【No.76】小さな入江の野菊 ウラギク
ウラギクです。
裏菊じゃなくて、浦菊。川の河口や、ちょっとした小さな入江にある、泥のたまった干潟みたいなところに、群落を作って生えます。ヨシに交じって生えることもあります。「浜紫苑」の別名もあります。
ウラギク(キク科)
Aster tripolium
北海道東部から本州、四国、九州の太平洋沿岸に生えます。背丈は50cmほど。花の直径は2cmくらい。園芸植物のアスターと同じ仲間になります。
花期は10月頃。花の色は、やや青みの勝った薄紫。人里近くの草地でよく見かけるヨメナやノコンギクに似ています。葉は細い線形。葉をかじると少し塩辛い味がします。全体の姿はなかなかスマートです。
花だけみるとヨメナやノコンギクの類と区別がつきにくいように見えますが、実は意外とはっきりした違いがあります。下にウラギクの花とカントウヨメナの花の写真を載せます。
違い、わかりますか?
<ウラギクの花>
<カントウヨメナの花>
花の中心部に注目。
キク科の花は、小さな花が集まった「頭状花序」と呼ばれるもので、周囲にある花びらに相当する「舌状花」と、中心にある小さな「筒状花」の2つの形の小花があります。そのうちの小さいほう、「筒状花」の大きさが、良く見ると違う。ウラギクの「筒状花」はカントウヨメナより明らかに大きくて、その分数が少ない。
ただ、細かい違いなので、遠くからではわかりませんが。でも、河口の干潟みたいなところに群落を作って咲く薄紫のキクはこれしかありませんから、ヨメナやノコンギクと間違うことはまずないでしょう。
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ウラギクが生える河口干潟や小さな入江のような環境は、河川改修や港湾整備などで真っ先に手を付けられる環境です。そのため、全国的に数が減少しており、環境省のレッドリストで準絶滅危惧(NT)に選定されています。また、多くの自治体のレッドリストにも記載されており、宮崎県では絶滅危惧ⅠA類(CR)、東京や神奈川では絶滅危惧ⅠB類(EN)と高いランクになっています。
写真は千葉県長生村で撮影したものです。群落状に生えているのですが規模は小さく、いつ無くなっても不思議ではないような状況でした。その後、東日本大震災の津波が来ているので、今はもうないかも知れません。
ウラギク、美しい花が群落になって咲くのですが、あまり派手な雰囲気はなく、どこか寂しげな風情があります。私の好きな花のひとつなんですが、見られる場所は年々少なくなりつつあります。




