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あてどない植物記  作者: 蘭鍾馗


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【No.74】メリーゴーランド ホトトギスの仲間

「『ホトトギス』って鳥じゃなかったっけ?」


 いや、そうなんですけど、植物にもあるんです。


ホトトギス(ユリ科)

Tricyrtis hirta

挿絵(By みてみん)


 前に出てきたサギソウやミズチドリ、トキソウみたいに、鳥の名前が付いた植物名は、結構あります。

 で、この「ホトトギス」、何がホトトギスなのかと言うと、花にある斑点状の紫の模様が、ホトトギスの胸にある縞状の斑点(ごめん鳥の方は写真がありません)に似ている、ということらしいです。


 このホトトギスの仲間、意外と多くて、日本に20種類以上あります。


 前出のホトトギスは、山の湿った斜面なんかに生え、茎が斜めに垂れ下がるようにして成長し、数十cmほどになります。花は9~10月頃。葉の付け根に一つずつ花を咲かせます。人里近くの山ではあまり見かけない花です。上の写真は丹沢のもの。花の寿命は短く、一つの花は3~4日で散ってしまいます。



 黄色い花の咲く種類も。これはタマガワホトトギス。


タマガワホトトギス(ユリ科)

Tricyrtis latifolia

挿絵(By みてみん)


 こちらは黄色に褐色の斑点が散ります。花期はちょっと早くて7~9月。ホトトギスに比べると葉が丸いのが特徴。端っこはちょっと波打ちます。名前は、花が黄色いことから、ヤマブキの名所である京都の玉川にちなんだものなんだとか。なんだかややこしい。キイロホトトギスで良くない?

 これもホトトギスと同じく湿った所に生えます。人里近くではそんなに見かけない。


 ◇


 でも、この仲間には身近な里山に咲く種類もあります。それがヤマホトトギスとヤマジノホトトギス。


ヤマホトトギス(ユリ科)

Tricyrtis macropoda

挿絵(By みてみん)


ヤマジノホトトギス(ユリ科)

Tricyrtis affinis

挿絵(By みてみん)


 この2種は、身近な里山にごく普通に生えます。花期はヤマホトトギスが8~9月、ヤマジノホトトギスはちょっと早めの7~9月。でもまあ、だいたい同じような頃に花を見かけます。両種の違いは、写真で見て分かる通り、ヤマホトトギスは花弁が大きく反り返り、ヤマジノホトトギスは割と水平に開く。後、ヤマホトトギスは茎の頂部に枝分かれした花序を出して咲きますが、ヤマジノホトトギスは葉の付け根に花が付きます。


 ◇


 ホトトギスの仲間は、花の形が面白い。特に変わっているのは雄蕊と雌蕊の付き方。花の真ん中から柱状にまとまって上に伸びて、そこから傘のようにに開きます。一方、花弁の付け根には、丸くて真ん中がスーパーマンの顎みたいに割れた「距」がついています。どうしてこんな変わった形をしているのでしょう?

 私は以前、山でみかけたヤマジノホトトギスの花に、偶然ハナバチがやってきて蜜を吸う所を見たことがあります。ではどんなふうにして蜜を吸うのか。 

 まず飛んできて花弁に止まったら、横向きになって丸い「距」に口吻を差し込んで蜜を吸います。で、この「距」が3つありますから、そのままぐるっと花を一周しながら、3つの距の蜜を吸う。そうすると、上に傘状に開いた雄蕊と雌蕊にハナバチの背中が触れて花粉がつく。


 これは………この動きは何かに似ている。そう、メリーゴーランドだ!


 で、花が咲いたばかりの時には雌蕊よりも雄蕊が下にあって花粉が出ています。しばらくすると、今度は雌蕊が下に降りてきて、雌蕊に他の花からの花粉がつくようになる。良くできてます。タマガワホトトギスの写真をもう一度見てみてください。左が新しい花、右が古い花です。右の方の花は雌蕊の先が下に曲がってきているのが分かると思います。


 ◇


 うん、ヤマジノホトトギスはそれでいい。でも、ヤマホトトギスは、花弁が下に反り返っているので、メリーゴーランドのような動きで花を一周するのは難しそう。

 ヤマホトトギスの方は実際に訪花の様子を見ていないのであれなんですが、おそらく横を向いて一周するのではなく、正面から距を一つずつ攻めるのではないか。となると、花のつくりから見て、雄蕊と雌蕊に背中が触れるためには、ヤマホトトギスの送粉者(訪花する昆虫)の方がサイズが大きくなければいけない。ヤマホトトギスとヤマジノホトトギスは、同じような環境に生え、似たような時期に咲くので、この送粉者のサイズの違いによって、互いの花粉が混じらないようにしているのではないか?


 例によって、また私の勝手な想像ですけどね。


 ちなみに、ホトトギスの仲間には、ジョウロウホトトギスという釣鐘型の花を咲かせる種類もあります。これは多分、普通に虫が頭を突っ込んで蜜を吸い、後ずさりするときに頭に花粉が付くんじゃないでしょうか。このジョウロウホトトギス、ホトトギスと同じような環境で似たような時期に咲きますから、これで互いの花粉が混じらないようにしているのかも知れない。

 ちなみに、湿った斜面に生えるもう一つの種、タマガワホトトギスはこの2種よりも開花期が早い。


 うまく棲み分けているように見えます。これも何も検証できてない、勝手な想像ではありますが。



 ホトトギスの話でした。


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