【No.77】深山の岩場に咲く イワシャジンとその仲間
以前、丹沢で仕事をしたことがあるのですが、あそこは大変な山です。
丹沢山塊は、高さは1,500m程度でそんなに大したことはないんですが、とにかく、
・崩れる。
・ヤマビルが出る。
これに尽きます。
そんな中、林道を車で走っていたら、なんだか道の右側の斜面が紫色に見える。なんだそれ。そう思って右を見たら、落石防止のために斜面に被せたフェンスの間からこぼれるように、この花が一面に咲いていたんです。イワシャジンです。
イワシャジン(キキョウ科)
Adenophora takedae
途中から車が通れなくなるので、車を止めて歩くと、やがて素掘りのトンネルが現れます。そのトンネルの入り口の天井近くにも幾つか咲いていました。なんという生命力。
ただし、トンネルの天井に生えているということは、そこから水が出ているということであり、崩落の危険があるということでもあるのですが。
関東地方南西部及び中部地方南東部の、標高の高い渓流の湿った岩場等に生えます。茎は細く釣り竿のように弧を描いてしなり、そこから細長い葉を伸ばします。8~10月頃、長さ3cm程の釣鐘型の青紫の花を、吊り下げるようにして咲かせます。おそらく、日本のキキョウ科の中で、最も姿の美しい種でしょう。
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ところで、「シャジン」って何でしょう?
調べてみると、シャジンは漢字で「沙参」と書き、ツリガネニンジンの根の漢方名です。咳止めや健胃剤として用いられるそうです。このツリガネニンジンに似た花を咲かせ、岩場に生えることから「岩沙参」の名があるとか。
イワシャジンは深山の花ですが、ツリガネニンジンは身近な山の草地や林縁に生えます。背丈は数十cmから1mほどになり、秋にイワシャジンより一回り小さな釣鐘型の花を咲かせます。こんなやつです。
ツリガネニンジン(キキョウ科)
Adenophora triphylla var. japonica
春に出る新芽は「トトキ」と呼ばれ、山菜としても食べられるそうなんですが、私はまだ食べたことありません。美味しいんだそうです。
このツリガネニンジン、新しく出来た草地に入り込む力が弱く、ワレモコウ等の他の草地性の種に比べると、入ってくるのがだいぶ遅いんだそうです。ということは、逆にこのツリガネニンジンが生えている草地は、長年にわたり草刈り等で維持されてきた良好な草地であるとも言えます。
このツリガネニンジンの高山型とも言うべき種があります。ハクサンシャジンです。
ハクサンシャジン(キキョウ科)
Adenophora triphylla var. japonica f. violacea
ツリガネニンジンを三頭身?にしたような寸詰まりの姿。でも花の大きさはむしろ大きいくらい。なので、高い山の草地で大変目立つ花です。写真は秋田県の森吉山のもの。ここは登山道沿いに非常に多くのハクサンシャジンを見ることができます。
以上、イワシャジンとその仲間の話でした。




