#14
もしあの時。
そんな事を考えても無駄だ。
それでも愚かにも考えてしまう。
もしあの時。
あの時、選ばれていたら。
#14
灰色の監視カメラの映像の中で、男女から身を寄せ合ってじっと座っていた。
丹羽はじっと画面を見みながら、御田に尋ねた。
「イカサマか」
「ええ。わかりやすく。あまりにも必死に金をかき集めようとしていて可哀想なほどでした。ですから仕方なく」
「……見せしめに?」
「あれを見逃したら、こちらが正気を疑われるのでね」
御田は笑う。
バーカウンターでグラスを煽る彼は、懐かしそうにため息を付いた。
「新正さんとは会ってます?」
「……いや」
「彼、あなたが好きでしたから……会ってあげてくださいよ。戸頭間さんを裏から支えたのを根に持つあなたじゃないでしょう?」
「そうね」
適当な返事に、御田は少年のように笑った。
「ああ、丹羽さんだなあ」
「あの二人を渡してもらえるか」
「それは……あなたの頼みですか?」
「いいや」
丹羽は画面から目を話し、大金を吸い上げる権力に満ちた男の目を見た。
「お前の好意だ」
御田はにいっと笑みを深めると、何度も頷く。
「相変わらずで。いつも気ままにぶらぶらしているかと思えば、一番争い事を好む方でしたよね」
「……そんな覚えはないが」
「そうですか? ハルカさんがあなたを上手になだめていたじゃありませんか」
「昔の話すぎて覚えてない」
「たった四十数年前の話ですよ。あなたこそ彼らの頂点に立つ人だったのに……ハルカさんはあなたが一緒に立ち上がってくれると信じて疑わなかった。それが、まさかの無関心とは──彼女の落胆と悲しみはそれはそれは深いものでした。あなたは素知らぬふりをしていましたが」
「御田」
丹羽は短く呼ぶ。怒りも何も無い目が、少年のように懐かしむ男を捕らえた。
「これは何の話だ?」
「ただの昔話です。だって、あなたを懐かしめば、ついつい好意を申し出るかもしれないでしょう?」
立派になったものだ。
丹羽の呆れ顔に対して、御田は発表会で保護者を見つけた子供のように目を煌めかせている。
「まあ……お前が幸せならいいんじゃねえの」
「死ぬときは綺麗に死にたいのでね。恨みを買うなら中途半端は恥ずかしい」
「……で、懐かしめたか」
「本当に気が短いんですから。二人を渡してあげたいんですけどねえ──でも」
御田が懸念したような声を出した途端、画面に動きがあった。
エトウだ。
エトウが戸頭間を伴って入って来る。
ところが、その後ろにも数人の黒服がいた。どうみても穏やかではない。
「御田」
「……丹羽さん、どちらかが侵入者なんですよね? そして、ハルカさんの子も」
「ああ」
「……それはまずいな」
御田はバーカウンターから画面の前まで来ると、顎を撫でた。
「エトウは侵入者に家族を殺されてましてね。見つけたら殺すと誓っている奴なんです」
「……血を流さなければ問題ないだろ」
「そんな穏やかな男は雇いませんよ」
何言ってるんだと言わんばかりの御田に、丹羽は眉間を揉む。
「今から揉めるんだな……」
「でしょうね。でも私は止めません。あいつの怨念を利用しているので」
「……はあ」
何故か御田は楽しそうに笑う。少し睨めば、彼は正直に言った。
「いえ、あなたがハルカさんと戸頭間さんの子に振り回されてるなんて面白いじゃないですか?」
「……おー、楽しんでくれ」
「丹羽さん。うちは侵入者は出入り禁止なんです」
だから、と御田は無邪気に笑った。
「どうぞ無事に脱出してください。まずは──うちのエトウから彼を取り戻してやってください。案内はさせます」
御田が携帯で数コール鳴らすと、部屋のドアが外から開いた。
丹羽を案内してきた男に向かって、画面を指差す。
「彼をここへ」
「はい、オーナー」
戸惑うことなく頷いた男に丹羽がついていくと、御田は「ああ、そうだ」と一言くれたのだった。
「一美さん。今度、久しぶりに親父と一杯飲みましょうね」
と。
結局身内に甘いところも、変わっていないらしかった。
◯
地下牢のある部屋に入っていけば、戸頭間が目野を確認しているところだった。
牢の前に立って、にこやかにエトウと談笑している。
心配して損したかと思えば、そうではないらしかった。
「えー。この人くれないの?」
「すみません、ツケを払ってもらわなくては困るんです」
「僕が払うよ」
「うちは本人に払わせる決まりで」
「うっそ。お金は持ってるところからむしり取らないと、ダメだよ?」
戸頭間が丹羽を見てニコっと笑う。
「遅かったね」
「……どうしてこちらへ?」
エトウが口の端を上げる。
「二十分後に上でお返しする予定では?」
「オーナーが、ご案内して差し上げるようにと」
「……オーナーが」
繰り返す。どうやらエトウにとって、御田は相当慕っている人物らしい。
「ええ。鬼不田の親父さんと久しぶりに一緒に飲もう、と誘っておいででした」
「……オーナーが?」
「はい」
エトウはすっと落ち着いたように、丹羽と戸頭間に頭を下げた。
「それは失礼しました……これが、欲しいのですか?」
戸頭間に牢屋を指差す。
「うん。ちょうだい」
「では、金で買ってください」
エトウは笑った。
「この二人は、今日から客付きのサービス担当になるんです。一時間十万で、好き放題なさってくださって構いませんよ? 損壊してしまった場合は──彼らの残りのツケの残金を一括で納めていただきますので、あしからず」




