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あてどない植物記  作者: 蘭鍾馗


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【No.75】リンドウ科の正統、異端、前衛 リンドウ、ツルリンドウ、アケボノソウ

 リンドウ科の花、これまでにも結構ご紹介してきました。


 春咲きの小型種、ハルリンドウ、フデリンドウ、コケリンドウ

 秋咲きの大型種 エゾリンドウ

 秋咲きの小型の薬草 センブリ


 実はもう5種も登場してるんです。

 でも、肝心の代表選手をまだご紹介してなかった。

 そう、「リンドウ」という名のリンドウです。


リンドウ(リンドウ科)

Gentiana scabra var. buergeri

挿絵(By みてみん)


 低山の草地や林縁などに生えます。あと林道の脇とか。リンドウだけに。花は9~11月頃。

 茎は立ち上がることは少なく、斜めに伸びることが多いようです。林道の法面なんかに、よく他の草に混じって、斜めにぶら下がるようにして生えているのを見かけます。高山の湿原なんかに生え、茎が真っすぐに立つエゾリンドウとは対照的です。葉が笹のようなので、「笹竜胆ささりんどう」という別名もあります。笹竜胆は源氏の旗印としても有名です。

 まずは、これがリンドウ科の正統。



 では異端は?


ツルリンドウ(リンドウ科)

Tripterospermum japonicum

挿絵(By みてみん)


 どこが異端かというと、その名の通り、蔓性です。樹林の林床に良く生えています。花は8~10月頃。木に絡みついて登ったりすることはなく、地面を這いまわるか、灌木に絡んで蔓を伸ばすのがせいぜいのようです。花は薄い紫色。リンドウやエゾリンドウのように濃い紫にはなりません。

 あと、実が変わっている。リンドウ属の実は、普通熟すと2つに割れて、中の種子が雨滴ではじかれて散布されるんですが、 このツルリンドウは赤い実が成ります。この実は柔らかい果肉になっていて、うっすら甘い味がします。ということは、動物に食べられて散布するタイプ。ちなみに果実酒になるそうです。

 薬効もあり、黄疸やリウマチに効き、あと回虫の駆除なんかに使われることがあるとか。


<ツルリンドウの実>

挿絵(By みてみん)




 それじゃ前衛って何?


アケボノソウ(リンドウ科)

Swertia bimaculata

挿絵(By みてみん)


 湿った草地に生えます。花は8~10月頃。

 まあ、写真見れば一目瞭然ですが、花の模様が変わっている。抽象絵画みたいな配色。

 特に、花びらの真ん中あたりに2つずつ並んだ黄色い模様が特異。なんだこれ?

 ヒントは色ですね。ほら、「黄色は食べ物のサイン」。実はこれ蜜腺なんです。ここから蜜が出てきます。意外でしょ?

 そうすると、一体どうやって受粉するのか?


 蜜腺が皿みたいに平らですから、送粉者ポリネーターは長い口吻を持ったハナバチやチョウなどではなく、おそらく蜜を舐めて食事するタイプのハナアブ類でしょう。

 で、良く見ると、蜜腺のすぐ脇に雄蕊がある。ということは……

 これ、ホトトギスみたいに、蜜腺の皿を順番にぐるりと回りながら舐めるんじゃないでしょうか。で、その途中で花びらの間にある雄蕊に腹が触れて花粉が付く。

 いや待って。花粉の付き方は分かったけど、これがどうやって雌蕊まで運ばれるのか?


 雌蕊は、花の真ん中に真っすぐ立っています。花粉を受け取る柱頭は、特に枝分かれして開いたりしていない。むしろ先が細くなっている。どうやってここに花粉が付くのか?

 また私の想像なんですが、ハナアブに限らず、虫って棒の先とかに良く止まりますよね。おそらく、習性としてそうなんじゃないかと。なので、ハナアブがアケボノソウの花を訪れた時、まず着陸するのがこの雌蕊の先なのではないか。その時、他のアケボノソウの花を訪花していれば、腹に花粉がついているはず。それを雌蕊の柱頭につけてもらうために、柱頭はわざわざ足場の悪い尖った形をしているのではないか?


 どうなんでしょうね。一度実物で観察してみたいものです。





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