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【Intermission】 春蘭ちゃんはお弁当を作れない

今回は小休止です。

ラン科植物の発芽から開花、結実までを擬人化した短編に書いてみました。

ラン科の種子には発芽に必要な栄養分が入っていません。地面に落ちてから菌類のお世話になって発芽、成長するのですが、人間に例えると、まあ、こんな感じかな?と。

あたしは、しゅんらんのたね。


きのう、かぜにとばされて、たびにでたの。

しばらく、かぜにのって、とんでいたけど、

けさ、ゆっくりと、じめんにおちた。

じめんは、おちばでふかふか。

あたしはね、ここで、じんせいをはじめるの。


だいぶんとんだから、おなかがすいた。

そうだ。おかあさんからわたされた、おべんとうのつつみがあるわ。あけてたべようっと。

でも、なんか、かるくない?


ぱか。

おべんとうばこをあけた。


あれ?

なにもはいってない。

かわりになんか、メモがはいってるんだけど。

よんでみた。



ごめんね、きょうだいがおおすぎて、おべんとうつくれませんでした。

じめんについたら、このひとをよびなさい。ごはんたべさせてくれるから。

Rhizoctonia sp.

じゃ、がんばっていきるのよ。

ははより



ええ?

おべんとうは?

おべんとうないの?


おなかすいたよー。

わーん。



「ああ、今年も来たか。いやそれにしてもすごい声で泣いているな。」


 春蘭の発芽時の共生菌であるRhizoctoniaさん、小難しいので略してゾクさんが、聞き覚えのある泣き声を耳にして、やおら起き上がる。この人の役目は、春蘭の種が落ちてきたら、とりあえずあやして泣き止ませて、ごはんをあげること。何千万年も前から、そういう契約になっている。


「行ってくるか。」


「わーん。」

「ああお嬢ちゃん、大変だったね。よしよし、もう泣かなくていいよ。」

「おなかすいた。」

「おじさんがごはんをあげる。」

「ほんと?」

「さあ、これを食べなさい。おいしいよ。」

「しらないひとからものをもらっちゃいけないって・・・」

「お母さん別にそんなこと言ってなかっただろ?」

「・・・うん。」

「じゃあ大丈夫だ。」

「ありがとうおじさん。」

 鮭のおにぎりを口一杯にほおばりながら、春蘭ちゃんが尋ねる。

「おじちゃんはだれ?」

「おじちゃんかい?おじちゃんは君たちと共に生きる共生菌のゾクさんだ。」

「きょうせいきん?」

「いや名前はそこじゃなくて。」

「きんちゃんでいい?」

「・・・いいよ。」

 幼児相手に難しい話をしようとするからこうなる。作者がせっかくつけた名前はここで用済みとなった。


 春蘭ちゃんは、きんちゃんからごはんをもらって成長し、やがてプロトコームになった。

「ぷろとこーむ?」

 うん。なんていうかな。種から芽が出てちょっとだけ大きくなったやつのことだよ。



「うっせーなババア。」


 春蘭ちゃん、成長してプロトコームからリゾームになった。リゾームというのは、早い話が芋である。口も悪くなった。今は、きんちゃんから世話を引き継いだPeniophoraさん、小難しいので略してペニーさん夫妻の家で暮らしている。只今、プータローで絶賛引きこもり中である。

「あんた、いつまで光合成しないで地面の中に居るつもり?いい年して土の中をぐるぐるぐるぐる這いまわって、発芽から何年経ったとおもっているの!隣の金蘭ちゃんなんか、2年で芽を出したわよ。それにひきかえあんたはもう5年も引き込もって。いつになったら葉っぱを出すのよ!」

「しょうがないだろシンビジュームなんだから!そういう種族なんだよ!まだ本気だしてないだけなんだよ!」


 ここで少しだけ春蘭ちゃんの肩を持っておくと、春蘭が属するシンビジューム属は、本当にこういうめんどくさい連中なのである。


「とにかく、そろそろ将来のことかんがえなさいよ。」


 そんなことはわかっている。いつまでも地面の中で生きていけるわけではない。私だって、いつかは地上に出て、ひと花咲かせたいよ。本気出してやる。


 じゃあ、いつやる?

 今でしょ。


 ご都合主義で申し訳ないが、その日、春蘭ちゃんは、地上に葉を出した。それから3年後、春蘭ちゃんは花を咲かせ、実を結んだ。

 本当に本気だしてなかっただけだったのだ。



 さて、母となった春蘭ちゃんは、今、種子を送り出す準備に追われている。


「お弁当作ろうと思ったけど、やっぱ無理だわー。」


 なにせ、種子の数は数千。弁当箱全員分用意したところで力尽きた。

「これまで通り、きんちゃんに面倒見てもらうしかないわね。」

 そこで、春蘭ちゃんは伝言メモを作って、一枚ずつ弁当箱に入れた。どんなメモかって?



ごめんね、きょうだいがおおすぎて、おべんとうつくれませんでした。

じめんについたら、このひとをよびなさい。ごはんたべさせてくれるから。

Rhizoctonia sp.

じゃ、がんばっていきるのよ。

ははより



 山の中にはコピー機なんかないから、全部手書き。準備に1年かかりましたとさ。



あたしは、しゅんらんのたね。


(中略)


ええ?

おべんとうは?

おべんとうないの?


おなかすいたよ。

わーん。

















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