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絶望とダンスして 悪魔の腹の上で笑う  作者: 藤谷とう
──ロックダウンシティポップ──
103/120

#45


 

 やはり自分は人の上に立つ人間ではなかったのだと思い知る。

 どう褒めればいいのか、全くもってわからない。


 彼女の偉大さだけが、歌声とともに頭に響いた。

 




        #45




 舟正と井田口に制圧された二人の男は、階段から落とされただけで戦意喪失したらしく、項垂れてバタバタと出ていこうとした。

 が、スロットマシンの液晶をゴルフクラブで叩き割ったサトルが止める。


「お前達、何か見たか?」


 腕や腹を抑える二人の男は、脂汗が浮かぶ青い顔でぶんぶんと首を横に振った。

 サトルが無表情をほんの少し笑みに変える。男たちを見下ろしながら。


「そうか。俺は賢い者は嫌いじゃない──が、心配性なのでな。井田口」

「はい」


 二人の顔が井田口によって携帯カメラに収められる。


「先輩、顔認証システムにかけますか?」

「……必要か?」


 サトルに尋ねられた二人は、また頭が飛んでいきそうなほど勢いよく首を横に振り、よたよたと出ていった。

 投降していた三人は、舟正の名刺を持たされて気配を消して出ていく。舟正はそのまま階段の上の扉を指さした。


 察した全員が、だらだらと階段を目指す。

 全く協調性のない足音におかしくなるが、それは丹羽だけではなかったらしい。


「なんか勢揃いって感じなのに緊張感皆無だねー」

「戸頭間くんもな」

「えー? 僕はさあ、冷静でいないとだめでしょ? 兄さんがいるんだもん」

「サトルなあ……最初っから不機嫌だったな」

「それはそうでしょ。丹羽さん、母さんと同じ部屋にいるなんて生々しいところ見せちゃだめだよ」

「……」


 丹羽は黙り込む前に「ソファで寝たんだが」とだけ言わせてもらった。

 黙るのは、後ろにサトルの気配を感じたからだ。


「あ、そーなんだー」


 戸頭間が棒読みで加勢してくれるが、効果はないだろう。


 丹羽は、二人から逃げるように目前に迫る扉を見つめた。



 いるかもしれない。

 紫と、景が。

 



 そう思うと、心臓が早鐘を打った。

 胸が騒ぐような、期待するような、それでいて不安のような──勝手に湧き上がる父と兄を想う気持ちを、思考から切り離して頭から下ろしていく。その感情を足で踏みつけて、どうにか逃げる。そいつは泥のような手となって足を掴んでこようとするが、掴まる前に足を前へ出す。

 扉の前まで逃げおおせた丹羽は、ここだけ上品な顔をした美しい装飾を施された扉を開けようとした。

 しかし、ドアノブはピクリとも動かない。そこに手が伸びてくる。咄嗟に身を引いた。その手が、サトルのものだったからだ。



「──丹羽一美。入ったらすぐに制圧だ。さっきサボった分、しっかり動け」



 サトルはドアノブを手であっさりと破壊した。バキッと小気味良い音がして、更に蹴破ってくれる。


「行け」


 号令とともに、(ヒト)に加害できる者が先行して入る。


 部屋は広々としており、高額な掛け金で回すスロットマシンを囲むように、バカラのテーブルやルーレットのテーブルが配置されていた。間抜けな顔をした男たちが一斉に振り返る。無垢な雛鳥のように。

 壁際のバーカウンターにいたバーテンダーが、驚いたように薄いシャンパングラスを落とした。



 カウンターの上を、飴細工のようなガラスが飛ぶ。

 広がる細やかな気泡。

 

 

 呑気にこの状況で遊んでいた彼らを狩るように、右から舟正が行き、左から井田口が行く。まるでストレス解消のように、手前から殴っていく二人の後ろで、丹羽はショットガンを見せつけるようにゆっくりと出した。


 スロットマシンを撃つ。


 そのけたたましい音で、ほとんどの者がフリーズしたが──恐怖のラインを超えた者は、叫びながら前へ出てきた。派手なタトゥーを見た舟正が「それもらうわ」と首根っこを掴んで引っ張っていく。


 そのまま首を抱きしめてへし折った。 


「鬼不田の目があるところで、薬売るんは許さんよ」


 舟正の言葉に顔を蒼白にしてしまった者はあっさり見つかり、一人ずつ仕留められていく。

 逃げ出した者は井田口に蹴られて舟正のもとへ押し戻されていた。


「ありがとおな、井田口くん」


 無視した井田口は、一人ずつ相手しては投げ、親指を結束バンドで拘束して隅へ転がす。どうやら持ち帰る犯人を選別しているらしく、それ以外は丹羽へと渡してきた。


 肩を押された男が慌てながらよろめくところを、ショットガンをくるりと回して銃床(じゅうしょう)で鳩尾に一発入れる。倒れた男を踏み「死んだふりしとけ」と忠告すれば、それは息を潜めるようにして床にしがみついた。



「もー、甘いんだから、丹羽さんは」

「本当ですね」

「丹羽様は……とても慈悲深い方なんですね!」

「後片付けが面倒なだけだろ」



 戸頭間も狐刀も瀬世もサトルも、入口で武器を持ったまま世間話のように和やかな会話をしている。

 彼らにはこの混沌が見えてないらしかった。テーブルの下に隠れるディーラー、拘束された者と、死体と、死んだふりをする男たちが転がる床。ガシャガシャと耳障りな音。逃げ切れない客。テーブルのトランプが舞う。


 丹羽は見ていた。

 ショットガンで自分の方に来る(ヒト)を薙ぎ払いながら、部屋の中を注意深く見ていた。

 ドアが一つだけある。

 

 そのドアが目について離れない。

 いる。奥に、いる。


 そんな予感に、つい振るう力の加減を忘れる。銃床て殴った頭部がぐるんっと回転した男が糸の切れた人形のように倒れたが、丹羽には見えちゃいなかった。

 ずんずんと前に進む。ただ、扉を目指して。


「あー……スイッチ入った感じ?」

「カケル、止めたほうがいんじゃないか」

「いやいや、僕ら今ここ動けないじゃん、。兄さん行ってきてよ」


 視界の隅でディーラーが恐る恐ると左手を上げて出てくるのを横目で見た丹羽は、ショットガンをベレッタに変えると右肩を撃った。ディーラーが隠し持っていた銃がテーブルの上に落ちる。跳ねるチップ。動きを止める(ヒト)

 パン、という乾いた音がまだ耳に残っているように、彼らが唖然としている。



 侵入者が(ヒト)を撃った。



 脱力するように戦意喪失した彼らを一切見ないまま、丹羽は部屋のドアに向かって手を伸ばす。





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