻、へたれ攻、流され受、総受と見たっ!

 思わず家帰るなりSS書いちゃいましたよ〜!


 鬼畜攻×流され受っ♪ カテゴリSSをご覧下さ〜い!




    +++++




【(独断と偏見に満ちた)用語解説】


ボーイズラブ……略してBL。ホモというのは差別を含む表現なので使ってはいけない(らしい)一般的に学生〜20代程の男性カップルを主人公にした恋愛モノライトノベルを総称するが、最近はリーマンモノ、オヤジ主人公など、主人公が若いとは限らなくなり、幅が広がっている。昔は色々乙女にごまかされていたが、最近は成人男性コミック誌ばりの挿し絵や漫画が普通に売られている。JUNE系、耽美系などに同意義。個人的にはファンタジーの1つだと思っている(だってあり得ないでしょ出てくる男キャラ総同性愛好者って)


腐女子……BLを好む女子の総称。特定の年齢を越えたり、レベルアップすると貴腐人になるらしい。


JUNE……BLの古参有名雑誌。


攻……実も蓋もなく言うとヤる方。精神的にそうである場合も言う。


受……実も蓋もなく言うとヤられる方。精神的にそうである場合も言う。


両方(リバーシブル)……攻も受もOKな人。攻と受をひっくり返してもカップルが成立する場合にも言う。


●●×○○……カップリングの標準表記。先に書かれた方が攻。後に書かれる方が受。男女カップリングでも使う。英語圏では/(スラッシュ)を使用。


姫受……お姫様のよーに周囲から愛される受。かなり女性的に描かれるケースが多い。


両刀……男も女もどっちも大丈夫な人。


鬼畜攻……ドSだったり言葉責めが激しかったりの攻の人。


小悪魔受……小悪魔な性格の受。もっぱら自分の可愛さを自覚している。


腹黒……腹の中が黒い人。眼鏡だったりいつもニコニコしていたり真面目そうだと腹黒率が高い。


流され受……そっち属性じゃないけど、流されるままに受になる人。


総受……誰に対しても受になる人。


へたれ攻……甲斐性のない攻。これはこれで萌える。


脇役(おんな)……BLの世界においては女性などあってなきがごとし。


ナマモノ……実在する人物を元にしたBL。有名どころではジャ●ーズなどがあげられる。本人達に知られないのが必須条件。


SS……こちらをご利用の方にはもはや言うまでもないかもですが、ショート・ショートの略。短編の同意義。


鳥かごブログ……ヒロイン・香歩のブログ。日記兼BL小説公開場。HNは小鳥。

■...アトガキ...■


用語解説を付けたら非常に長くなりました……。


3話くらいまで書いてたのですが、あまりに冗長なので思い切って仕切り直しっ!

ついでに用語解説がついたり、気づいたらヒロインが完璧超人になったりしてますが気のせいです(ぇ

気づいたらついでに、ヒロインがただの腐女子から、オタク腐女子になってるのも気のせいです。


ちなみに、梅花高校の女子制服は、セーラータイプのワンピース(裾はフレア)。

男子制服はエ●ミン(ばーい女神異●録ペル●ナ)男子制服似という設定。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ