FATARITY CRESCENT 狂月の謀略-断章
さて、今回の短編は私狂月のオリジナル小説「FATARITY CRESCENT」の1シーンです。本編を掲載させることがあるのか?というと果てしなく不安なのですが、またいずれ書くことになると思います。頭の中ではもう8割方完成してるんですけどね。
それではどうぞ!残酷描写が苦手な方はお戻りください!
深き夜の、雨上がりの綺麗に澄んだ闇の世に、白く煌く三日月が映っていた。
そんな中、町の郊外にひっそりとたたずむ大きな倉庫がある。そこからこの静夜には不似合いなほどの騒ぎ声が聞こえていた。
――いや、叫び声。
――いや、断末魔。
そう、人間が死の淵に追いやられたときに上げる悲鳴が、絶えず聞こえていた。
背から胸にかけて刃渡り1メートル超の大剣が男を貫いていた。ズルリと剣を引き抜かれ、男は糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
まだ息のある男達に、自分の体には不釣り合いなほどの大剣を構えて向直ったのは、まだどこか幼さを残した少年だった。
「……あ、悪魔だ」
ヒタリ、ヒタリと小さな歩みで男たちに向かっていく少年。
その背後に広がる血の海には死屍累々と死体が転がっている。
そして少年自身の顔も髪も服も、禍々しい紅模様が描かれていた。
「く、くそ!死ね化け物!」
男の一人が恐怖に駆られてマシンガンを連射する。しかし、撃った先に少年の姿はなかった。
少年の口の端からくすりと嘲笑の笑みが零れた。弱者だけを相手にしてきた弱者はいったいどこまで愚かなのだろうか。自分より強いモノからは何をおいても逃げる、それが鉄則。それをしないのは自殺志願者かただの馬鹿だ。そして今、目の前にいる人間共は後者。武器を持っただけの覚悟無き弱者。
一陣の疾風となった少年が男の横を通り抜けると同時に、マシンガンを持っていた男の両腕が地に墜ちる。そしてその男が口から吐き出したものは痛みや驚愕から来た悲鳴ではなく、喉を貫通したダガーが造り出した多量の血塊だった。
「う、裏切り者め!」
ウラギリモノ?少年はその言葉を内心で復唱した後、凄絶な笑みを浮かべる。
その笑みが未だ生存している男たちの恐怖心を揺さぶったのか、少年に向けて遮二無二マシガンを掃射した。それを見て取った少年は特に焦った風もなく、先程殺した男を盾にする。だが、その時間は瞬きほどの一瞬だった。死体に隠れ、一切の淀みも無い一連の動作で、突き刺さったままのダガーを引き抜き投擲する。
「ガッ!?」
それは額のど真ん中に突き刺さった。銃弾の雨に臆することなく人の命を的確に射抜くという技量は半端なものではない。少年の年齢は見た目通りなら14歳程度。その年齢で一体どれほどの死線を潜り抜けたのだろうか。
そして男達は、また仲間を一人殺されたことに怯み射撃を緩めてしまう。さらに言うまでもなく、少年はそんなわかりやすい隙を見逃すほど甘くなかった。
ダガーを投げつけたのは右端の男。そこにできた穴へ残影を残す程の高速で疾走、残りの男たちに接近した――いや、接近じゃない。男たちを縫うように駆け抜けた。
大剣で男の一人を貫き、引き抜くこともせずにもう一人の男へ。
男達もやられるばかりではなかったが、銃弾は常に少年の動きから1テンポ以上遅れて着弾していた。
少年は残り三人のうち、右端の男を駆け抜けざま延髄を切断するようにストックしてあったもう一本のダガーで突き刺す。
そして未だ生き残っている二人の内の一人が、その少年のわずか一瞬の技後硬直を狙っての射撃を敢行する。仲間が殺されているうちに敵を殺す。ある意味での常套手段だった。
しかし、少年はそれを完全な脱力落下で、攻撃の為に緊張した筋肉を無理矢理弛緩させて、地面に吸いつくように一瞬で身を伏せ難なく躱した。そのまま身を沈めた状態で奥にいた男へと急接近し、懐に入った瞬間に体を起こす。その勢いを利用して顔面を鷲掴みにし、異常なまでの速度と力で男の頭部を床に叩きつけた。
グシャッ、と到底人体から発生した音とは思えないような崩れた音が響き、文字通り男の頭部は破砕される。その時の男は、自分の射撃を避けられたことも認識できていなかっただろう。
少年はユラリと上体を起こし、最後の一人、リーダー格であろう男を見据えた。
すると、
「ぐ、貴様はアギトだろう!?なぜクリアの真似ごとをする!我々は同志じゃないのか!?」
「……それは何の冗談だ?」
わずかな間を空け呟かれた小さな声に含まれていたものは、純粋で明確な殺意。
それに対し男はほとんど反射で銃撃を再開するが、少年はすでに自身の間合いに踏み込んでいた。少年はその勢いのまま左足を軸に身を反転させて男の首に回し蹴りを決めた。男の体が大きく吹き飛び、少年もそれに合わせて高く跳びあがる。空中でさらに勢いをつけて男の両肩を踏みつぶすようにして降りたつと、骨の砕ける鈍音が響き渡った。
眼下で恐怖に駆られている男に一瞥をくれ、剣を取ろうと腰に手を伸ばす。しかし、大剣もダガーも先ほど使ってそのままだということを失念していた。気を取り直して辺りに目やると、足元に転がっているマシンガンに気がついた。
男もその意図に気づき、肩の痛みも忘れてこけつまろびつ少年から脱する。
だが、
「……俺は確かに“人間という名の思考を持ったモンスター”だ。けど、お前みたいな半端者がアギトを騙るな」
言い終わったときには男の体にいくつもの銃創ができており、自らの血の海に伏していた。
それを認めると、少年はさっさと自分の武器を回収する。投げ捨てられたマシンガンの銃口からは、細く硝煙が立ち昇っていた。
自分の武器を元の場所に収めて一息つく。それからこの倉庫内の血の海とも言うべき惨状と自分の体を見渡す。しかし、少年の持つ淡く光る黄月の瞳からは何の色も窺うことはできなかった。
少年は倉庫を出て少し歩いてから、ふと気がついた。どうやらにわか雨でも降ったのだろう、周囲に水たまりができている。
小さく笑んで、少年は空を見上げる。そこには期待通りの光風霽月と呼ぶにふさわしい夜空が広がっていた。
「後、二年ってところか?」
ほとんど独り言のような問い掛けに、月夜からの返答はない。
しかし世界は
三日月が映す夢のままに
ただ、流れゆくだけ――
いかがだったでしょうか?
なにがなんやら、そんな感想が聞こえてきそうですがその通りなので仕方ありませんね。これは、まあ・・・漫画でいうところの読み切り・・・をもっと端折った感じの短編です。世界観と雰囲気だけなんとなく通じればいいかな、という程度です。
現在執筆中の作品を終わらせ、その次回作(宣伝含む)を終わらせてからになりますので、もしも本編を掲載する場合は物凄く先の話になりますが、心のどこかに留めていただければ幸いです。